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第三章 王都の影
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第3章:王都の影
フェンが王都に戻ってきたという知らせは、静かに、しかし確実に波紋を広げた。
かつて王国魔法局において名を馳せた貴族。名門エルヴァン家の婿養子。だが、妻エミリアの死をきっかけにその姿を消し、誰もが彼の引退を既定のものと思っていた。
それが今、あの屋敷の扉を再び開いた。
その報せに最も早く応じたのが、王国伯爵ダリオスだった。
「本当に……戻ってくるとはな」
王都の迎賓室。天窓から差す午後の光のなか、ダリオスはグラスを掲げた。
「こんな日が来るとは思わなかった。いや、ずっと待っていたのかもしれん」
フェンは笑みを浮かべず、ただグラスを受け取った。
「ただ、やり残したことがあっただけさ。」
「エミリアのことは....セレスタもずいぶん落ち込んでいたよ。とはいえ、国を危険に及ぼすことがあれば、俺もお前といえど、見過ごせんぞ。」
フェンは答えない。だが、沈黙こそが肯定だった。
「王に釘を刺されている。現実を受け入れろ。ゴブリンの進化。管理と運用、これが国益になるからという建前があることを忘れるなよ」
「誰にも迷惑を、かけないで生きてる人間なんていないさ」
「フェン、頼むから無茶はするな。俺にも大切な娘がいる。彼女は人々を導く太陽だ。」
「分かってる。リーネリアはエルダに救われた。手の温もりが…心を温める。」
フェンは視線を動かしながら言う。
「良い子に育てたな…私には出来ないことだ」
セレスタの視線が強く向けられる。
____
その夜、王城の私室にて。セレスタ・グレイハルトが鋭い視線でグラスの底を見つめていた。
「まさか、あのフェンが……。ゴブリンを育てて、人間に変えた? 正気とは思えない」
「だが、美しい娘になった。貴族の場に出しても遜色はない。それが現実だ」
ダリオスが淡々と告げると、セレスタは憮然とした表情を隠さなかった。
「現実……? だったらあなた、彼女を受け入れるの?」
「受け入れる、とは言っていない。だが……見届けるつもりだ」
____
王の間。荘厳な空間に、慎重な足音が響く。
玉座の前に並ぶ者たちのなかに、フェンの姿があった。
「魔法局の再編に際し、旧局員の召集を」
「王命である」
告げられた言葉に、誰もがざわめいた。
フェンは、頭を垂れる。そしてその背後、玉座の脇に控える一人の男がいた。
若く、端正な顔立ち。銀の髪。名を、ルアンという。
その視線は一瞬、フェンの背に向けられたが、何も言わず、ただ静かに見つめていた。
____
それから幾月かの時が過ぎ、王都の季節は春へと移り変わっていた。
ある日、エルヴァン邸の一室で、ダリオスがリーネリアに旅の話を持ちかける。
「君の知識は、今やこの部屋に収まりきらない。世界を見て、自分の足で歩くべき時が来たのだ」
リーネリアは戸惑いながらも、その言葉の奥にある期待を感じ取っていた。
扉の外、誰かが立ち聞きしているような気配があった。
「……これで良かったのか」
ダリオスは独り言のように呟いた。
確かに何かが、静かに動き始めていた。
フェンが王都に戻ってきたという知らせは、静かに、しかし確実に波紋を広げた。
かつて王国魔法局において名を馳せた貴族。名門エルヴァン家の婿養子。だが、妻エミリアの死をきっかけにその姿を消し、誰もが彼の引退を既定のものと思っていた。
それが今、あの屋敷の扉を再び開いた。
その報せに最も早く応じたのが、王国伯爵ダリオスだった。
「本当に……戻ってくるとはな」
王都の迎賓室。天窓から差す午後の光のなか、ダリオスはグラスを掲げた。
「こんな日が来るとは思わなかった。いや、ずっと待っていたのかもしれん」
フェンは笑みを浮かべず、ただグラスを受け取った。
「ただ、やり残したことがあっただけさ。」
「エミリアのことは....セレスタもずいぶん落ち込んでいたよ。とはいえ、国を危険に及ぼすことがあれば、俺もお前といえど、見過ごせんぞ。」
フェンは答えない。だが、沈黙こそが肯定だった。
「王に釘を刺されている。現実を受け入れろ。ゴブリンの進化。管理と運用、これが国益になるからという建前があることを忘れるなよ」
「誰にも迷惑を、かけないで生きてる人間なんていないさ」
「フェン、頼むから無茶はするな。俺にも大切な娘がいる。彼女は人々を導く太陽だ。」
「分かってる。リーネリアはエルダに救われた。手の温もりが…心を温める。」
フェンは視線を動かしながら言う。
「良い子に育てたな…私には出来ないことだ」
セレスタの視線が強く向けられる。
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その夜、王城の私室にて。セレスタ・グレイハルトが鋭い視線でグラスの底を見つめていた。
「まさか、あのフェンが……。ゴブリンを育てて、人間に変えた? 正気とは思えない」
「だが、美しい娘になった。貴族の場に出しても遜色はない。それが現実だ」
ダリオスが淡々と告げると、セレスタは憮然とした表情を隠さなかった。
「現実……? だったらあなた、彼女を受け入れるの?」
「受け入れる、とは言っていない。だが……見届けるつもりだ」
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王の間。荘厳な空間に、慎重な足音が響く。
玉座の前に並ぶ者たちのなかに、フェンの姿があった。
「魔法局の再編に際し、旧局員の召集を」
「王命である」
告げられた言葉に、誰もがざわめいた。
フェンは、頭を垂れる。そしてその背後、玉座の脇に控える一人の男がいた。
若く、端正な顔立ち。銀の髪。名を、ルアンという。
その視線は一瞬、フェンの背に向けられたが、何も言わず、ただ静かに見つめていた。
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それから幾月かの時が過ぎ、王都の季節は春へと移り変わっていた。
ある日、エルヴァン邸の一室で、ダリオスがリーネリアに旅の話を持ちかける。
「君の知識は、今やこの部屋に収まりきらない。世界を見て、自分の足で歩くべき時が来たのだ」
リーネリアは戸惑いながらも、その言葉の奥にある期待を感じ取っていた。
扉の外、誰かが立ち聞きしているような気配があった。
「……これで良かったのか」
ダリオスは独り言のように呟いた。
確かに何かが、静かに動き始めていた。
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