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名古屋市解放戦線
第3話 名古屋港大作戦(1)
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「椎名和馬様、朝になりました。起きてください。」
無機質な声に名前を呼ばれ、仕方なしに意識を夢から引き戻そうとする。
ひたすら鳴り続ける端末のアラームを止めつつ、何度も瞼を擦ってみるが、全くと言って頭が働き始めない辺り、自分は朝が苦手なんだろうと思う。働かない頭を無理やりに働かせて、カーテンを開けたり、顔を洗ったりと朝の準備を始める。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……、ダメだ、全然目が覚めない。」
盛大にあくびをしながら、朝食用のトーストを焼き始める。
こんなにも寝起きが悪いのは、元からというのもあるのだろうが、今日はみんなと出かける約束をしているので、いつもより少し早くアラームをかけたことも原因の1つだろう。他には、昨日の公園での出来事を少し考えていたら寝る時間が普段通りになってしまったことも原因だろう。昨日みんなと別れた時点ではいつもより早めに寝る予定だったのだ。
「本当にあの子は何者だったんだろうなあ。」
小さくつぶやきながら、焼たてのトーストを口に運ぶ。
優雅に、では無いにしても、朝食を楽しんでいると、端末に着信が来る。
「ん?こんな朝早くから一体誰だ?」
僕がアラームをかけた時間は6時半、まだそれから30分くらいしか経っていないはずなので、今は7時くらいだろうか。人の端末に着信を入れるには少し早すぎる時間だ。
「誰かと思ったら、凛か。」
1人暮らし用の机の反対側に手を伸ばして端末をとると、そこに表示されていた名前は凛だった。
「はい、もしもし、和馬だけど。おはよう、どうしたのこんな時間に。」
僕が電話をとってすぐにそう尋ねると、電話越しから小さなため息が聞こえてくる。
「やっぱり。和馬、今何時か知ってる?」
何を言ってるんだろう。
「え、7時くらいじゃないの?」
電話越しから先ほどより少し大きなため息が聞こえてくる。
「今は8時半。和馬、アラーム止めてからすぐ起きたんじゃなくて、いつも通り二度寝したんでしょ。」
なるほど、これはドッキリだと信じたい。壁に掛けてあるカレンダーで今日が4月1日でないことを確認したのち、端末の時計画面を開いてみると、そこにあった時間は自分がしたことを指し示していた。
「ごめんなさい!」
とりあえず謝ることしか出来ないので謝ると、今までで1番大きなため息が聞こえてくる。
「やっぱり、絶対二度寝した上で時間勘違いしてると思ったから電話して良かった。待ち合わせ時間は9時半に名古屋港だから、それには遅れないよう急いでよね。」
こういう時に凛はしっかりとしているので、いつも助けてもらいっぱなしだ。
「うん、ありがと。準備自体はしてあるから今すぐ家出るわ。」
「まったく、しっかりとしてほしいものだ。それじゃあ、待ってるから。」
そう言うと、電話を一方的に切られてしまった。待ってると言っていたが、まさか既に待ち合わせ場所に着いているのだろうか。まあ流石に1時間前から待っている人はそうそういないだろう。
とりあえず朝食を急いで食べた後、歯を磨いたり着替えたりを済ませて家を出たのはそれから10分後くらいのことだった。
自分の住んでいる一人暮らし用のアパートを急いで飛び出して、駅に向かう。名古屋港に行くには電車を使うのが1番早くつけるらしい。
駅に入ると、何やらキョロキョロと辺りを見回している青い髪の女の人がいた。
僕はあまりああいう少し変わった行動をしている人に自分から関わっていきたいタイプの人ではないので、目線を合わさずに側を通り過ぎようとしたのだが、
「ああ、そこのボク。」
どうやら世間はそうは甘くはないらしい。
「はい、何か用でしょうか?」
とりあえず素早く用件を聞いて、電車に乗ろうと思って、あまり乗り気ではない態度で応じると、
「あら、あまりそう言う態度は取るもんじゃないわ。ところで私は人を探しているんだけれど。」
「はあ、すいません。それで、探してる人っていうのは。」
「ええ、このくらいの背で、少し茶髪が入った黒髪の女の子なんだけど、昨日今日辺りこの辺で見かけてないかしら?」
そう言いながら、女の人は自分の腹の辺りに手を添える。
僕は一瞬でそれが冴江ちゃんのことだと直感したが、この人にそれを教えていいのかわからなかった。
「見たような、見てないような……。娘さんか何かですか?」
「ふふっ、違うわよ。まぁあなたにも用事があるでしょうし、引き止めて悪かったわね。」
そう言うと、女の人はふらふらとしながら、歩いて行ってしまった。
一体あの人は冴江ちゃんとはどんな関係なのだろうか。いやまだ探してるのが冴江ちゃんと決まったわけじゃないか。
色々と答えの出ないことを考えている僕を現実に引き戻したのは、2分後くらいの電車到着のアナウンスだった。
慌てて駆け込んだ電車に揺られること2、30分。なんとか時間通りに待ち合わせ場所である名古屋港に到着する。海と面していることもあるだろうが、昨日とは打って変わり、秋模様で少し風が肌寒い。
駅から出て周りを見回すと、見慣れた顔ぶれが固まっているのを発見する。
そっちの方に駆け寄りながら、
「おーい、みんなおはよう。」
声をかけると、みんながこっちに振り返る。
「やっと来たんか、お寝坊さん♪」
亜利沙さんがからかってくるのをいつも通りスルーして、凛に電話のお礼をしようと思って辺りを見回すが、
「あれ?凛は?」
凛の姿は僕の周りにはない。とはいえ、電話をしてきたということはもう既に待ち合わせ場所に来ていると思ったんだが。
「ああ、別に遅刻じゃないですよ。椎名先輩。凛さんならそこに。」
愛ちゃんが指差した方をみると、確かに電柱の陰に見慣れた顔があった。
「ふふっ、今日の凛ちゃんは可愛いわよ~。ほら近くに行ってあげなさいな。」
亜利沙さんに背中を押され、凛の方へと行く。
すると、凛が慌てたように、
「あっ、バカッ、こっちに来るな!」
電柱の陰から、真っ赤に染まった顔と手だけを出して僕を止めようとする。
「よくわかんないけど、とりあえずそっから出てきなよっと。」
凛がこっちに伸ばしてきた手を取り、手前に軽く引っ張って電柱の陰から引き出す。少し強引だったかとも思ったが、まあこれくらい良いだろう。
引っ張り出したところで、凛と目があった。
「バ、バカ和馬……こっち来るなって言ったのに…。」
恥ずかしそうに顔を俯かせながら凛が細々と言う。
一瞬何を恥ずかしがっているのか分からなかったが、良く見るとそれは一目瞭然だった。
「か、可愛い…。」
普段凛はジャージばかり着ているのだが、今日はなんと水色のワンピースだった。その服はびっくりするくらい凛に似合っていて、思わず声に感想が出てしまう程だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、可愛いとか言うなー‼」
さっきまでとは比べ物にならない程顔を真っ赤にして、凛はその場に顔を押さえながら座り込んでしまった。
「あははは、凛ちゃん可愛いなぁ。」
「凛さん、大丈夫ですか?」
心底面白がっている亜利沙さんと、少し心配そうにしている愛ちゃんがこっちに来る。
「べ、別になんてことはない。ほ、ほら早く中に入るぞ。」
なんとか立ち直ったらしく、凛は立ち上がると水族館の入り口の方へと向かっていく。
「あっ、ちょっと待ってよ。」
置いてかれた3人が少し早足で凛を追いかける。
駅の辺りではあまり気にならなかったが、やはり祝日ということもあって水族館は混んでいた。水族館の入り口で券を購入して中に入ると、開館後30分程度しか経ってないというのに既に中は人だらけだった。
中に入ったところで、11時前にイルカのショーを見るために再び入り口で落ち合う約束をして、僕らは一旦解散した。
みんなと別れた後、特に行きたい場所もなかったので、ぶらぶらとしようかな、と思っていると、
「ねえ、和真。ちょっと話良いかな?」
らしくもなく真面目な雰囲気の亜利沙さんに呼び止められてしまった。
「良いですけど。」
僕が頷くと、亜利沙さんはにっこりと微笑んで、
「それじゃあ、うちのオススメポイントがあっちにあるから、そこまで行こっか。」
そう言うと亜利沙さんは、自分の指差した方に歩いて行ってしまうので、慌てて僕もついていく。
「あ、亜利沙さん、待ってください。」
水族館の人の波に飲まれないようになんとか亜利沙さんについていくと、ようやく追いついた僕に、
「見てみ、和真。すっごいキレイでしょ。」
凄く良い笑顔でこっちを見てそんなことを言ってくる亜利沙さんにお小言でも言ってやろうかと思ったが、目の前の景色を見たらそんなことなんてどうでもよくなってしまった。
大体前240度位だろうか、自分の視界を覆う大きな水槽に、そこを自由に泳ぎまわるたくさんの魚たち。その景色は圧巻だった。
ただ、今一緒にいる気分屋は、僕がその水槽に見とれているのを良しとはしてくれないようで、僕の手を引くと、
「ほら和真、ここ座ろ、ここ。」
と言って空いているところに腰を下ろす。
「分かったから少しは落ち着いてください、亜利沙さん。」
仕方なく亜利沙さんに言われるがまま隣に腰を下ろして周りを見ると、
「ちょっと、亜利沙さん、ここ周りカップルだらけなんですけど⁉」
抗議の言葉と視線を送ると、亜利沙さんはクスリと笑って、
「このくらい静かな方が話をするには丁度良いでしょ。それともお姉さんとこんなところにいると緊張しちゃう?」
まあ確かにさっきまでの場所だと、周りの話し声でお互い何を言っているか聞き取るのがやっとで、会話をするのは難しい。それと、後半は無視することにする。
「それで、話って何なんですか?」
僕が亜利沙さんにそう尋ねると、軽く咳払いした後、亜利沙さんが話を始める。
「そうだね~。今日の凛ちゃんのワンピースさあ、どうだった?」
どうだったと聞かれましても……。凛のワンピース姿を思い出して、少し顔が赤くなる。
「普通に可愛かった……、と思います。」
やっぱりかなり恥ずかしい。僕のそんな思いを汲んだのか、亜利沙さんはにやにやしながら、
「和真もまだまだ若いなあ~。思春期だなあ~。」
全力で煽ってきた。少しイラっとしたので、
「ええ、まあまだ16歳ですから。亜利沙さんみたいな”大人”とは違いますよ。」
わざと大人にアクセントを置いて言い返す。
ガチャッ!
すると、おかしなことに日常的に聞こえてはいけない音が聞こえてくる。
「ちょっと亜利沙さん⁉こんなところで拳銃の撃鉄起こしちゃダメですよ⁉」
慌てて亜利沙さんに言うと、まるで阿修羅でも潜んでいそうな笑顔で、
「ふふふふふ、和真?おかしいなあ、うちは永遠の17歳なんだけどなあ?さっきうちのことなんて言ったかもう一回言ってみてくれるかなあ?」
やばい、超怖い。特に服越しに脇腹の辺りに伝わってくる銃口の様な感触が。
「とても若くて綺麗なお姉さんです。」
背中に冷や汗をかきつつ、慌ててそう答えると、
「うん、よろしい。で、何の話してたっけ?」
どうやらお許しを貰えたらしい。次回以降気をつけよう。
「凛のワンピースが何とやら、ですよ。」
そう言うと、亜利沙さんは用件を思い出したらしく、
「あのワンピースね、昨日和真と別れた後、みんなで買いに行ったんよ。」
それは何となく予想が出来ていたので、
「やっぱりそうでしたか。今まで凛のジャージ以外の姿なんてほとんど見たこと無かったんで。」
僕がそう言うと、亜利沙さんは、
「うん、そうだよね。」
突然真面目な雰囲気になって、
「あのね、和真。昨日、和真と別れた後に凛ちゃんから、いつもと違う感じの服が着たいって言われた時ね、正直驚いたんだ。普段服とか全く気にしないあの子がそんなことを言ってきたこと自体も驚いたんだけど、それ以上に、そう言ってきた時のあの子の目がね。何か覚悟を決めた様な、勝負をする前みたいな目をしてたんだ。だから、ね、今は明日に作戦を控えた大事な時でもあるけど、もし、凛ちゃんに何か言われたら、ちゃんと応えてあげてください。」
終いには頭まで下げられてしまった。
亜利沙さんが頭を上げるのを待って、さらに一息置いてから、
「大丈夫ですよ、何となくですが、わかってますから。」
僕がそう言うと、亜利沙さんは心底安心した顔をした後、
「そっか。うちは、和真や凛ちゃんが抱えているものや、2人に昔何があったかも知らんし、知ろうとするつもりもない。けどね、もしこっから先、和真が凛ちゃんを傷つけたら許さんからね、お姉さん。」
普段は軽いジョークなどばかり言っているが、こうやって周りにしっかり気を配っていたりする辺りが、亜利沙さんも大人なのだろうと思う。
あの時僕が傷つけてしまった凛を助けてくれたのも亜利沙さんだった。
僕が始めて戦うことを決意したあの日。本来なら僕が受けるはずだった攻撃を、僕を庇って凛が受けた。あの戦いの後、痛みに顔を歪めながら凛に言われた言葉に、あの時の凛の思いに僕は少しでも応えられているのだろうか。
恐らく、今の自分は凛とは釣り合わないし、凛の思いに応えられるだけの資格もないのだろう、とそう思う。
『頼む、頼むから。もっと自分を大事にして戦ってくれ。もし和真がいなくなったら、私は悲しむぞ。』
無機質な声に名前を呼ばれ、仕方なしに意識を夢から引き戻そうとする。
ひたすら鳴り続ける端末のアラームを止めつつ、何度も瞼を擦ってみるが、全くと言って頭が働き始めない辺り、自分は朝が苦手なんだろうと思う。働かない頭を無理やりに働かせて、カーテンを開けたり、顔を洗ったりと朝の準備を始める。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……、ダメだ、全然目が覚めない。」
盛大にあくびをしながら、朝食用のトーストを焼き始める。
こんなにも寝起きが悪いのは、元からというのもあるのだろうが、今日はみんなと出かける約束をしているので、いつもより少し早くアラームをかけたことも原因の1つだろう。他には、昨日の公園での出来事を少し考えていたら寝る時間が普段通りになってしまったことも原因だろう。昨日みんなと別れた時点ではいつもより早めに寝る予定だったのだ。
「本当にあの子は何者だったんだろうなあ。」
小さくつぶやきながら、焼たてのトーストを口に運ぶ。
優雅に、では無いにしても、朝食を楽しんでいると、端末に着信が来る。
「ん?こんな朝早くから一体誰だ?」
僕がアラームをかけた時間は6時半、まだそれから30分くらいしか経っていないはずなので、今は7時くらいだろうか。人の端末に着信を入れるには少し早すぎる時間だ。
「誰かと思ったら、凛か。」
1人暮らし用の机の反対側に手を伸ばして端末をとると、そこに表示されていた名前は凛だった。
「はい、もしもし、和馬だけど。おはよう、どうしたのこんな時間に。」
僕が電話をとってすぐにそう尋ねると、電話越しから小さなため息が聞こえてくる。
「やっぱり。和馬、今何時か知ってる?」
何を言ってるんだろう。
「え、7時くらいじゃないの?」
電話越しから先ほどより少し大きなため息が聞こえてくる。
「今は8時半。和馬、アラーム止めてからすぐ起きたんじゃなくて、いつも通り二度寝したんでしょ。」
なるほど、これはドッキリだと信じたい。壁に掛けてあるカレンダーで今日が4月1日でないことを確認したのち、端末の時計画面を開いてみると、そこにあった時間は自分がしたことを指し示していた。
「ごめんなさい!」
とりあえず謝ることしか出来ないので謝ると、今までで1番大きなため息が聞こえてくる。
「やっぱり、絶対二度寝した上で時間勘違いしてると思ったから電話して良かった。待ち合わせ時間は9時半に名古屋港だから、それには遅れないよう急いでよね。」
こういう時に凛はしっかりとしているので、いつも助けてもらいっぱなしだ。
「うん、ありがと。準備自体はしてあるから今すぐ家出るわ。」
「まったく、しっかりとしてほしいものだ。それじゃあ、待ってるから。」
そう言うと、電話を一方的に切られてしまった。待ってると言っていたが、まさか既に待ち合わせ場所に着いているのだろうか。まあ流石に1時間前から待っている人はそうそういないだろう。
とりあえず朝食を急いで食べた後、歯を磨いたり着替えたりを済ませて家を出たのはそれから10分後くらいのことだった。
自分の住んでいる一人暮らし用のアパートを急いで飛び出して、駅に向かう。名古屋港に行くには電車を使うのが1番早くつけるらしい。
駅に入ると、何やらキョロキョロと辺りを見回している青い髪の女の人がいた。
僕はあまりああいう少し変わった行動をしている人に自分から関わっていきたいタイプの人ではないので、目線を合わさずに側を通り過ぎようとしたのだが、
「ああ、そこのボク。」
どうやら世間はそうは甘くはないらしい。
「はい、何か用でしょうか?」
とりあえず素早く用件を聞いて、電車に乗ろうと思って、あまり乗り気ではない態度で応じると、
「あら、あまりそう言う態度は取るもんじゃないわ。ところで私は人を探しているんだけれど。」
「はあ、すいません。それで、探してる人っていうのは。」
「ええ、このくらいの背で、少し茶髪が入った黒髪の女の子なんだけど、昨日今日辺りこの辺で見かけてないかしら?」
そう言いながら、女の人は自分の腹の辺りに手を添える。
僕は一瞬でそれが冴江ちゃんのことだと直感したが、この人にそれを教えていいのかわからなかった。
「見たような、見てないような……。娘さんか何かですか?」
「ふふっ、違うわよ。まぁあなたにも用事があるでしょうし、引き止めて悪かったわね。」
そう言うと、女の人はふらふらとしながら、歩いて行ってしまった。
一体あの人は冴江ちゃんとはどんな関係なのだろうか。いやまだ探してるのが冴江ちゃんと決まったわけじゃないか。
色々と答えの出ないことを考えている僕を現実に引き戻したのは、2分後くらいの電車到着のアナウンスだった。
慌てて駆け込んだ電車に揺られること2、30分。なんとか時間通りに待ち合わせ場所である名古屋港に到着する。海と面していることもあるだろうが、昨日とは打って変わり、秋模様で少し風が肌寒い。
駅から出て周りを見回すと、見慣れた顔ぶれが固まっているのを発見する。
そっちの方に駆け寄りながら、
「おーい、みんなおはよう。」
声をかけると、みんながこっちに振り返る。
「やっと来たんか、お寝坊さん♪」
亜利沙さんがからかってくるのをいつも通りスルーして、凛に電話のお礼をしようと思って辺りを見回すが、
「あれ?凛は?」
凛の姿は僕の周りにはない。とはいえ、電話をしてきたということはもう既に待ち合わせ場所に来ていると思ったんだが。
「ああ、別に遅刻じゃないですよ。椎名先輩。凛さんならそこに。」
愛ちゃんが指差した方をみると、確かに電柱の陰に見慣れた顔があった。
「ふふっ、今日の凛ちゃんは可愛いわよ~。ほら近くに行ってあげなさいな。」
亜利沙さんに背中を押され、凛の方へと行く。
すると、凛が慌てたように、
「あっ、バカッ、こっちに来るな!」
電柱の陰から、真っ赤に染まった顔と手だけを出して僕を止めようとする。
「よくわかんないけど、とりあえずそっから出てきなよっと。」
凛がこっちに伸ばしてきた手を取り、手前に軽く引っ張って電柱の陰から引き出す。少し強引だったかとも思ったが、まあこれくらい良いだろう。
引っ張り出したところで、凛と目があった。
「バ、バカ和馬……こっち来るなって言ったのに…。」
恥ずかしそうに顔を俯かせながら凛が細々と言う。
一瞬何を恥ずかしがっているのか分からなかったが、良く見るとそれは一目瞭然だった。
「か、可愛い…。」
普段凛はジャージばかり着ているのだが、今日はなんと水色のワンピースだった。その服はびっくりするくらい凛に似合っていて、思わず声に感想が出てしまう程だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、可愛いとか言うなー‼」
さっきまでとは比べ物にならない程顔を真っ赤にして、凛はその場に顔を押さえながら座り込んでしまった。
「あははは、凛ちゃん可愛いなぁ。」
「凛さん、大丈夫ですか?」
心底面白がっている亜利沙さんと、少し心配そうにしている愛ちゃんがこっちに来る。
「べ、別になんてことはない。ほ、ほら早く中に入るぞ。」
なんとか立ち直ったらしく、凛は立ち上がると水族館の入り口の方へと向かっていく。
「あっ、ちょっと待ってよ。」
置いてかれた3人が少し早足で凛を追いかける。
駅の辺りではあまり気にならなかったが、やはり祝日ということもあって水族館は混んでいた。水族館の入り口で券を購入して中に入ると、開館後30分程度しか経ってないというのに既に中は人だらけだった。
中に入ったところで、11時前にイルカのショーを見るために再び入り口で落ち合う約束をして、僕らは一旦解散した。
みんなと別れた後、特に行きたい場所もなかったので、ぶらぶらとしようかな、と思っていると、
「ねえ、和真。ちょっと話良いかな?」
らしくもなく真面目な雰囲気の亜利沙さんに呼び止められてしまった。
「良いですけど。」
僕が頷くと、亜利沙さんはにっこりと微笑んで、
「それじゃあ、うちのオススメポイントがあっちにあるから、そこまで行こっか。」
そう言うと亜利沙さんは、自分の指差した方に歩いて行ってしまうので、慌てて僕もついていく。
「あ、亜利沙さん、待ってください。」
水族館の人の波に飲まれないようになんとか亜利沙さんについていくと、ようやく追いついた僕に、
「見てみ、和真。すっごいキレイでしょ。」
凄く良い笑顔でこっちを見てそんなことを言ってくる亜利沙さんにお小言でも言ってやろうかと思ったが、目の前の景色を見たらそんなことなんてどうでもよくなってしまった。
大体前240度位だろうか、自分の視界を覆う大きな水槽に、そこを自由に泳ぎまわるたくさんの魚たち。その景色は圧巻だった。
ただ、今一緒にいる気分屋は、僕がその水槽に見とれているのを良しとはしてくれないようで、僕の手を引くと、
「ほら和真、ここ座ろ、ここ。」
と言って空いているところに腰を下ろす。
「分かったから少しは落ち着いてください、亜利沙さん。」
仕方なく亜利沙さんに言われるがまま隣に腰を下ろして周りを見ると、
「ちょっと、亜利沙さん、ここ周りカップルだらけなんですけど⁉」
抗議の言葉と視線を送ると、亜利沙さんはクスリと笑って、
「このくらい静かな方が話をするには丁度良いでしょ。それともお姉さんとこんなところにいると緊張しちゃう?」
まあ確かにさっきまでの場所だと、周りの話し声でお互い何を言っているか聞き取るのがやっとで、会話をするのは難しい。それと、後半は無視することにする。
「それで、話って何なんですか?」
僕が亜利沙さんにそう尋ねると、軽く咳払いした後、亜利沙さんが話を始める。
「そうだね~。今日の凛ちゃんのワンピースさあ、どうだった?」
どうだったと聞かれましても……。凛のワンピース姿を思い出して、少し顔が赤くなる。
「普通に可愛かった……、と思います。」
やっぱりかなり恥ずかしい。僕のそんな思いを汲んだのか、亜利沙さんはにやにやしながら、
「和真もまだまだ若いなあ~。思春期だなあ~。」
全力で煽ってきた。少しイラっとしたので、
「ええ、まあまだ16歳ですから。亜利沙さんみたいな”大人”とは違いますよ。」
わざと大人にアクセントを置いて言い返す。
ガチャッ!
すると、おかしなことに日常的に聞こえてはいけない音が聞こえてくる。
「ちょっと亜利沙さん⁉こんなところで拳銃の撃鉄起こしちゃダメですよ⁉」
慌てて亜利沙さんに言うと、まるで阿修羅でも潜んでいそうな笑顔で、
「ふふふふふ、和真?おかしいなあ、うちは永遠の17歳なんだけどなあ?さっきうちのことなんて言ったかもう一回言ってみてくれるかなあ?」
やばい、超怖い。特に服越しに脇腹の辺りに伝わってくる銃口の様な感触が。
「とても若くて綺麗なお姉さんです。」
背中に冷や汗をかきつつ、慌ててそう答えると、
「うん、よろしい。で、何の話してたっけ?」
どうやらお許しを貰えたらしい。次回以降気をつけよう。
「凛のワンピースが何とやら、ですよ。」
そう言うと、亜利沙さんは用件を思い出したらしく、
「あのワンピースね、昨日和真と別れた後、みんなで買いに行ったんよ。」
それは何となく予想が出来ていたので、
「やっぱりそうでしたか。今まで凛のジャージ以外の姿なんてほとんど見たこと無かったんで。」
僕がそう言うと、亜利沙さんは、
「うん、そうだよね。」
突然真面目な雰囲気になって、
「あのね、和真。昨日、和真と別れた後に凛ちゃんから、いつもと違う感じの服が着たいって言われた時ね、正直驚いたんだ。普段服とか全く気にしないあの子がそんなことを言ってきたこと自体も驚いたんだけど、それ以上に、そう言ってきた時のあの子の目がね。何か覚悟を決めた様な、勝負をする前みたいな目をしてたんだ。だから、ね、今は明日に作戦を控えた大事な時でもあるけど、もし、凛ちゃんに何か言われたら、ちゃんと応えてあげてください。」
終いには頭まで下げられてしまった。
亜利沙さんが頭を上げるのを待って、さらに一息置いてから、
「大丈夫ですよ、何となくですが、わかってますから。」
僕がそう言うと、亜利沙さんは心底安心した顔をした後、
「そっか。うちは、和真や凛ちゃんが抱えているものや、2人に昔何があったかも知らんし、知ろうとするつもりもない。けどね、もしこっから先、和真が凛ちゃんを傷つけたら許さんからね、お姉さん。」
普段は軽いジョークなどばかり言っているが、こうやって周りにしっかり気を配っていたりする辺りが、亜利沙さんも大人なのだろうと思う。
あの時僕が傷つけてしまった凛を助けてくれたのも亜利沙さんだった。
僕が始めて戦うことを決意したあの日。本来なら僕が受けるはずだった攻撃を、僕を庇って凛が受けた。あの戦いの後、痛みに顔を歪めながら凛に言われた言葉に、あの時の凛の思いに僕は少しでも応えられているのだろうか。
恐らく、今の自分は凛とは釣り合わないし、凛の思いに応えられるだけの資格もないのだろう、とそう思う。
『頼む、頼むから。もっと自分を大事にして戦ってくれ。もし和真がいなくなったら、私は悲しむぞ。』
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