闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第24話 雲仙家

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俺と修造爺さんは、雲仙家にお泊まりすることになった。
清水先生は、患者の容態を君崎先生と一緒に検査する為、病院に残った。

雲仙家の執事である向井さんも病院に残り、俺と修造爺さんは雲仙家の車でこの屋敷まで来ることになった。

雲仙家は、純和風のお屋敷なのだが、既に夜のため自慢の庭は拝見できなかった。

家の中に入ると、畳の匂いがして心が落ち着く感じがする。
広い畳の部屋に通されて、家の人達を紹介された。
奥さんの雲仙美鈴、長男で中学3年生の雲仙親徳。
前当主の奥さんで和紗ちゃんのお婆ちゃんにあたる雲仙絹枝。

これらが雲仙家の人達だ。
それから、屋敷に仕える人達もたくさんいる。

「まずは、蔵敷君。和紗を救ってくれてありがとう」

和紗ちゃんに能力を使ってから何度もお礼を言われている。
だが、みんなの前でこう畏まって言われると落ち着かないものだ。

「こちらこそ、このような立派なお屋敷に泊めてもらうことになって恐縮です」

「蔵敷さん、主人から聞いてはいるのですが、本当に和紗は治ったんですよね?」

治療現場を見ていなければ眉唾ものだろう。
植物人間として生きていくしかないと医者に宣告されていたらしいし。

「はい、以前と変わらず元気になりましたよ。既に歩けてると思います」

「ああ、まさに奇跡です」

「そんなことが本当に?でも、和紗が元気になったんなら僕は何でも嬉しい」

奥さんや長男も喜んでるようだ。
お婆ちゃんなんか手を合わせて俺を拝んでるし……

「今、スマホで繋がっている。見てみるが良い」

【お母さん、お兄さん、お婆ちゃん、和紗、治っちゃった。へへへ】

スマホのビデオ通信でその様子が映し出された。
今にも会いにいきたそうな奥さんとお兄さんは、覗き込むように総一郎さんのスマホを見ている。

「ほんとだ。和紗ーー!」
「良かった、ほんとに良かった……」
「ありがたや、ありがたや……」

泣きながら小さな画面を見つめて会話してる。

「蔵敷君、ところで御礼の件だが」
「私は依頼を受けてこちらに来ました。詳しい話は竜宮寺家に任せてます」

「勿論、竜宮寺家には相応のお礼をするつもりだ。私は蔵敷君個人に聞いたのだ。何か要望はあるかね。私にできることなら誠意を尽くすつもりだ」

そんなこと言われても……
考えが浮かばないので、修造さんをみると、

「酒飲んでるし……」

目の前にある食卓の酒をちびり、ちびりと飲んでいた。

「何、酒が欲しいのか?」
「いいえ、違います。特にないので困ってしまって」
「そんな欲のない事を言わないで欲しい。何かないか、さあ、さあ、さあ」

総一郎さんは結構急かすタイプらしい。
だけどいくら考えても欲しいものなど検討もつかない。

「じゃあ、貸しひとつって事で良いですか?」

昔、誰かの記憶を読んでそんな事を言ってた気がする。

「わかった。その時は雲仙家の名にかけて蔵敷君の期待に応えよう」

なんか上手くまとまったようでよかったです。
しかし、エロジジイ。酒飲んでないで少しは仕事しろよ!

雲仙家の人達は代わる代わるスマホのビデオ通信で和紗ちゃんとお話ししている。

お婆さん、さっきから俺に手を合わさないで。

俺と総一郎さん、それと修造爺さんは遅い食事を嗜みながらその夜は更けていくのだった。



朝、目覚めると雨音が聞こえる。
処方された薬を飲んで寝たおかげか、ゆっくり寝れた気がした。
だが、身体が少し寝汗をかいた後のように気持ち悪い。
おそらく悪夢を見たのだろうし、うなされたのだろう。
起きれなかったのは薬を飲んだからだと思う。

俺は布団を畳んで、障子を開ける。
背丈の低い庭木の葉が雨を含んで垂れ下がっている。

「蔵敷様、おはようございます」

襖で仕切られた別の部屋から女性の声がかかる。

「おはようございます」

誰かわからないが、挨拶をしておくべきだ。

「朝食のご用意が出来ております。昨夜お越しになったお部屋までご案内いたします」

「わかりました。着替えますのでしばらくお待ちください」

確かに案内してもらわないと、たどり着ける自信がない。
それだけ、この屋敷の部屋数は多いのだ。

シャワーを浴びたいが、とりあえず私服に着替える。
そして、仕切られた襖を開けると、着物を着た中年女性が正座して待っていた。

「あ、おはようございます」

また、挨拶してしまった。
少し恥ずかしい。

「蔵敷様、こちらでございます」

その女性に案内されて昨夜みんなが集まっていた部屋に向かう。
雲仙家の人々は、既に病院にでかけたようで、配膳には一人分のお膳しかなかった。

「皆さん、お出かけですか?」
「はい、朝早く病院に向かわれました」

「あの、霧坂修造さんは知りませんか?」
「あの方なら既にお食事を済ませられて、行くところがあると言ってお出かけしました」

そういえば今何時なんだろう。
この部屋には時計はないし、スマホは清水先生に預けている。

「すみません、今何時でしょうか?」
「午前10時になります」

そんな時間だったのか……

「すみません、寝坊したようです」

「構いませんよ。和紗様を救って頂きました。そのお力は負担がかかると伺っております。ゆっくり休んでもらえと当主様からも言われておりました」

「そうでしたか、ご迷惑をおかけします」

「ご迷惑なんてとんでもございません。そんな事を言われたら当主様に私が怒られてしまいます」

恐縮するようにそう言われてしまった。
そのような物言いは、相手に失礼なのかもしれない。

「ところでひとつお聞きしたいのですが?」
「何なりと」
「和紗さんが誘拐されそうだったのですか?」

これは昨夜あの少女に力を使った事で得た知識だ。

「はい、和紗様が誘拐されそうになっておりました。友人の遠峰沙耶香さんは、その巻き添えに遭い怪我をされましたが、軽傷です」

「私には、友人が誘拐されそうになったのを和紗さんが助けて車に轢かれたと聞きました」

「ええ、これは内密なお話なのですが、和紗様が助からないというお話でしたので、話をすり替えたのでしょう」

そういうことか……美談にしたかったのかもしれない。
メンツを重んじる名家も大変だ。

「事情がお有りだったのですね。詳しいお話を聞くのはやめておきます」

「その友人の子は入院されているのですか?」

「いいえ、病院で手当を受けてその日にお帰りになりました」

ほんとに軽傷だったようだ。

「そうだったのですね。怪我が酷くなくて幸いでした」

遅い朝食を食べ終わって、庭が見える縁側に腰掛けて外を見る。
雨が降る日本庭園も乙なものだ。

「凄く綺麗な場所だ。こういうところでのんびり暮らせたらなあ」

「それでしたら、いつまでもここにいてもらって構いませんよ」

独り言のつもりが誰かに聞かれてたようだ。
声のした方をみると、藤であしらえた椅子に俺を拝んでいたお婆さんがいた。

前当主の奥さんで雲仙絹枝さんだ。

「失礼、絹枝さんがいらしたのですか?誰もいないと思って呟いてしまいました」

「ほほほ、先程言ったことは本心ですよ。蔵敷さんがいたければいつまでもいて構いません。貴方は和ちゃんを救ってくれた仏様の化身ですので」

なんか仏様になってるが?

「俺、その仏様とかじゃないです。ただの人間です」

「ほほほ、そういうことにしておきましょう。以前、この地域に流行病が発生して、たいそうな人が亡くなったらしいです。そのため、薬師如来様をお祀りして熱心に信仰したそうです。そのおかげか、この地域では流行病が起きてないのですよ」

(そういう言い伝えがあるのか)

「そうでしたか、それはご利益のある仏様ですね」

「婆も和ちゃんが事故に遭ってから毎日如来様がお祀りしてある御堂に出かけてお願いしておりました。そしたら奇跡が起きたんです」

(それが俺って言いたいわけか……俺はそんな特別な存在じゃない)

「和ちゃんが助かったのは大変嬉しゅうございます。ですが、助けてくれた貴方は救われてるのでしょうか?
 昨夜から貴方を拝見しておりました。どうも、心に傷を負っているように思われます。おそらく想像もつかないほどの傷みでしょう。
 和ちゃんが救われても治していただいた貴方が救われなければ意味がありません。
 いつか貴方が救われるように、このお婆は命ある限り仏様にお祈りいたしとう存じます」

そう言ったお婆さんの目には、温かそうな涙を浮かべていた。

(つまり、この婆さんが手を合わせてたのは、俺が救われるようにと……)

「そうですね。俺も救われたいです」

今はそれしか言えなかった。

降りしきり雨は次第にその音を強くさせていた。



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