1 / 20
聞いてねぇよ、神様
しおりを挟む
四月。新しい生活がスタートする時期。三百人は入りそうなホールで、俺は少し高揚していた。
入学式以来、一箇所に集められた新入生。全員私服で、バッグも様々。学校指定の物は何一つない。自分と同じように緊張を隠せないいくつもの顔を眺め、俺とここにいる全員の大学生活がついに始まったんだと実感する。
まだ授業開始までは数日あり、今日はオリエンテーションが行われる予定だった。誰でもいいから初めて会う人に声をかけたい。どんな出会いがあるのかとソワソワするが、右隣の女子二人は同じ高校出身らしくずっと話している。前に座る男子は突っ伏してスマホを弄っているし……。
キョロキョロと辺りを見渡す俺の左に、人が入ってきた気配がした。ちょうど良かったと口角を上げ体をひねる。もうほぼ「おはよう」と出かかっていた声は外に出ることなく消えた。目に入った人物に、俺は呼吸も忘れる。
「……なにか?」
「あ、いや、なんでも……」
地毛っぽい暗めの髪に地味な色合いの服、無愛想な反応。左隣の男子の第一印象はそんなところだろう。ただ、その情報が吹き飛んでしまうくらいに強烈な印象を焼き付けた。こちらがぼんやりするほど、整った顔立ちをしている。
ちょうど良い濃さの眉、なめらかな肌、バランスのとれたパーツ。気だるげな目が独特な雰囲気を作っている。一瞬で人を惹き付ける魅力があった。
「……」
話しかけることに失敗した俺はまた前を向く。少し離れた前方でこっちを見ていた女子と目が合った。気まずそうにすぐに視線が外され、隣の友達を小突く。
「ねぇ、あそこに並んでるイケメン見える?」
「えー、うわ、通路側の男子のイケメン具合えぐいな」
「それな、二人ともやばだけど通路側は目を疑ったわ」
はしゃぐ彼女たちの会話を耳にしながら、俺はまた呆然とする。そうか、隣のヤツって俺より目立つんだ。馬鹿みたいな感想だけど、俺にとっては重要な事だった。
「俺のキャンパスライフが……」
周りに聞こえないくらいの声で呟く。これから始まる大学生活への希望から一転、オレは暗い顔で拳を握った。
小さい頃から「信弘くんは綺麗な顔してるね」「格好良いね」と言われ、中高では名前も知らない生徒から連絡先を聞かれたことが何度もあった。
俺自身もこの容姿を気に入っていたし、大学に入ったらバイトしてオシャレな服を買い、自分を磨いてモテまくる生活を送る予定でいたのだ。
しかし初日で現実を突きつけられてしまった。当たり前に俺より目立つヤツがいて、当然のように注目を浴びている。隣の俺には「まぁそこそこイケメンだよね」という視線が向けられている。
「……こんなん聞いてねぇよ、神様」
ため息を吐きながらもう一度左を見る。周りからの視線にも動じず、暇そうに前を向く顔はやっぱり息を飲むほどで、ずっと見ていたいと思わせる。
また何か言われる前に視線を落とし、俺はひとり、静かに打ちのめされていた。
入学式以来、一箇所に集められた新入生。全員私服で、バッグも様々。学校指定の物は何一つない。自分と同じように緊張を隠せないいくつもの顔を眺め、俺とここにいる全員の大学生活がついに始まったんだと実感する。
まだ授業開始までは数日あり、今日はオリエンテーションが行われる予定だった。誰でもいいから初めて会う人に声をかけたい。どんな出会いがあるのかとソワソワするが、右隣の女子二人は同じ高校出身らしくずっと話している。前に座る男子は突っ伏してスマホを弄っているし……。
キョロキョロと辺りを見渡す俺の左に、人が入ってきた気配がした。ちょうど良かったと口角を上げ体をひねる。もうほぼ「おはよう」と出かかっていた声は外に出ることなく消えた。目に入った人物に、俺は呼吸も忘れる。
「……なにか?」
「あ、いや、なんでも……」
地毛っぽい暗めの髪に地味な色合いの服、無愛想な反応。左隣の男子の第一印象はそんなところだろう。ただ、その情報が吹き飛んでしまうくらいに強烈な印象を焼き付けた。こちらがぼんやりするほど、整った顔立ちをしている。
ちょうど良い濃さの眉、なめらかな肌、バランスのとれたパーツ。気だるげな目が独特な雰囲気を作っている。一瞬で人を惹き付ける魅力があった。
「……」
話しかけることに失敗した俺はまた前を向く。少し離れた前方でこっちを見ていた女子と目が合った。気まずそうにすぐに視線が外され、隣の友達を小突く。
「ねぇ、あそこに並んでるイケメン見える?」
「えー、うわ、通路側の男子のイケメン具合えぐいな」
「それな、二人ともやばだけど通路側は目を疑ったわ」
はしゃぐ彼女たちの会話を耳にしながら、俺はまた呆然とする。そうか、隣のヤツって俺より目立つんだ。馬鹿みたいな感想だけど、俺にとっては重要な事だった。
「俺のキャンパスライフが……」
周りに聞こえないくらいの声で呟く。これから始まる大学生活への希望から一転、オレは暗い顔で拳を握った。
小さい頃から「信弘くんは綺麗な顔してるね」「格好良いね」と言われ、中高では名前も知らない生徒から連絡先を聞かれたことが何度もあった。
俺自身もこの容姿を気に入っていたし、大学に入ったらバイトしてオシャレな服を買い、自分を磨いてモテまくる生活を送る予定でいたのだ。
しかし初日で現実を突きつけられてしまった。当たり前に俺より目立つヤツがいて、当然のように注目を浴びている。隣の俺には「まぁそこそこイケメンだよね」という視線が向けられている。
「……こんなん聞いてねぇよ、神様」
ため息を吐きながらもう一度左を見る。周りからの視線にも動じず、暇そうに前を向く顔はやっぱり息を飲むほどで、ずっと見ていたいと思わせる。
また何か言われる前に視線を落とし、俺はひとり、静かに打ちのめされていた。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる