4 / 89
第1章
第4話 噂
しおりを挟む『明日学校行ったら大変だよ』
そんな事を霧坂さんに言われたが、一体何が大変なんだ?
通学途中で、昨夜の事を考えてみたが一向に何が大変なのか思いつかない。
『今日は学校まで車で送って行きます』
今朝、楓さんに言われたが、楓さんも弁護士の仕事があるので丁重に断った。
(楓さんには、常に世話になりっぱなしなのでこれ以上は申し訳ない)
電車に乗り、学園の最寄り駅で降りる。
当たり前の事なのだが、どうにも人の多さと規則正しい生活に慣れない自分がいた。
通学路を歩いて学園に着くと、何やら視線をあちこちから感じる。
(何だ。これが大変な事なのか?)
上履きに履き替え教室に入ると絡みつくような視線が投げかけられた。
(何がどうなってるんだ?)
この状態が理解できないまま席に着くと、スマホがブルっと震えた。
【保健室で清水先生と裸で抱き合っていたって噂になってる】
【どうにかしろ!変態。清水先生が辞めさせられたら許さない】
立て続けに霧坂さんからメッセージが送られてきた。
慌てて、霧坂の方を見たが俺の席からは後ろ姿しかわからない。
(霧坂の言ってた大変ってこの事か。平和なんだな、高校生って)
そんな感想を抱いて、俺は霧坂にメッセージを入れた。
【善処する】
俺としては清水先生がこの学校を辞めても何ら意味を持たない。
定期検診や仕事で会う機会があるからだ。
それに俺自身も噂を立てられても痛くも痒くもない。
面倒臭くなったら辞めればいいだけだ。
だが、清水先生にとっては由々しき問題だ。
社会的地位もあるし、未婚の女性にとってはこの噂は将来の障害となる。
(さて、どうしたものか)
それにしても噂が広がるのが思ったより早い。
2組の女生徒に見られて噂が広がったのは間違いないが、霧坂の態度からして昨夜のうちには既に知られていたと考えるべきだ。
そうか、SNSという手段があったな。
スマホを最近買ってもらった身としては、まだまだ使いこなせていないが、この小さな機械で様々な事が出来るのだと知識として知っている。
「よお、色男。年増女の抱き心地は良かったか?」
声をかけてきたのは、前の席の海川君。
大きなバッグを担いで今来たようだ。
「…………」
その質問に答えるわけにはいかない。
「何か言ったらどうなんだ?クソ陰キャでもやる事やってんだな。あはははは」
思わず手に力が入ったが、ここで暴れるわけにはいかない。
その時、教室内が騒がしくなり俺に声をかけてきた人物がいた。
「おはよう、蔵敷君。この前以来だね」
「キャーッ」
「生徒会長よ」
「立科様、かっこいい」
「イケメンだよねー」
主に女生徒からの声が騒がしい。
目の前で声をかけてきたのは、この学園の生徒会長こと3年生の立科孝志。蔵敷家の親戚にあたる人物だ
「ど、どうも先日ぶりです」
3月の雛祭りの日に竜宮寺家主催のパーティーがあった。
その時に紹介されて知り合った人物だ。
「蔵敷君、生徒会室に来てくれるかな?少し話をしよう」
「わかりました」
「君、少し蔵敷君を借りるよ」
「は、はい、どうぞ」
生徒会長は、海川君にひとこと言って俺を生徒会室に連れて行った。
☆☆☆
「ちょうど良いタイミングみたいだったね。拓海君」
生徒会室に入ってそう言われた。
「ええ、助かりました。あと少し遅ければ手を出していたかもしれません」
正直に答えると「拓海君は意外と短気なんだね」と、胡散くさい微笑みを浮かべながら言葉を返された。
「話というのは、清水先生との噂の件ですか?」
「まあ、そうだね。君の事を知っているのは校長や私、それと霧坂さんだけだし、その他の人には君が竜宮寺家の縁のある者とは知らないからね。清水先生が君の担当医とかね」
「………」
(この人には俺の治癒能力のことは知らないはずだけど)
「こういう噂は、断ち消えるのを待つのが一番なのだけど、イジメに発展しかねない事案でもある。だから、早急に解決しようと思って動いたわけなんだが、余計なお節介だったかな?」
「いいえ、自分のことは気にしないのですが、相手がいることですし、どうしようか迷ってましたので助かります」
「うん、わかった。この件は僕に任せてくれ。まあ、2、3日もすればおさまるだろう。竜宮寺家や清華さんからも君の事は頼まれてるしね」
(そういうことか……)
清華さんとは蔵敷清華。俺を養子に迎えてくれた竜宮寺家、当主の奥さんの妹であり俺の養母でもある。
そして立科孝志は蔵敷清華の姉を母に持つ。
つまり、立科家は三姉妹のうち婿を迎えて家を継いだのが長女の晴美、次女瑞希は竜宮寺家の当主の妻、三女清華が蔵敷家に嫁いだのだ。
だから、生徒会長と俺は血の繋がりのない従兄弟というわけだ。
「ご迷惑をおかけします」
「いや、構わないよ。拓海君と僕は従兄弟なんだから迷惑なんて思ってないよ。それより、明日香ちゃんが君に会いたがっているよ。連絡はしてるんだろう?」
明日香とは竜宮寺明日香。現在、小学6年生。
俺が治療して竜宮寺家と縁を結んでくれた娘だ。
「高校入学時にスマホを買ったので、直接連絡を取り合っていませんよ」
「そうか。だから、僕に拓海君の様子を聞いてくるんだ、納得したよ。明日香ちゃんの連絡先を知ってるけど僕から教えるのは筋違いかな。今度、時間がある時にでも竜宮寺家に行ってもらえるかい。その時、直接連絡先を交換した方がドラマチックだろう」
「わかりました。中間テストが終わったら行こうと思います」
「うん、きっと明日香ちゃんも喜ぶよ。それと、琴香ちゃんもこの夏イギリス留学から帰って来ると聞いたよ。この学園に転校して来るんじゃないかな。拓海君と同じ歳だし仲良くしてあげてほしい」
琴香こと竜宮寺琴香は、竜宮寺家の長女で明日香ちゃんの姉にあたる。
「そうですか、わかりました」
「うん、じゃあ今週の金曜まで校庭のゴミ拾いをしてくれるかな。誤解といえども、学園を騒がしたという名目上の罰は必要でしょう?」
「……はあ、わかりました。やればいいんでしょう」
「うん、宜しくね」
(優秀なのはわかるけど、ほんと喰えない人だよ、この人は)
☆☆☆
クラスに帰ると奇異の目で見られた。
今度は生徒会長との関係を噂のネタにしているのだろう。
話しかけてくる人もいないまま、あっという間に放課後となる。
俺は用務員さんからゴミ袋を受け取り校庭のゴミ拾いを始めた。
綺麗に見える学園の校庭もよく見るとペットボトルや飲み終えたパックジュース、ストローの包装ビニールや紙屑など意外とゴミが落ちていた。
それらを拾い集めていると下校する生徒達がヒソヒソ内緒話をしながら通り過ぎて行った。
「言いたい事があるのなら直接声をかければよくないか?」
つい独り言を呟くと『そうだよね~~』と、どこからか声が聞こえた。
周囲を見渡しても誰もいない。
遠くの方に男子生徒がいるが、そこから聞こえるはずもなく、ましてや声の質から聞こえたのは女性の声だった。
『ははは、たっ君ここだよ』
この声は……それに俺の事をたっ君と呼ぶのは……
古い記憶の残骸から、ひとりの人物を思い出す。
「まさか、アンジェか?」
『正解だよ。たっ君』
アンジェ、またの名をBー69号。監禁されていた施設で知り合った友人だ。
「生きてたのか‥‥良かった」
『うん、生きてたよ。襲撃があった時に逃げ出したんだ。たっ君探すのに苦労したよ』
「姿は……」
そう言いかけた時アンジェが遮った。
『ダメだよ。たっ君は監視されてる。見つかったら私まで捕まっちゃう』
「監視されているのは知ってる。俺の立場は闇組織から国に変わっただけだしね」
『国だけじゃないよ。組織の連中もたっ君を見つけたんだ。だから、私がいち早くたっ君に会いにきたってわけ』
「まさか、アンジェは組織側の人間なのか?」
『違うよ。今はフリーさ。情報得るために潜り込んだだけ。そしたら、Aー18号がたっ君を見つけたって本部に連絡があったんだ。それを聞いたってわけ』
「そうか、しかし大胆だな。本部に潜り込むなんて。それにとうとう見つかったか。相手がエースナンバーじゃ手こずりそうだな」
『近いうちに接触して来ると思うよ。たっ君気をつけてね』
「それを言いにきてくれたのか?」
『勿論だよ。たっ君と私は親友だからね』
「ああ、そうだな。アンジェとは親友であり戦友だ」
『へへへ、嬉しいなあ。あ、そこにゴミ落ちてるよ』
下を見て落ちてるゴミを拾いあげるとアンジェは
『そろそろ行くよ。また、会いに来るから』
「もう、行くのか?せめて姿を……」
『じゃあね、バイバイ』
その声を最後に、声は聞こえなくなった。
「風邪引くなよ」
誰もいない校庭の隅で俺が呟いた声を誰も拾い上げてくれなかった。
ーーーーーーーー
登場人物
立科孝志(タテシナ タカシ)
英明学園 3年1組 生徒会長
誕生日 4月18日(18歳)
拓海とは血の繋がらない従兄弟にあたる。
アンジェ(Bー69号)
拓海が監禁されていた組織で同じく監禁されていた人物
能力者であり、拓海の友人。
122
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる