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青冠の伝承……勇者レンとイリアス姫への憧れ

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 家が見えるところまで、帰ってきた。

オレは遠目でその背が低く、ほっそりとした体型の人陰が僕らのほうに向かって親しげに手を振っているのにきづく。
「……おーい」
と言っているように思える。

「なぁ……。あれ知っている人?」
「……知っているも何も……あんのぉ不能が!」
……なんかリファイアがやたら怒っているのだけは伝わってきた……。
「不能……」
「そうです! 女として私を愛でることは絶対に無理! とか……ふん! どうせ、女を抱くことができない不能に決まっているわ」
……あ。オレもわかった。あのオレの家から手を振っているヤツ、皇帝だ。

「……おーい。ひさしぶりだなぁ……リファイア!」
「気安く、呼び捨てに……しないでいただけますか? 私はあなたの女ではないです。……もっとも、あなたには女なんてものは意味ないでしょうが……ふふ」
「んなこといわないで……怒るなよ……カワイイけど……ま、抱けないけどな」
「……あなたにカワイイとか言われたくありません……」
救国の英雄として有名な皇帝は、3年前に魔人を倒した正真正銘の勇者である……と聞いている。英雄の歌姫である、エリルが散々取材してコイツの詩を歌いまくっていたから、おれはよく知っている……。

「……蒼い長髪に黄金の瞳をした英雄……皇帝シルファール殿下……ですね」
……本当に小柄なんだな……エリルに少年と歌われるのも納得だ。

「そうそう! 知っているんだ! 嬉しいなったら嬉しいな」
「……でも、不能でしょ?」
……言い捨てるリファイア王女。
「……確かにあなたとは子供はつくれませんが……それであなたと人の価値が変わるわけではないでしょう……ひどいなぁ……もう」
とシルファール殿下はおちゃらけた。

「……ふざけないでください」
「んでぇさあ、お二人で楽しくデートしてきたの? リファイアは?」
「リファイア王女殿下……といえ」
「王女殿下って青い冠が好きなんですか?」
「……なにがいいたい」
「いえ、空の下というのもオツですよね? ……なかなか良い趣味をしていると想いまして……」
「あ……」
つい間抜けな声を上げるオレ、アオカン……ですか……。
「……アルさん!」
「はい……」
「……これから教会に行きます!」
「え?」
「コイツとはもう話したくない……です」
……怒り心頭のリファイアだった。
「すいません……わたし……望遠鏡というものを持っていましてね……」
「……はぁ……なんです? それ」
「山の方を見てたんです……そしたら……伝説のレン勇者とイリアス王女もかくやという素晴らしいカップルを見つけてしまいまして……」
「……教会に急ぎます……アルさん! いきましょう……」
「300年前2人はこの村で恋に落ちたと……聞いてます……俗話ですが……その」
「……アルさん?……なにグズグズしているのです」
「2人の美しい肉体美に村人はいつも山を見上げてはため息をついていたとか……」
「そんな話があるのか?」
……グイグイとリファイアが手をひく。
「……リファイア王女殿下はイリアス王女に憧れていらっしゃるのですよね?」
……真っ赤になるリファイア。

「いきましょう……アルさん」
「はい……」

ちょっと興味深い話ではあったが、これ以上、ヤツと話しているとリファイアの怒りがどんどんと積み重なり、間違いなく大噴火するであろう……と確信できたので……。オレはリファイアと歩調を合わせ、村の教会の方に足を向けることにした。

「イリアス王女の王冠は青かったそうですねぇ……」
と最後にヤツは大声で叫んだのが聞こえたような気がする。

「……まったく……ホントに、デリカシーのないヤツ」
「リファイア……」
「アルさん……。見苦しいところを見せてしまいましたね……あいつが言っていたことは半分本当なんです……わたし伝説の勇者レンと王家の先祖にもあたるイリアス姫の恋話に憧れていたのです……。バカなわたし……。伝承なんてマネしたって……伝説のように素敵なカップルになれるわけじゃないのに……」

イリアス王国の名前にもなっているイリアス姫の伝承か……オレは歴史に詳しくないからよくわからないけど……、こんど村の長老にでも口伝を聞いてみるか……。

……気がつくとオレとリファイアは……もとの場所……王家御用達の看板がある丘の上に戻っていた……。
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