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いつものように王子のサインが必要な書類に目を通していると、順調に書類仕事を片付けていた王子の手が止まったことに気づいて顔を上げる。
すると視線を向けた先で仕方がないというような呆れた視線が返された。
「そんなに思い詰めた顔をされると気になって仕方がない」
「そんな顔をしている自覚はありませんが」
わざとらしくため息を吐いた王子は、地位を表す役割を担っている白いマントを服から外すと、仕事用の机から立ち上がり部屋の中央にあるソファへと移動した。
「今から五分間、王子を休む」
突然の言葉に思考が追い付かず呆けてしまう。
そんなこちらには構うことなく王子は向かい合うソファに座るよう視線で促した。
それでも立ったままでいると、咳払いがされ観念して普段は座ることが許されない柔らかなソファに腰かけた。
「悩んでいるのはセスのことだろう」
「……そんなにわかりやすいですか?」
「いや、いつも通りだ。しかし俺とは長い付き合いだろう」
だからお見通しと言うことだろうか。頭を離れないものがあっても普段通りに仕事をこなそうという考えもどうせ見破られているのだろう。
「お前はもっと器用で頭が良いと思っていた」
「自分ではそのつもりですが」
「セスではない相手だったら、いつものようにすっぱりと断り割りきったはずだ。セスではない使用人だったら、わざわざ自分の部屋に連れていくこともなく、料理長のところに共に謝りにいくこともなく、使用人同士の会話に割って入ったりもしない。頭が良いならこれが何を示しているかわかるだろう」
「何故それを知っているのか聞いても?」
「一応この城の主だからな」
答えになっているようで答えになっていない言葉にため息を吐く。誰にも気づかれることなく上手くやれていると思っていたのに。
「しかし王子」
反論に出たところで、視線で制される。どうやら王子と呼ぶのは違ったようだ。
自分が口にして良いものかと迷ったが、仕方がなくずいぶん昔に呼んでいた呼び方を使う。
「……しかしオーウェン、執事の仕事に必要のないものは切り捨ててきたしこれからもそのつもりです」
「それはよく知っている。しかしもう気づいているのだろう?セスに関しては今までとは違うと」
オーウェンのその言葉に、必死に押し止めていた想いと柔らかなセスの笑顔が頭を駆け巡る。
最初はいくらユキ様の希望とはいえこんなに若くまだ未熟な者に任せていいのかと不安だった。
そしてそれと同時に、突然指名され完璧な振る舞いを要求されたセスを気の毒だと思った。
最終的にセスに決めたのは自分だから、恨まれるかもしれないとさえ思った。
しかしセスは努力家で、視野も広く、細かいことまで気づく優秀さもあった。
ユキ様のことを大切にし、ユキ様に大切にされ、理想以上の主人と使用人の関係を築いた。
わかっている。休憩とはいえわざわざ他の者を部屋に招くなんて以前の自分では考えられないことだ。
初めての大きなミスで落ち込んでいるとはいえ、必要以上の慰めは他の使用人にはしないだろう。
そして何より、セスに触れた使用人に腹が立ったのは、彼が自分と同じ想いを持ちながらセスに触れたからだ。
「……恋愛なんて興味がなかったはずなのに」
「執事の立場を言い訳にするのは終わりだな」
手が触れることを怖がって見ないふりをし、自分のなかの奥深くに仕舞いこんだ物を引っ張り上げられ観念して認める。
ふぅ、と長く息を吐き出すと伸ばしていた背筋を緩めてソファの背に寄りかかる。
体は柔らかく、しかししっかりと受け止められた。
「セスの気持ちはわかっているのだから簡単だろう?」
「もうこんな奴どうでもよくなっているかもしれませんよ」
「それもありえるな」
ふっと息を吐いてオーウェンが笑う。都合が良いのは承知だが、まだセスの想いが自分に向いていることを願った。
すると視線を向けた先で仕方がないというような呆れた視線が返された。
「そんなに思い詰めた顔をされると気になって仕方がない」
「そんな顔をしている自覚はありませんが」
わざとらしくため息を吐いた王子は、地位を表す役割を担っている白いマントを服から外すと、仕事用の机から立ち上がり部屋の中央にあるソファへと移動した。
「今から五分間、王子を休む」
突然の言葉に思考が追い付かず呆けてしまう。
そんなこちらには構うことなく王子は向かい合うソファに座るよう視線で促した。
それでも立ったままでいると、咳払いがされ観念して普段は座ることが許されない柔らかなソファに腰かけた。
「悩んでいるのはセスのことだろう」
「……そんなにわかりやすいですか?」
「いや、いつも通りだ。しかし俺とは長い付き合いだろう」
だからお見通しと言うことだろうか。頭を離れないものがあっても普段通りに仕事をこなそうという考えもどうせ見破られているのだろう。
「お前はもっと器用で頭が良いと思っていた」
「自分ではそのつもりですが」
「セスではない相手だったら、いつものようにすっぱりと断り割りきったはずだ。セスではない使用人だったら、わざわざ自分の部屋に連れていくこともなく、料理長のところに共に謝りにいくこともなく、使用人同士の会話に割って入ったりもしない。頭が良いならこれが何を示しているかわかるだろう」
「何故それを知っているのか聞いても?」
「一応この城の主だからな」
答えになっているようで答えになっていない言葉にため息を吐く。誰にも気づかれることなく上手くやれていると思っていたのに。
「しかし王子」
反論に出たところで、視線で制される。どうやら王子と呼ぶのは違ったようだ。
自分が口にして良いものかと迷ったが、仕方がなくずいぶん昔に呼んでいた呼び方を使う。
「……しかしオーウェン、執事の仕事に必要のないものは切り捨ててきたしこれからもそのつもりです」
「それはよく知っている。しかしもう気づいているのだろう?セスに関しては今までとは違うと」
オーウェンのその言葉に、必死に押し止めていた想いと柔らかなセスの笑顔が頭を駆け巡る。
最初はいくらユキ様の希望とはいえこんなに若くまだ未熟な者に任せていいのかと不安だった。
そしてそれと同時に、突然指名され完璧な振る舞いを要求されたセスを気の毒だと思った。
最終的にセスに決めたのは自分だから、恨まれるかもしれないとさえ思った。
しかしセスは努力家で、視野も広く、細かいことまで気づく優秀さもあった。
ユキ様のことを大切にし、ユキ様に大切にされ、理想以上の主人と使用人の関係を築いた。
わかっている。休憩とはいえわざわざ他の者を部屋に招くなんて以前の自分では考えられないことだ。
初めての大きなミスで落ち込んでいるとはいえ、必要以上の慰めは他の使用人にはしないだろう。
そして何より、セスに触れた使用人に腹が立ったのは、彼が自分と同じ想いを持ちながらセスに触れたからだ。
「……恋愛なんて興味がなかったはずなのに」
「執事の立場を言い訳にするのは終わりだな」
手が触れることを怖がって見ないふりをし、自分のなかの奥深くに仕舞いこんだ物を引っ張り上げられ観念して認める。
ふぅ、と長く息を吐き出すと伸ばしていた背筋を緩めてソファの背に寄りかかる。
体は柔らかく、しかししっかりと受け止められた。
「セスの気持ちはわかっているのだから簡単だろう?」
「もうこんな奴どうでもよくなっているかもしれませんよ」
「それもありえるな」
ふっと息を吐いてオーウェンが笑う。都合が良いのは承知だが、まだセスの想いが自分に向いていることを願った。
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