闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第25話 拉致

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その日の夕方、雲仙家の人々と一緒に清水先生も雲仙家にやってきた。
和紗ちゃんの容態は既に走れるほど良くなっており、おりを見て退院するそうだ。

清水先生は、君崎先生の申し出に困ってしまって精神的に疲れてるみたいだ。

おそらく、他の患者の治療をお願いされたのだろうが、俺にその事を知らせるつもりはないらしい。

「拓海君、ハグして~~」

夕食時にお酒を飲んですっかり出来上がってしまった清水先生はみんながいるのにところ構わずそんな事を言ってくる。

俺はどうにかそれを回避してやり過ごさなければならなかった。

そういえば、修造爺さんを見ていない。
どこに行ったのかおおよその予想がつく。
多分、繁華街を梯子しているのだろう。
全く肝心な時に役に立たない護衛だ。

雲仙家の人々はそんな俺と清水先生とのやりとりを見て笑っていた。





東北地方にある都市の駅近くのビルの屋上で、眼を閉じて瞑想するような女性がいた。
その女性のすぐ近くには厳つい男性が座り込んでいる。

「奴らの足取りは途中で途絶えた。船で沖に出たようだ」

「そうか、いくらお前の能力でもそこまでは追えないか」

「まだ、残党がホテルに宿泊してる。また、やるつもりだ」

「一人成功してるんだ。先日の失敗は奴らにとっても痛かったんだろうぜ」

「少し面白い情報があるけど、どう?」

「なんだ、それ?」

「Cー46号がこの街に来てる」

「ハハハ、なんだそれ、面白いじゃねえか」

「だが、私達はBOSSから、彼との接触を禁止されている」

「簡単じゃねえか、これをあいつらに教えてやりゃあ動くだろ」

「私もそのつもり、こんなとこいつまでもいられない。美味しいお菓子が食べたいし」

「じゃあ、早速教えてくるよ」

「そう慌てるなって。場所知らないだろう?」

「そうだった、どこに居る?」

「雲仙家という名家らしい。その子供を治療したようだ」

「はーそれって、誘拐失敗した子だろう?」

「そういうことだ。何の因果かな?」

「わかった、じゃあ行くわ」

その男は、一瞬で駅ビルの屋上まで移動した。

「あのクソ男ももう少し距離が伸びれば便利なのに……」

女性が呟いた声が街の喧騒に紛れ込んだ。




 
昨夜は酷い目にあった。
最終的に酔っ払った清水先生に捕まって、朝まで抱き枕がわりにされてしまった。

(大人はこうやってストレスを解消するのか?)

今日は、東京に戻るつもりだ。
一応、俺は入院中のはずだし。

修造じいさんは、結局帰ってこなかった。
一緒にいればどんなエロ話しをされるかわかんないし、清水先生にキレられても面倒だ。

(置いて行こう、うん)

そして、雲仙家とお別れの時間となった。
雲仙家の運転手が駅まで送ってくれる。
それから新幹線で東京まで戻る予定だ。

雲仙家の皆さんが総出で見送りしてくれた。 

清水先生は、二日酔いのようだ。
隣で苦しそうなので、黙って手を握り能力を使った。

「拓海くん、私なんかに使わなくても、でもありがとう。楽になったわ」

すっかり元気を取り戻した清水先生は、おしゃべりしはじめ、病院で起きた出来事と君崎先生の愚痴が止まらない。

あと少しで駅という交差点で赤信号のため止まっていたら、怪しい車が激しいブレーキ音と共に横付けして来た。

車の中の外国人らしき人物達は、こちらに向けて拳銃を構えている。

「拓海くん!」

清水先生は、咄嗟に俺に覆い被さった。
嬉しいが、今はマズい。
対処ができない。

窓が破られ、ドアが開けられた。
街中での暴挙に犠牲者を出さずに解決する案が見当たらない。

清水先生と俺は車から引きずりだされ、抵抗虚しく黒塗りの車にあっという間に入れられた。





眼を覚した場所は機械油の匂いがする薄暗い場所だった。
車に入れられた時に睡眠ガスを嗅がせられたので、少し頭が朦朧とする。

不規則に揺れる今いる場所は、陸地ではない感覚をうける。
睡眠ガスのせいではない。

「そうだ、清水先生!」

周りを見渡すまでもなくすぐ横で寝かされている。
生きてるとわかるのは、呼吸に併せて身体が動いているからだ。
ロープで拘束されている姿を見て、自分も同じように拘束されているのだと理解できた。

「清水先生も薬で眠らされていたか……」

頭が痛んできたので自分に回復を使う。
スッキリした頭で状況を考える。

襲ってきた奴等は、西洋人のようだった。
目出し帽を被っていたが、瞳の色が青かった。

しかも、手慣れている。
この間、襲ってきた大陸の軍人とは雲泥の差だ。

「他国の軍人、若しくは……」

「状況確認は終わったか?クラシキタクミいやCー46号と呼んだ方がいいか?」

少し離れた扉のある場所に、拳銃をクルクル回し椅子に座っている男が話しかけてきた。

(最悪だ、こいつらあの組織の連中だ)

「お前らは誰だ?」

「まだ、わからないのか?お前を育ててやった恩を感謝してほしいね、言うなればお前の親のひとりさ」

くそっ!最後の期待も閉ざされた。
新組織の連中なら話し合いでどうにかできるかもしれない。でも、こいつらは、旧組織の連中だ。

「日本人の子供を攫えって言われてたんだが、最近は周りが煩くってな。だが、Cー46号の情報くれた奴がいて、こうして連れてこれてラッキーだったぜ。何せお前は目ん玉くり抜いても内臓切り取っても再生する。必要な臓器が取り放題だ、あははは」

ふざけんな!
二度とお前らに好き勝手させるか!
だが、清水先生がいる。
そして、ここはおそらく海の上だ。
敵地に着くまで我慢しなければ……

「俺はどうなってもいい。この人に手を出さないと約束してくれ」

「随分まともになったじゃねえか、そうか、あの時は薬でわからなかっただろうしな。まあ、この女を今のところどうこうするつもりはねえ、俺は日本人の女は反応悪くて好きじゃねえしな。だが、そういうのが好きな奴もいる。命さえあればお前が治せる。そいつらの処理に使わせてもらおうか」

こいつらに捕まった時点で、死んだも同然だ。

だが、俺は昔の俺とは違う。
今度は遠慮しない。

姉さんの仇なのだから……





「上手くかかったね」

「ああ、あそこまで上手く行くとはな」

「この間の奴らが弱かっただけだよ」

「そういうこった」

「じゃあ、追跡するよ」

「俺は仲間に連絡を入れる。おそらく向かった方角から船を使うだろう。それも手配しとく」

そう言ってその場から消えた。

「Cー46には興味あったんだよね~~あのクソったれな施設で唯一、私達と絡む事なく、監禁され続けてたあいつ。
任務で怪我して治してもらった子も多いって聞くし、いつも虚で何考えてるかわかんない子だとも聞く。
今のあんたはどうなんだろうねえ」





結城茜 視点

『ガシャン!』

「拓海様が……」

電話に出た楓さんが紅茶の入ったティーカップを落としたまま固まっていた。

「楓さん、大丈夫ですか?今、拭きますから」

私はキッチンに行ってフキンを持ってくる。
だけど、楓さんは微動だにしないで、電話を続けている。

「それで、どこに……港から船で……ええ、香織も一緒に……」

胸騒ぎがする。
拓海君に何かあったに違いない。

「わかりました。私は行きます!」

強い意志を感じた。
裁判の件もあってここのところ忙しく私も働いていた。
でも、こうして働けるのも拓海君のおかげだ。

拓海君に何かあれば、私は……

「結城さん、お願いがあります」

割れたティーカップを拾い集めていたところに声をかけられた。
電話は終わったようだ。

「今回の公判は、今ある資料で行きます。次回の公判で勝負に出ます」

普段は言わない力強い口調だった。

「拓海君に何かあったんですか?」

「……拓海君は拳銃を持った集団に連れ拐われました。香織も一緒です」

「えっ……」

思ってた以上の衝撃だった。
心配で胸が痛い。

「私はすぐに現地に向かいます。結城さんにお願いしたいことは……」

「今度の裁判の資料編成ですね。任せてください」

「すみません、仕事を投げ出すような行為をして」

「拓海君の安否の方が大事です」

「結城さん‥‥ありがとう」

そっと頭を下げた楓さん。
その姿を見るのは2度目だ。
だから、私は……

「できる得る証拠を集めて、資料にまとめておきます」

そう答えるのが精一杯だった。






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