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第六話 襲来
しおりを挟む女子高生の片割れ、茶髪の少女がそう花音に話しかけた。
よく見ると、二人とも着ている制服が花音と同じだ。同じ学校の後輩っぽいな。
「……そ、そうね」
かなり戸惑った様子で返す花音。
珍しいな。花音が結構本気で動揺している。
内心でニヤニヤしながら見守っていると、もう一人の女子高生、黒髪の子が俺を見て楽しげに口を開いた。
「もしかしてぇ、デートですか? そっちの男の人は彼氏さんだったり?」
何だこいつうぜえ。
……いや、女子高生ってこんなもんか。俺が高校時代全く触れ合ってこなかっただけで、みんなこんな感じなのか?
「……そういうのではないわよ。ほら、何回か話したことあるでしょう? 私の従兄の鈴木凱士さん」
ため息交じりの俺のことを紹介する花音。
俺は一応、よろしくとだけ言った。
「あぁ、噂のニートさんですかっ」
「噂してんの!? え、俺、名も知らぬ女子高生に嘲笑われてんの!?」
茶髪の衝撃発言に驚懼。
待って待って待って待って。どういうこと花音さん。「あのさぁ、私ぃ、ニートの従兄いるんだよねぇ。マジキモくてありえないんですけどー」とかみたいな感じで話題にしてくれちゃってるんですか?
視線で尋ねると、目を青空に向かって逸らす花音。おい。……おい。
黒髪はそんな俺を見て、
「嘲笑うってそんな。せいぜい、親に金を出してもらって遊びながら一人暮らししてる寄生虫くらいにしか聞いてませんよぉ」
「かのぉぉぉおおおおん!!」
どういうことだてめぇ!
さっきまで凱にぃ大好きオーラ出してただろうがぁ! 裏ではそんな感じだったのか!
「……ひゅー、ひゅー」
下手な口笛して誤魔化すんじゃねえ!
泣きそうになりながらジェスチャーで抗議すると、花音は黒髪相手に目を向けた。
「……はぁ。からかうのはそのくらいにしなさい。私は『今はまだ親の脛をかじっているけれど、きっといつか夢を叶えて立派な社会人になれる』としか言ってないでしょう?」
「か、花音……」
そんなことを言ってくれていたのか。悪かった、責めるようなことを言って。
「ちぇ、つまんないのー」
「もう、変なこと言っちゃダメだよっ。ほら、邪魔になっちゃうからわたし達は他のところ行こう?」
おもちゃを取り上げられた子供のような面白くなさそうな顔をする黒髪を、茶髪が叱った。……いや、茶髪。この話題になったきっかけお前だからな。
「お邪魔しましたっ」
そう言って、結局二人はどこかに向かって去っていった。
……嵐みたいな奴らだったなぁ。花音もだいぶ疲れたような表情をしている。
…………。
「……なあなあ、花音さんや花音さんや」
「……なに?」
「俺に対してと後輩に対してで、随分とキャラが違いやせんか?」
「…………」
だってもう口調から違ったもんな。
俺や家族との間では子供っぽい感じなのに、さっきのは随分大人っぽいというか、お姉さんっぽいというか。「~~よ」みたいな口調で話してるの初めて聞いたぞ。
「……気のせい」
「いっやぁ、流石にそれは厳しいんじゃないでしょうか?」
「気のせい」
執念を感じる即答。恥ずかしがってるなぁ。耳が真っ赤になっている。
俺がニートっていうのを友達に話してるみたいだったし、ちょっとその分からかってやるか。
俺は「やれやれ」みたいな感じで口を開いた。
「花音さん、そんなわけないでしょう? 私はこの耳でしっかりと聞いたわ」
「~~~~っ!! き、気のせい!」
顔までも赤に染めて必死に否定する花音。
「あっはっはっはっは、大人でいいじゃねえか。お前、学校ではあんなキャラなんだなぁ」
「……うぅ」
「それで、家族や俺には子供みたいな態度っていうことは、やっぱ甘えてくれてるんだよな。いやぁ、可愛いなぁ~」
「…………」
花音は目に涙をためて無言で俺を睨んでくる。
「学校でも子供っぽい口調にしたらギャップ萌えで人気出るんじゃねえの?」
「……うぅ、うにゃぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
あ、爆発した。
「う、うるさいっ。凱にぃうるさい! うるさいうるさいうるさいうるさい!!」
「落ち着け花音。うるさいのはお前だ」
ものの見事にキャラがぶっ壊れてやがる。
やべえな、自分でやっといてなんだけどこれどうしよう。周りの人からの視線も痛いし、とりあえず一回列から外れようか。
錯乱状態の花音の手を引いて、近くのベンチに連れていく。
ベンチに座らせて、頭をぽんぽんと叩いた。
「悪かったよ。変なこと言ってごめんな」
「……許さない」
未だに赤い顔でそう言う花音。
「せっかく並んでたのに、列から外れて振り出しに戻った……」
「――あ、そっち?」
そこまでジェットコースターに乗りたかったのか。それは本当に悪かった。
リスのように頬を膨らませている花音に、両手を合わせて謝る。
「それじゃあ、もう一回並び直すか?」
「……今からだと遅くなりすぎるから、別のにする」
「了解」
それで諦めるんだったら、最初っから他ので良かったんじゃね、という言葉が口から出かかったが確実に藪蛇なので黙っておく。
俺たちは周囲を適当に見回して、空いているアトラクションを探した。
「あ、あそこのお化け屋敷なんかはどうだ?」
ジェットコースターのちょうど向かい側にある建物を指差して言った。
外に客が並んでいる様子はないし、中で並んでいるとしてもそこまでの時間待たされたりはしないだろう。……まあ、客が少ないということは人気がないって意味だというのは置いておいて。
「……ダメ。怖がってまともに楽しめない」
花音はすぐに俺の提案を却下した。
お化け屋敷が怖いのか。花音にそういうイメージはないが、学校でのキャラと同じように俺が把握していない一面が多くあるのだろう。
よし、ここはいいところを見せるチャンスな気がする。
「俺がついてるから大丈夫だって。入ってみようぜ」
「でも……」
「ほら、何事も挑戦だって言うだろ?」
「……泣き叫ぶ凱にぃを介護するチャレンジはしたくない」
「――俺の心配してたのかよ!? いや、流石に遊園地のお化け屋敷でそこまで本気で怖がったりしねえよ!?」
泣き叫ぶって、一体俺はどんなビビリだと思われているんだ。
視線で異議を申し立てると、花音は理由を告げた。
「凱にぃって何にでもリアクション激しいから」
「……やべえ、言い返せねえ」
確かに、落選後などの反応を見てわかるように、俺はリアクションが大げさになるという癖がある。っていうか、さっきの花音の発言に対しても正しくそうだったからな。
「でも、リアクションの大きさと怖がりかどうかって必ずしもイコールでは結べなくないか?」
「……昔お化け屋敷に行った時、凱にぃはお化けが出てくるたびに断末魔をあげて、漏らしてた」
「何で本人すらも覚えてない黒歴史知ってるの!?」
記憶にないけど幼少期の俺弱ぇ……。毎回断末魔って、一体何回死んだんだよ。
しかもその俺の醜態を花音は冷静に観察してたってことだよな、口ぶり的に。親戚のお兄さんの威厳ゼロなんだけど。
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