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第56話 二人目の魔力過多症
しおりを挟む冒険者ギルドで報酬を受け取り、その足で貧民街へ向かう。
途中、露店で肉串を買い、師匠にもらった魔法鞄にそのまましまった。
なんでも収納できるストレージ……この世界では「アイテムボックス」と呼ばれているが、どうやら珍しい能力らしい。
以前、討伐した魔物を売りに行ったとき、あまり人前で使わない方がいいと、解体場にいたおっさんに忠告されたことがある。
(そういえば俺って、ストレージに魔法鞄、それから影収納……あ、ゲートも使い方によっちゃ収納か。
……なんか、やたら収納系多くない?)
『荷物を手に持たなくて済みますね』
(たしかに便利だとは思うけど、この世界って魔法があるのに、なんでみんなあんなに不便そうにしてるんだろう?)
『この世界では、祝福によって「ギフト」が与えられます。
でも、そのギフトによって使える魔法が限られてしまいます。それに魔法系のギフトを持っていない人のほうが多いんです』
(そうか、祝福って、良いものなのか悪いものなのか、わからなくなるなあ)
「ええ。でも、魔物が跋扈するこの世界では、必要なものなのです。そもそも魔法とは、魔物と戦うために神が授けたギフト。生活を豊かにするためのものではないのですよ」
(俺なら、戦うより便利に使った方がいいと思うけどな。そういえば、前にユリアちゃんを鑑定したとき、ギフトがなかったんだけど……どうしてだろう?)
『魔力過多症の人は、生まれながらにして身に余る魔力を有しています。その結果、魔力が身体に馴染まず、暴走して自身を傷つけてしまうため、長くは生きられません。言ってみれば、“魔力の多さ”そのものがギフトなのです』
(それって、まさしく“いらないギフト”の代表じゃん)
『ええ。ですが小娘は、マスターのおかげで生き延びることができました。ギフトがない分、鍛錬を重ねれば、マスターと同じように多様な魔法を使えるようになりますよ』
(そうか、ユリアちゃんは凄腕の魔法使いになれるのか……)
エイシスと会話を交わしながら、貧民街へとたどり着いた。
聖王国ミストラルの王都は、湖に浮かぶ島に築かれているため、有効に活用できる土地は限られている。
そんな限られた空間の中、ひっそりと城壁沿いに広がっているのが貧民街だった。
「ここに行けと?」
バラック小屋が乱雑に建ち並び、道と呼べるものは見当たらない。
家と家の間を、身をよじってすり抜けるようにして通らなければならない。
(なんか、よその家の敷地に勝手に入り込んでるみたいで、落ち着かないなあ)
『ええ、貧民街ですから。どこも似たようなものですよ』
道なき道を進み、やがて少し開けた場所に出た。
周囲を見渡して建物の様子を確認するが、どれも補修なしではとても住めそうにないと判断する。
(こんなとき、深海くんがいればよかったのにな……俺より、絶対こういう異世界向きだと思う)
「マスター、向こうから声が聞こえますよ」
この貧民街に入ってから、まだ一度も人とは遭遇していなかった。
「なら、この辺りのことを詳しく聞けるかもしれないな」
そう言って、俺はエイシスが示した方向へと足を向けた。
声が聞こえたというその家は、とても人が住めるような場所じゃなかった。
屋根も壁も板がボロボロで、雨風をなんとかしのげる程度の廃屋だ。
しかも、声の主が問題だ。
普通の会話や独り言なら気にならないが、聞こえてきたのは悲鳴に近い、痛がる声だった。
(……これ、放っておいていいのか?)
『マスター、気になるなら覗いてみればいいじゃないですか』
エイシスにそう促され、一瞬ためらった。だが、気になってしまった以上、もう止められなかった。
壁の穴から覗いた瞬間、息を呑んだ。
小さな獣人の女の子が、痛みに顔を歪め、必死に身体をくねらせていたのだ。
「おい、大丈夫か!」
思わず叫んだ。けれど少女は俺の声など聞こえていないみたいに、苦しげに身をよじらせ続けていた。
家の中には苦しんでいる少女しかいないようだった。
俺は建て付けの悪いドアを押し開け、中へ足を踏み入れる。
『マスター、鑑定してみてください』
エイシスに言われるまでもなく、俺はすぐに【鑑定】を少女へとかけた。
………
ユメカ(6歳)銀狼族
職業 ……
Lv1
HP 1/6
MP 13/8000
STR(力量)6
DEX(器用)4
VIT(防御)3
AGI(敏捷)8
INT(知力)5
MMD(精神)11
LUK(運) 24
CHA(魅力)-12(92)
*魔力過多症の病を患っている。
今の状況なら約半年以内に生命活動を停止する。
………
「なっ……! 魔力過多症だと!? ユリアちゃんと同じじゃないか!」
『マスターどうしますか?』
「放っておくわけにはいかないだろ。もう関わってしまったんだから」
ストレージからエリクサーを取り出し、瓶のフタをひねって開ける。
そして、その口を少女の唇へと近づけた。
『マスター、このままでは飲ませられませんよ。小娘のときのようにしないと、貴重なエリクサーを零してしまいますよ。』
「くそっ、またこのパターンかよ!
……マジであとでセクハラとか言うなよな?」
エリクサーを口に含む。
痛みに身をよじらせる少女を押さえつけ、強引にその唇へ流し込んだ。
次の瞬間、少女の身体が柔らかな光に包まれる。
その光は腫れ上がった顔を撫で、全身の傷をゆっくりと癒していった。
呼吸が穏やかになり、痛みも和らいだのだろう。
少女は身をよじることもなく、静けさを取り戻していた。
「おい、大丈夫か? 薬を飲ませたから、もう心配はいらないはずだ」
すると、少女は静かに身を起こし、自分の手で身体のあちこちを確かめるように触れ始めた。
「……痛みが消えてる」
「それならもう大丈夫だ。病気を治す薬を飲ませたから、もう心配いらない」
「う……うわぁぁぁー!」
少女は感極まったのか、堰を切ったように大声で泣き出した。
だが、その時――背後から怒鳴り声が響いた。
「お前っ!! 俺の妹に何しやがった!!」
振り返った先に立っていたのは、昨日、俺から金を奪おうとしたあの狼獣人だ。
額に青筋を浮かべ、今にも飛びかかりそうな眼光を俺に向けていた。
◆◆
湖のほとりの高台に拠点を構えた白鳳騎士団の者たちは、周囲に警戒を払いながら大森林に現れた光の柱の地点へ向かっていたが、その途中で開けた場所に村を見つけた。
村の門に立ち、警戒していたのはエルフの兵士であった。
「人間ども、ここはエルフの村だ。何の用あって訪れた! この先へ通すわけにはいかぬ!」
エルフの門番は鋭い視線を向けながら、厳しく告げた。
そこへ一歩前に出たのは、騎士団長を務めるアミリア王女殿下だった。
「エルフの民よ。私はミストラル聖王国第一王女、アミリア・マクスウェルである。
先に大森林で立ち昇った光の柱――その原因を調査するために参った。
我らにエルフの民と敵対する意志はない。
もし光の柱の原因について知っているのであれば、どうか教えてほしい。
王都の一部の民は、魔王が復活したのではないかと騒ぎ立てているゆえにな」
威風堂々たるアミリア殿下の言葉に、門番の兵士たちは緊張の面持ちで顔を見合わせた。
やがて、そのうちの一人が村の中へと入っていった。
「承知した。しばし待たれよ」
門番の一人が、落ち着いた声でそう告げた。
門番の言葉を受けた白鳳騎士団の者たちは、なお周囲に目を配りつつも、胸中に安堵の色を浮かべたのだった。
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