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第115話 運が良いのか、悪いのか?
しおりを挟むエリクサーを作り終えたあと、俺はドワーフの爺さんのところを訪れていた。
「ケン様よー。ちょっと大変なことがおきたんだ」
ドドンパ爺さんは、いつになく神妙な顔でそう言った。
「何かあったんですか? ヒカリからは採掘に行きたいって聞いてますけど?」
「採掘には行きたい。だが、それよりも今はこっちの件が先だ。ついて来てくれ」
爺さんに連れられて工房に入ると、鼻をつく匂いが漂っていた。
「な、わかるだろ?」
「こ、これは……」
俺の無知が招いた失敗だと、すぐに理解した。
「すぐに対処します。【ピュリフィケーション】」
浄化の魔法をすぐに発動させる。
「すまなかった。ただ家を設置しただけじゃダメだったって気づかなかった」
「いや、俺のほうこそ迂闊だった。職人として、こうなるまで気づかないとは恥ずかしいことよ」
ドワーフの爺さんはそう言うが、工房を持って来たのは俺なので、気づかなかった責任は大きい。
「すると、屋敷の方も大変なのか?」
「あっちはわからねーが、人数が多い分、いずれここと同じになるぞ」
そう言われて、すぐに屋敷に向かったのだった。
……
「ご主人さま、お帰りなさいだっぴ!」
屋敷に入ると、家妖精のコボルトが勢いよく出迎えてくれた。
「えーと……ピケ、だよな?」
「違うっぴ、ピコだっぴ!」
……やっぱり、いまだにコボルトたちの見分けがつかない。
「そうだ。匂いの件で、困ってたりはしないか?」
「はて……? 何のことだっぴ? 全然わからないっぴ」
どうやら、まだ影響は出ていないようだ。ひと安心。
「悪いんだけど、センジュ王女を呼んできてくれないか?」
「了解だっぴ! 応接室でいいっぴ?」
「構わない。大至急頼む」
「任せるっぴ!」
ピコは短い脚でバタバタと走り去っていった。
応接室で待っていると、ピコがセンジュ王女を連れて戻ってきた。
「お茶を淹れてくるっぴ!」
そう言い残し、ピコは勢いよく部屋を出ていった。
「ケンイチロウ君、何か用?」
「ああ、ちょっと困ったことが起きてな。知恵を借りたい」
「構わないけど……私で力になれるかな?」
「問題ないよ。実は――」
俺はセンジュ王女に、工房で起きた一連の出来事を説明した。
「そ、それは早急に対処しないとマズい案件ね」
「やっぱりか。完全にうっかりしてたんだ。どうすればいいと思う?」
「うーん……この世界、その辺の整備がまだまだ行き届いてないのよ。
私も部屋の中に瓶を置いて用を足したことがあるわ。
処理はメイドさんがやってくれたけど、慣れないのよね……」
「一応、屋敷にも各階に設備はあるんだ。だが――」
「穴を掘って埋める、とか?」
「それだと誰かが汲み出さないといけない。できれば、ちゃんと処理して綺麗になったものを流したい。そっちの世界ではスライムってそういう役割じゃないのか?」
「あ、それ。ケンイチロウ君、こっちの常識あまり知らないのよね。
スライムは絶滅危惧種なの。日本でいう『メダカ』みたいな立ち位置」
「……マジか」
そういえば、こっちに来てスライムを見かけたことがない。
「じゃあ、どうすれば――」
「なら、私が魔道具を作ろうか? ケンイチロウ君は【浄化】の魔法が使えるんでしょ?
その術式を組み込めば、処理システムは作れると思う」
「本当に? ぜひお願いしたい!」
「わかったから、そんなに食いつかないでよ」
どうやら、無意識に前のめりになっていたらしい。
それからセンジュ王女と一緒に、魔道具や屋敷全体の構造について大まかな設計を作った。
「それと、魔石が必要になるわね。ほら、この屋敷の照明にも使われてるでしょ?
今回の魔道具には、それなりの量が要るの」
「魔石なら、ワイバーンとかグリフォンのが余ってるけど?」
「ほんとに!? それ欲しい!」
「わかった。後で渡すよ。それで魔石の問題は解決だな?」
「いいえ。大きすぎる魔石はダメなの。
キラーラビットとか、ゴブリン級の小さい魔石じゃないと」
そのクラスの魔石は、昔冒険者ギルドで換金してしまったせいで、今は手元にない。
「大きい魔石じゃダメなのか? 保有魔力量は多いはずだろ?」
「ええ。でも、魔道具に組み込むとサイズが大きくなりすぎるの。
設置スペースに収まらないわ。それに、魔力の流量も繊細に調整しないといけない。
ゴブリン級のものならちょうどいいけど、一週間に二度は交換が必要ね」
なるほど。小さい魔石=扱いやすいが大量消費、ということか。
「わかった。じゃあ、今から取りに行ってくる」
「……え? 今って夜中よ? 明日にしたら?」
「明日も学校なんだ。悪いけど、ドワーフ爺さんと詳細を詰めてくれないか?
ドドンパさんに、ここへ来るように伝えておくから」
こうして、魔石を得るために夜の森に向かうのだった。
◆
「なあ、エイシス。なんで亜空間のログハウスは平気だったんだ?
あそこでは十年くらい使ってたのに、そんな問題は起きなかったよな?」
『調べてみましたが――原因は“家の作り方”ですね。
亜空間のログハウスは、マスターが神力で構築した空間なので、
魔力を消費して自動的に“処理・消滅”させていたようです。』
「へぇ……そんな仕組みになってたのか。
じゃあ教会の方は?」
『そちらは、ペロが神力を使って念力で圧縮して森の方にポイしてたみたいです。
あの白蛇、臭い匂いに敏感なので』
「そういうことか。知らないうちにペロに助けられてたわけだな」
しかし、蛇って臭覚あるのかよ?
前も薬草を煮る匂いがダメだって言ってた気がする。
『はい。マスター、ペロにもっと感謝してあげてください。
とりあえず、マスターは運が良かった、ということで』
「……エイシス。いま、“運”と“ウン”を掛けただろ」
『ええ、語呂が良かったので。
ちなみに、マスターも心の中で同じ事を考えてましたよ?』
「考えてねぇ……いや、ちょっと思ったけども!」
そう。俺が完全に見落としていたのは下水設備だ。
この世界では“ぼっとん処理”が当たり前で、
住人たちもさほど気にしていないらしい。
だが――もし溢れたりしたら、大惨事だ。
その前に気づけたのは、確かに運が良かった。
『ほら、また“運がウン”に聞こえましたね?』
「……お前、わざとだろ」
あのあと、ドワーフの爺さんのところに寄り、センジュ王女と詳細を詰めてほしいと頼んでから――
俺はゴブリンの魔石を集めるため、夜の森へ繰り出していた。
「この辺りはゴブリンいないな……。スライムでもいたら保護して、最終処理施設に放り込むんだけど」
『マスター、それ“保護”ではありません。“監禁”です。』
「いや、処理施設で働いてもらうだけだし……。しかしスライムが希少種なんて、初めて知ったよ。ラノベやアニメだと定番魔物なのに」
『弱肉強食の世界ですから。スライムは子供でも狩れる魔物ですし、数が減ったとしても不思議ではありませんよ。』
「そうか……なんか世知辛い世界だな……」
『向こうの世界も変わらないじゃないですか?
人の生活圏が増えて環境が変わり、滅んでしまった動植物や昆虫もいますよね』
「まあ、確かにそうだけど……。なんか、スライムは別っていうか……見てみたかったって感じかな」
『漫画やアニメでは“愛されマスコット”みたいに描かれてますからね。
マスターが言いたいことは、なんとなく分かりますよ』
「さて……スライムはもう諦めるとして、問題はゴブリンだな。倒すのはいいけど、臭いんだよね~」
『マスター、初めの頃は嘔吐しながら魔石を回収してましたしね』
「そうそう。それも懐かしいなあ」
『それより、街に近い場所じゃないとゴブリンやキラーラビットはいませんよ』
「分かってるんだけど……さっきから千里眼で見てると、下層に妙に人が多いのが気になるんだよ」
『魔法学園の実習が行われているためですね』
「なるほど。一応、身バレしたくないから変装して行くよ」
【変化】を使い、白い仮面姿に変わる。
「よし、行くか。ゴブリンがたくさんいれば助かるけど……」
『マスター、運がいいですね。下層に 膨大な魔力反応 が突然発生しました』
「え!? そんなことってある?」
『おそらく――キマイラです。
誰かが意図的に放った可能性がありますね』
「それ、コボルトたちの時と同じじゃん。
一体誰だよ、そんなタチの悪いことする奴!」
『マスター、どうしますか?』
「決まってる。そんな奴、お仕置きしないとな。
それに、コボルトたちの仇だ」
膨大な魔力が渦巻く地点へ、俺は移動を始めた。
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