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第1章
第3話 治癒
しおりを挟む「では、内海自衛官は同室させてもらえるのですね?」
「本来は身内以外は、立ち入りを拒むところですが、そちらの立場もある事ですし、女性なので構いません」
望月司令の言葉に淡々と答える楓さんは、普段の様子に戻ったようだ。
俺としては誰にも見られたくないのだけど、仕事としてお金を得る以上そうも言っていられない。
過去では問答無用で治療させられていたけど、その時の事を思い出すだけで吐き気が襲ってくる。
男性達が退室して、部屋に残ったのは楓さん、清水先生に霧坂さん。それと、自衛官の内海凪沙二等曹士の4人だ。
「すみません、質問よろしいでしょうか?」
内海さんが緊張しながらも芯が通った声で問いかけた。
「何でしょうか?」
「美咲、藤倉二等曹士は、既に治療を受けております。手術を請け負った担当医師との面会で、これ以上の治療は現代医学では無理ですと答えてました。今回、治療するという事ですがどのような治療なのでしょうか?美咲にこれ以上何かあったら私は‥‥グスン」
楓さんが聞き返したのは良いが、内海さんは会話の途中で涙ぐんでしまった。
静まり返った部屋の中で、眠っている患者の呼吸音だけが響いている。
「内海さんには詳細を知らされてなかったみたいだね。さっき出て行ったクソ男……男性自衛官の人もそうなのかな?治療はそこの白衣を着ている少年がするんだよ。治療名は再生医療。現代医学ではなし得ない超能力医療なんだ。だから、わかっているよね。さっきもサインしたようにここでの事は絶対誰にも漏らしてはダメだよ」
「えっ!?」
清水先生が代わりに説明してくれたけど、何で霧坂さんが驚いてる?
(詳細を説明されてないのは霧坂さんも同じか……)
「そろそろ始めたいのですが……」
これ以上、時間を取られたくないので、俺はみんなに向けて話しかけた。
「わ、わかりました。失礼しました」
内海さんは、焦ったように謝罪した。
「清水先生、患者の服を脱がしてもらっても良いですか?治療を施してる包帯やガーゼも、それと、点滴も抜いて下さい」
「うん、わかった」
清水先生は慣れた様子で患者の身ぐるみを剥いでいる。
治療行為が初めての霧坂さんや内海さんは何か言いたいようだが口を結んでいた。
清水先生によって患者が全裸になると、俺はその傷を注視して問いかけた。
「右指の欠損と右目の喪失。それと思った以上に肩から胸にかけての傷が酷いね。これは機銃の傷じゃないみたいだけど」
「持っていたメガホンにも弾が当たったんです。その破片が右眼に、その時の反動で壊れたメガホンが胸に突き刺さりました‥‥ぐすん」
内海さんが涙ぐみながら詳細を話してくれた。
(そうか、だから胸が抉れてるような傷ができたのか)
「そうでしたか。でも何で甲板からメガホンで警告したんだろう?」
「それは、秘匿事項なので詳細は言えませんが、その場に応じた適切な対処だったと言えます」
(そういうこともあるのか?俺が深く考えても仕方がないことだな)
「わかりました。では、治療を始めます」
そう言って痛々しい患者の胸に両手を当てて眼を閉じ能力を発動させる。
「うっ……」
痛みが襲ってきたので、思わず声が出てしまった。
何度も経験しているが、この痛みが慣れることはない。
俺の治癒能力は、患者の負った怪我の痛みと同じ経験をしてしまう。
怪我の度合いにもよるが、今回はかなりの痛みだ。
(辛いのはそれだけではないのだが……)
ここで、気を失ってしまったら傷は元に戻ってしまう。
だから、全てが終わるまで意識を保っていなければならない。
「凄い……」
内海さんじゃなく霧坂さんが驚いている。
清水先生は患者を、楓さんは俺が倒れないように支えてくれていた。
「胸は完治、次は右目よ」
清水先生の言う通りに今度は手を右目に当てる。
痛みで意識が飛びそうだ。
「拓海様、もう少しです」
右目の再生が終わったと感じたので、手を欠損した患者の手に当てる。
「ああああああ」
内海さんの言葉にならない声を聞きながら、指の欠損に集中する。
ぐにゃぐにゃと指が生えてくる瞬間は、患者本人によれば痛みはないけど、気色悪い感じを受けると聞いた。
今回、患者は薬で寝ているので感想は聞けないだろう。
「う、うそ。本当に……」
さっきから霧坂さんの声が煩い。
だが、そのおかげで意識を保っていられた。
「右指の欠損、治療完了。目の方は本人が起きてからじゃないと確認出来ないけど、拓海君、大丈夫なのよね?」
「問題ないです。この後、清水先生が確認するのですか?」
「うん、そうだよ。だって他の医者に見せられないじゃん」
そう言った清水先生の声を聞いて、俺は意識を手放した。
『拓海様!』と、叫んでいる楓さんの声が聞こえた気がした。
☆☆☆
心地よい揺れの中、俺は眼を覚ました。
眼を開けると、覗き込んでいる霧坂さんの顔が目に入った。
「お、おはよう」
「夜だけどね」
焦った俺はそんな言葉しか出て来なかった。
「何で霧坂さんが?」
「私の膝枕じゃ不満なの?」
そうか、霧坂さんが膝枕!?
慌てて起き上がると、視界がふらつく。
「もう少し寝てなさい」
そう言われて手で押し付けられ、また元の位置に収まった。
「俺、どれくらい寝てた?」
「30分ぐらいかな。今は帰る途中よ」
(そうか、車の中か)
「もう大丈夫。ありがとう霧坂さん」
そう言って再度起き上がった俺は、バックミラーに映る不安そうな楓さんと目が合った。
「楓さんにも心配かけたね。もう大丈夫だから」
「良かったです。拓海様……できれば柚子と代わりたかったのですが柚子はまだ運転できませんので仕方なく」
治療後に意識を失うのは今回が初めてではない。
頻度は少ないが、その度に楓さんには心配をかけてしまっている。
「拓海様、今日は体調が悪かったのですか?」
楓さんがこんな質問をしてくるのには、訳がある。
もっと重症な患者を治療したときにも意識を失わなかったからだ。
「そんな事はないよ。至って健康だよ」
「そうですか……何かありましたらおっしゃって下さいね」
少し寂しそうな声だと思ったのは間違いないと思う。
治癒能力の代償には、患者の痛みを共有する事以外にもあるのだが、その事は過去の組織の人間や良くしてくれている楓さん達にも話していない。
それでも、楓さんや清水先生は何かあるのではないかと勘づいている。
「でも、凄かったね。グロくてキモかったけど」
治療を初めて見た霧坂さんは、興奮気味に話した。
「確かにグロいし、キモいよな」
指が生えてくる瞬間とかそれ以外の表現なんて思いつかない。
「柚子、言葉を慎みなさい。拓海様の能力はかけがえのないものなのです」
「は~~い」
楓さんの言う事は素直に従うようだ。
「清水先生は患者さんのところ?」
「そうです。眠りから覚めたら診察する必要がありますからね」
(清水先生は残業か、手当は出るのか?)
「拓海様はお疲れみたいですので、少し飛ばしますよ」
車はスピードを上げた。
窓の外を見て、夜の高速はネオンが綺麗だなと、ありきたりの事を思っていたのだが、霧坂さんが『明日学校行ったら大変だよ』と、そっと耳打ちをしてきた。
えっ、何が?
☆☆☆
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暗闇の中、ビルの屋上から走り去るワンボックスカーを見つめる人影があった。
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