闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第64話 暴挙

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那須の別荘地帯にパトカーのサイレンが鳴り響く。
警察車両があちこちから集まってきた。

目の前には、ひとりの男が立っている。
その男を完全に包囲している状態だ。

「貴様は完全に包囲されている。大人しく抵抗しないで投降しなさい!」

ひとりの警察官がメガホンを通し立っている男に警告を発していた。

「うるせえなあ、パトカーのサイレント消せや!」

近所迷惑なやつはお前の方だと言いたげに、男は集まって来ているパトカーに反応している。

「相手は能力者の疑いがある。発砲許可はでている。構わず撃て!」

その合図の元に警官達が発砲した。
銃撃音が鳴り響く。

普通の人間なら、それで倒れ込むはずだった。
だが、その男の服は破れているがそのまま立っていた。

「馬鹿な‥…構わず撃て、撃つんだ!」

司令官らしき警官の声が震えている。
目の前で起きている状況が理解できないようだ。

「全く、服が台無しだぜ。どう落とし前つけるんだ、はあん?」

近くにいた警官の前に一瞬で移動した男はそのまま殴りつけた。
その警官の頭部は花火のように破裂した。

「うわーー!!」

その光景見た警官達が驚き騒ぐ。逃げ出してパトカーの陰に隠れ出した。

「やはり、能力者です!本部に連絡を……」

そう言っている男の頭上からパトカーが降ってきた。
男が投げ飛ばしたようだ。

「た、退避しろっ!」
「距離をとれ!」
「目を狙うんだ。狙撃班はまだか!」

混乱している警官達の指令系統が崩れた。
既に誰が何を言おうと、その場から避難し始めた。

「お前らが逃げるんなら、こっちから行くぜ」

その男の蹂躙が始まった。





SP対策本部では

「やはり、能力者だったか」

所長の道明幸嗣は、連絡を受けて最悪の事態を想像した。

「発砲したとのことですが無傷との情報です」

連日、この本部に詰めていた清水奈美本部長代理はとうとう接敵したかと思案を巡らしている。

「38口径は効かないか。鋼鉄の皮膚でも持ってるのか?自衛隊に連絡は?」

「既に要請しています。宇都宮駐屯地から先遣隊が出ています」

「それで、どうにかなれば良いが……私は総理に連絡を入れる。あとは頼んだぞ」

「はい」

清水奈美は、能力者ならば警察では抑えられないだろうと自衛隊に詳細を報告していた。
さっきの報告を受けて直ぐに要請をお願いしたのである。

「今までの常識はもう通用しない。今はまだ規制が効いてるからその存在が明らかになることはないが、いつまで誤魔化せる?いずれ能力者達の存在を世間が知ることになるだろう。恐怖、排除、羨望。さまざまな感情を人々は抱くだろう。得手して人間は異分子を排除する傾向にある。きっと世間は大騒ぎになるだろうな。その時、香織、お前のお気に入りはどうなるのだろうな……」

そんな言葉を残して紅茶の香りが漂う奥の部屋に入って行った。





その晩はホテルに泊まった。
遅くなったので夕食はコンビニ弁当になった。
楓さんは申し訳なさそうな顔をしてたが、これはこれで美味しいし文句はない。

「ルミ、初めての旅行はどうだった?」

「新幹線乗れた。サナエと友達になった」

どうやら喜んでいるようだ。

「たくみ、これは旅行なのか?観光はしてないぞ」

柚子は、そう言いながらおにぎりとナポリタンを交互に食べている。

「確かに、夜だったし、でもルミにとっては初めての外泊だ。旅行みたいなもんだろう?」

「まあ、そういう考え方もあるな」

楓さんは、君崎先生と話があるそうで後から来る予定だ。
というのも俺がルミの友達、沙奈江さんを治療してしまったからだ。

治療行為には一定の料金設定がされている。
だけど、俺自身が好意で行った治療はその限りではない。

だから、無料とはいかないが入院代くらいで済むように楓さんに頼んでおいた。

「タクミは病気を治せる。何故、病気のみんなを治さない?」

「それは……」

何と答えたら良いのだろう?
ルミのことだ、純粋に疑問を持ったのだろう。
きっと誰でもそう思うから。

難病で苦しむ人がいる。
若くして辛い病気になる人もいる。
そう考えると、この世は理不尽だらけだ。

誰だって健康な生活を送りたいに決まってる。
辛くて苦しい病気なんか無くなればいいと思ってるはずだ。
それを能力で治してあげれば誰も悲しい思いを抱かなくて済むとルミは思っているのだろう。

「ルミ、ルミの能力は氷結と聞いている。その力があれば南の暑い国では重宝されるだろう。だけど、無限に能力を使えばどうなる?また、悪い奴らがルミを攫いに来るかもしれないぞ。
それに、ルミ自身も能力を使ってばかりいると疲れてしまうだろう。だから、無闇に能力は使うべきではない。
本当に困った時にしか使っちゃいけないんだ」

俺には答えづらいことを柚子が代弁してくれた。

誰かを利用するような人間がいなくなれば、きっと俺は能力を使うことに躊躇いがなく、できるだけ多くの人を治療してるかもしれない。

でも、悲しいかな、この世の中は誰かを利用して利益を得ようとする人間がたくさんいるんだ。

「そうなんだ。タクミ、ごめん。辛そうな顔してる」

ルミは俺の変化に気づいて気を遣ってくれた。
本当に優しい子だ。

「いや、ルミの言ってることは事実だし、気にしなくてもいい。柚子の言ってることは間違いではないが、少し足すと俺自身が怖いんだよ。能力が発現して随分悪い大人達に利用された。だから、出来るだけ知られないように治療するようにしている。きっと、俺は臆病者なんだよ」

「そんなことない。タクミは臆病者じゃない」

「ルミの言う通りだ。たくみは臆病じゃない」

二人とも否定してくれたが、嬉しいけど俺自身がよくわかってる。

俺は俺自身の存在が怖いんだと……





帰り午前10時10分発の新幹線に乗った。
ルミは昨日のような新鮮さを感じてる様子はないが、それでも楽しそうだ。

郡山市を過ぎてこの新幹線は止まるはずのない新白河駅で緊急停車した。

『お客様にご連絡申し上げます。このこまち12号車は那須付近で自衛隊出動の為に緊急停車致しました。お急ぎの中誠に申し訳ありませんが発車までしばらくお待ち下さい』

客席が騒がしくなった。
何が起こったのか調べている者もいる。

「新幹線、止まった」

「そうだな。次は大宮のはずだけど、事件があったみたいだよ」

後ろの席の楓さんと柚子はスマホで連絡を取っている。
何か情報が入ればいいのだが。

「新幹線って急に止まることあるの?」

「ないと思う。今みたいに緊急の事がないと止まらないはずだよ」

「乗ってた人、もう降りてる?」

「きっと降りてないよ。このまま待ってれば動くから基本的に降りれないよはずだよ」

「でも、降りてる人いるよ」

ルミが窓の外を見て人影を見つけたらしい。
遠くてよくはわからないが、人が線路わきを歩いている。

「車掌さんが降りて点検でもしてるのかな?」

「そう、でも、私あいつ知ってるよ。私のご飯食べたやつだ」

「えっ、それって……」

その時激しく新幹線が揺れた。

乗客の悲鳴が響き渡る。

「拓海様、能力者です。能力者が連続強盗殺人事件の犯人です。警察の包囲網は突破されました。自衛隊も後手に回ってるそうです」

「えっ、能力者!」

「ルミと目があった。きっとここに来る」

ルミは焦ったように俺に告げた。

「楓さん、柚子。乗客の避難を、後方に逃げるように言って!」

「拓海様!」

「能力者がルミを見た。施設の時に一緒だったらしい。きっとこの車両に来る。早く!」

「わかりました。JRに連絡入れます!」

「私は残るぞ。たくみの護衛だからな」

柚子は言ったら効かない。

「怪我どころの騒ぎじゃなくなるぞ」

「そうなったらたくみが治してくれるのだろう?」

「ルミ、あいつのナンバーは?」

「Aー4だよ」

ああ、最悪だ。エースナンバーで俺が治療したことあるやつだ。

そいつは、身体強化能力、火炎能力を持つ最低最悪の性格をしてる男だった。





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