現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

文字の大きさ
6 / 125

第6話 甘えは許されない

しおりを挟む


その日の放課後、僕はエイシスから聞いた賢者の石が気になって本屋に立ち寄る事にした。

「賢者の石とか不可思議な物の事なんて書いてある本なんてあるのか?」

『あの陳列棚には、それらしき本がありますよ』

脳内でエイシスが語りかける。
本人曰く、この世界の事は何でも知っているらしい。

「って、これ、ラノベじゃないか」

エイシスに言われた通りにその場所に行ってみると、可愛い少女たちのイラストが表紙に描かれている本がたくさんあった。

幼い頃から色々な習い事をしてきた僕は、時間がなくてその手の本を読んだことがないし、もし読んでいるのを見つかったら家族中から怒られてたはずだ。
特に姉の凛音は、その手の本を毛嫌いしていた。

『確かにラノベは想像の著作物ですが「当たらずとも遠からず」、その手の知識のないマスターには妥当かと思います』

「わかったよ。でも、どれを買えばいいんだ。種類が多すぎて選べないぞ」

『それでしたら「店員お薦め」とポップが貼ってある異世界物のシリーズを購入したらどうでしょう』

「わかったよ」

その店員お薦めの本は7冊もシリーズ化されている。

これ全部買ったらお金が足りない……

僕は仕方なくシリーズ物の「1」と書かれた本を手に取った。
表紙には肌色面積の多い耳を生やした可愛らしい少女の絵が描かれている。
恥ずかしさが襲ってきたが、今は知識を得る方が重要だ。

会計にその本を持っていくと、女性店員がチラッと僕の顔を見た。
応対するその女性店員の笑顔が何故か作り笑いに見える。
さっさとお金を払って本屋を出る。
今度は、男性店員のところに持っていこうと決意した。


◇◇◇


家に帰る途中でコンビニに寄ってお弁当を買う。
これが今夜の夕ご飯だ。
いつもは自炊するのだが、色々なことがありすぎて今は作る気がしない。
でも、財布の中身が寂しくなってきた。
仕送りは小遣い程度しか貰っていない。
家賃がかからないので、やり繰りすれば暮らしていけるが、ソロキャンプに行く為に、貯めてたお年玉を使って道具を揃えてしまったので、貯蓄も心許ない。

コンビニを出て乗ってきた自転車の鍵を開ける。
僕と同じ歳ぐらいのコンビニ店員を思い出して何気に呟いた。

「バイトしないとなあ~~」

『それならポーションを作って売ればいいと思いますよ。それか探索者なら楽に稼げると思います』

エイシスが、そんな事を言ってきた。

「ポーションって、ゲートの先のダンジョンで取れる薬だろう?そんな摩訶不思議な薬なんて作れるわけないだろう。それに探索者になるには18才以上じゃないと免許を取れないんだ」

『わかりました。探索者は無理としてもポーションは作れますよ。忘れたのですか?マスターは大賢者なんですよ。できない事はないのです』

「マジかよ。まったく作れる自信がないのだが」

そんな事を言われても実感がわかない。
その手の知識がないので、大賢者と言われてもピンとこないし、ポーションなんて絶対無理だ。

「そうだね~~大賢者は凄いよね~~」

そんな僕はエイシスにからかうように呟く。
すると、

『ぶち殺しますよ!』

エイシスが凄んできた。
でも可愛らしい声なので怖くない。

「へ~~じゃあ、やってみてよ」

『わかりました』

そう言った途端、激しい頭痛が襲ってきた。

「痛い!痛い!」

『体内魔力を操作して脳神経を刺激しました。心臓を止めることも雑作も無いことです。試してみますか?』

冗談じゃない。
こんな痛みが続いたら倒れてしまう。

「わかった。わかりましたからやめて下さい」

『わかればよいのです』

エイシスがそう告げると、さっきまで襲っていた激しい頭痛が無くなった。
正直、何がどうなって痛みが起きたか理解できないが、エイシスを怒らすのはやめようと思う。

「はあ、痛かった。マジで勘弁してくれよ」

『マスターがしっかりしてくれれば、このような事は起きません。精進して下さい』

「わかった。もう、からかったりしない」

これじゃあ、体内に地雷を埋め込んでいるようなものだ。
僕の身体は、本当にどうしちゃったんだろう?

『まずマスターは、ラノベを読んで知識を吸収して下さい。ポーションの話はそれからです』

「わかったよ。家に帰ったら読むから」

そう言って倒れていた自転車を起こして乗り込んだ。
少し行けば田園風景が続く田舎道に出る。

「良いところなんだけど買い物は不便だよなぁ」

ここから先は店らしいものはない。
田舎では車が必須だとつくづく思う。

田植えが始まっていない田んぼを見ると、広い土地を遊ばせておくのはもったいないいと思う。勿論、これから水を貼り、苗を植えて米を作るのはわかっているのだが。

小高い山並みに陽が沈もうとしている。
夕焼けをこうして見るのも忙しなく生きている都会では味わえないことだ。

山並みの手前に広葉樹が広がっている。
その林の切れた場所に僕が帰る家がある。

お風呂に入ってのんびりしよう……

そう思いながら僕は軽くなったペダルを漕いでいた。


◇◇◇


家に帰り、お風呂にお湯を溜める。
慣れないウィッグを外して自前の髪の毛を外気に晒した。
すると、エイシスから声がかかる。

『マスター、運動着に着替えて下さい』

「はっ!?何で?」

『バカなのですか?運動するからに決まっているでしょう。まずは10Kmのランニングです』

唐突にランニングをしろと告げられる。

「今、学校から帰って来たばかりだよ。自転車でここまで帰ってくるだけだって良い運動だと思うけど、何でランニングなんかしないと行けないのさ?」

退院して学校に行くのだって久し振りなんだ。
今日ぐらいのんびりしたい。

『マスターは死にたいのですか?』

「何でそんな究極な事を突然言うんだよ」

『昼に説明したはずです。大賢者に相応しくなる為にカリキュラムを組んだと』

そうエイシスがそう言っていた事は覚えている。
でも、今日からだとは考えていなかった。

「マジで?」

『マジです』

「…………」

かったるいし、面倒くさい。
正直な僕の心の思いだ。

『マスター、聞こえてますからね。反抗的なマスターには、脳神経を刺激して……』

「わかった。わかりました。ランニングすれば良いんだろう。直ぐに着替えるから」

あんな痛みはもうごめんだ。
さっさと着替えて、靴を履く。

玄関を出ると、珍しく従姉妹のチーちゃんが玄関先でウロウロしてた。
着替えたのか上下ピンクのスウェットという色気のない格好だけど似合ってたりする。
美人は何着ても似合うから得だなと、考えているとチーちゃんは何か言いたそうに口をモゴモゴ口と動かしている。

張り詰めた空気に耐えきれなくなった僕は思わず声をかけていた。

「ど、どうしたの?」

「どこか行くの?」

僕を見つめながら質問を質問で返してきた。
僕か問いかけた質問なんて、なんの意味もないのはわかっていたのでチーちゃんの問いに素直に答える。

「入院生活で身体が鈍ってたから少しランニングに行こうかと思っていたんだよ」
「へ~~そうなんだ。元気になってよかったじゃない」

全然良くないって感じなんですけど……

「チーちゃんは何か用事でも?」

すると、チーちゃんは少し微笑んで手に持っていたタッパを僕に差し出した。

「ママが持っていけって言うからさ。それに作りすぎちゃったし……」

茜おばさんが気を利かせてくれたようだ。

「そうなんだ。ありがたくいただくよ」
「それ、ちゃんと渡したからね。それからタッパは洗って返してよね」
「わかってるよ。明日の朝に届けるよ」

用は済んだはずだけどチーちゃんは帰る様子がない。
チーちゃんは少し体の位置を動かしながら手で自分の髪をこねくりまわしている。

「それにしても見事な白髪ね。染めないの?」
「市販の白髪染めを使ったんだけど、失敗したんだよ。だから、学校には茜おばさんが用意してくれたウィッグをつけている」
「そうみたいね」

どうやら僕の事情は知っているらしい。
でも、これ以上は僕のメンタルが保たない。

「暗くなるからそろそろ行くよ。これは肉じゃがかな?僕の大好物だよ。ありがとう」

タッパから透けて見える料理は肉じゃがに見える。

「うん、ちゃんとタッパは返してよね」

そう言い残して、チーちゃんは慣れた足取りで畑を突っ切り自分の家に帰って行った。
3分にも満たないが、チーちゃんと会話したのは久しぶりだ。
幼い頃、一緒に遊んでいた頃を思い出す。

それよりもチーちゃんと普通に会話できた自分に驚く。
すると、エイシスが

『精神力も向上しています。前の貧弱な精神では大賢者に相応しくありませんから』

どうやら、身体だけではなく精神の方も少し強くなっているようだ。

『まだ、ミジンコ並みですけどね』

エイシスの遠慮ない罵倒が脳内に響く。
鍛えれば身体も心も強くなれるのだろうか?

僕はタッパをキッチンのテーブルの上に置いてランニングに出かけた。
走りを邪魔する向かい風が、今は心地良かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

魔王を倒した勇者、次の職場は東京のラーメン屋でした

希羽
ファンタジー
異世界グランディアを救った勇者アレクサンダー、通称アレク。彼は平和になった世界で自身の存在意義を見失いかけていた。そんなある日、魔王が遺した最後の呪いによって次元の狭間に吸い込まれ、現代の東京・高円寺に迷い込んでしまう。 右も左もわからず、甲冑姿で街をさまようアレクは、警察に職務質問され大ピンチに。その窮地を救ったのは、頑固一徹だが人情に厚いラーメン屋「麺屋 漢(おとこ)」の店主、黒田龍司(くろだ りゅうじ)だった。 言葉も通じず、社会常識ゼロのアレクだったが、その驚異的な身体能力と、何事にも真摯に取り組む姿勢を龍司に見込まれ、住み込みでバイトとして雇われることに。 「レベルアップだと思えばいい」「麺の湯切りは剣技に通じるものがある」 アレクは異世界での経験をラーメン作りに活かし、次第にその才能を開花させていく。聖剣の代わりに握った菜箸で、彼は東京という新たな世界で、人々の笑顔と自らの新たな居場所を見つけることができるのか。異世界勇者の、しょっぱくて熱いセカンドライフが今、始まる。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

ken
ファンタジー
王国筆頭魔導工学師、アルド。 彼は10年にわたり、勇者の聖剣から王都の巨大結界まで、あらゆるインフラと魔導具の整備を一手に引き受けてきた。 しかし、その仕事はあくまで「裏方」。派手な攻撃魔法を使えない彼は、見栄えを気にする勇者パーティから「地味で役立たず」と罵られ、無一文で国外追放を言い渡される。 「……やれやれ、やっと休めるのか」 ブラックな職場環境から解放されたアルドが辿り着いたのは、誰も住まない辺境の荒野。 そこで彼は、古代文明の遺産――自律型汎用開拓重機『ギガント・マザー』を発掘する。 「あら、栄養失調ですね。まずはご飯にしましょう」 お節介なオカンAIを搭載した多脚戦車とタッグを組んだアルドは、その規格外の採掘能力で荒野を瞬く間に開拓。 地下3000メートルから温泉を掘り当て、悠々自適なリゾートライフを始めることに。 一方、アルドを追放した王国は、インフラが次々と機能を停止し、滅亡の危機に瀕していた……。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...