孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第十話 戦いの後

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 アルレインの街を襲ったミノタウロスが灰色の瘴気に変わり消えていった数日後、俺は冒険者ギルドに呼び出されていた。
 
「この度はわざわざご足労いただきありがとうございます」

 目の前では冒険者ギルドの職員の男性が深々と頭を下げている。
 この会議室のような部屋に案内される時も物凄く丁寧な対応で困惑した。
 こんなに丁重に扱われるほどのことをできたわけではないので恐縮していまう。

「頭を上げて下さい。その……困ります」
 
「いえ、下げたりないくらいです。この度は連絡が遅れてしまい申し訳ございません」

 申し訳なさそうに何度も頭を下げている男性はレトと名乗った。
 レトさんは黒い短髪を綺麗に後ろに纏め、冒険者ギルドの制服をきっちりと着こなしている。

「本日来て頂いたのは先日の瘴気獣迎撃戦の報酬のお話についてです」

 ミノタウロスの討伐後、アルレインの街はちょっとしたお祭りのように賑わっていた。
 もちろん迎撃の際に犠牲者が出てしまったことは痛ましいことだが、同時に街を守るため勇敢に戦ったことも事実だ。
 街の人々は悲しみを忘れるように、戦った冒険者と志願者を称えている。
 
 迎撃に参加した人々には割と高額な報酬がすでに冒険者ギルドから支払われているらしい。
 街の領主様からも追加の特別報酬を用意する、なんて噂が広がっていて賑わいは増すばかりだ。

 ちなみに俺にはまだ報酬は支払われていない。

 レトさんは神妙な面持ちで喋り始めた。

「実はクライ様への報酬なのですが……。正直な所まだ決まっておりません。今回は特殊なケースですが、クライ様の場合、迎撃戦の参加報酬に、特に討伐に活躍されたため討伐報酬を合わせた金額をお渡しすることになります。さらに、ご希望なさるなら瘴気獣は魔石を残しませんから、瘴気獣の装備品を買い取らせて頂き、その金額も加算することができます」

 確かに瘴気獣が灰色の瘴気に変わり消えていったとき魔石は残らなかった。
 残ったのは巨大な剣と傷ついた鎧だけ。

 あの巨大な剣は何度も地面に叩きつけても刃こぼれすらしていなかった。
 売却するなら価値は充分にあるだろう。

「本来ならこちらで装備品の買い取り金額をなるべく早く掲示させて頂くべきなのですが。その……どうやら瘴気獣の装備していた装備品が、かなり質の良い素材でできているようで冒険者ギルドとしましてもどれほどの価値で計算すべきか迷っております。お待たせしてしまい申し訳ございません」

 それで時間がかかっていたのか。
 
「ご提案としましてはよろしければ王都で行われるオークションに出品しまして、そこで決まった金額をお渡しする形が良いかと考えた次第なのですが……どうでしょうか? 買い取りがご希望でなければそのままお渡しすることも出来ます」

(ほお、やったじゃないか。王都のオークションならなかなかの報酬が期待できる。あれだけ手強かったんだ報酬は弾んでもらわないとな)

(それはそうだが……)

 王都のオークションは有名だ。
 国全体から様々な名品が揃い販売されるらしい。
 なかには貴重な鉱石から作った防具や魔導具、魔物素材が売りに出され他国からも参加する人が訪れるとか。

 弾んだ声でミストレアが喜ぶが素直には喜べない。
 聞かなければならないことがあるからだ。

「あの……ミノタウロスを倒せたのは一緒に戦ったみなさんのおかげです。なぜこの場には他に活躍した人が呼ばれていないんですか?」

 俺以外にも活躍した人はいた。
 父さんはもちろん、光刃武器の女性やスコットさんもミノタウロスの討伐に貢献していた。
 俺があれほど攻撃を躱せたのも、戦場で戦った全員がミノタウロスを傷つけ鈍らせてくれたお陰だ。

 問いかけにレトさんは真っ直ぐ真剣な目で答えた。

「他の方は辞退されました。自分は討伐で活躍できていないと。もちろん、あなたのお父君も」

 父さんが……。

 突然、バァンと激しい音をたて扉が開いた。

「おお~、こいつがアッシュの自慢の息子か!」

「マスター、いつも言っているでしょう、ノックくらいして下さい」

 急に部屋に入ってきたのは冒険者ギルドの広場で演説をしていたギルドマスターだった。
 広場で遠目には姿を見たが、近くで見るとなおさら猛獣のような荒々しい印象を感じる人だ。
 驚いて固まってしまったが、なんだか親密な感じで接触してきて肩を叩かれた。
 微妙に距離感が近い。

「いやぁ、病院から抜け出して来たらアッシュの息子が来てるなんて聞いたからつい入って来ちまった。すまんすまん」

 全く悪いと思っていなそうな顔だ。

「こうして顔を会わせるのは初めてだったか? オレは冒険者ギルド、アルレイン支部ギルドマスターのランドルだ。宜しくな」

「クライです。よろしくお願いします。……父さんとは知り合いなんですか?」

「あ~。まあ古い知り合いってところか。あいつが冒険者をやってた時にちょっとな」

 冒険者!
 いままでずっと狩りについて教わってきたけど父さんが冒険者だったなんて聞いたことがない。
 通りでミノタウロスとあれほど戦えたのか。
 
「それでどこまで話が進んだんだ。瘴気獣討伐の話らしいが」

「それは……」

「ん? オレがいても問題無いだろ」

 ランドルさんはいたずらっぽくニヤリと笑う。

(クライ、ここはギルドマスターの意見も聞いたほうがいいかもしれないな)

「俺はかまいません」

「実は瘴気獣の装備品を王都のオークションに出品されたらいかがかとご提案していたのです」

「へ~、いいじゃねえか。戦ってる姿を見たがあの巨大な大剣は明らかに業物以上の品だ。バカでかい鎧や兜も好事家には高く売れそうだな。自分で使うにしてもあれを加工するのは大変だろう。で、どうする?」

「それなんですが。……俺も他のみなさんと同じように瘴気獣討伐の報酬は辞退したいと思います」

「ほぉ~、そりゃまたなんでだ」

 ランドルさんは面白いものを見つけたような顔で聞いてくる。
 残念ながらそんなに面白い理由でもない。

「指示を無視したからです。あの時、ミノタウロスの前に飛び出していった時、俺は無我夢中でした。……いや、自分の持ち場に待機する指示を無視することになるのをわかっていて飛び出したんです。報酬をもらう資格がありません」

 あの後父さんにも散々怒られた。
 当然だ。
 偶然が重なっただけでミノタウロスの攻撃を一回でも躱せなければ終わりだった。

「飛び出した後もただ逃げるだけで良かったはずです。それをミノタウロス相手に戦いになると勘違いして無策で挑んだ。一歩間違えれば……最後にミノタウロスの剣を逸らしてくれた弾丸がなければ死んでいました」

「確かにそうだ。だが後悔しているのか? あの時お前が飛び出さなきゃアッシュは死んでたかもしれない。もちろん死ななかったかもしれないが、他の奴らが狙われて街への侵入を許したかもしれない」

 後悔。
 後悔はしていない。
 あの時と同じことがあったら俺はまた飛び出していくだろう。
 ただ力が足りなかった。
 弱かったんだ。
 自分の意思を通す力が、守りたいものを守るための力が。

「お前も討伐に貢献したんだ、金は貰っておけ。……だがそうだな、どれぐらい時間がかかるかわからんが瘴気獣の装備は王都の研究所に送って調べさせるのはどうだ。あんなバカでかい剣をどうやって作ったのか、なんで瘴気獣が持っていたのか、王都の瘴気獣研究もなにか進むかもな」

 研究所、王都にはそんな所もあるのか。
 
「そのあとオークションに出品するか決めればいい。このままお前が辞退すれば金は冒険者ギルドで使われるだろう。それはそれで有り難いが、オレはお前は報酬を貰うべきだと思うがな。助力があったとはいえ、あの強大な瘴気獣を倒したんだ。お前がいなければ瘴気獣は倒せたかわからない、例え助力があったとしても偉業を成したとオレは思う。それに自分になにが足りないかわかっているみたいだしな」

「私も報酬を辞退すべきではないと思います。あなたはこのアルレインの街に住む人々を守ってくれた。一人の住民として感謝しています」

(クライ、どうする。私はクライの決断を尊重する。だができれば貰って欲しいものだ。クライが誰かに評価され喜ばれるのは私にとって何より嬉しいことだ)

(ミストレア……)

 ランドルさんもレトさんも真剣な顔だ。
 本気で感謝し案じてくれている。

「わかりました。……報酬を受け取りたいと思います。ですが、ミノタウロスの装備品は王都の研究所に送って調べていただけますでしょうか。オークションはその結果次第で。もし研究素材として価値があればそのまま研究所に寄付する形でおねがいします」

「そうですか、ではそのように手配いたします。迎撃戦の報酬はこちらでご用意して後日また連絡します」

「がはははは、決まったんならいいことだ。もっと自信をもて」

 ランドルさんが俺の背中を叩きながら豪快に笑う。

「それにしてもよくあの瘴気獣を倒せたな。オレが現役時代でもあれほど奴の剣を受け流せなかったぞ。なにより弓の腕もいい、身のこなしも良かった。さすがアッシュの自慢の息子だな」

「瘴気獣にはあまり詳しくないんですけど、あのミノタウロスはやっぱり普通の瘴気獣ではなかったんでしょうか?」

「なんだアッシュは教えてないのか。そうだな。今は瘴気獣自体が出現するのが減ったが、前提として瘴気獣は魔物より強い。それでも同じミノタウロスの瘴気獣でもあんな強さの奴は見たことがない。あれじゃあAランクの冒険者が居て倒せたかどうかわからねえな」

 Aランクの冒険者。
 想像もつかない世界だ。
 一体どれほどの強さなのだろう。
 それでも倒せるかわからないミノタウロス。
 確かに、あれほどの強さならおかしくないな。

「普通なら魔法隊の集中攻撃に天成器によって傷を負わせて、アッシュのエクストラスキルの攻撃をあれだけ受ければ、お前が飛び込んでくる前にはもう倒せていてもおかしくなかった」

 エクストラスキル。
 長い修練の果てや天成器の階梯が上がった時に取得する通常のスキルとは違う上位のスキル。
 稀に生まれた時に取得していることもあり、通常のスキルとは一線を画す力をもつらしい。

 ルークから黒い影が蠢いて攻撃していたのはエクストラスキルの力だったのか。

「それに武器もあの巨大な大剣はあきらかにおかしい。いままでの瘴気獣の装備は簡単な装備で、天成器と打ち合えば刃こぼれするような代物だった。それがあれだけ打ち付けても曲がらず、折れず、刃こぼれもせず。なにより魔法すら叩き潰してたからな……研究所に送るのは正解かもな」

 いま考えてもよくミノタウロスを倒せたものだ。
 
「最後にミノタウロスの大剣を弾いてくれた援護があったんです。あれは何だったんでしょう」

「ああ、大剣にぶつかった何かはオレにも見えた。……名乗り出ないってことは詮索されたくないのかもな。ギルドでもそれとなく調べて見るが……まあ心配するな、街を守るために力を貸してくれたと思えばいい」

 一体誰が助けてくれたのか。

「だいたい、瘴気獣と魔物が同時に街を攻めてくるなんて聞いたこともねえ。前代未聞だ!」

「そうなんですか?」

「瘴気獣は人や魔物も関係なく傷つける暴走した獣です。魔物の王ならともかく本来なら協力することはない。……街に被害が無かったのは奇跡でしょう。なんにせよアルレインの街そのものを救って頂きました。改めて貴方に感謝を」

 やはり面と向かって感謝されるのは少し気恥ずかしい。
 レトさんは真っ直ぐ瞳を合わせてくるから余計に居たたまれないのかも。

「そうだ。病院で会ったがアッシュの所に寄ってやれ。大事な話があるらしいぞ」

 ランドルさんは心の底から楽しそうに笑った。




 
 簡単な切り傷、打撲、骨折程度の怪我は回復魔法やポーションで治療できる。
 そのため病院は怪我をして意識を失ったり、病気の人が入院する施設だ。
 怪我の際あまりに重症だったり、血液を失いすぎると回復魔法などで身体の傷は治っても意識が戻らなかったりする。
 また、病気は回復魔法で治らないため清潔で長期間安静にできる施設は重要だ。

「やあ、こんにちは。今日もお父さんのお見舞いかい」

「うちの店によっていきなよサービスするよ」

 なんだかやたらと街の人が話掛けてくるようになった気がする。
 
「あの人が噂の人? 意外とカッコいいんじゃない? 話掛けてみれば?」
 
「え~、恥ずかしいよ~」

 気のせいではないかもしれない。
 ここ数日、病院に通っているが遠巻きにこちらを見ている人が何人もいる。
 病院でも病室にいる時、部屋の前に人集りができていたことがあった。
 あまり気にしないほうがいいだろうか?

(はは、やっぱりクライは注目の的のようだね。さすが私の所有者だ)

(ミストレア……からかうなよ。一過性のものだ。すぐ飽きられるだろ)

(さあどうだろうね。まあまずは父上のお見舞いに行こう。もう意識は取り戻しているんだしきっと暇しているんじゃないか?)

 父さんの怪我はすぐ回復魔法で治ったが出血が多かった。
 一時は意識が戻らなかったがいまは退屈そうに病室で安静にしている。
 お医者さんがいうには怪我の他に心労も原因なのではと言っていた。
 父さんごめん。





 アルレインの街の中央に病院はある。
 病室は二階の個室を割り当てられていた。
 魔導具の冷蔵庫もあり、看護士さんもちょくちょく様子を見に来てくれる。
 こんな待遇のいい綺麗な部屋に泊まっていていいのだろうか?

「やっと来たか。飯はしっかり食べているか? 急に調子が悪くなったりしていないか?」

「大丈夫、昨日はカインさんが手料理を持ってきてくれたし、アニスも家事を手伝ってくれる」
 
 アニスにはこっぴどく怒られたが無事だったことで安心したらしい。
 父さんが居なくて滞りがちな家事も手伝ってくれる。

「大事な話があるって聞いたよ」

「ランドルか。まったく余計なことを」

 父さんは困ったような苦笑いを浮かべている。

「時期をみて話そうと思ってたんだがな」

 珍しい、いつになく言い淀んでいる。
 
「いままで黙っていた。もっと早く言うべきだと何度も考えた。…………お前の母親は生きている。そして……お前には妹がいる」

「い、妹!?」

 母さんが生きているってだけで驚きなのに妹がいる?
 家には母さんの物なんて残ってない。
 父さんが哀しそうな顔をするから家族の話をすることなんてなかったのに……。

「な、なんでいまになって!」

「クライ、お前はいまの生活に不満はあるか?」

「不満なんてない。俺はずっと……この街で狩りをして生きていくと思ってた。父さんのように一人前の狩人になって、街のみんなに信頼されて……それで……」

「そうだ。父さんから見てもお前は狩りをするのが、狩人の生き方が好きだと思っていた。だが先日の瘴気獣との戦いを見て考え直した。父さんのわがままでお前には家族のことを教えていなかったが、お前もなにかを決断できるようになった。自分で考えて自分で選ぶことができる。父さんはここに残るが母さんとエクレアは王都にいる。……会いに行くか?」
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