45 / 125
第45話 亜空間
しおりを挟む目を覚ますと、そこにはペロの尻尾があった。
おまけにその尻尾でペチペチと俺の顔を叩いている。
「あれ、俺どうしたんだっけ?」
《あ、やっと起きたわ。あんた、急に痛がって床をのたうち回るからお刺身のパックぶち撒けちゃったわよ。全部食べたけど。それでもう大丈夫なの?》
「そうだ、エイシスに次元魔法を組み込んでもらったら、急に痛みが襲ってきたんだ」
エイシスめ!先に言ってくれれば次元魔法なんて求めなかったのにーっ!
『マスター目が覚めたようですね』
何も無かったようにエイシスはそう言った。
「エイシス、酷いじゃないか!あんな痛みがあるなんて知らなかったぞ」
『マスター、何かを得るにはそれ相応の対価が必要です。マスターが求めた次元魔法は、神の力の一端です。命があるだけマシでしょう。それに、組み込む前にマスターから言質を頂いております。まさか、忘れたなんて言わないでしょうね?』
「言ったのは覚えてるよ。でも、これはない。凄く痛かったんだぞ」
あの痛みは、エイシスにやられた前の痛みの倍以上だった。
ほんと、死ぬかと思った。
『残念ですが、マスターは一度死にかけました。生命活動を維持しつつ身体の補強を施しました』
「………」
《あんたも起きたみたいだし、わたし寝るわ》
そう言ってペロは亜空間に戻っていった。
きっと不穏な空気を察したのだろう。
「エイシス、冗談はほどほどにしてくれよ」
『冗談ではありませんよ』
あーーどこにぶつけたらいいんだ、この気持ち。
エイシスは実態がないから殴りたいのに殴れない。
自分自身を殴れば済むのか?
それでは俺が痛いだけだ。
『怒りをぶつけたいなら魔法を使って気分を晴らしたらどうでしょう?せっかく次元魔法を習得したのですから』
「わかった、そうする。で、どうやって使うんだ?」
開きたい場所に手を翳して『ゲート』と唱えれば使えるようにしておきました』
よし、魔法を撃って、撃って、撃ちまくってやる!
【ゲート】
すると、目ね前に黒い、いや濃い紫がウニョウニョしている影?みたいなのが現れた。
「エ、エイシスさん、ここに入れと?」
『マスター、私への鬱憤を晴らす為に魔法を撃って、撃って、撃ちまくるんですよねー、はい、どうぞ』
心の声が漏れてる……
ここに入ったら、真っ逆さまに落ちるとかないよね?
新大陸を発見したコロンブスは、みんなの前で卵を立ててみせた。
そのやり方を非難されたコロンブスはこう言ったという。
「人がやった後にやるのは簡単な事だ」と。
また、初めて月に降り立ったアポロ11号の宇宙飛行士であるニール・アームストロングは「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という言葉を残している。
未知なる場所に挑むのは、探究心のある勇気ある者の行動だ。
「言っておくが、俺にそんなものはない!」
『マスター、何ごちゃごちゃ言っているのですか?ペロが食べ終わったお刺身のパックをゲートに入れたようですが行動が謎です』
「実験だよ、実験。深い意味はない」
『ゲートはゴミ箱ではありませんよ』
「わかってるさ、そんなことぐらい」
そうか、もし使えそうになければゴミ箱扱いすれば?
それでお金を稼げるか?
産業廃棄物とか処理に多額の費用がかかるものとか。
よし!では、手だけちょっと入れつつ様子をみよう。
恐る恐る未知なる紫色の影に手を入れた。
「うむ、何ともないな」
『………まさか、怖いとかで二の足を踏んでいるわけではありませんよね?マスターは恐怖耐性を獲得しているはずです。それなのにこの有り様。大賢者となる資質が欠けているのであれば……』
「わかったから、入るから!」
また、あの痛みが襲ってきたら絶対死ねる。
そして、意を決してゲートの中に入ったのであった。
「あれ、何ここ……」
そこは全てが真っ白で何もない場所だった。
さっき入ってきた紫色のゲートがいっそう不気味に見える。
「何もないんですが?それより、一面真っ白で上下左右、感覚が掴めなくて凄く気持ち悪いんだけど」
『マスターの神力ではここまでしかできません。でも、この状態のマスターが魔法の練習を出来るとは思えませんので、力になりましょう』
そう言った途端上には空が、下は大地が現れた。
『解放率が低いので今はこれが精一杯です』
助かった。
あのままあの空間にいたら気がおかしくなってたと思う。
「これってどこまでも続いているわけじゃないんだよね?」
『はい、体育館程度の広さしかありません』
エイシスはそう言うけど俺の目には先が見えないほど遠くまで同じ風景が広がっている。
『試しに魔法を放ってみれば理解できると思いますよ』
「よし、まずは【ファイヤーボール】」
手の先から放たれた火の玉は勢いよく前方に進み、見えない壁にぶつかって霧散した。
「あそこが境なのか?まるで箱庭みたいだ」
『ええ、マスターの言う通りここは箱庭そのものです。マスターの神力が増えれば広大な大地となりますし、海や川を創ることができます。神力が増えればの話ですが』
これは、夢が広がる。
自分だけの空間を自分の思い通りに創れる。
「よし、さっそく何か創ってみるか」
でも、どうやって?
『今、マスターの神力はすっからかんです。何も創れませんよ』
「じゃあ、一晩休めば神力が回復するだろうし、創るのはそれからかな」
『マスター、勘違いしてるようなので説明しますね。神力は、休んでも体力や魔力のように回復しませんよ』
「えっ!?そうなの?」
『マスターが何もしなければ神力はすっからかんのままです』
「じゃあどうやって神力を回復させれるのさー」
『神力の回復は信仰によって回復しますし、増えたりします。まずはマスターがみんなから敬われるような信仰の対象になることですね』
「え、絶対無理!」
◇
亜空間から出て、俺は思った。
創れないなら持ち込めはよいのでは?
さっきゴミ処理に使おうかと考えていたことをペロが食べた刺身のパックを亜空間から出るときに踏んづけたので思い出した。
試しに台所にある椅子を持ち込んだら、そのまま行けた。
つまり、亜空間を整備するにはお金が必要になる。
ふと財布を見ると一万円札が1枚と五千円札が一枚、それと千円札が3枚。あとは小銭しかない。
「何をするにもお金が必要だ」
『貧乏ですね』
「よし、ポーションを作って売るぞ」
そう思ってた時期もありました。
「いらっしゃいませ。お弁当温めますか?」
今、駅前のコンビニでバイトをしている。
大学生のお兄さんからいろいろ教わりながら……
ポーションを作るって?
俺は気づいてしまったのだ。
作っても、販路がないと売れないと。
しかも、扱うのが難しいポーション。
欲しい人はたくさんいるだろうけど、バレずに売る方法を思いつかなかった。
もし作ったのが俺とバレたらポーション製造マシーンとなるだろうし、いろいろな組織から狙われて逃亡生活をするようになるかもしれない。
そんな生活はごめんだ。
それなら信仰の対象になればいいって?
無理だろ、それ。
エイシスが言うには人助けでも神力が増えるらしいが、積極的に人を助けるなんてそれも無理。
知らない人に声をかけるのにも苦労しているのに。
あ、仕事での接客は別だよ。
決まった定型分を話すだけで済むから。
「熱いので気をつけてください、ありがとうございました」
「良くできてるじゃないか、そのままの調子でやってみろ。俺はバックで品出ししてるから用があったら呼んでな」
バイトの先輩、五十嵐幸雄さんはそう言ってジュースの補充に行ってしまった。
『マスター、明日からテストですが大丈夫ですか?』
(前みたいに良い点取れないだろうけど、平均点は取れるだろうし問題ないよ)
すると、お客さんがまた来た。
「いらっしゃいませ」
大賢者への道はまだまだ遠い。
149
あなたにおすすめの小説
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる