リーネリア様は生きる意味と死んだ理由を知りたい

暗い灯り

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第二章 名と変容

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 第2章:名と変容

ゴブリンの子は、一人の男に引き取られた。町外れの古びた屋敷に暮らすその男の名は、フェン。魔法局に籍を置くとされながら、何をしているのか誰も知らない謎多き人物だった。

フェンはゴブリンの少女を見るなり、目を細めて言った。

「よく来たね。」

まるで再会を喜ぶかのように、懐かしげに。

少女は答えなかった。ただその目に、微かに波紋が走った。

「名前は?」

「…リナ」

少し考えると、フェンは言った。「君は今日からリーネリアだ。リーネリア・フェン、私の娘だ。いいね?」

その瞬間、風が吹き抜けた。不思議と、その名が胸にすとんと落ちた。

 ____

数年が経ち、リーネリアは屋敷で暮らしながら言葉と知識を学び続けた。

最初はぎこちなかった発音も、今では読み書きをこなし、貴族の子どもたちに引けを取らぬ所作を身につけていた。

変化は、外見にも現れた。

緑がかっていた肌は次第に薄れていき、耳の形も穏やかに整い、気がつけば人間の少女として通じる姿へと変わっていた。

長く艶やかな黒髪、透き通るような瞳。

鏡の中にいたのは、もはや誰の目にも美しい少女だった。

 ____

ある日、王都からの使者が屋敷を訪れた。王国の巡業の一環として、各地の有力者の館に貴族の子女が訪問するというのだ。リーネリアはそこで、エルダという少女と出会う。

金色の巻き髪、快活な笑顔、まっすぐな瞳。リーネリアとは対照的に、陽の光をそのまま人の形にしたような存在だった。

「ねえ、あなたがリーネリア?聞いたわ、元ゴブリンだったって。本当なの?」

悪意のない声だった。だが周囲の大人たち、特に貴族の婦人たちの目は鋭かった。

「わたくしの娘に近づけすぎないでくださいな」
「いくら人の姿に見えるとはいえ、所詮は——」

彼女たちの冷たい視線に、リーネリアは胸を締めつけられる思いがした。美しくなれば、受け入れられると思っていた。
人の言葉を話せば、仲間になれると信じていた。

けれど、違った。

「大丈夫、私は友達になりたいと思ったわ」

エルダが手を取った。その手の温かさだけが、あのときの涙を止めてくれた。

そして、リーネリアは心のどこかで知る。人間の姿になったからといって、人間になれるわけではない——と。
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