怖気怪談。SS集

雨の帰り道

　Uさんが、ある雨の中で出会ったモノの話です。

　その日は朝から激しい雨が降り続き、肌寒い一日でした。
　小学校の帰り道を、Uさんは傘を深く差し一人黙々もくもくと歩いていました。
　こんな日は、早く家に帰りたい…。
　Uさんは自分の足元の少し先を見つめ、ひたすら足を前に動かしました。

　すると視界の端に、赤いハイヒールを履いた女の人の足が見えました。
　その足は雨に濡れ、泥が跳ね酷く汚れていました。
　せっかくきれいな靴なのに、可愛そう…。
　Uさんはそう思いその横を通り過ぎました。

　しばらく歩いていくと、視界の端にまた赤いハイヒールが飛び込んできました。
　あれ、この靴って、さっき見た靴…？
　いつの間に抜かされたのかしら？
　
　不思議に思ったUさんは、少し傘を傾けてその人物を伺いました。
　赤いハイヒール、ストッキングをはいた細い足…ピンクのスカートが見える。
　見るとスカートも雨でずぶ濡れになっていて、裾から水滴がダラダラ落ちていました。
　どうやらその女性は傘を差していないようです。
　今日は朝から雨なのに、傘を持っていないなんて…。
　少し変わった人なのかと思ったUさんは、小走りでその人の側を通り抜けました。

　それから5分程歩き、家が見えてきたところでほっとしたUさんは、歩く速度を緩めました。
　その時、視界の端にあの赤いハイヒールが見えました。
　Uさんはヒュッと息を飲みました。
　傘をずらし、恐る恐る目線を上にあげるとストッキングをはいた細い足、ピンクのスカートが見えます。　
　Uさんは恐怖で足がすくみ、動けなくなってしまいました。

　その時です。
　自分の差している傘に、ググっと上から押さえつけるような感覚があったかと思うと、こんな声が聞こえてきました。
　
「ねえ…気づいてるんでしょ？…入りたい、私も入りたい…この中に入れてぇ…。」

　その声を聞いた時、Uさんの頭にあるイメージが湧きました。
　傘に手をかけ、傘越しにこちらを見下ろしている、ずぶ濡れの女。
　そしてそれは、恐らくこの世のものではない。

　Uさんは嫌！と叫び声を上げ、自分の傘を放り投げると、家に向かって思い切り走りました。
　その後その傘は、二度と見つからなかったと言います。