君がいい、どうしても

たがわリウ

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俺の勝手も許してほしい

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 四月。新しい場所で始まる、新しい生活。入学式もオリエンテーションも、俺にとってはただの一日にすぎなかった。初めて会う人から向けられるのは、いつもと同じ好奇の目。同じ人間だと思っていないのか知り合いでもないのに凝視される。
 これまでと同じように鬱陶しい眼差しの中、授業だけは素直に面白いと思った。希望の学科に入ったからには集中して、目立たずにたくさんのことを学びたかった。
 なるべく人と関わらず、授業が終わればすぐ帰る生活を送る予定でいた。しかし俺の隣には、いつの間にかある男子がいた。

「なぁなぁこれ揚げたてだって! 広尾の分も買ってきた!」
「え……唐揚げ? どこで買ったの?」
「え? コンビニ」
「大学まで持ってきたの?」
「そうだけど?」

 教育学科の日高。今まで周りにいなかったタイプ。こういう人はこっちの事情に構わず自由に振る舞うから苦手だった。今までだって、勝手に顔が良いとかで騒がれて、勝手につまんないねと離れていった。俺は誰かにとって都合良く生きてるわけじゃないのに。
 授業後に声をかけられた時、俺自身に声をかけたのではなく「顔が良い広尾」に興味があるのだとなんとなくわかった。だから他の人と同様、そっけなくしていれば直ぐに離れるだろうと思っていた。

「広尾知ってる? 来年学部で博物館に行く日あるんだって」
「へぇ」
「俺方向音痴だから、広尾についてくな。駅集合で」
「……いつもの教育の人たちと行くんじゃないの?」
「えーひど! 寂しーこと言うじゃん!」

 四月が終わり、五月になっても日高は俺の隣にいた。日高はよく体を小突いたり、肩を押したりする。そういったからかいのようなやりとりは苦手なはずなのに、いつの間にか日高とのそれが楽しみになった。日高の中にはふざけあえる相手として、当然のように俺がいるんだなって思ったから。

「あ、広尾ちょっとこのバケハかぶってみ?」
「え、やだよ」
「いいじゃん、ぜってー似合うから!」
「……」
「お! うわー似合いすぎてなんか凹む!」

 少し強引なところがあって俺が付き合わされることも多いのに憎めない。いつも騒がしいのに授業中は静かにするし、俺だけ女子に呼び止められても余計な詮索はしない。きちんと踏み越えてはいけない一線を彼の中で決めている。

「広尾くん、この席空いてる?」
「……空いてない」
「もしかして日高くん? 最近仲良いよね」
「……うん、いつも日高と受けてるから」

 べつにふたりで一緒に授業を受けようと決めてたわけでもないし、席をとっておく約束もしたことはない。でもいつしか、俺の隣は日高が良いし、日高の隣にいるのは俺が良いと思うようになった。
 日高は俺と一緒にいることに何か目的があったようだけど、俺も日高と一緒にいることで、日高の隣には俺がいるのだとアピールした。気さくな彼の周りにこれ以上人が寄ってこないように。俺に飽きた日高が他に行くなんてことがないように。
 俺はもう日高から離れることもできないし、日高が離れていくのを許すこともできない。

「今さら日高を離す気はないよ。ねぇ、俺のこと落としたんだから、ちゃんと責任取ってよ」

 あの時、日高の中にある恐怖に気づいていた。けどそれを和らげるどころか、俺はその恐怖でさえ日高を逃がさない要因になれないかと考えていた。
 「顔が良いだけの広尾」じゃなくてごめん、と思う。でも今度は俺の勝手も許して欲しい。誰かの心を手に入れたいと思うのは初めてだった。
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