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第92話 ミストラル世界での話
しおりを挟むここはミストラル世界。
城下の店の奥に数名の者たちが集まり、内密な話をしていた。
「ミストラル国の魔法学園の実習が再開されるようだ」
「ああ、既に段取りは済んでいる」
「今回はミストラル国の第三王女だけでなく、リンドブルク国の第一王女ステファニー・リンドブルクも参加するそうだ。
それに、賢者の孫娘シャルロッテ・ルーズベルトもいる」
「なかなかの顔ぶれだな……」
「ああ、だが我々の本命はミストラル国の第三王女だ。あの小娘を始末すれば、我らに対抗するサテライト辺境伯も動揺するだろう。あやつは第三王女派だからな」
「その隙に攻め込めば、勝算はある」
「剣姫である第一王女が出張って来ないか?」
「喪に服す時間はある。たとえ出張ってきても、派閥違いの辺境伯だ。多少は時間を稼げるだろう」
「だが、魔法学園には国の第十八王子も留学しているのではないか?」
「あんな出来損ないの第十八王子など、いない方がいい。むしろ、この作戦で死んでくれた方が、攻め込む理由が成り立つ」
「では、一緒に始末するように、鳩で知らせておくとしよう」
そう言って、男たちの密談はさらに続いていった。
◆
私ことナタリアは、ミストラルの王都で普段、冒険者ギルドの受付をしている。
しかし先日、冒険者であるケンイチロウさんの件で、一か月の自宅謹慎を命じられた。
表向きは身体の療養ということになっているが、実質的には処罰を受けたのと同じだ。
この療養期間のお給金は支給されないので、贅沢はできない。
私はこの王都で、冒険者だった両親に育てられ、今は弟のゲンと二人暮らしだ。
両親は商人の護衛任務に赴き、盗賊に襲われて天に召された。
そんな私が冒険者ギルドで働いているのは、どこか因縁めいたものを感じる。
そして今、私には悩みがある。
それは弟のゲンのことだ。
両親が亡くなってから、彼はよからぬ仲間とつるむことが多くなり、朝まで帰ってこないこともしばしばだった。
その仲間は、今回同じ処分を受けたサブマスター、デリウスさんの昔馴染みだと、近所の食堂のおばさんが教えてくれた。
正直言って、私はデリウスさんが好きではない。
ギルドマスターの前では紳士ぶっているが、私たちや自分より弱そうな冒険者に対しては横柄だ。
今回の件でもそうだった。
弟のことがあったので、一応デリウスさんをかばったが、内心では「ケンイチロウさんにあんな態度を取らなければよかったのに」と何度も思っていた。
そして先日、朝帰りの弟が上機嫌で戻ってきた。
どうやら大きな仕事が入ったらしく、働きぶりによっては大金が手に入るという。
仕事内容は教えてくれなかったが、私は心の中で、犯罪だけには手を染めないでほしいと天にいる両親に祈ったのだった。
◆
ある日の夕刻。
冒険者ギルドのサブギルドマスターのデリウスは、行きつけの酒場でグラスを傾けていた。
そこへ、見知った顔の男が声をかけてくる。
「やあ、デリウス。謹慎くらったって噂じゃねぇか」
「うるせぇ。あれは“自宅療養”だ」
「表向きは……だろ? おい、亭主。俺にも酒をくれ」
男はカウンター越しに注文を告げると、デリウスの隣に腰を下ろした。
そして、注がれた酒を一口あおる。
「さて、やさぐれた元相棒さんよ。儲け話があるんだが、一枚かまねぇか?」
「儲け話だと?」
「ああ。でけぇ声じゃ言えねぇが……ちょっと耳を貸せ」
男は身を寄せ、デリウスの耳元でささやいた。
「ある貴族の小娘を始末するだけで、金貨三十枚だ。
お前が加わるなら、そのうち十枚はお前の取り分でいい」
「ほう……悪くねぇな。最近は事務仕事ばっかで、腕が鈍っちまってたところだ。いいリハビリになる」
「さすが元相棒。話が早ぇ」
「で、いつやる?」
「もうじき、魔法学園の実習が大森林で行われる。その時にな」
「わかった。手を貸すぜ」
二人は無言で盃を掲げ、音もなくぶつけた。
こうして、ある陰謀が動き出した。
◆
「わ、私が……姫様たちとパーティーを組むのですか?」
魔法学園では、来週に予定されている大森林での実習に向けて、
あちこちでパーティー勧誘の声が飛び交っていた。
そんな喧噪の中、辺境の男爵家の娘――サラサ・バディは、突然かけられた言葉に戸惑いの声を上げた。
「もちろんです。どうか、私たちと大森林実習のパーティーを組んでくださいませんか?」
そう言ったのは、賢者の孫娘であり、学園でもひときわ注目を集めるシャルロッテ様だった。
以前、彼女が落としたイヤリングを一緒に探してから、何かと声をかけてもらうようになっていた。
「も、もったいないお言葉です。ですが……」
サラサが言葉を濁すと、シャルロッテはやわらかく微笑んだ。
「今、私たちのパーティーは――私とリリアーナ、そしてステファニーの三人しかいませんの。
サラサさんが加わってくださったら、とても心強いのですけれど……どうでしょうか?」
その名を聞いて、サラサは息をのんだ。
賢者の孫娘にして学園随一の才媛・シャルロッテ。
この国の第三王女・リリアーナ。
そして、隣国リンドブルクの第一王女・ステファニー。
――そうそうたる顔ぶれだった。
辺境の男爵家の娘である自分が、そんな方々と肩を並べるなど、夢にも思わなかった。
(お誘いいただいたのに、お断りしてしまったら――バディ家の印象が悪くなってしまいますわ……。
ですが、私なんかがお役に立てるとは、とても思えませんし……。
ああ、いったいどうしたらよろしいのでしょうか……?)
そんな内心とは裏腹に、サラサは姿勢を正して、見事な礼をシャルロッテに披露した。
そして、澄んだ声でこう告げる。
「――よろしくお願いいたしますわ」
こうして、サラサ・バディは、姫たちのパーティーに加わることを決めたのだった。
……その頃
第三王女――リリアーナは、ある人物を探していた。
「……ここにもいませんね」
彼女は下級クラスの教室を一つひとつ覗き込みながら、小さく呟いた。
「リリアーナ様、もしかすると図書館にいらっしゃるのでは?」
「クリス、そうね。きっとそうだわ」
お付きのクリスを伴い、リリアーナは図書館へと足を向ける。
学園の図書館は、この世界でも屈指の蔵書量を誇ることで知られていた。
その豊富な資料を求めて、他国から留学してくる学生も少なくないという。
校舎を出て図書館へ向かう途中、二人が探していた人物が中庭のベンチに腰掛け、本を読んでいた。
「あっ、いらっしゃいましたわ!」
リリアーナはぱっと笑みを浮かべ、その人物に駆け寄る。
「ごきげんよう、アンヌさん」
「わ、リリアーナ王女殿下っ。こ、こんにちは!」
慌てたアンヌは立ち上がると、深々と頭を下げた。
「アンヌさん、実習のパーティーはもうどなたかと組まれましたか?」
「い、いえ……まだです」
「まぁ、よかった! でしたら、私たちのパーティーに参加していただけませんか?」
「えっ、わ、私がですか!?」
(む、無理、無理、無理……絶対に無理ですって!)
心の中で叫びながらも、アンヌは引きつった笑みを浮かべた。
「わ、私なんか……お役に立てませんよ」
「そんなことありませんわ。アンヌさんとなら、きっと大森林実習も楽しくなると思ったんです。どうかお願いできませんか?」
(ええぇぇっ!? 私、ただの平民ですよ!? しかも貧民街の出身なのに……王女殿下と一緒なんて、身分不相応にもほどがありますって!)
そう叫びたかったが、
相手はこの国の第三王女――リリアーナ殿下。
断る勇気など、あろうはずもない。
「ふ、不束者ですが……よろしくお願いいたします」
そう言って、アンヌは小さく頭を下げたのだった。
……
こうして、リリアーナ王女殿下たちの大森林実習のパーティーは決まった。
だが、この時、彼女たちを狙う不穏な影が動き出していることを、誰ひとりとして知る由もなかった。
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