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第十一話 冒険者登録
しおりを挟む病室で衝撃的なことを聞いてから数日。
俺は再び冒険者ギルドを訪ねていた。
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日は……」
「冒険者登録ですね? ありがとうございます! それでは早速ご説明させていただきます!」
ものすごく元気のいい受付のお姉さんは冒険者について丁寧に教えてくれた。
まず冒険者ギルドのランク制度。
ランクはEランクから始まり、D、C、B、Aと上がっていく。
さらにその上にSランクがあり世界でも数えるほどしかいないらしい。
またランクは一定の依頼を受け昇給試験に合格するかギルドマスターの推薦が必要だが、ランクが上がれば冒険者ギルドで受けられる特典が増えていく。
高ランクになれば国からも優遇措置が取られるようになるそうだ。
とりあえずEランクでも冒険者ギルドの各施設の利用、魔物や採集物の資料閲覧、初心者講習が受けられるそうだ。
申請すれば戦闘訓練なんかにも参加できる。
思ったより手厚いサポートが受けられるみたいだ。
「こちらの用紙にご記入をお願いします」
説明が終わると登録情報の紙を渡された。
氏名、出身地、レベル、習得スキル、得意武器、闘技、魔法、活動拠点、その他の項目がある。
習得スキル、得意武器、闘技、魔法は習得しているすべてを記載しなくてもいいらしい。
あとから追記することもでき、書いてあれば適切な依頼を紹介されたり、貴族から指名で依頼がされやすくなるそうだ。
「おや?」
受付の奥からすらっとした背の高い男性が不思議そうな様子でこちらを覗き見た。
「今日はどうされたのですか?」
「レトさん、先日はお世話になりました。今日は依頼をお願いに来ました」
「えっ!? 冒険者登録ですよね」
さっきまで得意げに説明していたお姉さんが驚いた顔をする。
言い出そうとは思ったけど、あまりの勢いに言いそびれてしてしまった。
「すみません、違います」
レトさんが受付のお姉さんの耳元に何言か囁く。
「受付、替わっていただけますか?」
「は、はい! わかりました!」
お姉さんは大慌てで受付の奥に走っていく。
もっと早く訂正して上げたほうが良かったかも。
後ろ姿を見ていたら机の角に当たって転んだ。
……顔から突っ込んだけど大丈夫かな?
「失礼致しました。ここからは私が引き継いでご対応させていただきます。依頼とおっしゃっていましたがどういったご依頼を?」
「王都まで護衛の依頼をお願いしたいんです」
「王都まで……ですか、アルレインから出ていかれてしまうのは残念ですが……わかりました。手配いたしましょう」
「…………ちなみに理由を伺っても?」
「母と妹がいるそうなんです。二人に会いに行こうと思っています」
「……」
「ずっと家族はいないものとして暮らしてきたので突然聞かされて驚いているんです」
「……」
「それと、確かめたいこともあって」
急にレトさんは引き締まった厳しい顔をした。
なにか変な事を言っただろうか?
「なぜ……なぜそれほど簡単に話してしまうのですか? 私は冒険者ギルドの人間ですが先日知り合ったばかりの他人です。なぜそんな人物に目的を話してしまうのです。いくら審理の神が犯罪の抑止力になっているとはいえ……迂闊な行動です。私が貴方を貶めようとするかもしれない。危険な場所に案内するかもしれない」
レトさんはどうして急にそんなことを?
「なぜってそれは」
「……」
「レトさんは最初に出会ったとき、俺のことを試してましたよね。すごい低姿勢で」
「っ!?」
「でも今は試していない。というより心配してくれてる。俺の為に忠告してくれているってわかりますから。だから、レトさんのことは信頼してます」
初めて会ったときはただただ低姿勢で俺ではない何かを見ているようだった。
でも、話して行くうちに真っ直ぐ俺自身を見てくれているように感じていた。
それは……間違いではないはずだ。
レトさんは一度目を伏せるとゆっくりと話し始める。
「この街は温かい場所です。皆が一丸となって協力して日々を暮らしている。魔物が出れば子供達を守るため戦い、怪我人や病人が出れば皆で協力し看病する。ギルドマスターも領主様も街のことを第一に考え頭を悩ませている」
なにか辛いことを想い出すように言う。
「……王都は……この街のように温かいだけではない。確かに心の優しい人もいます。ですが人を傷つけ喜ぶ者もいる。犯罪を犯すと上昇するカルマ。普通ならカルマが上昇することは神の怒りに触れることだとして、上がってしまうような行動はしない」
審理の神。
星神様を支える八つの神の一柱。
ステータスには表示されないが人が犯罪を犯したとき、カルマは上昇すると言われている。
武装教会にはカルマを判別できる『審理の瞳』というエクストラスキルを持つ者がいて、その罪深さを判定出来る。
そのため、街には犯罪を犯す者は滅多に存在しない。
犯罪を犯したとしてもすぐに発見され拘束されることになるからだ。
レトさんは……。
「犯罪にもならない罪。人はカルマがどんな行動でどれほど上昇するのかよく理解している。王都の住人達の中には人を傷つけることをなんとも思わない者もいます。簡単に他人を信じてしまうのはこれから王都に行くならなおさら注意しなければならない。世の中は善人だけではないのです」
「はい、でもレトさんのことを信頼しているのは変わりません」
「……そんな人だから助言したくなるのかもしれませんね」
レトさんは先程の厳しい表情とは違う柔和な笑みを浮かべた。
無事冒険者ギルドでの用事も終わり、次の目的地である教会に向かう。
それというのもミノタウロスとの戦いが終わったあと、ステータスを確認するとクラスレベルが最大まで上がっていたからだ。
基本の八つのクラスを選択し、クラスレベルを二十まで上げることでクラスチェンジを行うことが出来る。
クラスチェンジすることでステータスに記された力の数字が上昇したり新たなスキルを覚えることができる。
ちなみに、力の数字とはステータスに表示されるHP、EP、STR、VIT、INT、MND、DEX、AGIの八つの項目の後ろに記載された数字のことだ。
この数字が大きいほど能力が高いことになるらしい。
ステータスは他人には見えないが過去にステータスに記された数字を何千、何万人分も調べたことで、レベルが高いほど各数字が高く能力が優秀なことがわかった。
「【ステータスオープン】」
名前 クライ=ペンテシア
年齢 14
種族 人間 level32
クラス 狩人 level20
HP:1350/1350
EP:144/180
STR:26
VIT:27
INT:19
MND:15
DEX:41
AGI:36
Dスキル
リーディング
スキル
体術 剣術 弓術 盾術 投擲 闘気操作 気配遮断 気配察知 解体術
天成器 ミストレア
基本形態 弓
階梯 第二階梯
EP︰100/100
エクストラスキル
格納 矢弾錬成 念話
目の前に浮かぶ半透明なステータスプレート。
注意深く見るとレベルが飛躍的に上がっている。
あれほどの強敵を倒せば当然か。
闘気操作?
ミノタウロスと戦う前には無かったスキルが増えている。
右手を左手に重ねて唱える。
「【リーディング】」
名前 クライ=ペンテシア
年齢 14
種族 人間 level32
クラス 狩人 level20
HP:1350/1350
EP:144/180
STR:26
VIT:27
INT:19
MND:15
DEX:41
AGI:36
Dスキル
リーディング
スキル
体術level12 剣術level3 弓術level22 盾術level81 投擲level5 闘気操作level1 気配遮断level18 気配察知level10 解体術level15
天成器 ミストレア
基本形態 弓
階梯 第二階梯
EP︰100/100
エクストラスキル
格納 矢弾錬成 念話
リーディング、この謎のスキルはどうやらステータスとは違って分かる範囲が広いらしい。
ステータスが手元にプレート状に表示されるのとは違ってリーディングなら脳裏に内容が浮かぶ。
そして最大の違いはスキルのレベルまでもが表示されていること。
いままでスキルにレベルが存在するなんて聞いたこともない。
父さんにもそれとなく聞いたが知らないようだ。
レベル81の盾術。
これがミノタウロスの攻撃を受け流せた理由。
他のスキルのレベルが低いのに鍛えてもいない盾術のスキルだけ異様に高い。
確かにスキル自体はステータスで確認したときいつの間にか増えていて疑問には思っていた。
今回のように自分の能力の疑問を覚えなければ自分自身にリーディングを使う発想は思いつかなかっただろう。
……原因として考えられるのはあの禁忌の森での出来事。
アレクシアさんの豪快かつ機敏な盾さばき。
あの技術が俺に宿っているなら納得出来る。
しかし、本当に謎なスキルだ。
そもそもDスキルとは何なのだろう?
今まで何回か使って来ているのに他にスキルが増えていたこともない。
エクストラスキルでもない。
果たしてこれからどうこのスキルを向き合っていくか……。
星神教会は変わらず子供たちの声が漏れ聞こえている
冒険者ギルドに負けないほどの大きな建物。
ここに存在する神の石版は数多くの奇跡を表してきた。
「あら、お久しぶりですね。今日はどういったご用事ですか?」
シスタークローネは変わらない上品な笑顔で挨拶してくれる。
「クラスチェンジをお願いしたいんです」
俺のお願いにシスタークローネは水晶玉のある部屋まで案内してくれた。
水晶玉自体は割とどこにでも存在するらしい。
神の石版には製造方法そのものが記されたからだ。
水晶玉自体は冒険者ギルドにもあるがほとんどの人が教会で天成器錬成とクラスチェンジを行う。
なぜなら、星神様に近い場所がここだからだ。
街に住む人々は星神様が凄まじい力を持っているのを知っている。
天成器、ステータス、スキル、言語の統一その他にも多岐にわたる。
神の石版の置かれた星神教会でクラスチェンジすることでより良いクラスになれると信じられている。
「ザリーン、ご苦労様です。こちらの方がクラスチェンジを為さりたいそうですが、通して頂いてもよろしいですか?」
水晶玉のある部屋の前。
槍を背中に携えたシスターが直立不動で佇んでいる。
他にも数人のシスターたちが控えていて、もしもなにかあればすぐに駆けつけられるようになっているのだろう。
部屋の前はピリッとした緊張感に包まれている。
「こちらの部屋に入るには『審理の瞳』による鑑定を受けて頂かなければなりません」
ザリーンと呼ばれた女性の鋭い視線が向けられる。
以前来たときは見かけなかったと思う。
この人が『審理の瞳』の所有者。
所有者の多くは武装教会に属しているという。
武装教会の司祭様やシスターは犯罪を犯した者の真偽を判断したり、場合によっては捕縛に派遣されることもあるとか。
武装教会は星神教会の一部だが一定の武力も持ち合わせている。
「クライ君、申し訳ないけど鑑定を受けてくれるかしら。ここでは誰もが鑑定を受けて貰うことになっているの。気を悪くしないでね」
シスタークローネが申し訳無さそうにこちらを伺う。
初級クラスを選択するときにも鑑定してもらったけど、犯罪の有無を確認するなんて緊張するな。
「もちろんです」
(はは、ここでダメだったら面白いのにな)
(何言ってるんだミストレア)
「では失礼して、【審理の瞳:善悪鑑定】」
鋭い視線が全身を捉える。
見られている。
なにかわからないが、どことなく違和感があり見られていることが分かる。
「問題ありません。お通り下さい」
どうやら無事に通れるようだ。
扉を開けると部屋の中央には、初級クラスを選択したとき以来に見る水晶玉が変わらず澄んだ青色で置かれていた。
水晶玉の前まで進むとシスタークローネがクラスチェンジについて説明してくれる。
クラスチェンジの際には毎回説明することが規定になっているそうだ。
「初級クラスを選んだときにも説明されたと思うけどもう一度説明しますね」
シスタークローネからの説明を要約するとこうだ。
・初級クラスのレベルが二十に到達するとクラスチェンジを行うことが出来る。
・クラスチェンジ出来るのは最大レベルになったとき一度きりで前のクラスに戻すことは出来ない。
・同じ中級クラスでも人によってクラスチェンジ先の候補は変わる。
・悩むようなら候補だけを見て後でもう一度来て選ぶことが出来る。
シスタークローネは候補先にはその人の可能性が浮かび上がると言う。
選び直しは出来ないが、誰かに相談したり、改めてクラスについて調べてから選択することが出来るのはありがたい。
一生に一度の選択なら悔いのないものにしたい人は多いだろう。
「では水晶玉に手をかざしてクラスチェンジと唱えて下さい」
「はい……クラスチェンジ」
水晶玉に両手をかざす。
隙間から光が漏れると同時、脳裏に文字が浮かんだ。
猟士 追跡者 投擲者。
三つの候補が脳裏に浮かぶ。
猟士は狩人の単純な強化クラスだろう。
追跡者は獲物を追う能力を伸ばすのだろうか。
投擲者は……あまり心当たりがないな。
果たしてどれを選ぶか。
(ミストレア、どれを選ぶのがいいかな?)
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