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嫁いだ相手は暗殺対象、でも愛してくれるから殺せない!<後>

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「後から調べて分かったんだ、奴らを倒したのは毒針どくばりのようなものだった。これは、暗殺者あんさつしゃもちいる道具の1つだ。そして、去って行った女の子の言葉。育ちのいいお坊ちゃま…彼女はそう言ったけど、彼女自身だっていいドレスを着ていたんだ。僕は思った、あの子はどこかのご令嬢れいじょうだけど、本当の娘ではないのかもしれない。暗殺、養女ようじょ…それらを調べていく内に、ある家の存在そんざいに行き着いた。」

 孤児こじを拾い、暗殺者として育てている貴族きぞくが居る。
 その家は裏家業うらかぎょうとして、代々暗殺をならわしとしている。
 
「君もあの男に拾われた1人だったんだね、アイリス。君はあの時言ったよね、夢はお嫁さんになることだって。そして、暗殺者なんかになりたくないって。僕は、君の夢を叶えたいんだ。」

「王子…私、本当はずっと、あなたを殺したくないって思ってた。私のことをこんなに愛してくれる方、殺すなんてできないって。でも私が失敗したら、また次の刺客しかくが送られるわ。父は言ってた…代わりのこまはいくらでも居るって。あの家がある限り、あなたは…!」

「大丈夫だよ。君の家に依頼いらいをしたのは第二皇子…弟の側近そっきんでね。弟と言っても、彼はめかけの子なんだ。昔から折り合いが悪くて…弟はいつも次期王の座を狙っていた。それで、僕が暗殺されてしまえば、その望みが叶うと思ったんだろう。でも、そんなことはお見通しだ。僕はあえてわなにかかったふりをして、君をここに向かい入れた。君さえ手に入ってしまえば、後はどうにでもできる。」

 私さえ…?
 どうにでもって、一体?

「第二王子とその側近、派閥はばつの者達は、全てとららえられた。第一皇子を暗殺しようとした罪でね。そしてその依頼を受け実行しようとした、君の父である男も捕らえられた。あの家に居た娘たちは、皆保護ほごされたよ。いずれどこかの貴族や商家の養子として、迎え入れられる。もう二度と、暗殺業に手を染めなくていいんだ。もちろんアイリス、君もだよ。」

「王子…!ありがとうございます。私だけでなく、皆も助けて下さって。」

「アイリス…お願いだ。僕のこと、王子ではなく名前で呼んでくれないかい?愛する人に、僕の名を呼んでもらいたい。」

 そうだ…私、この方のこと、一度も名前で呼んでない。
 いつか命を奪わないといけない、そう思ってたから呼べずに居た。

 でも、もういいんだ。
 あなたを、名前で呼んでも。

「…ライト様。私の愛する方…どうか、ずっと私のそばに。」

 彼は笑顔でうなき、私のくちびるにキスをした。

※※※

 私は、あなたを暗殺する為にここに来た。

 でも今は違う。
 私はあなたを愛する為、そしてあなたに愛される為に、ここに居る。

 あなたとのあま新婚生活しんこんせいかつは、ようやく始まったばかりなのだ─。
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