闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第5話 夕食

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「……以上報告書の通り、特に目立った問題行動はありませんでした」

生真面目そうなスーツ姿の男性が資料片手に説明を終えた。

テーブルには8人の男女が席に着いており、その中で対面に座る中年男性が声を上げる。

「今まで学生らしい教育など受けてこなかったと聞いてるが、高校生として授業にもついていってるようだし、地頭が良いのか?普通では考えられんことだな」

「それに関しては、高校入学前の実力試験で優秀な成績を納めてます。社会、日本史や世界史など暗記科目は苦手のようですが、それでも平均以上の点数をとってますし数学や英語などは満点に近い点数をたたき出しています。5歳時に施設に監禁されて教育など受けていないと報告を受けてますのでその点に関しては不可解としか言いようがありません」

「昨夜は、藤倉幕僚長の娘さんに治療行為を行ったようです。特に暴走する様子も見受けられません。竜宮寺家の保護下にあるのは遺憾ですが、制御できていると判断致します」

「蔵敷拓海は、戦闘に向かない能力者だから、公にならなければ心配は無用なのでは?それより、こちらに保護している子達の方が問題あると思うよ」

40代の保護施設長の女性がそう答える。

「あの施設から保護されたのは、25人だったと記憶している。その内能力を発現している者は4人だったか?」

「ええ、発火能力者、氷結能力者、身体強化能力者、相手の心を読むサトリ能力者の4人です」

「サトリの能力者は使い所があるが、その他はどれも世に出すにははばかれる者達だな。能力の暴走などはないのだろう?」

「完全とはいきませんが、通常の生活を送れるよう教育を施している最中です」

「あの施設から逃げ出した能力者も少なからずいると報告を受けている。敵国に保護されていれば我が国の脅威となるのは間違いない」

「国民は知りませんが、既に我が国を含め世界は水面下で戦争状態にあります。これ以上戦力が傾けば一般人にも知れ渡り、経済破綻、暴動やパニックなど予想を上回る国内崩壊が起きてもおかしくはありません」

「国内が荒れれば、その隙に狙って他国の侵略が始まるわね。今現在でも表だって他国から土地の買い占めなどされている状態だし。侵入しているスパイも多数いるし、政治的な対応が早急に必要よ」

「政治家達は、権力闘争と資金集めに必死だ。現在の日本帝国を真剣に考えている議員は少ないだろう」

「時間も推してる事ですし、蔵敷拓海の件は、様子見という事で問題ないのでは?」

「あの環境から保護されて3年とちょっとで社会復帰できたのは、好結果でしょう。私も静観の方向で問題ないです」

「それでは今日はここまでにしよう」

皆は、席をたってこの部屋から出て行ったが一人だけ、紅茶をいれて嗜むポニーテールの女性が残っていた。


☆☆☆


放課後、今日もゴミ拾いをしている。
来週から中間テストなのに良いのだろうか。

「流石にアンジェはいないか?」

昨日の今日でそんなにゴミが落ちてるわけでもなく、作業は直ぐに終わってしまった。

それでもゴミは多少はあるので、焼却炉の場所まで持って行く。

「好きです、付き合って下さい」

そんな声が聞こえた。
どうやら告白の場面に出会したようだ。

「ごめんなさい」

「な、なんで俺じゃダメなんだ。俺はこれでもモテるんだぞ」

「小泉先輩のことは知っています。でも、私は誰ともお付き合いはしないと決めてますので」

うーーん、この声って結城さん?モテるんだなあー。

これがアオハルか。
俺にはよく分からないけど、甘酸っぱい感じがする。
でも、こんなゴミ焼却炉のある場所で告白なんて、もっと場所を考えた方が良かったのでは?

「誰か好きなやつでもいるのか?」

「好きな人なんていません。もう、いいですか?用事があるんで」

「ちょと待て」
「痛い、は、離して下さい」

あれ、なんか思ってた甘酸っぱさじゃない。
やはり、場所が悪かったのか?

仕方がない。

「あっ、先生。ゴミ拾い終わりました。これ置いたら帰りますね」

スマホを耳にあてながら少し大きめな声をあげる。

誰にもいないと思ってたのか、小泉という男性は掴んだ結城さんの腕を話して「チッ!くそっ!」と、舌打ちして去って行った。

その場に残された結城さんとしばし目が合う。

「蔵敷くん、もしかして見てた?」

「いや、今来たところだけど、なんかお邪魔しちゃったか?」

「ううん、そんなことないよ。逆に助かったかな」

まあ、あの状況じゃそう思うのも仕方がない。

「それじゃあ、俺、ゴミ出して帰るから」

「うん、私も帰る。蔵敷くん、頑張ってて偉いね。じゃあね」

去って行く結城さんの後姿を見て少し胸が熱くなった。

(同年代にそんなこと言われたのは初めてだ)

帰り道の足取りが軽やかだったのは別にたいした意味などない、きっと……





家に帰、鍵を開ける。
その時、声をかけた。

「霧坂さん、いつまでそうしてるんだ?」
 
「バレるはずないのに、変態のくせに鋭いわね」

放課後、ゴミ拾いしてる時からここまで隠れて着いて来てた。

「ところで何のよう?」

「護衛だよ。私の仕事知ってるよね」

「まあ、そうだと思ってたけど」

護衛という監視だけどな。

「取り敢えず、入る?お茶ぐらいだすよ」

「喉渇いてたから助かるけど、私に変なことしたらただじゃおかないから」

「楓さん、仕事で居ないし部屋には鍵がかかってるはずだから」

「先輩居ないの知ってるし、部屋に入っていろいろ漁ろうなんて考えてないわよ」

(絶対漁ろうとしてたな……)

「あっ!ドア閉めないで~~」
 
もう、知らん。




その後、何故か俺と霧坂さんは居間のテーブルでテスト勉強をしていた。

「ここわかんないんだけど」
「そこは、この公式を使うんだよ」
「そうか、気がつかなかったよ。それにしても数学得意なんて変態のくせになんか生意気」

「変態ちゃうわ!」
「でも、古典は私の方が得意みたいだね」
「ぐぬぬぬ、確かに不得意ですが、何か?」

「それにしても、楓先輩遅いね。夕飯、どうしようか?」
「楓さんがカレーを作って冷蔵庫にしまって置いてくれてる。霧坂も食べるか?」
「それって、楓先輩の手作り!頂きます、是非とも食べさせて下さい」

(ほんと、こいつって楓さん命だよな)

俺はキッチンに向かってカレーを温め始めた。
その間に付け合わせのサラダも用意する。

「何か手伝うよ」

霧坂もひと段落ついたようで、キッチンにやってきた。

「カレーとサラダでいいなら、もうできるから必要ない」
「そうか、じゃあ、お皿用意するよ」

何度かここに来ている霧坂さんは、流れるような動作で夕食のセッテングをしはじめた。

「カレーが温まったぞ。食べようか」

テーブルに着いて遅い二人で遅い夕食を食べる。
霧坂さんは、美味しそうにムシャムシャと食べている。

「さすが、楓先輩。うちのカレーより100万倍美味しいです」

「それはどうなんだ?確かに楓さんの料理は美味しいけど、100万倍霧坂んちの料理がマズいって言ってるようなもんだぞ」

「そんなことないです。お母さんの料理はとても美味しいです。美味しいの100万倍って意味で最上級の誉め言葉なんです。こういう言葉の意味を理解できないってかわいそうな脳味噌ですね」

「かわいそうな脳味噌で悪かったな。それより……うむ……」

マズい、あれは……

俺は、テーブルを乗り越えて霧坂に覆いかぶさった。

「キャーッツ、何するんだ。先輩のカレーがあああ、この変態!」

そう霧坂が叫んだ後に、窓の外に浮かんでいたドローンが窓に突っ込んできた。

大きな音をたててガラスが割れると、部屋に煙が立ち込める。

「な、なんなの、これ」

「襲撃だ。ハンカチで口を押さえろ。なるべく煙を吸い込むんじゃないぞ」

窓の外を見るとロープが数本垂れ下がっている。
ここは、マンションの上階だ。
上から襲撃者がやって来る。

「霧坂、このまま這ってキッチンまで移動だ」

換気扇が回っているので、煙は床には来ないだろう。
だが、逃げ場が無くなるのは痛い。

ロープを伝って黒尽くめの人が4人部屋に入ってきた。
ドローンは、壊れたようでカタカタとプロペラが床にあたった音をたてている。

キッチンに移動した事はバレてないと思う。
だが、相手は拳銃を持っている。
霧坂さんの前では、これはマズい。

「霧坂さん、悪いけど少し休もうか」

そう言って首トンをした。
意識を失った霧坂さんをキッチンの奥にある食材ストック用の納戸に押し込んだ。

「少し狭いけど勘弁してくれ」

さて、部屋を荒らしたツケを払ってもらおうか……




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