102 / 125
第102話 訪問者(2)
しおりを挟むカナドが持ってきたお茶菓子を見た途端、センジュ第二王女殿下が口にしたのは、この世界には存在しない言葉だった。
『マスター、鑑定をかけてみれば理解できるでしょう』
(なるほど……了解)
【鑑定】
心の中でそう唱えると、視界に文字情報が浮かび上がる。
―――――
センジュ・マクスウェル (17歳)
聖王国ミストラル 第二王女
Lv:18
HP:112/180
MP:85/100
STR(力量):25
DEX(器用):48
VIT(防御):18
AGI(敏捷):21
INT(知力):65
MMD(精神):50
LUK(運):77
CHA(魅力):91
ギフト:鑑定・(声魔法)
※転生者
―――――
(……やっぱり、転生者か。なあ、エイシス。この世界に転生者って存在するのか?)
『いいえ。私が知る限り、そんな例はありません。おそらく彼女の魂は、死後の循環から外れ、次元流に飲み込まれたのでしょう。
運よくこの世界に“紛れ込んだ”というべきです』
(言動からして日本人っぽいんだが……。それに、みんな彼女がこの世界にない言葉を使っても、特に気づいてないみたいだな)
『おそらく、彼女のギフト――【声魔法】の影響ですね。
声に魔力を乗せて発することで、周囲の認識を自然に歪め、“違和感を持たせない”ようにできるようです』
(……それ、精神干渉系の魔法じゃないか。危険だな)
『ですが、本人は【声魔法】を保持していることに気づいていない可能性が高いです。
マスターの鑑定がカンストしているから“(声魔法)”と詳細に表示されただけ。
この世界のアーティファクトでは、そこまで解析できません』
(……知らずに他人の認識を歪めてるのか。余計に厄介だな)
『安心してください。マスターには【状態異常無効】がありますし、レベル差が桁違いですから、影響は受けません。
マスターの身内――つまり、亜空間の仲間たちにも効かないでしょう。
ただ、耐性のない一般人にとっては、彼女の言葉が自然に“受け入れられてしまう”可能性が高いですね』
(なるほど……でも、本人が全く自覚してないなんてこと、あるのか?)
『仮説ですが、彼女が“王女”という立場にあることが関係しているのだと思います。
自分の言葉で他人が従っても、それを“地位ゆえ”だと勘違いしているのでしょう』
(……また、厄介な人物と関わってしまったな)
『マスターの人徳ですね』
(そこは“人徳”じゃない。悪因縁だよ、絶対に)
……と、心の中でぼやいたところで、王女が目を輝かせて身を乗り出してきた。
「ねえ、ねえ、このポテチとポッキー、どうしたの?」
やっぱり聞いてきたか……。
さて、どう答えたものか。
「ケンとやら。殿下が問うておられる。早く答えよ!」
王女の隣に座っていたエルフの女性が、ピリッとした空気をまといながら威圧的に言い放った。
尖った耳が、警戒心を物語っている。
『エルフ族特有の高慢さですね。どうします? やっちゃいますか?』
(そんなことしない。あれは王女の護衛みたいなもんだろ? むしろ、これが普通なんじゃないか?)
『マスター、優しいですね。でも、そういう優しさが“面倒を呼ぶ”って、そろそろ気づいてくださいね?』
(ぐ……言い返せない)
そんな時、教会の扉が開いて、ララとルルが顔を出した。
「精霊たちが騒いでると思ったら……やっぱり、テテさんだったんだ」
「あっ、ララか! そっちはルルか?」
「うん。テテさん、久しぶり!」
どうやら、王女の隣に座っていたエルフ──テテという名前らしい──は、ララとルルの知り合いのようだ。
「二人はどうして、里じゃなくてここに?」
そう尋ねると、ララが胸を張って答えた。
「ケンはね、エルフの里の恩人なの!
大精霊ウンディーネさまの“呪い”を解くための解呪薬、その素材をくれたの。
それに、お婆ちゃんと一緒に薬を作ったんだよ。
今はね、お婆ちゃん──大錬金術師ナナお婆ちゃん──の弟子なんだ!」
「な、なんと……ナナ様の弟子!? しかもウンディーネ様の呪いまで……!」
驚愕の声を上げたテテは、次の瞬間、優雅な動作で椅子を離れると、俺の前に片膝をついた。
そして、頭を深く垂れた。
「ケンイチロウ様──
ウンディーネ様の呪いを解いてくださり、心より感謝申し上げます。
また、長老であり大錬金術師ナナ様のお弟子と知らず、先ほどは無礼をいたしました。どうかお許しを」
(え、ええぇ……!? さっきまでの威圧感どこ行った!? 態度、百八十度違うんですけど!?)
「な、な、なんて可愛い子たちなの!」
王女はララとルルを見るなり、そう叫んだ。
今にも駆け出して抱きつきそうな勢いだ。
(ララたちのおかげで助かったけど……このままにしておくとマズいよな?)
『いっそ、この王女を仲間に引き入れますか? その方が上手くいくと思います』
(……わかった。一旦、言語翻訳をオフにしてくれないか?)
『了解しました』
そして俺は、念話を使って日本語で王女に話しかけた。
⸻
「なあ、この言葉、わかるよな?」
突然の日本語に、王女は驚いたように俺を見つめる。
「いま、直接君の頭に話しかけている。いわゆる“念話”ってやつだ。
君は――転生者なんだろう? 俺はあまり目立ちたくないんだ。詳しい話は夜にでも話さないか?」
「やっぱり……あなたもそうだったのね。うん、わかった。で、どこで? 何時頃?」
「あとで念話で知らせるよ」
「うん、了解!」
⸻
これで、みんなの前で質問攻めに遭うことはないだろう。
そして今度は、この場に剣聖の爺さんたちがやってきた。
爺さんとヒカリは、どうやらドワーフの爺さんに剣の手入れをしてもらったらしい。
「あっ、あなた様は……あの時の!」
すると、またしてもエルフの女性が声をあげた。
「おや、貴女は確か……魔物に襲われていた冒険者だったか?」
「はい。冒険者になりたての頃、オーガの親子に襲われていた時に助けていただいたテテです。
剣聖様もこちらにいらしたのですね」
「そうだったな。剣の修行は怠っておらんようだ。立派になったな」
「もったいないお言葉です。剣聖様に少しの間でしたが稽古をつけていただいたおかげで、今の私があります。
最大の感謝を申し上げます」
そう言って、今度は剣聖の爺さんの前で片膝をつき、深く頭を垂れた。
その様子を見ていた訪問者たちは、呆気にとられていた。
⸻
「みなさん、こちらにいらしたんですか? あら、お客様ですか? 失礼しました」
そう言いながら入ってきたのは、ユリアとペロだった。
《なんか人がいっぱいいるわねー。面倒くさそうだから亜空間にいるわ。ご飯できたら呼んでよね》
そう言い残して、ペロは自分の亜空間に戻っていった。
⸻
「ねえ、ねえ、ここってどうしてこんなに可愛い子たちがたくさんいるの?」
一旦は大人しくなっていた王女だが、うちの子たちを見て再びワクワクが止まらない様子だった。
そして今度は、ドワーフの爺さんと孫のチヒロちゃんがやってきた。
「な、ドワーフの可愛い子まで……!」
王女は、開いた口が塞がらないようだった。
そのあと、カナドが「食事の用意ができた」と知らせに来た。
ちょうどいい頃合いだったので、俺たちは訪問者たちと一緒に食卓を囲むことにした。
各々、警戒心はあったが、割と賑やかだった空気が、いつのまにか穏やかな食事の時間へと変わっていった。
◆
その夜。
俺はセンジュ第二王女に念話を使い、亜空間にあるログハウスへと招いた。
「すごいね。ケンイチロウ君は、勇者か何か?」
この状況をすんなり受け入れられるのは、彼女が転生者だからだろう。
「説明しにくいけど、勇者とかじゃないよ。それで、君のことを聞かせてもらえるかな?」
「うん、いいよ。
私の元の名前は――潮風渚。日本の東京で生まれて、中学三年生だった。
ある男たちに騙されて……死んじゃったんだ」
「そうか……俺は御門賢一郎。高校一年生だ。わけあって、この世界にいる」
「ケンイチロウ君はいろんな能力を持ってるみたいだけど、どうして?
私なんて神様にも会ってないし、能力は鑑定だけ。なんかズルくない?」
(やはり、“声魔法”のことは自覚していないのか)
「そう言われても困るんだが……」
それから話を続けるうちにわかったのは――
彼女は中学三年の時、男たちに無理やり犯され、その様子をビデオに撮られたということだった。
マンションを出たところまでは覚えているが、その後どうして亡くなったのかは、彼女自身にもわからないらしい。
どこかで聞いた話だと思い尋ねてみると、偶然にもその男たちは、俺が南極に置いてきた連中だった。
ストレージから、あの部屋にあった荷物を取り出してやると、
そこには、彼女が襲われた時の映像が収められたDVDがあった。
「……そっか。ケンイチロウ君が、仇をとってくれたんだね」
涙ぐみながら、彼女はそうつぶやいた。
「なあ、センジュ王女……いや、潮風渚さん。
もし元の世界に帰れる方法があるとしたら、どうする?」
「……それは……帰りたい。お父さんやお母さんに会いたいに決まってる。
でも、私はもう“汐風渚”じゃない。センジュ・マクスウェルなの……。
それでも、もし帰れるなら――一目だけでも会って伝えたい。
“私は別の世界で、幸せに生きてる”って」
その言葉を聞いて、俺は決心した。
「……わかった。だが、そのためにはいろいろ準備が必要だ。
君、ミスリル製の貴金属は持ってるか?」
「あるわよ。このネックレス。祝福を受けた時にお祝いとしてもらったの。
宝石はエメラルドみたいだけど、飾りの部分はミスリルよ」
「なら、少しの間だけ貸してくれないか? 必ず返すから」
「うん、いいよ。ケンイチロウ君を信じる」
そう言って、彼女は迷いなくネックレスを外し、俺の手にそっと渡した。
冷たい金属の感触が、なぜか胸の奥に重く響いた。
――こうして、俺はセンジュ王女からネックレスを預かったのだった。
88
あなたにおすすめの小説
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる
日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」
冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。
一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。
「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」
そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。
これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。
7/25男性向けHOTランキング1位
魔王を倒した勇者、次の職場は東京のラーメン屋でした
希羽
ファンタジー
異世界グランディアを救った勇者アレクサンダー、通称アレク。彼は平和になった世界で自身の存在意義を見失いかけていた。そんなある日、魔王が遺した最後の呪いによって次元の狭間に吸い込まれ、現代の東京・高円寺に迷い込んでしまう。
右も左もわからず、甲冑姿で街をさまようアレクは、警察に職務質問され大ピンチに。その窮地を救ったのは、頑固一徹だが人情に厚いラーメン屋「麺屋 漢(おとこ)」の店主、黒田龍司(くろだ りゅうじ)だった。
言葉も通じず、社会常識ゼロのアレクだったが、その驚異的な身体能力と、何事にも真摯に取り組む姿勢を龍司に見込まれ、住み込みでバイトとして雇われることに。
「レベルアップだと思えばいい」「麺の湯切りは剣技に通じるものがある」
アレクは異世界での経験をラーメン作りに活かし、次第にその才能を開花させていく。聖剣の代わりに握った菜箸で、彼は東京という新たな世界で、人々の笑顔と自らの新たな居場所を見つけることができるのか。異世界勇者の、しょっぱくて熱いセカンドライフが今、始まる。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?
ken
ファンタジー
王国筆頭魔導工学師、アルド。
彼は10年にわたり、勇者の聖剣から王都の巨大結界まで、あらゆるインフラと魔導具の整備を一手に引き受けてきた。
しかし、その仕事はあくまで「裏方」。派手な攻撃魔法を使えない彼は、見栄えを気にする勇者パーティから「地味で役立たず」と罵られ、無一文で国外追放を言い渡される。
「……やれやれ、やっと休めるのか」
ブラックな職場環境から解放されたアルドが辿り着いたのは、誰も住まない辺境の荒野。
そこで彼は、古代文明の遺産――自律型汎用開拓重機『ギガント・マザー』を発掘する。
「あら、栄養失調ですね。まずはご飯にしましょう」
お節介なオカンAIを搭載した多脚戦車とタッグを組んだアルドは、その規格外の採掘能力で荒野を瞬く間に開拓。
地下3000メートルから温泉を掘り当て、悠々自適なリゾートライフを始めることに。
一方、アルドを追放した王国は、インフラが次々と機能を停止し、滅亡の危機に瀕していた……。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる