現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第9話 時と場所は選ぼうよ

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目の前に広がるパネルは、エイシス曰く、ステータス表というらしい。
僕の病気はかなり進行しているようだ。
幻聴だけならまだしも幻覚まで見えるようでは、もはや治療しても手遅れかもしれない。

『マスター、ふざけてます?ふざけてますよネ~~』

(ふざけてないです。ちゃんと理解してます)

『病気のことではないですよ。あれ程言ったのにまだ疑っているんですね。これはお仕置きが必要ですネ!』

(まて、まて、まて~~!エイシス、疑ってないから。幻覚なんて思ってないから)

『天誅!!』

(ギャーー痛い、痛い!)

(ホームルーム中というのに、エイシスの野郎!いたたた。まて、まった~~!)

自分の席で悶え苦しんでいると、僕の背後の席の何某さんが

「先生、御門君が苦しそうです」
「そうなのか、御門大丈夫か?」

猪熊先生が僕の席にやって来た。
痛みで声がまともに出せない。

「保健委員は、樫村だったな。悪いが御門を保健室まで連れてってくれ」
「わかりました」

僕は頭を押さえながら、樫村という女生徒に連れられて保健室に向かった。
エイシスのお仕置きは途中で終わっていて、痛みは今はないのだが、あの状態だった僕がクラスの中にいるのは精神が参ってしまうので保健室で休んでいようと思ったのだ。

「御門君、大丈夫?」
「ああ、少し落ち着いたよ。すまないな」
「良いのよ。これも保健委員の仕事だから」

よく見たら保健委員の女生徒は、朝1番に教室に来ていた地味な子だった。

「朝は、楽しそうに本を読んでたのにね」

『聞かれていたようですね。マスター』

(エイシス、お前なーー!場所選べよ!)

「ははは、そうだね」

取り敢えず会話を成立させる。

『マスター、ボキャ貧すぎますよ』

(煩い!少し黙っててよ)

『は~~い』

「ねえ、何の本を読んでたの?」
「異世界物のラノベだよ。昨日本屋で買って初めてラノベを読んだんだ」
「えっ、ラノベ初めて読んだの?」
「うん、そんなに驚くことかな?」
「だって、御門君、いつもの本読んでたからてっきり今朝が初めてじゃないって思ったんだよ」
「何時も読んでた本はプログラミングの本だよ。出来るようになって早く家から独立したかったんだ」
「そうなんだあ、将来の事考えているんだ。偉いね」

偉くないです、必要に迫られて仕方なくです……

「え~~と……」

この女子、名前何だっけ?

「樫村、樫村世理愛《かしむらせりあ》だよ。クラスメイトなのに覚えてないなんて酷いよ」
「す、すまない。どうも人の名前を覚えるのは苦手で……」

早く保健室に着かないかな。

「御門君、私に何か聞きたい事あったの?」
「あ、うん。樫村さんもよく本を読んでるよね。何の本なの?」
「私はラノベしか読まないよ。今読んでるのはラブコメ物だよ」
「そうなんだ。でも、ラノベって初めて読んだけど面白いね。続きが読みたいけど今月はお金がピンチで来月にならないと買えないや」
「良かったら本貸そうか?私、たくさん持ってるし」
「え、いいの?……いや、やはり遠慮しとくよ」

つい本読みたさで貸して欲しいと思ってしまったが、まだ、誰かと話したりするのは苦手だ。

「遠慮しなくて良いよ。異世界物が好きなのよね。私のとっておきを明日持ってくるから」

樫村さんの嬉しそうな顔を見てしまうと断るのを躊躇ってしまう。

「遠慮しなくて良いんだからね。何にしようかな?ラノベ初心者にはあの本かな。それより、展開が神すぎるあの本なら~~」

樫村さんは実に楽しそうだ。
でも、この子は大事な事を忘れている。

「樫村さん、明日は土曜日で学校休みだよ」
「あっ、そうだったね。じゃあ、月曜日に持ってくるから期待しててね」

そんな話をしながら保健室に着いた。
僕はベッドに寝かされて樫村さんは書類に記入している。
保健の先生は、僕を名前と様子を見て少し驚いた顔をした。

「あなたは御門君よね。雷に打たれたけど学校に来れるくらい回復したんだね。頭が痛いのはその後遺症なのかしら?」

保健の先生は、20歳後半の女性の先生だ。
大人の魅力が溢れている。

「えっ、御門君が入院してたのって雷に打たれたからなの?」

樫村さんはさっきの話を聞いていたようだ。
クラスにその事が伝わってなかったのは、個人情報保護の為か。

「そうだよ。キャンプに行って雷に打たれたんだ」

「あら、先生、余計な事言っちゃったみたいね。この話はここだけにしてね。それより、御門君の場合、そういう状態なら病院に行ったほうが良いわね。先生方には話しておくから、誰かに迎えに来てもらう?」

「僕は一人暮らしなので呼べるような人はいません。先生、病院に行かなくてもここで休んでいれば大丈夫ですから」

(エイシスのせいなので!)

『マスター、煩いですよ!』

でも先生は、僕の様子を見て返答した。

「そう言ってもね、保健医として見過ごせないわ。御門君の担当は圏央医科大附属病院の三角先生よね。私も普段はその病院に勤めているのよ。じゃあタクシー呼ぶね」

この保健の先生は、あの病院の女医さんなのか。

「先生、お金をそんなに持ってないです」
「心配しなくて良いわよ。先生が立て替えておくから、都合がついたら返してね」

そう言われて1万円ほど預かった。

「それにしても助かって良かったわね。御門君は覚えてないだろうけどドクターヘリで運ばれたのよ。その時、ヘリに乗っていた医者が何と私と担当医の三角先生なのでした」

何という偶然。
こんな事ってあるんだ~~。
それに、僕ドクターヘリに乗ったんだ。
意識が無かったのが悔やまれる。

「そうだったんですか。え~~と」
「私は桐谷沙織よ。圏央医科大の研修医をしているわ」
「桐谷先生、僕の命を救ってくれてありがとうございます」

僕は、今できる精一杯の感謝を込めて丁寧にお辞儀をした。

「私は、傷の手当てをしただけよ。蘇生させたのは、現場でキャンプしていた医科大附属の看護学生よ。その子が居なかったら御門君は助からなかったわ。感謝するならその子にした方が良いわね。それで、胸の傷はどう?酷い火傷だったけど」

「痛みはないです。傷痕は残っているけど、気にしなければ大丈夫です」
「それなら良かったわ。少し見てあげましょうか?じゃあ、上を脱いでくれる?」

えっ、ここで……

俺は仕方なしに上着を脱いでシャツのボタンを外す。
胸に広がるリヒテンベルク図形と呼ばれる樹状の傷痕は、あの時のままだ。

「本当だ。あの酷かった火傷がもう治っているのね。三角先生が御門君の回復力は異常だと、言ってた意味がわかったわ」

「そんな事を言われてたんですか?知らなかったです」

「記憶障害もないし、奇跡と言っても良いくらいだわ。集中治療室にいた時には何度も御門君を診てたんだけど、別の患者さんの担当になってから御門君が意識を取り戻した時には病院で会うことは無かったわね。それにしても傷痕もすごいけど筋肉も凄いわね。私が手当てした時は、こんなになってなかったと思ったけど……」

そうですよね~~
先生に直に肌に触れられて、少しくすぐったい。

「少し鍛えたんですけど、こんなになっちゃって」

「本当、御門君、すごーーい」

あ、樫村さんがいたんだ。
堂々と裸の上半身を見せてしまった。
先生も樫村さんの事を忘れていたようだ。
『あっ!』て顔をしてた。

「え~~と、保健委員の樫村さんよね。このことは内緒でね」
「はい、御門君の秘密は誰にも洩らしません!」

そんな大層に秘密にすることじゃないけど、黙っててもらえるならありがたい。

「ねえねえ、御門君、その筋肉触ってもいい?」
「別に良いけど、触っても面白くないよ」
「そんなことないよ。じゃあ、失礼します」

樫村さんがペタペタと俺の胸や腹筋を触りながら『え~~こんなに硬いの?』とか『すごーーい、ピクピクしてる』とか言ってる。

何、この状況!?

「さあ、これでお終いよ。樫村さんは教室に戻って御門君の荷物を持ってきてくれる?先生はタクシー呼ぶから」

「え~~残念。でも、わかりました。御門君、ありがとうね。直ぐにバッグ持ってくるから」

そう言って樫村さんは急足で保健室を出て行った。

また、病院か……、でも、保険申請の書類も記入してもらわなくちゃならないし、ちょっど良いか。

僕は、退院2日目でまた、あの病院に行くことになってしまった。

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