オルタナティブ・フロンティア

ゆいすな

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名古屋市解放戦線

第5話 名古屋港大作戦(3)

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「うう…もう朝か。」
カーテンの隙間から差し込んでくる朝日が眩しくて目がさめる。
端末を見ると、アラームが鳴る5時半の五分前だ。鳴る前にアラームを止めるのは春以降日の出が早いうちは毎日である。アラームで起こされるよりも、眩しい日差しで目がさめる方が少し気持ちが良い。
とりあえず布団をたたみ、寝癖を鏡の前で直す。その後、ジョギングへ行き、帰ってきたらお風呂に入る。特に変わり映えのしない野々瀬凛の朝である。
2、3キロほど走って、家に帰ると時間としては大体6時半を越したところだった。
その後は昨日の夕飯の残り物とご飯で朝食を済ませる。私の朝はご飯だ。というよりも私はパンが苦手だ。口がパサパサして気持ちが悪い。実家にいる頃は親の都合で毎朝食パンばかりでうんざりしていたが、こっちに1人で住むようになってからは自分で朝食の内容が決められるので、決まってご飯を食べる。食事を自由にできるだけでも、一人暮らしをしている価値があると思う。
食事を取り終わっても、外出の準備をするにはまだ早かったので、昨日寝る前に読んでいた小説の続きをベットに座って読む。読書は良いものだと思う。そうは言っても、私は週に二冊程度しか読まないのだが。今読んでいる本も、若者向けのファンタジーシリーズで以前から大ファンのシリーズの新刊だ。端末が普及すると同時に、紙媒体の本は減ったが、私はやっぱり電子書籍には少し反対派である。本のページをめくる瞬間の次のページへの期待感などはやはり電子書籍では味わえない。
本を読んでいると時間が経つのを忘れる。さっき読み始めたばかりだと思っていたが、時計を見ると既に時刻は8時30分だった。
本のページに栞を挟んで、ベットから立ち上がる。
「さて、そろそろ支度をするか。」
そう言って着替えようとしたところで、
「そういえば、和真は朝弱いけどちゃんと起きてるのかな……、電話してみるか。」
和真の朝の弱さは筋金入りだ。恐らく、起きれていないか、二度寝した後で時間を勘違いしているかのどちらかだろう。
机の上に置いてある携帯を手に取ったところで、急に恥ずかしくなる。
「べ、別にだな、これは待ち合わせにあいつが遅れないように電話をかけるのであって、話がしたいとか声が聞きたいとかじゃ……。」
言ってて、誰に言い訳をしているのかわからなくなる。
「いや、作戦前の大事な時期に浮かれているのを1番認めたくない、認められないのは自分自身か。」
あえて口に出してそういうことで少しは気が楽になる。
少し緊張しながら和真の端末に着信を入れると、2コール程で和真が出る。
電話口から聞こえてくるのんきな言葉にさっきまで変に緊張していたのがバカになってため息が出る。
予想は当たっていて、時間を勘違いしていた和真に本当の時間と待ち合わせに遅れないように伝える。
電話を切ると、姿見に写った自分の顔が目に入る。
何を嬉しそうにため息を吐いているのだ私は。明日は大切な作戦なんだから。
「気合い入れろ、野々瀬凛。」
自分自身にそう言い聞かせる。
「さてとそろそろ私も着替えをしないと。」
そう言ってクローゼットを開けて、昨日和真と別れた後に、女子メンバーで買いに行ったワンピースが目に入る。
「昨日は勢いでいつもと違う服装などと言ってしまったが、改めて考えると私がこれを着るのか……。」
まだ着てもいないというのに恥ずかしくなる。
人生で恐らく着るワンピースを前に、ジャージの上を脱ぐ。
そのまま下も脱いで下着姿になった自分の体を見下ろして思う。自分で言うのはあれだが、自分は全体的に細い体をしているとは思う。その割に筋肉などはしっかりつけているつもりだ。戦う上でなら何の問題もないどころか、むしろ理想のプロポーションとまで思うのだが、女子としては悔しいものだ。
全体的に細い必要は無いだろ、何をしてるんだ私の胸は!
「はあ、牛乳を飲めばデカくなるというのは迷信なんだろうなぁ。」
自分はコーヒーが好きなので牛乳も相当量摂っているはずなんだけどなぁ……。
ワンピースを着ようと手を伸ばしたところで、昨日の亜利沙さんの言葉を思い出す。
『あのね凛ちゃん、気合いを入れた服を着るときには勝負下着をつけると良いわよ☆』
何というか自分の中で亜利沙さんのセリフは読点で終わるというよりは、☆で終わっている感じがする。
とはいえ、昨日詳しく聞けなかったのが悔やまれる。勝負下着とは一体全体何なのだ。
「勝負下着……、勝負っていうからには勝負するときに着るんだよな。勝負か……確か以前スポーツブラなる物を買った覚えがあるが、それが勝負下着なのか。勝負とスポーツ、間違えない。」
朝から頭が冴えているぞ、自分。
箪笥の奥をガサガサと探ると、お目当の物が出てくる。
「おお、あったあった。そろそろ時間も危ないし、着替えて急いで出るか。」
ささっと下着を変えて、クローゼットに入っているワンピースを着る。
家を出る時間が迫っていたので、ワンピースを着る恥ずかしさよりも焦りが心の中で優先されたのだろう。特に何もなく着替えて家を出ることが出来た。
着替えた後は、用意してあったカバンを掴んで家を出る。脱ぎっぱなしなのは、年頃の女子としてはダメだと思うが、別に一人暮らしなのでそれくらい大目に見ても良いだろう。

電車を使って名古屋港に着くと大体時間は9時30分だった。
駅から少し離れたところに亜利沙さんと愛ちゃんが既に来ていて、こっちに手を振っている。
「2人ともおはよう。来るの早いな。」
軽く挨拶すると2人も挨拶を返してくる。
亜利沙さんは少し驚いたように、
「凛ちゃんに似合うとは思ったけどここまで可愛くなるとは。凛ちゃん普段からこういう格好しないともったい無いよ。」
と私のワンピースへの感想を述べる。
愛ちゃんもそれに同意見のようで、
「そうですよ、こんなに可愛いんですから。」
その言葉に顔が熱くなる。
「か、可愛いとかそういうのはいい。」
2人は笑いながらもったい無いと言ってくるが無視する。
私は本当に可愛いとかは良いのだ。どれだけ恋愛にうつつを抜かそうが、最後に自分が生きる場所は、死ぬ場所は戦場なのだから。私は戦士で、この身体は武器でなくてはならないのだから。
(昔の自分からしてみれば、今の自分は堕落しているのかもしれないな。)

 程なくして愛ちゃんが、
「あっ、椎名先輩が来ましたよ。」
と言って駅の方を指差す。
愛ちゃんが指差した方を向くと視界にいつも通りの格好をした和真が入る。すると、急に普段と違う格好をした自分が恥ずかしくなってくる。
「やっ、やっぱりダメだ。私は帰る。」
そう言ってその場から全力で逃げようとするが、亜利沙さんが右手をつかんでくる。
「凛ちゃん、ファイト!」
今年見た中で1番良い笑顔だった。楽しそうだなぁ、この人……。
亜利沙さんから逃げようとしているうちに、左手を愛ちゃんに掴まれてしまう。
「そうですよ、凛先輩なら大丈夫ですよ。」
こっちはこっちで楽しそうだなぁ……。
両腕を掴まれて逃げれなくなる。
「おーい、みんなおはよう。」
遠くから和真が声をかけてくる。
その声に反応して、2人が腕を掴んでいた手を離したすきに、近くにあった電柱の陰に隠れる。
いつも通りの揶揄い合いを亜利沙さんと済ませた後、和真が
「あれ?凛は?」
私のことを探し始める。
電柱の陰から顔だけを出してみんなの様子を見ていると、
「凛さんならあそこに。」
愛ちゃんがこっちを指差してくる。
和真もこっちに気付いたようで、こっちに向かって歩いてくる。
「あっ、バカ、こっちに来るな。」
和真がこっちに近づいてくるにつれて、恥ずかしくなってくる。顔が熱いのが自分でも分かる。
和真の方に手を伸ばしてこっちに来ないように止める。
すると和真は、私の手を優しく掴んで電柱の陰から引っ張り出す。
引っ張り出されたところで和真と目があう。
「バカ和真、こっちに来るなと言ったのに……。」
恥ずかしい……、まともに顔を見ることができない……。
「か、可愛い……。」
和真の思わず口にしてしまったという感じの呟きが私の心に追い打ちをかける。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、可愛いとか言うなー‼」
頭の中で和真の可愛いという言葉がグルグル回る。
その場にしゃがみこんでしまった私に対して、
「凛ちゃん可愛いなぁ。」
心底楽しそうに笑っている亜利沙さんと、
「凛さん、大丈夫ですか。」
流石に少し心配そうにしている愛ちゃんが声をかけてくる。
(後輩の前でこんな恥ずかしい姿見せられないな。)
「べ、別になんていうことはない。ほら早く行くぞ。」
そう言って、1人少し早足で、水族館の入り口へと向かう。
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