現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第102話 訪問者(2)

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 カナドが持ってきたお茶菓子を見た途端、センジュ第二王女殿下が口にしたのは、この世界には存在しない言葉だった。

『マスター、鑑定をかけてみれば理解できるでしょう』

(なるほど……了解)

【鑑定】

 心の中でそう唱えると、視界に文字情報が浮かび上がる。

―――――
センジュ・マクスウェル (17歳)
聖王国ミストラル 第二王女

Lv:18
HP:112/180
MP:85/100

STR(力量):25
DEX(器用):48
VIT(防御):18
AGI(敏捷):21
INT(知力):65
MMD(精神):50
LUK(運):77
CHA(魅力):91

ギフト:鑑定・(声魔法)
※転生者
―――――

(……やっぱり、転生者か。なあ、エイシス。この世界に転生者って存在するのか?)

『いいえ。私が知る限り、そんな例はありません。おそらく彼女の魂は、死後の循環から外れ、次元流に飲み込まれたのでしょう。
 運よくこの世界に“紛れ込んだ”というべきです』

(言動からして日本人っぽいんだが……。それに、みんな彼女がこの世界にない言葉を使っても、特に気づいてないみたいだな)

『おそらく、彼女のギフト――【声魔法】の影響ですね。
 声に魔力を乗せて発することで、周囲の認識を自然に歪め、“違和感を持たせない”ようにできるようです』

(……それ、精神干渉系の魔法じゃないか。危険だな)

『ですが、本人は【声魔法】を保持していることに気づいていない可能性が高いです。
 マスターの鑑定がカンストしているから“(声魔法)”と詳細に表示されただけ。
 この世界のアーティファクトでは、そこまで解析できません』

(……知らずに他人の認識を歪めてるのか。余計に厄介だな)

『安心してください。マスターには【状態異常無効】がありますし、レベル差が桁違いですから、影響は受けません。
 マスターの身内――つまり、亜空間の仲間たちにも効かないでしょう。
 ただ、耐性のない一般人にとっては、彼女の言葉が自然に“受け入れられてしまう”可能性が高いですね』

(なるほど……でも、本人が全く自覚してないなんてこと、あるのか?)

『仮説ですが、彼女が“王女”という立場にあることが関係しているのだと思います。
 自分の言葉で他人が従っても、それを“地位ゆえ”だと勘違いしているのでしょう』

(……また、厄介な人物と関わってしまったな)

『マスターの人徳ですね』

(そこは“人徳”じゃない。悪因縁だよ、絶対に)

 ……と、心の中でぼやいたところで、王女が目を輝かせて身を乗り出してきた。

「ねえ、ねえ、このポテチとポッキー、どうしたの?」

 やっぱり聞いてきたか……。
 さて、どう答えたものか。

「ケンとやら。殿下が問うておられる。早く答えよ!」

 王女の隣に座っていたエルフの女性が、ピリッとした空気をまといながら威圧的に言い放った。
 尖った耳が、警戒心を物語っている。

『エルフ族特有の高慢さですね。どうします? やっちゃいますか?』

(そんなことしない。あれは王女の護衛みたいなもんだろ? むしろ、これが普通なんじゃないか?)

『マスター、優しいですね。でも、そういう優しさが“面倒を呼ぶ”って、そろそろ気づいてくださいね?』

(ぐ……言い返せない)

 そんな時、教会の扉が開いて、ララとルルが顔を出した。

「精霊たちが騒いでると思ったら……やっぱり、テテさんだったんだ」

「あっ、ララか! そっちはルルか?」

「うん。テテさん、久しぶり!」

 どうやら、王女の隣に座っていたエルフ──テテという名前らしい──は、ララとルルの知り合いのようだ。

「二人はどうして、里じゃなくてここに?」

 そう尋ねると、ララが胸を張って答えた。

「ケンはね、エルフの里の恩人なの!
 大精霊ウンディーネさまの“呪い”を解くための解呪薬、その素材をくれたの。
 それに、お婆ちゃんと一緒に薬を作ったんだよ。
 今はね、お婆ちゃん──大錬金術師ナナお婆ちゃん──の弟子なんだ!」

「な、なんと……ナナ様の弟子!? しかもウンディーネ様の呪いまで……!」

 驚愕の声を上げたテテは、次の瞬間、優雅な動作で椅子を離れると、俺の前に片膝をついた。
 そして、頭を深く垂れた。

「ケンイチロウ様──
 ウンディーネ様の呪いを解いてくださり、心より感謝申し上げます。
 また、長老であり大錬金術師ナナ様のお弟子と知らず、先ほどは無礼をいたしました。どうかお許しを」

(え、ええぇ……!? さっきまでの威圧感どこ行った!? 態度、百八十度違うんですけど!?)

「な、な、なんて可愛い子たちなの!」

 王女はララとルルを見るなり、そう叫んだ。
 今にも駆け出して抱きつきそうな勢いだ。

(ララたちのおかげで助かったけど……このままにしておくとマズいよな?)

『いっそ、この王女を仲間に引き入れますか? その方が上手くいくと思います』

(……わかった。一旦、言語翻訳をオフにしてくれないか?)

『了解しました』

 そして俺は、念話を使って日本語で王女に話しかけた。



「なあ、この言葉、わかるよな?」

 突然の日本語に、王女は驚いたように俺を見つめる。

「いま、直接君の頭に話しかけている。いわゆる“念話”ってやつだ。
 君は――転生者なんだろう? 俺はあまり目立ちたくないんだ。詳しい話は夜にでも話さないか?」

「やっぱり……あなたもそうだったのね。うん、わかった。で、どこで? 何時頃?」

「あとで念話で知らせるよ」

「うん、了解!」



 これで、みんなの前で質問攻めに遭うことはないだろう。

 そして今度は、この場に剣聖の爺さんたちがやってきた。
 爺さんとヒカリは、どうやらドワーフの爺さんに剣の手入れをしてもらったらしい。

「あっ、あなた様は……あの時の!」

 すると、またしてもエルフの女性が声をあげた。

「おや、貴女は確か……魔物に襲われていた冒険者だったか?」

「はい。冒険者になりたての頃、オーガの親子に襲われていた時に助けていただいたテテです。
 剣聖様もこちらにいらしたのですね」

「そうだったな。剣の修行は怠っておらんようだ。立派になったな」

「もったいないお言葉です。剣聖様に少しの間でしたが稽古をつけていただいたおかげで、今の私があります。
 最大の感謝を申し上げます」

 そう言って、今度は剣聖の爺さんの前で片膝をつき、深く頭を垂れた。

 その様子を見ていた訪問者たちは、呆気にとられていた。



「みなさん、こちらにいらしたんですか? あら、お客様ですか? 失礼しました」

 そう言いながら入ってきたのは、ユリアとペロだった。

《なんか人がいっぱいいるわねー。面倒くさそうだから亜空間にいるわ。ご飯できたら呼んでよね》

 そう言い残して、ペロは自分の亜空間に戻っていった。



「ねえ、ねえ、ここってどうしてこんなに可愛い子たちがたくさんいるの?」

 一旦は大人しくなっていた王女だが、うちの子たちを見て再びワクワクが止まらない様子だった。

 そして今度は、ドワーフの爺さんと孫のチヒロちゃんがやってきた。

「な、ドワーフの可愛い子まで……!」

 王女は、開いた口が塞がらないようだった。

 そのあと、カナドが「食事の用意ができた」と知らせに来た。
 ちょうどいい頃合いだったので、俺たちは訪問者たちと一緒に食卓を囲むことにした。
 各々、警戒心はあったが、割と賑やかだった空気が、いつのまにか穏やかな食事の時間へと変わっていった。


 

 その夜。
 俺はセンジュ第二王女に念話を使い、亜空間にあるログハウスへと招いた。

「すごいね。ケンイチロウ君は、勇者か何か?」

 この状況をすんなり受け入れられるのは、彼女が転生者だからだろう。

「説明しにくいけど、勇者とかじゃないよ。それで、君のことを聞かせてもらえるかな?」

「うん、いいよ。
 私の元の名前は――潮風渚。日本の東京で生まれて、中学三年生だった。
 ある男たちに騙されて……死んじゃったんだ」

「そうか……俺は御門賢一郎。高校一年生だ。わけあって、この世界にいる」

「ケンイチロウ君はいろんな能力を持ってるみたいだけど、どうして?
 私なんて神様にも会ってないし、能力は鑑定だけ。なんかズルくない?」

(やはり、“声魔法”のことは自覚していないのか)

「そう言われても困るんだが……」

 それから話を続けるうちにわかったのは――
 彼女は中学三年の時、男たちに無理やり犯され、その様子をビデオに撮られたということだった。
 マンションを出たところまでは覚えているが、その後どうして亡くなったのかは、彼女自身にもわからないらしい。

 どこかで聞いた話だと思い尋ねてみると、偶然にもその男たちは、俺が南極に置いてきた連中だった。

 ストレージから、あの部屋にあった荷物を取り出してやると、
 そこには、彼女が襲われた時の映像が収められたDVDがあった。

「……そっか。ケンイチロウ君が、仇をとってくれたんだね」

 涙ぐみながら、彼女はそうつぶやいた。

「なあ、センジュ王女……いや、潮風渚さん。
 もし元の世界に帰れる方法があるとしたら、どうする?」

「……それは……帰りたい。お父さんやお母さんに会いたいに決まってる。
 でも、私はもう“汐風渚”じゃない。センジュ・マクスウェルなの……。
 それでも、もし帰れるなら――一目だけでも会って伝えたい。
 “私は別の世界で、幸せに生きてる”って」

 その言葉を聞いて、俺は決心した。

「……わかった。だが、そのためにはいろいろ準備が必要だ。
 君、ミスリル製の貴金属は持ってるか?」

「あるわよ。このネックレス。祝福を受けた時にお祝いとしてもらったの。
 宝石はエメラルドみたいだけど、飾りの部分はミスリルよ」

「なら、少しの間だけ貸してくれないか? 必ず返すから」

「うん、いいよ。ケンイチロウ君を信じる」

 そう言って、彼女は迷いなくネックレスを外し、俺の手にそっと渡した。
 冷たい金属の感触が、なぜか胸の奥に重く響いた。

 ――こうして、俺はセンジュ王女からネックレスを預かったのだった。





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