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第一章
4.パーティー
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マリシュがいつも通り自室で紅茶を飲んでいると、妹のフリルが部屋に飛び込んできた。
「お兄ちゃん!フォネストから手紙の返事来た!」
「ああ、そこら辺に適当に置いといて」
興奮しているフリルを横目に、マリシュは変わらず紅茶を口に運ぶ。
「フォネストから手紙の返事が来るなんて貴重なんだから、読もうよ!」
「……暇になったらね」
「今どう見ても暇でしょ……」
フリルは『読むまで帰らない』という目をしている。
マリシュは小さくため息をついた。
「あのね、フォネストからまともな返事が来ると思う?」
「……今日の手紙はいつもより重い気がするもん。……便箋が100枚くらい入ってると思う」
「……その薄さで?」
フリルが持つ封筒は、風で飛びそうなほど薄い。
「まあ、どうせ今度のパーティーで会うし」
「……なんで急にそんな冷めた言い方するの?」
マリシュは机に視線を向ける。
「……手紙を出し始めて一年半、婚約者としてはもう十分だろ」
◇
マリシュの実家・カルネス領では、定期的に貴族のパーティーが開かれる。
領主の息子として、マリシュは幼いころからこのパーティーに参加してきた。
貴族同士の付き合いは面倒に思うこともあるが、久々に会える知人もいるためマリシュはこのパーティーに関して前向きにとらえていた。第二性がΩだと判明してからは、αのフリルのほうが引っ張りだこであり、マリシュは気楽に参加している。
マリシュが食事を選ぶために立ち上げると、背後から声を掛けられた。
「マリシュ!久しぶり」
「ターネル!会いたかったよー」
マリシュは思わず笑顔になる。相手は年上の幼馴染・男性αのターネルだった。最近はこういった集まりでしか会えない。
「ターネルに会えるんじゃないかって楽しみにしてたよ!」
「もう、そういったこと言ったら勘違いされるだろ。マリシュは人気者だから俺への嫉妬の目線が怖いんだ」
「相変わらずお言葉がお上手ですね、ターネル様」
「ほんとうだから……!」
ターネルが困った顔をするので、マリシュはそれ以上からかうのをやめた。年上であっても幼馴染というのは、つい軽口を叩きたくなる。
紅茶を飲みながらマリシュは、懐かしい話を持ち出す。
「ターネルと会ったら小さい時のこと思い出すよ」
「ああ……」
「ターネルは『祝福の森』の話が大好きだったよね。俺もフリルもその話ばっかり聞かされたもん」
「カルネス領といえば、やっぱり『祝福の森』だろ」
『祝福の森』というのはカルネス領に伝わる伝説である。『何かを捧げると、なんでも願いをかなえてくれる』という、まるでおとぎ話のような話だ。
「領主の子供よりも詳しいのはすごいよ」
「興味持たないほうがおかしいって!なんでも願いが叶うんだぞ!」
「でも、魔物が多いんだからそもそも『祝福の森』に近づけないだろ」
「……そこにロマンがあるんじゃないか」
マリシュが呆れていると、別の声が割って入った。
「……マリシュ」
振り返ると、フォネストが立っていた。
彼から話しかけてくるなんて珍しいと固まっていると、フォネストはマリシュの腕を引いた。
「……どうしたの?」
マリシュがそう呼び掛けてもフォネストは下を向いたまま何も言わない。
「ごめん、ターネル。また今度」
そう言って、フォネストと共にテラスへと向かう。
「……フォネスト、どうしたんだ?何か困ったことでもあった?」
できるだけ優しく呼びかけた。
しばらくして、彼はようやく口を開いた。
「なんで……他のαと話すんだ……?」
「え?そりゃパーティーだし話すだろ。別にいつも通りだろ?」
「……それは、分かってるんだけど」
「まだ結婚してないんだし、浮気とか噂にならないと思うぞ?」
もしかしたら騎士はそういった噂には厳しいのかもしれない。
「でも、俺たちは婚約してるだろ……?」
「フォネストは、この婚約に興味なさそうじゃないか。だから気にしなくても大丈夫だって」
フォネストは黙り込んでしまった。
テラスには冷たい風が吹き込んできた。思わずマリシュが身をすくめた時、肩にそっと上着がかけられた。
「今日は冷えるから。何か温かい飲み物持ってくる」
背をそむけたフォネストを、マリシュは思わず怒鳴ってしまった。
「……なんで急に婚約者面するんだ!」
フォネストは振り向き驚いた顔をしている。
「婚約者面って……俺たちは婚約してる」
「今まで俺のことなんて放置していたくせに」
「それは……」
「俺の気持ち、考えたことある?何やっても無視されて……平気なわけないだろ!」
フォネストは言葉に詰まってしまう。
だが、彼の目は、マリシュの涙を見逃さなかった。
「今さらそんな風にされても困るから……」
「ごめん……」
「……」
「マリシュの気持ちにも、婚約にも、向き合えていなかった」
マリシュは黙って聞いていた。
「でも、今は違う。マリシュのことを守りたいし、気持ちも大切にしたい」
「そんなこと、すぐには信じられない……」
フォネストは黙って頷き、テラスから出ていった。
◇
テラスの冷えた空気により、マリシュは冷静な気持ちを取り戻しつつあった。
(年下相手にあんなに怒鳴るなんて……)
しばらくしてフォネストがテラスへ戻ってきた。両手にはカップが握られている。
「マリシュがこの種類の紅茶が好きだって手紙に書いてたから」
そう言ってマリシュに紅茶の入ったカップが差し出される。
マリシュは差し出された紅茶を飲んだ。ミルクの柔らかい甘さが口に広がる。
「……うん、このミルク多めが好きなんだ」
「よかった」
マリシュは空のカップを見つめながら思う。
(一年半も放っておいて、今さら優しくされても………親に言われただけかもしれないし……でも…)
「フォネスト、さっきは急に怒鳴ったりしてごめん」
「マリシュが謝る必要なんてない」
「俺の行いが悪かったんだ」とフォネストは再び頭を下げた。
マリシュはフォネストを見つめながら言った。
「でもさ……やっぱり、すぐに信じられない。だから、もう少し時間が欲しい」
それが、今のマリシュの正直な気持ちだった。
「お兄ちゃん!フォネストから手紙の返事来た!」
「ああ、そこら辺に適当に置いといて」
興奮しているフリルを横目に、マリシュは変わらず紅茶を口に運ぶ。
「フォネストから手紙の返事が来るなんて貴重なんだから、読もうよ!」
「……暇になったらね」
「今どう見ても暇でしょ……」
フリルは『読むまで帰らない』という目をしている。
マリシュは小さくため息をついた。
「あのね、フォネストからまともな返事が来ると思う?」
「……今日の手紙はいつもより重い気がするもん。……便箋が100枚くらい入ってると思う」
「……その薄さで?」
フリルが持つ封筒は、風で飛びそうなほど薄い。
「まあ、どうせ今度のパーティーで会うし」
「……なんで急にそんな冷めた言い方するの?」
マリシュは机に視線を向ける。
「……手紙を出し始めて一年半、婚約者としてはもう十分だろ」
◇
マリシュの実家・カルネス領では、定期的に貴族のパーティーが開かれる。
領主の息子として、マリシュは幼いころからこのパーティーに参加してきた。
貴族同士の付き合いは面倒に思うこともあるが、久々に会える知人もいるためマリシュはこのパーティーに関して前向きにとらえていた。第二性がΩだと判明してからは、αのフリルのほうが引っ張りだこであり、マリシュは気楽に参加している。
マリシュが食事を選ぶために立ち上げると、背後から声を掛けられた。
「マリシュ!久しぶり」
「ターネル!会いたかったよー」
マリシュは思わず笑顔になる。相手は年上の幼馴染・男性αのターネルだった。最近はこういった集まりでしか会えない。
「ターネルに会えるんじゃないかって楽しみにしてたよ!」
「もう、そういったこと言ったら勘違いされるだろ。マリシュは人気者だから俺への嫉妬の目線が怖いんだ」
「相変わらずお言葉がお上手ですね、ターネル様」
「ほんとうだから……!」
ターネルが困った顔をするので、マリシュはそれ以上からかうのをやめた。年上であっても幼馴染というのは、つい軽口を叩きたくなる。
紅茶を飲みながらマリシュは、懐かしい話を持ち出す。
「ターネルと会ったら小さい時のこと思い出すよ」
「ああ……」
「ターネルは『祝福の森』の話が大好きだったよね。俺もフリルもその話ばっかり聞かされたもん」
「カルネス領といえば、やっぱり『祝福の森』だろ」
『祝福の森』というのはカルネス領に伝わる伝説である。『何かを捧げると、なんでも願いをかなえてくれる』という、まるでおとぎ話のような話だ。
「領主の子供よりも詳しいのはすごいよ」
「興味持たないほうがおかしいって!なんでも願いが叶うんだぞ!」
「でも、魔物が多いんだからそもそも『祝福の森』に近づけないだろ」
「……そこにロマンがあるんじゃないか」
マリシュが呆れていると、別の声が割って入った。
「……マリシュ」
振り返ると、フォネストが立っていた。
彼から話しかけてくるなんて珍しいと固まっていると、フォネストはマリシュの腕を引いた。
「……どうしたの?」
マリシュがそう呼び掛けてもフォネストは下を向いたまま何も言わない。
「ごめん、ターネル。また今度」
そう言って、フォネストと共にテラスへと向かう。
「……フォネスト、どうしたんだ?何か困ったことでもあった?」
できるだけ優しく呼びかけた。
しばらくして、彼はようやく口を開いた。
「なんで……他のαと話すんだ……?」
「え?そりゃパーティーだし話すだろ。別にいつも通りだろ?」
「……それは、分かってるんだけど」
「まだ結婚してないんだし、浮気とか噂にならないと思うぞ?」
もしかしたら騎士はそういった噂には厳しいのかもしれない。
「でも、俺たちは婚約してるだろ……?」
「フォネストは、この婚約に興味なさそうじゃないか。だから気にしなくても大丈夫だって」
フォネストは黙り込んでしまった。
テラスには冷たい風が吹き込んできた。思わずマリシュが身をすくめた時、肩にそっと上着がかけられた。
「今日は冷えるから。何か温かい飲み物持ってくる」
背をそむけたフォネストを、マリシュは思わず怒鳴ってしまった。
「……なんで急に婚約者面するんだ!」
フォネストは振り向き驚いた顔をしている。
「婚約者面って……俺たちは婚約してる」
「今まで俺のことなんて放置していたくせに」
「それは……」
「俺の気持ち、考えたことある?何やっても無視されて……平気なわけないだろ!」
フォネストは言葉に詰まってしまう。
だが、彼の目は、マリシュの涙を見逃さなかった。
「今さらそんな風にされても困るから……」
「ごめん……」
「……」
「マリシュの気持ちにも、婚約にも、向き合えていなかった」
マリシュは黙って聞いていた。
「でも、今は違う。マリシュのことを守りたいし、気持ちも大切にしたい」
「そんなこと、すぐには信じられない……」
フォネストは黙って頷き、テラスから出ていった。
◇
テラスの冷えた空気により、マリシュは冷静な気持ちを取り戻しつつあった。
(年下相手にあんなに怒鳴るなんて……)
しばらくしてフォネストがテラスへ戻ってきた。両手にはカップが握られている。
「マリシュがこの種類の紅茶が好きだって手紙に書いてたから」
そう言ってマリシュに紅茶の入ったカップが差し出される。
マリシュは差し出された紅茶を飲んだ。ミルクの柔らかい甘さが口に広がる。
「……うん、このミルク多めが好きなんだ」
「よかった」
マリシュは空のカップを見つめながら思う。
(一年半も放っておいて、今さら優しくされても………親に言われただけかもしれないし……でも…)
「フォネスト、さっきは急に怒鳴ったりしてごめん」
「マリシュが謝る必要なんてない」
「俺の行いが悪かったんだ」とフォネストは再び頭を下げた。
マリシュはフォネストを見つめながら言った。
「でもさ……やっぱり、すぐに信じられない。だから、もう少し時間が欲しい」
それが、今のマリシュの正直な気持ちだった。
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