怖気怪談。SS集

coco

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 知り合いのFさんの話です。

 彼女が十歳のころ、大好きだったお父さんが亡くなりました。
 お父さんのご遺体は火葬され、その遺骨は骨壺こつつぼに入れられて自宅の仏壇に飾られました。
 あんなに体の大きかったお父さんが、こんなに小さくなってしまって…骨壺を見てFさんは涙が溢れました。

 お父さんの遺骨は、四十九日が過ぎれば、お墓に納骨のうこつされます。
 お墓に入ってしまえば、お父さんをこんな風に毎日近くで見ることはなくなる、そんなの悲しい。
 Fさんは、仏壇の骨壺をそっと眺めました。

 ある晩のことでした。
 Fさんは、何故かなかなか眠りにつくことができずにいました。
 布団の中で目を瞑りじっとしていましたが、どうにも眠れそうにありません。
 すると、夜のしんとした空気に混じり、妙な音が聞こえてきました。
 パキッ…パキ…パキ…パキッ…
 それは枝を折るような、あるいは小石を砕くような音でした。

 不思議に思ったFさんは布団から起き上がると、ふすまを開け廊下に顔を出しました。
 そして耳を澄ませ、その音がどこから聞こえてくるか確かめました。
 それはお父さんの遺骨が置いてある仏間からでした。

 Fさんは仏間の様子を確認するため、薄暗い廊下を静かに進みました。
 パキッ…パキ…パキ…クチャクチャ、パキッ…パキ…パキ…クチャクチャ…
 仏間の前までやってくると、音は先ほどよりも大きく聞こえ、その中には水気のある粘りついた音も混じっていました。
 Fさんは仏間の入り口を少し開け、廊下から入る薄明かりを頼りに、中を覗きました。

 そこにいたのは、一人の女性でした。
 その女性はうずくまり背中を丸め、左手に何かを大事そうに抱えていました。
 それは、お父さんの遺骨の入った骨壺でした。
 骨壺の蓋は空いていて、女性の近くに転がっています。
 
 そして、女性は右手を口元に持っていき、クチャクチャと咀嚼そしゃくを始めました。
 パキッ…パキ…パキ…クチャクチャ、パキッ…パキ…パキ…クチャクチャ…
 何、何を食べているの?
 そのパキパキと固いものを砕く音は…まさか…お父さんの骨!?
 Fさんは震えながらその女性を見つめました。

 パキッ…パキ…パキ…クチャクチャ、ゴクン。
 女性は口の中のものを飲み込むと、嬉しそうに笑い、こう言いました。
「入った、入れた、一つになれた。」
 そしてフフフ…フフフと笑い、体を揺らしました。

 Fさんは、その異常な様子に声も出せず、そのま、自分の部屋に逃げ帰りました。
 そして布団を頭までかぶり、一晩中震えていたそうです。
 翌朝になって仏間の様子を見に行くと、女性の姿はすでになく、骨壺も仏壇にきちんと飾られていました。

 Fさんは、夜中見た女性のことをお母さんに話しました。
 話を聞いたお母さんの反応は、意外なものでした。
「…ああ、やっぱり来ると思った。」
 そしてFさんに、このことは忘れろ言い、朝ごはんの支度を始めました。

※※※

 …そう言われても、忘れられないですよね。
 でも大人になって、母がああ言った理由が分かりました。
 父は生前、ある一人の女性と、秘密の関係にあったそうです。
 父の遺骨を食べていたのはきっと、その女性でしょう。
 私が見た女性が生霊か、死霊かまでは分かりませんけど、父と一つに慣れて、きっと未練はないでしょう…。

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