6 / 20
カレー美味いし
しおりを挟む
とろみの付いた液体をスプーンで掬う。本格的なスパイスが香るカレーは、学食で一番人気のメニューだ。スマホを弄りながら程よい辛さを堪能していると、イスが引かれた音がした。隣に人が座る。
やけに近いなと思い視線を向けると、トレーを手にした広尾がいた。乗っているのは俺と同じカレーライスだ。
「おはよ。今日は学食なんだ」
「おぉ、まぁ……ここのカレー美味いし」
「へぇ、俺はじめて」
告白とも脅迫ともとれるやり取りをしてから数日。一方的に避けていたから、今さらどんな顔をすれば良いのかわからず、以前のようにはいかない。
けれどそんな気まずさを感じさせない広尾は、当然のように俺の隣に座る。少し前とは立場が反対になっていた。
チラッと見た顔は今日も相変わらずイケメンだった。しかしすぐに違和感を抱く。なんかいつもと違うような……。違和感の正体に気づきハッと息をのむ。今度は隣を凝視した。
「え、それ俺が好きなとこの新作……」
「すごい、よく気づいたね。ここの服、日高着てるなと思って」
「うわ、めちゃくちゃいいじゃん……あー、俺も買うかなーでも今月厳しいんだよなぁ」
広尾の体をじっと見る。いつもは持ってる物をテキトーに着てるんだろうなという格好、目立たないためか地味な色合いの服ばかりなのに、今日は初めて見るものばかりだ。トートバッグも靴も服と上手く組み合わせていて、広尾自身にも似合っている。あまりのオーラにここが大学であることを忘れそうだ。
「え、もしかしてリップ塗ってる?」
「ほんとに細かいとこまで見てるんだね」
「ちょうど良い血色感……いいなーそれ」
「使ってみる?」
「うわ、気になってたやつ!」
いつの間にか俺は以前の調子ではしゃいでいた。そんな俺を見て広尾は愛しそうに目を細める。ただの友達とは違う視線。広尾が俺に向けている感情を思い出し、ソワソワとした気恥しさが襲ってくる。急に体が熱くなり手が湿った。
広尾が取り出したのは発売以来話題のリップだった。ほんのり色味があって自然な血色感を出してくれるらしい。人気で品薄が続いている商品だった。
試せるのなら試したい。でも相手が広尾となると、俺は手を伸ばせなかった。
「うーん……なんかこの後何に使われるかわかんないからやめとく……って自意識過剰か」
「いや、変なことに使わないよ。というかもう二度と使わない」
「使わないでどうすんだよ」
「毎日眺めるだけだよ。今日の日高を思い出しながら」
「……いや、それがアウトなんだよな」
他の人が言ったら冗談だと思い、笑うだろう。でも相手が広尾だと本気の可能性が高い。よくそんな怖いことを表情も変えずに言えるなとどこか感心する。
「でも広尾とこういう話できるのめちゃくちゃ楽しいわ。なー、今度……」
「一緒に買い物行こう」と言いかけて慌てて口をつぐむ。ちゃんとした答えを伝えていないのにこういう誘いをするのは、好意を弄ぶみたいでずるい気がした。まだ俺自身、答えが出そうなきざしもないから尚更。
「今度、俺も買ってみようかなー……来月バイト代入るし」
「……日高バイト始めたの?」
「おー、まぁまだ数回しか行ってないから、たいした額にはなんないと思うんだけどさ」
言いかけたことを誤魔化すために意味もなく笑う。特に追求されないから上手く誤魔化せたみたいだけど、目を伏せた広尾は何かを考えていた。
突然の沈黙に俺は困惑する。しかしひとつ気になることがあり、真剣な横顔に尋ねた。
「てか広尾、その服でカレー食うの?」
「うん」
「なんかこっちがヒヤヒヤすんなー」
おろしたての服でカレーライス。俺だったら絶対に避ける組み合わせだ。もし服にこぼしでもしたら、一週間は引きずるだろう。
俺の心配をよそに食べ始めた広尾。隣で俺もまたスプーンを動かした。
やけに近いなと思い視線を向けると、トレーを手にした広尾がいた。乗っているのは俺と同じカレーライスだ。
「おはよ。今日は学食なんだ」
「おぉ、まぁ……ここのカレー美味いし」
「へぇ、俺はじめて」
告白とも脅迫ともとれるやり取りをしてから数日。一方的に避けていたから、今さらどんな顔をすれば良いのかわからず、以前のようにはいかない。
けれどそんな気まずさを感じさせない広尾は、当然のように俺の隣に座る。少し前とは立場が反対になっていた。
チラッと見た顔は今日も相変わらずイケメンだった。しかしすぐに違和感を抱く。なんかいつもと違うような……。違和感の正体に気づきハッと息をのむ。今度は隣を凝視した。
「え、それ俺が好きなとこの新作……」
「すごい、よく気づいたね。ここの服、日高着てるなと思って」
「うわ、めちゃくちゃいいじゃん……あー、俺も買うかなーでも今月厳しいんだよなぁ」
広尾の体をじっと見る。いつもは持ってる物をテキトーに着てるんだろうなという格好、目立たないためか地味な色合いの服ばかりなのに、今日は初めて見るものばかりだ。トートバッグも靴も服と上手く組み合わせていて、広尾自身にも似合っている。あまりのオーラにここが大学であることを忘れそうだ。
「え、もしかしてリップ塗ってる?」
「ほんとに細かいとこまで見てるんだね」
「ちょうど良い血色感……いいなーそれ」
「使ってみる?」
「うわ、気になってたやつ!」
いつの間にか俺は以前の調子ではしゃいでいた。そんな俺を見て広尾は愛しそうに目を細める。ただの友達とは違う視線。広尾が俺に向けている感情を思い出し、ソワソワとした気恥しさが襲ってくる。急に体が熱くなり手が湿った。
広尾が取り出したのは発売以来話題のリップだった。ほんのり色味があって自然な血色感を出してくれるらしい。人気で品薄が続いている商品だった。
試せるのなら試したい。でも相手が広尾となると、俺は手を伸ばせなかった。
「うーん……なんかこの後何に使われるかわかんないからやめとく……って自意識過剰か」
「いや、変なことに使わないよ。というかもう二度と使わない」
「使わないでどうすんだよ」
「毎日眺めるだけだよ。今日の日高を思い出しながら」
「……いや、それがアウトなんだよな」
他の人が言ったら冗談だと思い、笑うだろう。でも相手が広尾だと本気の可能性が高い。よくそんな怖いことを表情も変えずに言えるなとどこか感心する。
「でも広尾とこういう話できるのめちゃくちゃ楽しいわ。なー、今度……」
「一緒に買い物行こう」と言いかけて慌てて口をつぐむ。ちゃんとした答えを伝えていないのにこういう誘いをするのは、好意を弄ぶみたいでずるい気がした。まだ俺自身、答えが出そうなきざしもないから尚更。
「今度、俺も買ってみようかなー……来月バイト代入るし」
「……日高バイト始めたの?」
「おー、まぁまだ数回しか行ってないから、たいした額にはなんないと思うんだけどさ」
言いかけたことを誤魔化すために意味もなく笑う。特に追求されないから上手く誤魔化せたみたいだけど、目を伏せた広尾は何かを考えていた。
突然の沈黙に俺は困惑する。しかしひとつ気になることがあり、真剣な横顔に尋ねた。
「てか広尾、その服でカレー食うの?」
「うん」
「なんかこっちがヒヤヒヤすんなー」
おろしたての服でカレーライス。俺だったら絶対に避ける組み合わせだ。もし服にこぼしでもしたら、一週間は引きずるだろう。
俺の心配をよそに食べ始めた広尾。隣で俺もまたスプーンを動かした。
26
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
この身を滅ぼすほど、狂った執着を君に。─隻眼の幼馴染が、突然別人に成り代わったみたいに、おれを溺愛し始めた─
髙槻 壬黎
BL
【誰よりも優しい君の、その特別になりたかった。あいつにだけ向けるその瞳に、俺は映りたかったんだ───】
村を魔物に襲われ、命からがら逃げ出した少年・フレデリクを救ったのは、美しくも飄々とした貴族の少年──テオドア・ユートリスだった。
それから十二年。いろいろありつつも立派に育ったフレデリクは、訳あって左目を負傷したテオドアと共に、ギルドで依頼をこなす剣士として穏やかな生活を送っていた。
しかしそんな二人の関係は、ある日を境に、突然歪み始めてしまう。
数日間の外出から戻ったテオドアは、以前とどこか様子が違って見えた。
表情も、言葉遣いも、距離感さえも──まるで「別人」のように。
戸惑うフレデリクだったが、そんな彼を見つめるテオドアの瞳には、何故か歪んだ愛情が滲んでいた。
「──好きだ。フレデリクのことが、どうしようもなく、好きなんだ……」
震える声に、熱く抱きしめてくる体。
テオドアにずっと片思いしていたフレデリクは、彼と付き合うことになるが、不気味な違和感は拭いきれないまま。
このテオドアは、本当に自分がよく知る"テオドア"なのだろうか。
フレデリクは彼の変化に違和感を持つ内に、閉ざしていた"あの男"との記憶を、嫌でも思い出すことになっていく──
三角関係×ヤンデレ×ファンタジー
花香る人
佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。
いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。
自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。
ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。
もしも親友が主人公に思いを寄せてたら
ユイト 平凡、大人しい
カイ 美形、変態、裏表激しい
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
その執着、愛ですか?~追い詰めたのは俺かお前か~
ちろる
BL
白鳳出版に勤める風間伊吹(かざまいぶき)は
付き合って一年三ヶ月になる恋人、佐伯真白(さえきましろ)の
徐々に見えてきた異常な執着心に倦怠感を抱いていた。
なんとか元の真白に戻って欲しいと願うが──。
ヤンデレ先輩×ノンケ後輩。
表紙画はミカスケ様のフリーイラストを
拝借させて頂いています。
俺の家に盗聴器が仕掛けられた
りこ
BL
家に帰ったら何か違和感。洗濯物が取り込まれている。だれ?親に聞いたが親ではない。
──これはもしかして、俺にヤンデレストーカーが!?と興奮した秋は親友の雪に連絡をした。
俺の経験(漫画)ではこれはもう盗聴器とか仕掛けられてんのよ。というから調べると本当にあった。
囲いの中で
すずかけあおい
BL
幼馴染の衛介の作った囲いの中で生きてきた尚紀にとっては、衛介の言うことが普通だった。それは成長して大学生になってもそのままで―――。
〔攻め〕椎名 衛介(しいな えいすけ)20歳 大学生
〔受け〕小井 尚紀(こい なおき)19歳→20歳 大学生
外部サイトでも同作品を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる