現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第18話 屋上でお弁当

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「何、この神展開……」

今、樫村さんから借りたラノベを読んでいる。
お気に入りのどんぐりモックさんの作品だ。

内容は、公爵令嬢のリズロッテが王子との婚約を破棄されて公爵領の辺境開拓村に追放になってしまう。だが、持ち前のスキルでその開拓村を過ごしやすい村にしていく、という話なのだが、1巻しか借りてないので続きが読みたい。

樫村さんに感想を書いて最高でしたと、メッセージを送っておく。

「おい、白い兄ちゃん。休憩終わりだぞ」
「わかりました、直ぐ行きます」

ラノベとスマホをバッグにしまうフリをしてストレージにしまう。
そして脇に置いてあったスコップを持って、工事現場に戻る。

あれから出来るだけ稼ぎの良い日払いのバイトを探したのだが、年齢制限で引っかかる。

『白い髪のまま面接すれば、成人だと勘違いするのでは?高校生がそんな髪の色してたら校則で引っかかるでしょうし』

「それって、年齢を偽るの?犯罪じゃないのか?」

『いいですか、マスター。バレなきゃ犯罪じゃないんですよー』

「それ、どっかで聞いたセリフ!マズいからやめて!」

ということで、年齢を偽って即応募、即採用という流れを受けて、真夜中の道路工事のバイトをしている。

重労働なのだが、体力が人並み以上になっている僕には雑作もない。
それから、急に決まったバイトのため、予定していたポーション作りは延期となった。
ポーション作っても売らないとお金が入ってこないしね。

「白い兄ちゃん、なかなか頑張るな」
「ええ、体力はある方ですから」

いかにも長年この仕事をやってきたという風体のおっさんからそう言われた。
昔のひ弱だった頃の自分に聞かせてあげたい。

「休憩時間に勉強してたのか?高校生なんだろう?」
「勉強ではないです。物語の本を読んでいたんですよ」
「そうかい、いろんなことに興味を持つ事は良い事だ。ガハハハ」

工事現場で休憩時間に本を読んでいるやつは珍しいのだろう。

「おい、白い兄ちゃん。そこの砂利、一輪車で運んでくれ」
「わかりました」

ウィッグを付けてないので、ここでは白い兄ちゃんと呼ばれていた。
言われた通りに砂利を運ぶ。
慣れないと積んだ砂利をぶち撒けそうになるが、そこは覚えたての身体強化を併用して難なく終わらせる。

夜中の現場で働いて、日給12000円。
チート能力がなければ直ぐにヘタってしまう厳しい現場だけど、日払いでお金をもらえるのはありがたい。

今日の作業は終わり、封筒に入っているお金をもらう。
飾り気のないワゴン車で最寄り駅まで送ってもらい、明日も来てくれと、言われた。
即OKして、午後の8時にこの駅で落ち合う約束をする。

駅のトイレに寄り、個室に入って[クリーン]をかける。
そこで、ストレージにしまってあった制服に着替えてバッグを取り出して学校に向かった。

電車の中でスマホを見ると、樫村さんから数件のメッセージが届いていた。
送った感想に対して好意的な言葉が書かれていた。

こうしていると、昔の事を思い出す。
付き合っていたあの女とスマホでやり取りしてた自分を。
少し吐き気が襲ってくる。

そんな様子を自分で分析して、未だ吹っ切れていないのだと自覚する。
どこかで彼女とキチンと向き合わないと、きっと前には進めないだろう。

学校までは30分かかるようだ。
今、7時25分だからギリギリ間に合う。
下り電車なので、座ることができた。
本を読みたいが、眠気が襲ってくる。

(エイシス、悪いけど学校の最寄駅に着いたら起こしてくれる?)

『わかりました』

こういうところは素直でありがたい。
電車の心地よい振動と走行音が眠りを誘う。
そして、僕は夢の中へ……

そこは昔よく行った渋谷のスクランブル交差点。
歩行者用の信号が青に変わると歩行者が溢れ出し、正面、左右にと不規則に交差する多くの人の流れ。

そんな中で交差点中央部分に炎の柱が立ち上がった。
逃げ惑う人々。
横転する自動車。
横たわり血の海に身を任せる人々。

大きな咆哮が聞こえ空中に浮かぶ羽根の生えた黒い影。
鬼のように2本の角を生やし真っ赤で鋭い眼光は僕を見つめている。
巨大な獣がそこらじゅうに溢れ出し目の前のビルは炎上して倒れた。

飛び交う悲鳴。
獣に食い千切られる人々。
そして、黒い影が僕に迫り巨大な黒い光線を放出した。

『マスター、あと1分で指定の駅に着きます』

「わっ!!」

僕は驚いて声を上げる。
周りの人々がクスクスと笑っていた。

夢か……
凄くリアルだったが……

周りの視線を気にして席を立ち、ホーム側の扉に向かう。

(エイシス、さっきの夢、何だったんだ?)

『私はマスターの夢にまで干渉しませんよ。どうかしたのですか?』

(いいや、何でもない)

エイシスが悪戯心をおこしてわざと見せたのでは?と、思ったがそうではないらしい。

『マスター、心拍が上がっています。どこか調子が悪いのですか?』

(ちょっと怖い夢を見ただけだ。気にするな)

『……そうですか。臆病ですね』

エイシスは通常運転だ。

僕は先ほど見た夢を気にしながらも、日常の忙しさに呑み込まれていった。


◇◇◇


学校に着気、教室に入る。
皆はスマホを夢中で見ている者、仲間同士でお喋りしてる者など様々だ。
いつもの光景なのだが、今日は少し違った。

僕が席に着くと、カースト上位の倉橋勇輝が近藤透と一緒に近寄ってきた。

「なあ、ガリ勉くん。柚木さんとどういう関係なんだ?」
「国崎さんと一緒に教室に来たんだけど、ガリ勉君を探しているみたいだったぜ。何したんだお前」

チーちゃんが来たのか?
国崎さんて、もしかしたらミーちゃんか?
この学校にいるんだ……

「さあ、知らないな。他の誰かと間違ったんじゃないのか?」

「そうだよなあ、お前があんな美少女と知り合いのはずないよな」
「そういえば、お前最近調子に乗っ込んてるみたいだな。シメられたくなかったら大人しく勉強だけしてるんだな。わははは」

何がおかしいのか理解できない。
こういう連中は、ゴキブリのようにどこにでも存在するし、湧いて出てくる。

「ご忠告どうも」

素っ気なく相手をして席に座る。
その態度が気に障ったのか「調子こきやがって!」と、言いながら机をひと蹴りして、派手な女子達のところに行ってしまった。

誰と誰が知り合いだったとして、お前達には関係ないだろう。
何が言いたいんだ?

そう思ったが、スマホを取り出して読みかけの小説の続きに目を通した。

そして、昼休み。

朝、コンビニで買ったパンとお茶を持って教室を出る。
教室内ではゆっくりできそうもないからだ。
4階のフロアーにある階段のところで、下に下がろうとしたが上は屋上だと思い、階段を登る事にした。

踊り場からにある屋上のドアには南京錠がかけられていた。

「やはり、屋上には行けないか……」

南京錠をガチャガチャしてたら「ポキッ」と音がして鍵が壊れた。

「はっ!?何で?」

『マスターの力は人並み以上です。そんなチンケな鍵など壊せて当たり前です』

エイシスがそういうが、問題は鍵を壊してしまった事にある。
まあ、後で買って付け替えておけばいいか?

屋上のドアを開くと見渡しの良い景色が広がる。
お昼を食べるにはもってこいだ。
ベンチのような物はなく、どこか適当な場所を見つけて腰掛けようとすると声がかかった。

「あれ~~屋上の鍵が開いてるよ」
「本当だ。ケンくんが開けたのかな?」

どこかで聞いた声が聞こえてきた。

「いた。ケンく~~ん」

そう言って僕の方に駆け寄って来た美少女。
その愛らしい顔には見たことがある。

「ケンく~~ん、会いたかったよ~~」

そう言って抱きついてきた。
もう、その美少女が誰かは見当がついていた。

「ミ、ミーちゃん、久しぶり」
「わ~~ケンくんが覚えててくれたあ、嬉しいよ~~」

さらに抱きつく力が強くなる。
精神力がマイナスからプラスになったせいか、茜おばさんに抱きつかれた時ほど動揺はしなかった。

「こら、美鈴、ケン君が苦しそうでしょう」

その声は従姉妹のチーちゃんだ。
今日は、制服姿が似合っている。

「ママがケン君の分のお弁当を作ったんだ。一緒に食べよう」
「ああ、そうなんだ。助かるよ」

それより、いつまでも抱きついているミーちゃんをどうにかしてほしい。

「ミーちゃんも一緒に食べようか」
「うん、うん。食べる~~」

久しぶりの3人だ。
昔は夏休みにこっちに来て暗くなるまで一緒に遊んでいた。

僕は、制服の上着を脱いでミーちゃんとチーちゃんに座るように促す。
遠慮していた2人に「気にしなくていい」と告げ、無理やり座らせる。

「やはり、昔と同じ優しいケンくんだあ」

ミーちゃんは嬉しそうにはしゃいでいる。
チーちゃんは少し恥ずかしそうだ。

「ケン君、少しは学校に慣れた?」

チーちゃんが問いかける。
退院祝いを無碍にした罪悪感が湧き上がる。

「まだ、人の多いところは苦手だよ。それに話した事もない人の前だと少し恐怖心がある」

「という事は昔からの知り合いの私は大丈夫だよね」

ミーちゃんは、少し真面目な顔をして僕の顔を覗き込んだ。

「ああ、大丈夫みたいだ。チーちゃんも平気そうだよ」

「良かった~~これで学校でもケンくんと一緒にいられるよ」
「そうだね。美鈴なんか随分我慢してたもんね。ケンくんに会いたいよ~~って」
「千穂ちゃん、それ言っちゃダメだよ。それならちーちゃんだってケン君とうまく話せるかな、とか悩んでいたよね」
「こらっ、変なこと言うな~~!」

昔からこの二人は仲が良い。
高校生になっても仲の良い関係を築いていたなんて凄いな。

「じゃあ、お弁当いただくね。わざわざ持ってきてくれてありがとう」

そう言うとチーちゃんは恥ずかしそうな顔をしてたけど、年頃の女の子の機微など僕にはわからない。

3人でわいわいしながらお弁当を食べる。
少し前なら、そんな自分を想像できなかったし、むしろ嫌悪していた。
昔話に花が咲き一緒に出かけた時のことなど「懐かしいねぇ」と、言いながらお弁当を摘む。

「ケンくん、そ、その髪の毛ウィッグだよね。とって見せてくれる?」
「良いけど、何で?」
「だって千穂ちゃんだけ見てるんだよ。私だけ見てないなんてずるいもん」

そんなに見たい物なのか?
でも、蒸れるウィッグを外せるなら、僕にも都合が良い。
ここには3人の他、誰もいないから問題ないし。

ウィッグを外すと外気が自前の髪の毛に当たり開放感が訪れる。
できれば、このまま授業を受けたい程だ。

「わ~~白銀の王子様だあ~~」
「こらっ、そう言う事は本人の前で言わないの」

ミーちゃんがそう言うとチーちゃんがツッコむ。
昔から変わらないスタイルだ。

「ねぇ、ねぇ。触ってもいい?」
「別に構わないけど、触っても面白くないよ」

ミーちゃんは遠慮なしに僕の頭を撫で撫でし出した。

「凄いキューティクル。キラキラしてて綺麗」
「ズルい。私も触る」

チーちゃんまで参入してきた。
二人に頭を撫でられているこの状況は、何なんだろう?

「ねぇ、今度どこか行かない?昔みたいに」
「いいけど、人混みはまだ……」
「山の方なら大丈夫だよね。昔行ったあの丘とか」
「そこなら大丈夫だと思う」
「じゃあ、ID交換しよう?連絡はスマホでね」
「いいよ」

僕がスマホを取り出すと、チーちゃんが「ズルい、私も」と、言ってきた。
チーちゃんは、僕の連絡先知ってるはずなのだが……

そしてえ、中間試験が終わってから3人で出かける約束をして賑やかな昼休みは終わった。

栄養のあるお弁当が食べられてラッキーだ。
もやしやパンだけでは、正直辛かったし……



ーーー
一部加筆修正しました
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