あしたがあるということ

十日伊予

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父からの電話

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 お父さんから電話が来たのは、その日の夜のことだった。
 智、おばあちゃんの家は楽しいか?
 智、最近は夜熱くてお父さんは眠れないよ。
 智、そっちではちゃんといい子にしてるか?
 智、帰ったら一緒にご飯食べに行こうな。
 智、夏休みの宿題は終わってるか?
 智、自由研究はお父さんと一緒にしような。
 智、お父さんのこと好きだよな?
 智、お母さんはすぐに怒るし怖いなあ。
 智、お母さんよりお父さんの方が好きだよな?
 智、智、智、智。
 お父さんは明らかにおかしかった。いつものお父さんではなかった。いつかの、電話越しのお母さんに怒鳴っていたおばあちゃんに、どこか似ていた。お父さんも必死だった。ぼくに見えていた世界は全てではなかった。
 智、あした、迎えに行くから。
 お父さんはそれを言うと、電話を切ってしまった。ぼくに見えていた世界は全てではなかった。
 ぼくに見えていた世界は、全てではなかった。
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