出会いが別れの始めなら

さむしんぐ

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先輩の秘密

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帰りの途中であった私は、歯に詰まった肉の様な違和感を憶えながら、その場を離れた。

暫くして、家の前に着き、門を開け、玄関前に立つと、中から母が大きな声を出しているのが分かった。その状況だけで察せる程、中で何があったのかも、家に入った後に最初にすべき事も分かった。

 玄関を開け家の中に入り、声のする部屋へ向かう。其処では、父に叱責をする母の姿があった。

「また、余計なことして!」

 私は部屋の中で父が散らかしたであろう、割れた食器を片付けて、母に対して発言する。

「お母さん、もうお父さんも反省してるよ!もう怒るのやめよ?」
「・・・、もう」

 そう言って母は、自室に戻る。

「桜さくら、いつもごめんな」

 父が申し訳なさそうに私に謝る。

「お父さんも、あんまり無茶しないでね。私、自分の部屋に戻るから。何かあったら声かけて」
「ありがとう」

 余り口数を多くは出来ない。自分の口から何の言葉が出るか、それが分からないから、怖い。私の父は、眼が見えない人間、盲者なのだ。

 それは、先天的では無く、後天的なもので、私が小学5年生の頃に、視神経が焼け切れ、眼が見えなくなったと、病院で言われた。

 その当時から私の父は働けなくなり、母はそれまで働いていた職場では家計を支えられないと考え、当時の仕事を辞め、私達の生活を支える為に介護士になり、多くのストレスと、多くの家庭の問題と闘っている。

 お母さんが夜勤から帰ってきて、睡眠を取って居たときに、父が自分の出来ることを何かやろうとしていた。ところが、不注意で皿を割ってしまい、余り機嫌の良くない母を目覚めさせる。

 訓練をすればある程度自立した生活を送ることができるが、私の父は75歳と言う高齢でもあり、若干の認知が進行しており、それすら出来ない。私はいつも父と母の事を考えると、深い闇に溶け込む。

 底のない闇、終わりを望めば抜け出せるが、それは何かを犠牲にしなきゃいけない。父が居なくなれば、母も私も楽になる。そう考える事も偶にあって、その度に父がとてつも無く可哀想に見えてしまう。

 父は元来、強靭な精神力と自立心を持っており盲者になった際も、一番落ち着いて居た。3年間の間、自分で出来ることは全て自分でやっていて、料理も掃除も食器洗いも、到底眼が見えない人には見えない様な事も。

 自室で服を着替え、ベッドの上に倒れ込む。そこからは、いつも通りの時間が流れ、機嫌が治った母がご飯を作り、私はそれを手伝って、三人でご飯を食べて、一日が終わる。眠りにつく際、図書館前での出来事を、ふと思い出し、それについて深く考察する前に瞼が落ちた。
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