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第1章
第63話 新幹線
しおりを挟むコーヒーの香りが漂う診察室脇の休憩室で清水香織は、ある資料を見て悩んでいた。
それは東北の病院に勤務する君崎先生からの依頼書だった。
「拓海君、来週から期末テストだし、でも、これって割と緊急なんだよね」
君崎先生からの依頼の資料。それには担当する患者の様子が事細かに記載されている。
「若年性ポリポーシスか」
全消化管に良性のポリーブが発生する難病の病気。
前回の手術で取り除けたのは良いがまた発症している。
今度も手術を行う予定だったが、高熱が続き手術を先延ばしにしてる状態か……
「熱だけでも苦しいよね。こんな小さい子が頑張ってるんだ。一応拓海君に聞いてみるか」
私は、電話をとりまずは楓ちゃんに連絡を入れた。
☆
家に帰ってから楓さんから話があった。
何でも前に雲仙家の病院で治療した時の担当医師が依頼してきたようなのだ。
「小学一年生の男の子なんだね」
「はい、高熱が続いて手術ができない状態らしいです」
「わかった、引き受けるよ。いつ出発する?」
「来週から期末テストですけど大丈夫ですか?」
「移動中でも勉強できるし大丈夫だよ」
「わかりました。香織に連絡を入れておきますね。拓海様は出かける準備をしておいて下さい」
そう言われて自室に戻り、バッグに着替えなどを入れてるとドアがノックされた。
入ってる来たのは柚子だ。
「話は聞いた。私も行くぞ」
「そうなのか?期末テスト前だけど大丈夫か?」
「日頃から勉強している。それに多少成績が落ちても人の命には変えられん」
そういうところが柚子らしい。
俺はこんな素直に言葉にできない。
「そうか、俺は用意できたよ」
「ああ、私もさっき済ませた」
リビングに行くと楓さんが連絡していた。
「あ、拓海様、18時20分の新幹線の予約が取れました。病院には21時迄には着きそうです」
能力による治療は、少しでも人目がない夜の方が都合が良い。
「1時間ほど時間があります。軽く何か食べますか?」
「サンドイッチがいいな」
「わかりました」
楓さんがキッチンに向かおうとすると、坂井さんがトレーにサンドイッチと紅茶セットを運んで来てくれた。
それを見て、楓さんが何故か両手を床につけて落ち込んでた。
そんな楓さんを見て今度は柚子がオロオロと動き回っている。
「あら、余計な事をしちゃったかしら?」
「そんなことないです。助かるのですが」
楓さんは立ち上がって、背筋を伸ばすのだが、どこか落ち着かない様子だ。
「坂井さん、ありがとう。でもタイミング良すぎて謎なんだけど」
「竜宮寺家では当たり前のことなんですよ」
流石、侍女長をしてただけはある。
テーブルに置かれたサンドイッチを食べようとしたら、既にルミが座っていてサンドイッチを食べていた。
「おいしい」
「ルミ、いつの間に」
「さっき。タクミどっか行くの?」
「治療しに行くんだ。新幹線に乗って」
するとルミが顔を近づけてきた。
「新幹線!ルミも行く」
こんな積極的なルミは初めてだ。
「ひかり?こだま?」
食いつきがすごい!
「こまちですよ。ルミさんも行きますか?」
楓さんが尋ねると「行く」と元気よく返事をした。
楓さんは、スマホで予約をし始めた。
「ルミ、新幹線好きなんだ」
「一度乗ってみたかった。こまちは赤色の新幹線だよね?」
「俺はよく分からないよ。そうなの?」
「おそらくそうだと思う。それよりルミ、着替えとか用意するぞ」
そう言って柚子はルミの部屋に一緒に行った。
☆
「タクミ、窓開かない」
一生懸命新幹線の窓を開けようとするルミ。
「新幹線の窓は開かないんだよ」
「どうして?」
「詳しく知らないけど、スピードがでてるし危ないから危険防止のためじゃないかな」
「そうなんだ。初めて知った」
ルミは隣に座って窓の外を眺めている。
楓さんと柚子はすぐ後ろに座っており心なしか柚子の機嫌が良さそうだ。
「速いね。街の光が流れるみたい。あ、またトンネルに入った」
「ほんとだ」
「何でトンネルが多いの?」
「はて、なんでだろう?」
すると柚子が後ろから身を乗り出して、
「新幹線は時速200~300キロで走るから、急カーブとか脱線事故を起こすしダメなんだ。なるべく直線を走るように設計されている」
「だってさ。だから進行方向に山があっても除けないでトンネルにしたんだね」
「そうなんだ。じゃあ海の上を走れば障害物ないよ」
「それだと横風が強くて危なかったり、景観が悪くなったりしてダメだったんじゃないかな。詳しくは知らないけど」
「あ、トンネル出た」
ルミは楽しそうにこの後も外を見つめていた。
☆
駅に着きタクシーに乗って以前来た病院に行く。
ルミにとってタクシーも初めての経験で「お金を払えばどこにでも行ってくれるの?」と言ってタクシーの運転手を困らせてた。
「海外とか行けないからな」
「そうなんだ。世界一周とかできないんだ」
入国審査とかいろいろあるし現実的ではないが、実際いくらぐらいかかるのだろうか?
病院に着くと楓さんが受付の人に君崎先生を呼び出してもらった。
今日は清水先生は来ていない。仕事の都合で来られないと残念がっていたそうだ。
待合室で少し待っていると君崎先生が慌てて降りてきた。
「こんなに早く来てくれてすまない」
そう言葉を発して楓さんと名刺交換していた。
楓さんは君崎先生と会うのは初めてだ。
「前の書類にサインをしたのだが、またするようですか?」
「いいえ、君崎先生は大丈夫ですが、他のスタッフや患者さんのご両親には頂かないと困ります」
「スタッフは前回のメンバーを集めましたから問題ありません。では、病室にごあんなします。ご両親はそちらにおりますので」
エレベーターで上階に上がって個室の病室にたどり着く。
一般病棟の4人部屋にいたらしいが、今回の件で個室に移ったそうだ。
「こちらが誠也君のご両親です」
君崎先生の紹介で楓さんが名刺を渡している。そして、書類を広げて説明し出した。
「タクミ、おトイレ行きたい」
ルミはトイレに行きたいようだ。
「場所わかるか?柚子について行ってもらった方がいいぞ」
「大丈夫。場所は見つけておいたからわかる」
そう言ってルミは一人で部屋の外に出かけた。
俺はベッドで寝ている子供の様子を見る。
点滴をしてるだけで、他の器具はついてないようだ。
「本当に治るんですか?」
少し大きな声を出したのは誠也君のお父さんだ。
30代半ばの日焼けしたガッチリした体格の男性だ。
「ええ、これは内密な話なので少し声を抑えてもらえますか?」
楓さんが冷静に対処している。
そう言われてその男性はバツが悪そうに頬を掻いていた。
ベッドで寝ている少年は熱が高いせいか苦しそうだ。
頭には冷えるシートが貼られている。
ベッドの柵に付いているネームプレートを確認すると【海道誠也 8歳 男性 血液型 O型】と記載されていた。
「拓海様、サインを頂きました」
「うん、わかった。君崎先生、点滴を外してもらっていいですか?」
「そうだったな。わかった、少し待ってくれ」
前回も清水先生と一緒になって外してくれていたので理解したのだろう。
ほんの僅かな時間で君崎先生は、点滴を外した。
「じゃあ、治療します」
誠也君の胸に手を当てて能力を使う。
熱はすぐに下がったが、内臓できたポリーブの除去は少し時間がかかった。
そして、病気の根本原因を探りながら意識を集中する。
誠也君の苦しんだ記憶が流れ込む。
そして、5分後に病気を治療が完了した。
汗だくになった俺を楓さんがタオルで拭いてくれた。
「終わりました……」
少し疲れたが、大人ほど子供の記憶は長くない。
誠也君を見ると呼吸も安定して穏やかな顔して寝ている。
「治ったんですか?」
お母さんは疑心暗鬼になっている。
確かにこの僅かな時間で治るなんて信じられないだろう。
「ええ、根本的な治療をしましたので病気が再発することはないですよ。あとは君崎先生の指示に様子を見てください」
「おおおおお、ありがとおおおおおう」
だが、お父さんの方は豪快にお礼を言って俺を抱きしめた。
身体から海の匂いがする。
「お父さん、誠也君をこれから検査します。今夜は簡単な検査しかできませんが、明日から本格的にしますのでご了承下さい。それと、ここは病院なのでお静かにお願いします」
確かに声の大きな人だ。
恭司さんをもっとワイルドにしたらこんな感じになるかもしれない。
「あれ、まだルミは帰って来ないの?」
一人でトイレに行ったにしては長すぎる。
「私が見てこよう」
柚子は護衛の警戒度を緩めたようだ。
「俺も行くよ。トイレにも行きたいし」
楓さんは、今後のことに関しての注意点を説明している。
ようは絶対口外するな、と念を押してる。
廊下に出てトイレに向かう。医局の対面に広いスペースがありエレベーターと脇にはトイレがある。
その横にある談話室にルミはいた。
ルミは、入院患者と思われる少女と話をしている。
あったばかりなのに話が弾んでいるようだ。
「ルミ、ここにいたんだ」
「うん、サナエと友達になった」
話を聞くと美影沙奈江さんは13歳らしい。
部活中に倒れてここに運ばれてきたようだ。
「タクミ、サナエも治して」
ルミは友達になった沙奈江さんも治療してもらいたいようだ。
「いいけど、これは内緒だよ」
柚子は、その場にいたが何も言わなかった。
後で楓さんに報告するのだろう。
「サナエさん、ちょっと手を握らせてもらってもいい?」
「構わないけど、手品か何か?」
「まあ、似たようなもんだよ」
一見元気そうに見える彼女は、骨肉腫と言われている骨の癌の病気だった。右膝の部分にその病巣がある。
能力を発動して、病巣を取り除く。
そして、1分ほどで治療は終わった。
「ふーーふーー」
連続で使ったので少し疲れた。
だが、ルミの友達なら仕方ない。
「え、大丈夫ですか?」
逆に沙奈江さんに心配されてしまった。
「大丈夫だよ。手を離すね」
「タクミ、サナエ、治った?」
「うん、治ったよ」
そう言うとルミは立って喜んでる。
おまけに車椅子だったサナエも立たせて一緒に跳ねていた。
「嘘、私立ててる?」
何が起こったのか理解できないようだ。
この後大変なことになりそうなので、君崎先生には伝えておこう。
「嘘、何で?え、どうして?痛くない」
混乱している沙奈江さんの両手を握って我が身のように喜ぶルミの顔はうっすらと笑顔になっていた。
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