魔力を高める上で最も原始的で効果的な方法とその副作用

井中かわず

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ー医務室

看護師のミス.フローレンがヴィオラの一番酷い腕の傷をヒーリング魔法で治癒する。

決闘はヴィオラの敗北だった。

戦略は確実にヴィオラの方が勝っていた。しかし、ことごとく力業でねじ伏せられたのだ。
唇を噛み締めているとキャロルをはじめとしたファンたちがぞろぞろとお見舞いにやってきた。

「ヴィオラ様お怪我の具合は大丈夫ですの?」

キャロルは自分のことのように悔し泣きしている。
人というのは自分より取り乱している人を見ると逆に落ち着けるものだ。自然な笑顔を作ることができた。

「ミス.フローレンのお陰で綺麗に治りそうですよ」

「折角こんなにも美しい手なのですもの。傷跡は残せないわ」

ミス.フローレンはまさに白衣の天使と言った微笑みでそう言った。
学園の男子生徒がこぞって憧れるのも頷ける。

「授業はあと2コマあるのでしょう?
もう1時間は休んでいったら?他の細かい傷も治してあげる」

彼女の言う通り、ヴィオラは1時間たっぷり休んでから起き上がる。
どこにも痛みはなく、傷もすっかり綺麗だ。

「ありがとうございました」

最後の授業に出ようと思って気がつく。
よりにもよって魔力安定科だ…。
1時間サボろうかしらとも思ったが、変に意識するのもシャクだし…それに…

それに、キースに負けたことは悔しかった。
凄く悔しいから、今日もヨズキの部屋を訪ねる予定だったのだ。

魔力安定科の教室に入り、キャロルとルーナの近くに座る。

「ヴィオラ様、もう大丈夫なんですか?」

「魔安なんてサボっちゃってもいいんじゃないですの?」

「大丈夫です、心配ありがとう」

そう言ったところでヨズキが教室に入ってきた。

「授業始めます、教科書102ページ」

相変わらず気だるけな声だ。
今日の髪には寝癖がついている。
あのやる気のないだらしない男がサディストだと誰が思うだろうか。

…もう少し髪を整えて顔色を良くすればそこそこカッコいいだろうに……。

余計なことを考えてしまったので頭を振って変な考えを追い払う。

「魔力の質を安定させるにはバランスの取れた食事と7時間以上の睡眠と適度な運動…」

教科書の内容にヴィオラは「やってるわよ!」と心の中でキレる。
それをやってても、キースに敵わなかった。
幼い頃から血のにじむような努力してきた、それなのにそんな性行為ひとつで負けてしまうなんて、なんて虚しいのだろう。
でも、本当に性行為だけでこんなに実力差が出てしまうのだろうか?とも思ったが、それこそ恐ろしい。
そうだとするなら、それは決定的な敗北を意味するのだから。

ヴィオラは今、あのドSに頼るしかないのだ。

それにしても…
ヨズキは一度もこちらをチラリとも見ない。
全く意識してない。他の生徒と全く同じかのように、もしかしたら気づいてないんじゃないかと思うほどに見ない。
ヴィオラはキースに負けたフラストレーションもあって、久しぶりにイライラした。

授業後、ノックもせずに魔力安定科の教員室に入る。
作業中のヨズキはチラリと見てまた背を向けた。そのままの状態でヴィオラに話しかける。

「来ると思いました。フォックスにボコボコにされたそうですね」

「…ご存知なんですね」

「学園中が知ってますよ」

ヨズキは何か書き物をしていた紙の束をまとめてその辺にポンと置くと、振り返りながらタバコに火をつけた。

「まぁあまり気を落とさんことです、決闘は体格差があると不利ですし貴女は処女だし」

「だから来たんです」

ヴィオラは顔を赤くしながらヨズキを睨む。

「今日は、だから…私が途中で嫌だと言っても最後まで…よろしくお願いします…」

たどたどしくそう言うと、ヨズキはキョトンとしたような顔をしてから、クスクスと堪えるような笑いをする。

「ふふっ、いやあ…今のはマズいですよ」

まだ火をつけたばかりの長く残ったタバコを消した。

「今のおっしゃりかたは良くない」

「な、何故です」

ヴィオラに近づくと少し痛みを感じるほど強く顎を掴んで上げる。

「泣くまで虐めたくなる」
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