現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第5話 話を聞いても理解できるとは限らない。

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僕が教室に戻ると、まだ担任は来ていなかった。
仲間同士で騒いでいるクラスメイトを視界に入れないようにしながら自分の席に着いた。

「あれ、あんな奴いたっけ?」
「え~~誰?」
「入院してた奴だろう。確か御門だよ。入学早々の実力テストで2位だったはずだぜ」
「あ~~あの隠キャのガリ勉君か」

クラスの中で派手目の男女グループ、いわゆるカースト上位の奴等の声が聞こえてくる。

話聞こえてんだよ。全く目立つとろくな事ないな……

すると、ドアが開いて担任の猪熊剛《いのくまごう》が入って来た。
年齢は40歳前後、体育教師で陸上部の顧問をしているマッチョで暑苦しい教師だ。

「お~~い、席に着け。おっ、今日は御門が来てるな。渡したい物があるから昼休み職員室に来るように。他に欠席はと……いないようだな。それと、連絡事項は特に無い。今日一日、問題起こさないようにしろよ。俺は忙しいからな。では、以上」

そう言ってそそくさと教室を出て行った。
陸上部の事しか眼中にないこの教師は、担任には向かないのではないかと思う。
まあ、無闇に干渉されるよりは良いけど……

『マスター、説明の続きをします』

僕の脳内に叡智システムが話しかける。
一瞬、ビクッと身体を反応させてしまったけど、大丈夫だよね?

(これから授業なんだけど)

『人族が持つ知識など塵芥も同然です。それより、早く概要を把握していただけないと危険です』

(えっ!?危険って、どうして?)

『詳細は省きますが、命を狙われる危険があります。それ程【賢者の石】は貴重なのです』

(まって、その賢者の石って僕に関係あるの?)

『はあ~~マスターは愚か過ぎます。賢者の石はマスターに融合しています。マスターの存在を知られれば、あらゆる世界から力の源である賢者の石を狙って奪いにきます。勿論、奪われればマスターの死あるのみです』

(まって、まって、何でそんな事になってんだよ。融合ってどうしてそんな状況になってるんだよ。そもそも賢者の石なんて僕は知らないし)

『本気で言ってるのですか?マスターが座標NT305、ET508で手に入れた赤い石のことです。忘れているのですか?』

そういえば、ソロキャンプで綺麗な赤い石を拾ったけど、まさか、それが賢者の石なのか?
あれ、そういえばあの綺麗な石どうなったっけ?

『マスターが賢者の石を手に入れて、雷に打たれた時に身体に融合しました』

「はい!?」

「良いお返事ですね。では、この文章を訳して下さい」

しまった!声に出てた。今は授業中だ。

『愚かですね』

こいつ!!

席を立って黒板に書かれた英文を和訳する。

「はい、良くできました」

笑顔が似合う新米英語教師の葛西しずく先生は生徒達に人気な先生だ。
その笑顔を見れただけで、教室の野郎どもが『おーー可愛い』と、つぶやいているのが聞こえてくる。

……あ~~マジ余計な事をしてしまった。恥ずい……

『正解を言うことが何で恥ずかしいのですか?理解できません』

(違う、目立ちたくないんだよ)

『う~~む、たかが言語翻訳しただけで目立つという残念な思考が理解不能です』

(残念言うな!それより、融合ってなんだよ。どういう意味なんだ?)

『そのままの意味です。【賢者の石】は高濃度の魔力と数多の術式を組み込んだ物です。それが、雷という外部刺激によりマスターの身体と融合しました。もし、融合しなければ雷に打たれた時点でマスターの命は潰えていたでしょう。マスターの貧弱な身体に魔力と術式を組み込むのに地球時間で10日程かかりましたけど』

その声を聞いて、僕は思わず頭を抱えた。
叡智システムが言うには、ソロキャンプで拾ったあの綺麗な赤い石は賢者の石というらしく、それが僕の身体に融合したと伝えたのだ。

(マジ意味が分からん。だが、命があるのはその石のおかげなんだよね)

『その通りです。ますのひ弱でダメダメな身体に融合させるのには骨が折れましたよ』

(お前かーー!お前がやったのか!!)

『はい、私はマスターの命の恩人です。もっと誉めて下さい。それとその褒美に呼称で呼ぶ事を希望します』

授業中という事で気持ちの昂りをどうにか抑えた自分こそを誉めてほしい。
こんな太々しい声の奴でも命の恩人には違いない。

(ふぅ~~、で、呼称って名前だよね。なんでもいいの?じゃあ、ブス子)

『マスターはもう一度死にたいようですね!!』

(冗談だって。う~~ん、どうしようかな?確か叡智システムとか言ってたけど…‥じゃあエイシスなんてどう?)

『短絡的ですね。でも、それ以上の呼称をマスターが考えられるとも思えませんので納得します。これからは私の事をエイシスとお呼び下さい』

何か声が喜んでいる気がする……

それから、エイシスとの脳内会話は続いていた。
話を聞けば聞くほど「?」マークが頭に浮かぶが、どうやら僕は歪で得体の知れない貴重な存在になったらしい。

まるで実感がないけど、分かったことが幾つかある。
僕の白髪は、ショックでこうなったわけではない。
身体を巡る魔力が髪の毛の色素部分に定着した為だと言う。
背が伸びて筋肉質になったのも、魔力を内包する身体に造り替えられた結果らしい。

今の自分の体力はオリンピック選手のアスリート並み。
筋肉や動体視力もプロのボクサー並みだと教えられた。
『まだ人間レベルですけどね』と、エイシスがバカにしたように言ってたけど、僕にとっては願ってもない状態だ。

それと、レベルを上げてある程度の実力をつけてもらわないと困ると、言われた。
世界は、星の数だけ存在しており、その中で邪悪な存在は多々いるのだという。
そのような者達に僕と言う歪の存在を知られてしまえば、この地球にその邪悪な存在がこぞって押し寄せてくるだろうと、怖い事を言われた。
それらの者の対処をする為に、レベル上げは急務だと言う。

まあ、エイシスがカリキュラムを組んでくれるそうなので、僕としては従うだけでレベルが上がるのなら問題ない。
まるでゲームのような話だが、僕にデメリットがなければ構わない。
そんな会話を繰り返していたらあっという間に午前中は過ぎていった。


◇◇◇


昼休み、朝コンビニで買ったパンを食べてから職員室に向かう。
朝のホームルームで担任の猪熊から呼び出されたからだ。

職員室に向かう途中、従姉妹のチーちゃんがいる1年1組の前を通ると、楽しそうにクラスメイト数人とお弁当を食べている姿が見えた。
一瞬、チーちゃんの友達らしき女子と目が合ったのは少し焦った。
その子はどこかで見たことある顔だったけど、チーちゃんに気づかれなくて安心した。

一年生の教室は4階なので、階段を降りて一階にある職員室に向かうと、担任の猪熊が一人の女生徒と話し合っていた。

「弓崎、このままでいいのか?後悔しないか?」
「もう無理だって先生だってわかってますよね。私の足はもう治らないんです」
「それでもだ。走れなくてもマネジャーとしてサポートする事だってできるんだ。お前を慕っている仲間は大勢いるんだぞ」
「先生はどれだけ残酷な事を言ってるのか理解できますか?私だって走りたいんです。走る事ができなくなった私にはもう何も残ってないんですよ。そんな私が他の選手を見てるだけなんて辛すぎます。もう、いいですよね。退部届はちゃんと受け取って下さい。失礼します」
「弓崎!ちょっと待て。これは預かっておくけどいつでもいいから戻ってこいよ」
「失礼します!」

生徒は少し右足を引きずりながらその場から離れていった。
足に巻いたサポーターが痛々しい。
そんなスポ根少女が僕の前を通るときに目が合ってしまった。
少し動揺したが、以前より恐怖心は抱かなかった。

猪熊先生は悔しそうに、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

マジ、熱血ドラマみたいな展開なんだけど……

僕がこの場にいてはいけないような空気の中、担任の猪熊はボーっつ立っている僕に気づいたようだ。

「あ~~御門。そうだったな。書類を渡すからちょっと来てくれ」
「え~~っと、はい」

なんとも気まずい雰囲気の中、先生の後について職員室に入る。
猪熊先生は、自分のデスクの引き出しから一枚の書類を取り出して
僕に渡した。

「それは、学校で入っている保険の書類だ。入院先の病院で書いてもらって提出してくれ」
「わかりました……あの~~先生。さっきの人は?」

他人に興味を持たない僕だけど、さっきのやり取りを目にして思わず言葉が出てしまった。

「ああ、2年の弓崎玲奈だ。右足を怪我してな~~退部届を出しに来たんだよ。女子100メートル11秒98で走る選手なのだが……惜しい事をした」

陸上はそんなに詳しくないが、それでも女子で11秒代というのは凄い記録なのだと理解できた。

「凄い選手なんですね」
「ああ、やつはもっと上を狙えたんだ。伸び代だってまだまだあるんだ。だが、弓崎は道路に飛び出した猫を助けようとして自動車と接触してしまったんだ。優しい子なんだよ。それに……あっ、これ以上は個人情報だったな。すまん、今のは聞かなかった事にしてくれ」
「ええ、わかりました」
「御門は身体の方は大丈夫なのか?見たところ元気のようだが」
「おかげさまでなんとか生きてます」
「そうか、無理はするなよ。身体は資本だからな」

先生は、そう言いながらもさっきの生徒の事を考えているのだろう。
悔しそうな淋しそうな顔をしている。

「じゃあ、失礼します」
「ああ、よろしくな」

そう言って職員室を後にする。

あの猪熊先生はぶっきらぼうでいい加減だが、良い先生なのかもしれないな……

僕はふと廊下で足を止めた。
人間不信の僕がそんな事を思ったのが、意外だったのだ。
そんな風な気分の時もあるって事かな。

勝手に自分を解釈して教室に戻るのだった。

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