現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

文字の大きさ
93 / 125

第93話 モテ期到来?

しおりを挟む

 

弓崎先輩の家から自宅へ帰る途中、デパートの地下でお菓子や出来合いのお惣菜を買いだめした。

(あとはスナック菓子とかほしいな)

『マスター、飲料水も買ったほうがいいのでは? 向こうには炭酸飲料なんてありませんし』

(そうだよな。コーラとか飲ませたら、みんな驚くだろうな)

仲間たちのビックリする顔を思い浮かべながら、つい口元が緩んでいたのだろう。

声をかけられて、驚いたのは俺自身だった。

「御門先輩、こんにちは。何か嬉しいことでもあったんですか?」

声の主は、深海君の妹、愛佳ちゃんだった。
その後ろには、友達らしき女子が二人、俺の方を興味深そうに見ている。

「愛佳ちゃん、この間ぶりだね。お兄さんとは仲良くさせてもらってるよ」

「ええ、お兄ちゃんから聞いてます。その白い髪も……厨二病――じゃなくて、雷に打たれたショックでそうなったって」

愛佳ちゃんは、慌てて言い直しながらも、にっこりと笑った。

「似合ってて、カッコいいですよ」

(あれ? 今、“厨二病”って言わなかった? 深海君はそんなこと言うタイプじゃないし……あれ?)

「厨二病じゃないからね?」

「ええ、知ってます。でも……御門先輩の隠し撮り写真が出回ってて、クラスの男子たちがそんなこと言ってたものですから、つい口に出ちゃいました」

(えっ!? 隠し撮りって何それ!?)

「俺の写真が出回ってるの?」

「はい。女子たちの間では“カッコいい”って評判なんですけど、男子からはいろいろ言われてるみたいです」

「それって嫉妬だよねー。男子ってさ、キモいし心狭すぎでしょ」

「そうそう。女子が御門先輩をカッコいいって言うから、やきもち焼いてるんだよ。まったく、お子様なんだから」

後ろにいた女子二人が、いつの間にか会話に混ざっていた。

「あ、この子たちは私の友達で――小波菜々子ちゃんと、夕凪雛子ちゃんです」

「どうも、初めまして。御門賢一郎です」

三人の女子の視線が一斉にこちらへ向き、
俺は思わず手にしていた買い物袋を持ち直した。

(なんか、女子の集団に囲まれるのって……落ち着かないな)

「御門先輩って、彼女いるんですか?」

そう聞いてきたのは、小波菜々子ちゃんだった。

「いや、いないよ」

「やったー!そうなんですねー」

(……こういう女子のテンションに付き合うの、正直、疲れる)

『中身がおっさんですからね。仕方ありません』

(ちょ、待って。俺まだ十六歳だから)

『ですが、さきほど陸上部の小娘のところで、自分をおっさんと自覚したんじゃないですか?』

(う……ぐぬぬ……確かに、否定できない)

「それじゃあ、俺、用事があるから帰るよ。みんなも気をつけて帰るんだぞ」

「えーっ、もう帰っちゃうんですか?」

「一緒にカラオケとか行きませんか?」

『マスター、これが世間でいう“逆ナン”というやつですか? モテモテですね』

(……エイシス、好き勝手言うなよ。そんな気分じゃないんだ)

「菜々子も雛も、だめですよ。御門先輩は用事があるようですから、無理に誘うのは良くありません」

(フォローしてくれるなんて……ええ子や……)

「悪いな。また今度な」

そう言って、俺は三人に手を振り、その場を後にした。



デパートを出て電車に乗り、自宅のある駅に着く。
夕暮れのロータリーには、黒塗りの高級車が一台、静かに停まっていた。

(……やけに目立つな。芸能人でもいるのか?)

そう思いながら脇を通り過ぎようとしたとき――
車のドアが開き、スーツ姿の女性が降り立った。
洗練された仕草といい、切れ長の目といい、いかにも仕事ができそうな雰囲気だ。

「すみません、御門賢一郎さんですね? 私はこういう者です」

そう言って、彼女は名刺を差し出した。

Morning Glow Company
チーフマネージャー 丸川 初美

(……芸能事務所? なんで俺の名前を?)

「何か俺に用ですか?」

「ええ、私たちの会社は、テレビやネット配信など――メディア全般に出演する人材を抱えています。
いわゆる“芸能事務所”ですね。
御門賢一郎さん、率直に伺いますが……芸能界に興味はありませんか?」

(……もしかして、これがスカウトってやつ?)

「すみませんが、興味はありません」

そう答えると、丸川さんは一瞬、肩を落とした。

「そうですか……いきなりでは無理もありませんよね」

そのとき、車のドアがもう一度開き、若い女性が降りてきた。
どこかで見た顔だ――ドラマやCMでよく目にする人気女優だ。

「君ね、これはビッグチャンスなのよ?
確かに突然言われたら戸惑うかもしれないけど……今が人生の分岐点なの。
この意味、わかる?」

年は俺とそう変わらない。だが、その物言いには妙な圧があった。

「全くわかりません。芸能界には、本当に興味がないので。――失礼します」

背を向けて歩き出す。
後ろから「ちょっと、君っ!」という女優の声が追いかけてきたが、振り返らなかった。

『(――ほう、正攻法で来ましたか。相手も相当、手練れのようですね。
裏からならいくらでも対処のしようはありますが……表立って接触されると、法律やら人間社会のしがらみに縛られます。
……仕方ありません。この件は、しばらく静観するしかないようですね)』

エイシスは、そんなふうに独りごとを言った。
だが、その声が俺の耳に届くことはなかった。

……

その後、黒塗りの車の中では……

車内の静けさを破るように、ミランが不満げに声を上げた。

「なに、あいつ。私を見ても驚きもしないなんて、普通ありえなくない?」

姫路ミラン――十六歳。ドラマやCM、雑誌と多方面で活躍する売れっ子アイドルだ。

「まあまあ、ミランちゃんのこと知らなかったのかもしれないでしょ」

隣に座るマネージャー、丸川初美がやんわりと宥める。

「えっ、そんなことある? 街中のポスターにも私の顔があるのよ。知らないなんて信じられないわ」

「世の中にはいるのよ、そういう子。興味のないことにはまるで無関心なタイプがね」

初美は肩をすくめると、ふっと表情を引き締めた。

「それよりも、社長が言ってた通りになったことのほうが驚きじゃない?」

「東関社長が? なんて言ってたの?」

「“とりあえず接触して名刺を渡せ。ただ、相手は断るだろうから気にしなくていい”ってね」

「へぇ、さすが社長。読みが鋭いね」

ミランは窓の外を見ながら小さく笑う。

「でも最近、なんか接待が多くない? 企業の偉い人とか政治家とかさ。……私、絶対に枕だけはしないからね。そこだけは譲れないって、社長にもちゃんと言っておいてよ」

「大丈夫よ。ミランちゃんの仕事は前から決まってた案件だし、夜の席なんか絶対に出させない。昼に打ち合わせ兼ねた食事をしただけよ。
それに、うちの事務所は、そんなこと(枕営業)させないから安心して」

初美はそう言って、静かにミランの肩に手を置いた。

「だけど、ちょっとカッコよかったよね。白い髪が似合ってて、業界の“作り物男子”とは違う感じがしたわ」

「確かにね。どこかミステリアスで……社長は、どこであんな子を見つけてきたんだか」

「社長直々の紹介なんて滅多にないのに。あの男子、もったいないことしたわ」

「そうね。でも、まだわからないわよ。家に帰って落ち着いたら、気が変わって電話をくれるかもしれない」

「そしたら、私が業界の先輩として、一から教えてあげるわ」

ミランは唇の端を上げ、どこか楽しげに笑った。

「ふふ、早くそうならないかな。結構楽しみ……」

「ミランちゃん、スキャンダルだけは勘弁してよ。今は本当に大事な時期なんだから」

「わかってるって。でもね、なんか新鮮なのよ。私を知らない子が、私に夢中になっていく過程を想像すると――ワクワクする」

「……私にはその気持ちは理解できないけど。無茶さえしなければ、好きにすればいいわ」

「やったー、言質とったからね」

ミランは嬉しそうに笑い、シートに深く身を沈めた。

「最近ずっとストレス溜まってイライラしてたけど……これから楽しくなりそう」

黒塗りの車は、夕暮れの街を抜け、静かに事務所へと向かって走り続けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

魔王を倒した勇者、次の職場は東京のラーメン屋でした

希羽
ファンタジー
異世界グランディアを救った勇者アレクサンダー、通称アレク。彼は平和になった世界で自身の存在意義を見失いかけていた。そんなある日、魔王が遺した最後の呪いによって次元の狭間に吸い込まれ、現代の東京・高円寺に迷い込んでしまう。 右も左もわからず、甲冑姿で街をさまようアレクは、警察に職務質問され大ピンチに。その窮地を救ったのは、頑固一徹だが人情に厚いラーメン屋「麺屋 漢(おとこ)」の店主、黒田龍司(くろだ りゅうじ)だった。 言葉も通じず、社会常識ゼロのアレクだったが、その驚異的な身体能力と、何事にも真摯に取り組む姿勢を龍司に見込まれ、住み込みでバイトとして雇われることに。 「レベルアップだと思えばいい」「麺の湯切りは剣技に通じるものがある」 アレクは異世界での経験をラーメン作りに活かし、次第にその才能を開花させていく。聖剣の代わりに握った菜箸で、彼は東京という新たな世界で、人々の笑顔と自らの新たな居場所を見つけることができるのか。異世界勇者の、しょっぱくて熱いセカンドライフが今、始まる。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

ken
ファンタジー
王国筆頭魔導工学師、アルド。 彼は10年にわたり、勇者の聖剣から王都の巨大結界まで、あらゆるインフラと魔導具の整備を一手に引き受けてきた。 しかし、その仕事はあくまで「裏方」。派手な攻撃魔法を使えない彼は、見栄えを気にする勇者パーティから「地味で役立たず」と罵られ、無一文で国外追放を言い渡される。 「……やれやれ、やっと休めるのか」 ブラックな職場環境から解放されたアルドが辿り着いたのは、誰も住まない辺境の荒野。 そこで彼は、古代文明の遺産――自律型汎用開拓重機『ギガント・マザー』を発掘する。 「あら、栄養失調ですね。まずはご飯にしましょう」 お節介なオカンAIを搭載した多脚戦車とタッグを組んだアルドは、その規格外の採掘能力で荒野を瞬く間に開拓。 地下3000メートルから温泉を掘り当て、悠々自適なリゾートライフを始めることに。 一方、アルドを追放した王国は、インフラが次々と機能を停止し、滅亡の危機に瀕していた……。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...