怖気怪談。SS集

coco

文字の大きさ
18 / 24

条件

しおりを挟む
 Aさんの地元には、とある不思議な話が伝わっていました。

 それはこういう話です。
「雨の降る日の夕方に、A橋、B橋、C橋の順に渡る。その際、全ての橋を渡り切る間に、自分以外の歩行者と出会ってはいけない。誰とも出会わずに最後のC橋を渡り切り、次の一歩を踏み出した者は異世界に行ける。」
  
 ところがこの条件を全てクリアにすることは、難しいことだそうです。
 この3つの橋は通学路に利用されており、A橋、B橋をクリアできたとしても、C橋の途中で誰かに出会い条件はクリアできない、そうAさんは言いました。

 しかしAさんの友達が、ある雨の日の夕方、この条件をクリアしそうになったのです。
 その友達は、その話をあまり信じていませんでした。
 ですから特に気にすることなくA橋、B橋、を渡っていきました。
 そしてC橋を半分渡った時に、この話を思い出したそうです。

 そういえば、A橋、B橋で誰とも会わなかった。
 このC橋でもまだ誰とも会っていない。
 こんなことは珍しい。
 …もし、あの話が本当なら、このままこの橋を渡り終えたら、次の一歩を踏み出した瞬間、私は異世界に行ってしまう。
 そう思った瞬間、その友達の背中に嫌な汗がつうっと伝いました。
 心なしか歩く歩幅は小さくなり、そのペースも落ちました。

 友達は立ち止まりC橋の先の様子を、そっと傘を傾け伺いました。
 残りは、あと20メートル程です。
 友達は橋の先を見ることが怖くなり、傘を深く差し自分の足元だけを見て、再び歩き始めました。
 しとしと…しとしと…。
 ピチャピチャ…ピチャピチャ…。
 雨の降る音と自分の足音以外は、何も聞こえません。
 
 あと…10メートル。
 しとしと…しとしと…。
 ピチャピチャ…ピチャピチャ…。

 あれ…私の足元、こんなに暗かった?
 それに、何だか空気が重いような。
 どうしよう、もうすぐで渡り終わってしまうのに-。
 それでも、何故かその足は止まりません。
 あと3メートル…!
 
 その時です、後ろからププ-ッと車のクラクションが鳴りました。
 そして一台の車が止まり、一人の女の子が降りてきました。
 そして友達に、声をかけてきたのです。
「良かったら、車に乗ってきなよ!」
 こうして友達は、C橋を渡り切る前にその車に乗り込み、帰路に着いたそうです。

※※※

「ね、その声をかけた一人の女の子ってもしかして…。」
 私がそう尋ねると、Aさんはにっこり笑って答えました。

「そう、私。橋を渡ってる友達の様子がおかしかったから、車降りて声かけたの。やたら、暗い様子で歩いてたから気になって。後で話を聞いたら、やっぱり声かけて良かった。夕方は逢魔おうまが時って言うし、気を付けないとね。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

処理中です...