現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第45話 亜空間

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目を覚ますと、そこにはペロの尻尾があった。

おまけにその尻尾でペチペチと俺の顔を叩いている。

「あれ、俺どうしたんだっけ?」

《あ、やっと起きたわ。あんた、急に痛がって床をのたうち回るからお刺身のパックぶち撒けちゃったわよ。全部食べたけど。それでもう大丈夫なの?》

「そうだ、エイシスに次元魔法を組み込んでもらったら、急に痛みが襲ってきたんだ」

エイシスめ!先に言ってくれれば次元魔法なんて求めなかったのにーっ!

『マスター目が覚めたようですね』

何も無かったようにエイシスはそう言った。

「エイシス、酷いじゃないか!あんな痛みがあるなんて知らなかったぞ」

『マスター、何かを得るにはそれ相応の対価が必要です。マスターが求めた次元魔法は、神の力の一端です。命があるだけマシでしょう。それに、組み込む前にマスターから言質を頂いております。まさか、忘れたなんて言わないでしょうね?』

「言ったのは覚えてるよ。でも、これはない。凄く痛かったんだぞ」

あの痛みは、エイシスにやられた前の痛みの倍以上だった。
ほんと、死ぬかと思った。

『残念ですが、マスターは一度死にかけました。生命活動を維持しつつ身体の補強を施しました』

「………」

《あんたも起きたみたいだし、わたし寝るわ》

そう言ってペロは亜空間に戻っていった。
きっと不穏な空気を察したのだろう。

「エイシス、冗談はほどほどにしてくれよ」

『冗談ではありませんよ』

あーーどこにぶつけたらいいんだ、この気持ち。
エイシスは実態がないから殴りたいのに殴れない。
自分自身を殴れば済むのか?
それでは俺が痛いだけだ。

『怒りをぶつけたいなら魔法を使って気分を晴らしたらどうでしょう?せっかく次元魔法を習得したのですから』

「わかった、そうする。で、どうやって使うんだ?」

開きたい場所に手を翳して『ゲート』と唱えれば使えるようにしておきました』

よし、魔法を撃って、撃って、撃ちまくってやる!

【ゲート】
 
すると、目ね前に黒い、いや濃い紫がウニョウニョしている影?みたいなのが現れた。

「エ、エイシスさん、ここに入れと?」

『マスター、私への鬱憤を晴らす為に魔法を撃って、撃って、撃ちまくるんですよねー、はい、どうぞ』
 
心の声が漏れてる……
ここに入ったら、真っ逆さまに落ちるとかないよね?

新大陸を発見したコロンブスは、みんなの前で卵を立ててみせた。
そのやり方を非難されたコロンブスはこう言ったという。
「人がやった後にやるのは簡単な事だ」と。

また、初めて月に降り立ったアポロ11号の宇宙飛行士であるニール・アームストロングは「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という言葉を残している。

未知なる場所に挑むのは、探究心のある勇気ある者の行動だ。

「言っておくが、俺にそんなものはない!」

『マスター、何ごちゃごちゃ言っているのですか?ペロが食べ終わったお刺身のパックをゲートに入れたようですが行動が謎です』

「実験だよ、実験。深い意味はない」

『ゲートはゴミ箱ではありませんよ』

「わかってるさ、そんなことぐらい」

そうか、もし使えそうになければゴミ箱扱いすれば?
それでお金を稼げるか?
産業廃棄物とか処理に多額の費用がかかるものとか。

よし!では、手だけちょっと入れつつ様子をみよう。

恐る恐る未知なる紫色の影に手を入れた。

「うむ、何ともないな」

『………まさか、怖いとかで二の足を踏んでいるわけではありませんよね?マスターは恐怖耐性を獲得しているはずです。それなのにこの有り様。大賢者となる資質が欠けているのであれば……』

「わかったから、入るから!」

また、あの痛みが襲ってきたら絶対死ねる。

そして、意を決してゲートの中に入ったのであった。


「あれ、何ここ……」

そこは全てが真っ白で何もない場所だった。

さっき入ってきた紫色のゲートがいっそう不気味に見える。

「何もないんですが?それより、一面真っ白で上下左右、感覚が掴めなくて凄く気持ち悪いんだけど」

『マスターの神力ではここまでしかできません。でも、この状態のマスターが魔法の練習を出来るとは思えませんので、力になりましょう』

そう言った途端上には空が、下は大地が現れた。

『解放率が低いので今はこれが精一杯です』

助かった。
あのままあの空間にいたら気がおかしくなってたと思う。

「これってどこまでも続いているわけじゃないんだよね?」

『はい、体育館程度の広さしかありません』

エイシスはそう言うけど俺の目には先が見えないほど遠くまで同じ風景が広がっている。

『試しに魔法を放ってみれば理解できると思いますよ』

「よし、まずは【ファイヤーボール】」

手の先から放たれた火の玉は勢いよく前方に進み、見えない壁にぶつかって霧散した。

「あそこが境なのか?まるで箱庭みたいだ」

『ええ、マスターの言う通りここは箱庭そのものです。マスターの神力が増えれば広大な大地となりますし、海や川を創ることができます。神力が増えればの話ですが』

これは、夢が広がる。
自分だけの空間を自分の思い通りに創れる。

「よし、さっそく何か創ってみるか」

でも、どうやって?

『今、マスターの神力はすっからかんです。何も創れませんよ』

「じゃあ、一晩休めば神力が回復するだろうし、創るのはそれからかな」

『マスター、勘違いしてるようなので説明しますね。神力は、休んでも体力や魔力のように回復しませんよ』

「えっ!?そうなの?」

『マスターが何もしなければ神力はすっからかんのままです』

「じゃあどうやって神力を回復させれるのさー」

『神力の回復は信仰によって回復しますし、増えたりします。まずはマスターがみんなから敬われるような信仰の対象になることですね』

「え、絶対無理!」




亜空間から出て、俺は思った。
創れないなら持ち込めはよいのでは?
さっきゴミ処理に使おうかと考えていたことをペロが食べた刺身のパックを亜空間から出るときに踏んづけたので思い出した。

試しに台所にある椅子を持ち込んだら、そのまま行けた。

つまり、亜空間を整備するにはお金が必要になる。

ふと財布を見ると一万円札が1枚と五千円札が一枚、それと千円札が3枚。あとは小銭しかない。

「何をするにもお金が必要だ」

『貧乏ですね』

「よし、ポーションを作って売るぞ」 


そう思ってた時期もありました。


「いらっしゃいませ。お弁当温めますか?」

今、駅前のコンビニでバイトをしている。
大学生のお兄さんからいろいろ教わりながら……

ポーションを作るって?

俺は気づいてしまったのだ。
作っても、販路がないと売れないと。
しかも、扱うのが難しいポーション。
欲しい人はたくさんいるだろうけど、バレずに売る方法を思いつかなかった。

もし作ったのが俺とバレたらポーション製造マシーンとなるだろうし、いろいろな組織から狙われて逃亡生活をするようになるかもしれない。

そんな生活はごめんだ。

それなら信仰の対象になればいいって?
無理だろ、それ。
エイシスが言うには人助けでも神力が増えるらしいが、積極的に人を助けるなんてそれも無理。

知らない人に声をかけるのにも苦労しているのに。

あ、仕事での接客は別だよ。
決まった定型分を話すだけで済むから。

「熱いので気をつけてください、ありがとうございました」

「良くできてるじゃないか、そのままの調子でやってみろ。俺はバックで品出ししてるから用があったら呼んでな」

バイトの先輩、五十嵐幸雄さんはそう言ってジュースの補充に行ってしまった。

『マスター、明日からテストですが大丈夫ですか?』 

(前みたいに良い点取れないだろうけど、平均点は取れるだろうし問題ないよ)

すると、お客さんがまた来た。

「いらっしゃいませ」

大賢者への道はまだまだ遠い。



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