オルタナティブ・フロンティア

ゆいすな

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名古屋市解放戦線

第4話 名古屋港大作戦(2)

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亜利沙さんのお話が済んだところで、良い時間になっていたので2人で待ち合わせの入り口まで引き返すことにする。
開館から少し時間が経ったこともあってか、解散した時ほど入り口は混んでいない。
待ち合わせ場所に着くと既に凛は来ていて、どうやら愛ちゃん待ちのようだった。
「和真に、亜利沙さんか……、まだ待ち合わせまで少し時間があるのに早いな。」
凛が笑いながら話しかけてくるが、その笑いが少しぎこちなく見える。
「うん、凛ちゃんも、早いね。」
亜利沙さんも同じことを思ったのか、少し凛のことを覗き込むようにしながら返事をする。
僕も、亜利沙さんからの話もあって、少し凛の様子が気になったので、
「凛は今までどこ見に行ってきたの。」
尋ねてみる。
すると、一瞬固まった後、
「あ、うん、色々かな。」
と少し曖昧な返事をする。これはやはり様子がおかしいと確信したので、もう一度凛のことをしっかりと見ると、
「凛、涙……。」
凛は泣いていた。それも顔に涙の後が残るくらいに。
さっきまでは水族館の暗さもあってはっきりとは分からなかったが、じっくり見てようやく気付いた。
どうやら、亜利沙さんも気づいたようで、
「凛ちゃん、うちちょっとお腹すいたし、なんか売店でも行ってみよ?和真は先に愛ちゃん連れて、上に上がっとってね。」
と言って凛の手を掴み人ごみの中に入って行ってしまった。
未だに凛の涙を見て放心状態の僕の端末にメッセージが入る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亜利沙さん:凛ちゃんのことはうちがなんとかするから、和真はこれ以上余計なこと凛ちゃんに言ったりしたらダメだよ。
和真:わかりました。でも一体何があったんでしょうか。
亜利沙さん:さりげなく聞いとくから、またなんかわかったら連絡するで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亜利沙さんのことだ、しっかりと凛を元気にしてあげるに違いない。そう思って、とりあえず凛のことは、亜利沙さんからの連絡を待つことにする。
そうなると、僕が今すべきことは愛ちゃんを捕まえることだろう。
愛ちゃんの端末番号は昨日のうちに聞いてあったので、着信を入れてみる。
3コールほどしたところで、愛ちゃんは通話に出る。
「もしもし、愛ちゃん今どこにいるの?」
「あ、椎名先輩ですか。ちょうど良かった。今そっちに向かってるんですが、人の波に捕まってしまっ……。すぐに抜けてそっちに……いますから、待っててくだ……。」
それだけ言うと愛ちゃんは通話を切ってしまった。
どうやら人ごみにのまれたようで、ところどころガヤガヤとした音で聞こえなかった。とりあえずこっちに向かっているらしいので、ここで待つことにする。

待つこと5分ほど。
「椎名せんぱ……。」
僕の名前を呼ばれたような気がしてそちらを向くと、人ごみの中から手だけがこっちに伸びている。
「椎名先輩、手を引っ張ってください。」
どうやら声を聞く限り、愛ちゃんの手のようだった。
言われた通り手を掴んで手前に引くと、人ごみの中から、少し小柄な女の子がスポッと出てくる。
「ふう。椎名先輩ありがとうございます。おかげさまでようやくこの人ごみから抜けられました。」
服のあちらこちらに少しずつしわが出来ていたりと、愛ちゃんがどれだけ人ごみで揉まれてきたのかは、その格好から想像がついた。
「まあ何はともあれ、無事に来られて良かったよ。」
僕がそう言うと、少し嬉しそうに笑いながら、
「いえいえ、もうあんなのは二度と御免ですが。それで、椎名先輩。凛さんと亜利沙さんはまだなんでしょうか。」
無邪気な瞳を向けられて少し戸惑う。
嘘をつくのは良くないとは思うが、凛が泣いていたことを愛ちゃんに言うのは少し気がひける。
「ああ、2人はお腹が空いたからって、あっちにある売店に行ってるよ。後で追いかけるから、先に2人で上のショーのところに上がってて、だってさ。」
亜利沙さんが凛を連れて行った方を指差しながら、僕は愛ちゃんにそう言う。
「そうですか。それでは椎名先輩、お言葉に甘えて2人で先に上に行っちゃいましょう。」
愛ちゃんはそう言うと、今度は愛ちゃんが僕の手を引っ張って、エレベーターの列まで連れて行く。
愛ちゃんの手は僕の手を強く掴んで絶対に離れられないようにしていた。

待ち合わせ場所から少し離れたところにあるエレベーター乗り場はさほど混んではいない。どうやら大半の人たちは既に上に上がっているようだった。
なので、特に並ぶことなくエレベーターに乗れたのだが、これは人が多い方が良かったと思う。
それほど話したことがない女の子と2人でエレベーターに乗れば男は緊張するものなのだ。
(うわー、なんか気まずいなあ……。)
そんな僕の心情を察してかどうかはわからないが、
「あ、あの椎名先輩。先輩は、その、好きな人とかいるんですか。」
話しかけてくれたことは嬉しいのだけど、このシチュエーションでその話はさらに気まずいと思う。
「えっと、その、秘密かな。」
言葉に出ないように気をつけながらお茶を濁す。
だが、僕のそんな中途半端な返答を愛ちゃんは気に入らないようで、
「お茶を濁さないでください。好きな人は、いるんですか。」
僕の服を引っ張りながらもう一度聞いてくる。
今の愛ちゃんにはさっきまでの少し恥ずかしそうな感じは無く、キッと僕の目を強く見てくる。
愛ちゃんの目に何か強い思いというのだろうか、何かを感じた。そして、こういう真剣な相手の質問を茶化すのは失礼だとも思う。
「うん、いるよ。」
だから僕も愛ちゃんの目を見ながら、はっきりとそう答える。
すると愛ちゃんは、さっきまでよりも少し弱い声で、
「そうですか……。」
と言う。
「ねえ、1つだけ聞いて良いかな。どうしてこんなこと聞くの。」
どうしても気になったので、僕がそう尋ねる。
すると、
「とりあえず続きは席を見つけてからにしましょうか。」
愛ちゃんがそう言った後、直ぐに後ろから目標の階に到着した旨を告げるアナウンスが聞こえてくる。
エレベーターが止まり、ドアが開くと、そこには昔から変わらないであろう景色だった。中央の大きな水槽を囲むように並べられたたくさんの座席と、そこに座る観客たち。
小さい頃にも同じ景色を見たことある気がする。あの時は誰が一緒にいたのだろうか、昔のこと過ぎて少し思い出せない。

その後5分ほど歩き回って、ようやく4人で座れる座席を見つけたが、座席を探す間僕たちの間で会話はなかった。
座席に隣同士で座って、ショーの時間を待つ。
大体2分ほど沈黙が流れた後だろうか、
「さっきは突然すいませんでした。」
愛ちゃんがそう切り出す。
「別にそんなに気にしてないから良いけど、一体全体どうして急にあんなことを。」
改めてそう聞くと、愛ちゃんは大きく一息置いて、
「椎名先輩、先輩に大事な話があります。」
と言う。
違うとは分かっていても、まさかの可能性に期待している自分が情けないと思う。
さっきと同じ真剣な顔つきの愛ちゃんが次に何と切り出すか、緊張しながら待つ。
「椎名先輩の好きな人って凛さんですよね。」
その通りでございます。だが、そんなことを顔に出すわけにはいかない。
「何で、そう思うの。」
落ち着いたふりをしながら聞く。
「そんなん見てれば分かりますよ。後は女の勘ってやつです。」
女の勘すげー、そして怖いなー。
とはいえ、どうやら愛ちゃんは確信しているようだったし、誤魔化してもしょうがないだろう。
「うん、そうだよ。僕は凛が好きだよ。」
素直にそう告げる。
すると、愛ちゃんはため息をついた後、
「やっぱりですか。でしたら、そんな先輩に1つだけお願いがあります。」
「お願い……、うん、言ってみて。」
「はい。もし詩絵菜お姉ちゃんから、その、告白とか……、受けた時に、ちゃんと相手をしてあげてください。その時、先輩と凛さんがどんな関係だったとしても。お姉ちゃんの気持ちを無下にしないって誓ってください。お願いします。」
正直に言って、戸惑う。
久木田と僕はあくまで先輩と後輩で、軽口を言える友達であって、そういう感情を抱かれるような関係ではない。
だが、愛ちゃんの言い方から伝わってくる真剣さなどから、これが冗談でないことはわかる。
だったら、男としても、自分自身としても、答えは1つしかないだろう。
「うん、約束するよ。たとえどんな時だろうと僕が、久木田のことを無下に扱うわけがないだろう。」
自信を持ってそう言える。
「そうですか。その言葉を聞いて妹として安心しました。」
いつも通りの無邪気な笑顔でそう言われる。
「そういえば、愛ちゃんはどうして久木田が僕のことを好きだなんて思ったんだ。」
話ついでに聞いておく。
すると、愛ちゃんは少し考えた後に、にっこりと笑いながらこう答える。
「女の勘、ってやつですよ。」
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