現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第21話 ここどこよ?

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今日は病院の検診日だ。
予約は午後からなので、午前中は学校に来ている。
お弁当を食べずに帰る予定なので、その事はチーちゃん達に伝えてある。

樫村さんとも仲良くなってきたが、教室ではお互い話をしない。
それは各々の性格が似通っている為であるが、どこか歪であり当然の結果だとも言える。

病院のある最寄駅に着き、駅前にあるコンビニでパンと麦茶を買いこの前食べた公園で昼を済ませる事にした。

今日はどんよりとした天気で、夕方には雨が降ると天気予報では言っていた。
公園で空いてるベンチに腰掛けてパンに齧り付く。
バッグを開けて樫村さんから貸してもらったラノベを取り出して読み始めた。

「へ~~面白いな、このラノベも」

読み始めて直ぐに物語の中に引き込まれた。

『マスター、そこの公衆トイレの個室に入って下さい』

「えっ!?トイレなんか行きたくないけど」

『必要な事です。必要なんですよ。行きたいでしょう、トイレに』

このパターンはマズい。
いつぞや襲った頭の痛みを思い出す。

「そうだな、トイレに行きたいな。しかも大の方にね」

行きたくもないトイレの個室に入り座った。
出るものがないので、ズボンを履いたまま腰掛けている。

「それで、なんでトイレに行こうって言ったのさ」

『必要だからです。今から私がカウントダウンをします。その間、眼を閉じてて下さい。では、10……9……』

いきなり始まったエイシスのカウントダウン。
体内魔力を操作されて激しい頭痛になるのは勘弁だ。
言われた通り、眼を閉じて成り行きを見守る。

《……5……4……3……2……1……《賢者の石の能力を一部解放しました。術式起動、魔力充填、オールクリア。世界線P307846M 座標N298 S608、時刻2021、5、16。13:12。座標固定、時刻固定。実行します》

眼を閉じたまま脳内にエイシスとは違う機械音の女性の声が響く。この声はスキルを習得した時に聞こえた声だ。
しかも、何か不穏な事言ってるのだが……

《完了しました》

『マスター、眼を開けて直ぐに風魔法【エアー・カッター】を発動して下さい。

何やら焦っていそうなエイシスに言われた通りに、風魔法を発動した。

【エアー・カッター】

「グギャーー!!」

とても嫌な予感がする。
今のは悲鳴だよね。
それも僕の風魔法が当たったぽい。

怖そうだったので、未だ眼を閉じたままだ。
恐る恐る眼を開けると……

「え~~っと、ここどこよ?」

『ミストラル世界の聖王国ミストラルに隣接する大森林の中です』

はい!?

森の中に呆然として立っている僕は、何が何だか理解が追いつかなかった。


◇◇◇


『マスター、右45度に【エアー・カッター】左後方38度に【ダーク・ショット】』

エイシスに言われて風魔法、闇魔法を放つ。
エイシスのアシストがあるから思い通りに魔法が発動した。

「グギャーー」とか「グエーー」とか不気味な断末魔の声が森に響く。

すると、

《レベルが上がりました》

何時もの機械音が脳内に聞こえた。

少し落ち着け、落ち着くんだ。

「すーーはあ~~すーーはあ~~」

落ち着く為に深呼吸をする。
森の木々の香りが心地良い。

「じゃなくって、ここどこよ!」

『ですから聖王国ミストラルに隣接する大森林の中です。因みにマスターが魔法で倒したのはゴブリンです』

マジかよ……ゴブリンだったんだ……

「病院に行くんだけど?」

『日時と時刻を固定してますので、帰還するときはあのトイレの中です』

せめて自分の家にして欲しかった。臭かったし……

「じゃなくって、何でこんなところにいるんだよ」

『レベル上げの為です。この世界なら容易にレベルを上げれます。実際、レベルが1から2になってますよ』

「そういう問題じゃなくって、せめて事前に説明してよ。それに、異世界に来なくたってエイシスなら近場のゲート先のダンジョンにだって行けたんだろう?何故に見知らぬ異世界に来なくちゃならないんだよ!」

『ゲート先のダンジョンは、◯◯の管轄です。レベルの低い状態のマスターがアイツらに察知されてしまったら、恐らく悲惨な目に合うでしょう。それに、事前に説明したらここにきましたか?』

「いいや、絶対来ない」

『そういう事です』

どうやら強制的に拉致されたらしい。
しかも、異世界に……
帰れるんだよね?

『時間は有限です。レベル上げ、頑張って下さい』

おい!

殴っていいよね、実態が無いけど。


◇◇◇


いきなり異世界という急展開。
しかも、あちこちで魔獣が跋扈する森の中。

「帰りたい……」

『マスター、早くしないと血の匂いを嗅ぎつけて次々と魔獣が襲ってきますよ』

「わかってるよ。なあ、本当にやらないといけないのか?」

『ええ、早くゴブリンの内臓を抉って魔石を取り出して下さい』

「もう、やってるだろう。しかし、何て臭いんだ。しかも生暖かい手の感触が~~オエーー!!」

さっき殺したゴブリンの内臓を弄って魔石という物を探している。
魔獣には、体内に魔石が存在するようだ。
確か、魔道具にはこの魔石が欠かせないらしい。

しかし、このゴブリンが臭い。
生ゴミから出てくる得体の知れない黄色い液体の匂いがする。

『マスター、胃の方から心臓目掛けて突き上げるように』

普通なら解体用のナイフか短剣で採取するようだ。
そんな物を持ち合わせていない僕は、手に身体強化を施し素手でゴブリンの遺体を触っている。
鋼鉄並みになった手で皮膚から肉を切り裂くのは簡単だった。
ゴブリンの遺体など豆腐を切るようなもの。

でも、グロはどうにも慣れない。
臭いのも勘弁してほしい。

「はあ、はあ、無理に魔石を取らなくてもいいじゃないかな?オエーー!!」

『吐くか、喋るかどちらかにして下さい。マスターは軟弱すぎます』

エイシスに言われるままゴミクズ同然に働かされるのは納得できない。
パワハラ、セクハラが当たり前の職場などこちらから願い下げだ。

「おい!エイシス。話がある。僕は『マスター、あと一センチ上です』……オーーあったぞ!!」

ゴブリンの体内から取り出した魔石という未知の物質は小指の爪ほどの大きさで赤黒く濁っていた。

「これが魔石か」

『マスターとの初めての共同作業ですね』

「その言い方、間違ってると思う」

『あと2体です。速やかに採取して下さい』

「はあ~~」

同じようにゴブリンの遺体に近寄り、手に身体強化を施して魔石を取り出す。
魔石の位置は分かったので2体目からはスムーズに取り出す事ができた。
3体目が終わった時は心も身体も疲れきっていた。

生活魔法の【ウォーター】で手を洗い、何度も【クリーン】をかけてゴブリンの匂いを消す。そして、自分に【ヒール】をかけて体力を回復させた。

今は、木にもたれて休んでいる

「はあ~~初めての異世界の印象が臭くてグロいなんて最悪だよ」

『転移前に入っていたトイレの個室も臭かったですしね』

「……それより、この魔石を売れるんだよね。近くに街とかあるの?」

『ここから北西方面に50キロ行ったところに迷宮都市がありますので、そこで売買できます』

「迷宮なんてあるんだ?まるで異世界だね」

『ええ、異世界です』

その時、突然、声が聞こえた。

《ふわ~~よく寝た……ってここどこよ》

少し前の僕と同じような反応してる。

声の正体を探すと、僕のバッグから顔を覗かせている白い蛇がいた。

「え~~っと、この白蛇、どこかで見た事が……」

《あれ、この人間、どこかで見た事が……》

ペロペロと赤い舌を出し入れして眼を僕と合わせる白蛇。

「あっ!卵焼き盗んだ蛇だ」
《あっ!あの冴えない人間だ。卵焼きは美味しかったけど》

『マスター、この蛇、精霊力があります』

そうなんだ、ってどう言う事?

『この蛇はあの公園にあった祠の主のようです』

祠の主!?

こういうときは【鑑定】
…………………………
白蛇(幼体)精霊
レベル 12
【能力】
 水操作
 念話
 幸福度増大

◯◯公園の社に祭祀されている白蛇
…………………………

「本当だ。ちっこいのに凄いなあ、お前」

《何、この人間。馴れ馴れしいわね。噛むわよ!》

ちっこいのに言ってる事は物騒だ。
おまけに、本当に僕の指噛んでるし……

「こいつ、毒ないよね?」
『さあ、どうなんでしょう?』

エイシスは、きっと分かっててそう話している。
僕の勘がそう告げている。

「それにしてもどうする、こいつ」
『捨てましょう。面倒です』

《ちょっと待ってよ。ここに連れてきたのは貴方のせいなんでしょう。最後まで責任持ちなさいよ。それに早く元の場所に帰して!》

「って言ってますが、どうする?」
『殺しましょう。マスターの経験値になります』

《わああ、殺すとか言ったわね。頭きた!噛み殺してやるんだから》

今度は腕を噛み始めた。
地味に痛いんだけど……

「まあ、卵焼きの怨みは忘れないけど、勝手にこの世界に連れてきてしまったのはこちらの責任だ。帰るまで面倒みるか」

『マスターがそう言うのなら構いません』

《始めからそう言えば良いのよ、私は敬われる存在なの。丁重に扱うのね、人間》

「ちっこいのに上から目線の奴だな」

『いざと言うときに役に立つでしょう。蛇は食べれますから』

《わ、私を餌扱いしないで!これでも多くの人間を幸せに導いた神なんだからね》

「精霊だよね」

『自称神ですか?ネットの世界ではたくさん存在しますね』

《ムキーーッ!飲み込んでやるんだから》

腕を噛んでたと思ったらシュルシュルと頭の上に登り、髪の毛を噛み始めた。

「あ、そうだった。ウィッグ付けっぱなしだった」

僕はウィッグを外してストレージの中に入れる。
すると、「ドサッ」と白蛇が地面に落ちた。

《何するのよ、痛いじゃない!》

「ああ、気づかなかった」

『マスター、鬼畜ですね』

《あんた、なんなのよ。頭の中にもう一人いる人間なんて知らないわよ》

「そう言えば、この蛇、言葉を出してないのに会話が成立してるよね。言語翻訳が発動しているわけでもないし、なんで?」

『それは、この蛇が持つ能力のひとつである念話ですね』

《そ、そうよ。私凄いんだから》

鎌首を挙げてこちらを見ながらペロペロ舌を出す白蛇。

これが蛇のドヤ顔なのか?

『マスター、一緒に行動するなら名をつける事をお勧めします』

「名前ねぇ~じゃあペロで」

《白蛇、名称ペロ。召喚魔法を習得。テイムが完了しました》

突然、機械音声が脳内に響く。

「へっ!?何、テイムって」

『マスターが契約した召喚精霊の事ですね』

《いやーーっ!何で私があんたみたいな冴えない人間にテイムされなくちゃならないのよーー!》

今度は、ペロの声が脳内に響き渡った。




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