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第十五話 魔法講義
しおりを挟むシルバーウルフを倒した翌日。
手下のグレイウルフはリーダーのシルバーウルフが倒されると散り散りになって逃げ出した。
手早く解体を済ませ、その後は魔物の襲撃もなく一同を乗せた馬車はバヌーの街へと向かっていた。
アルレインから北北東に位置する都市バヌー。
規模はアルレインより大きく、さらに東には海辺の都市ヘルミーナ、西には王都に近いもう一つの都市への続く街道がある交通の要所になっている。
ドルブさんの話では、この道を通って海産物は王国中に届けられるらしい。
新鮮なまま各都市や街に届けるためヘルミーナには海産物を凍らせる専属の氷魔法使いがいるそうだ。
また、バヌーには大規模な動物の飼育場もあり別名『畜産の都市』と呼ばれるほど王国の台所には貢献している。
バヌーの街で育てられた肉やチーズは王国中に広く流通していて、カインさんの酒場もここのチーズを使っている。
「所でどうして王都へ」
朝食を済ませて一時間ほど。
特に何事もなく順調に進んでいると隣で座るサラウさんが尋ねた。
「……そうですね、確かめたいことがあって」
レトさんが忠告してくれたことを忘れたわけではないけど……〈赤の燕〉のみなさんは出会ったばかりの俺を信頼して背中を任せてくれた。
はぐらかしたくないな。
「母と妹に会いに」
「へー、妹さんがいるんスか。でもアルレインの街と王都で離れて暮らすなんて珍しいッスね。あ~、でもわたしもかわいい妹が欲しいッス。妹がいればなんでも買って上げちゃうのに~」
「ふふ、うちではララットが妹みたいなものですね」
「何言ってるんスか! サラウはともかくカルラとイザベラならわたしのほうがお姉ちゃんッス!」
朝に弱いカルラさんをララットさんは熱心にお世話していた。
髪を整えたり、温かい飲み物を用意して上げたり。
……あれだけ見れば確かにお姉さんかもしれない。
「それにしても偶然ですね、私たちもこの依頼が終わったら王都へ行くつもりなんですよ。王都で生誕祭が開かれるので」
「生誕祭?」
「王都で開かれる王国の誕生を祝ったお祭りッス。普段食べられない美味しい物を食べたり、街中に出店が出たり、騎士団が行う盛大なパレードもあるッス。うちのパーティーは毎年生誕祭にはサラウの実家で祝うことになってるッス」
アルレインの街ではその年の収穫を祝って収穫祭が開かれるけど、似たようなものだろうか?
興奮するララットさんと反対にサラウさんは恥ずかしそうに俯きながら答える。
「そ、その……両親が心配性で生誕祭には必ず帰ってくるようにと……」
「サラウの実家は商人の家で毎年豪華な食事が出るから今から待ち遠しいッス。部屋は綺麗で広いし、お風呂も入り放題。おやつまで出るッス。何が不満なんスか?」
「私は憂鬱よ。父さんったら帰ったらいっつもパーティーを開いて自分の商売の関係者を紹介しようとするんだから。ヒラヒラしたドレスなんか似合わないし、皆を巻き込んじゃうし」
サラウさんは心底落ち込んだ様子だ。
「カルラはそういう集まりはなんとも思ってないッスよ。イザベラも綺麗なドレスが着れて満更でもなさそうスから気に病むことなんてないッス。どうせ休暇になってもみんな帰る家なんてないッスからサラウのところでリフレッシュ出来るならいいと思うッス」
「でもお父さんも取引相手を冒険者と顔合わせさせたい思惑があって、商会の利益のためにみんなを利用してるから……」
「商売のことはよくわからないッスけどそれも含めて親心って奴じゃないッスか。お陰で色んな所から依頼がくるし、というかこのやり取り毎年やってるやつじゃないスか、サラウは気にしすぎなんスよ」
「ララット……その……ありがとう。クライ君も良かったら家によってください。バウレスト商会では冒険者用の魔導具なんかも取り扱ってますからお役に立てると思います」
次の襲撃はゴブリンだった。
馬車が野営のために止まった夕暮れ時の奇襲。
狩人の森とは段違いの数が襲ってきたけど、連携の取れた〈赤の燕〉の防衛陣は破れなかった。
馬車に接近するまでもなく次々と倒される。
驚いたことにゴブリンの群れには魔法を使うゴブリンシャーマンが隠れるように混じっていた。
アルレインの街の周辺ではまず見かけない魔法を使う魔物。
シルバーウルフのようにゴブリンの集団を統率する上位個体。
ゴブリンよりも小柄な体躯に身体に見合わない大きな杖を携え魔法を放つ。
それにしても、魔物も魔法を使うことは知っていたけど実際に見ると改めて脅威だと感じる。
カルラさんはあっさり躱していたけど魔物についてもっと知識がないと対処するのは大変だな。
時刻は夜。
野営地では魔物の襲撃に備え、交代で夜の見張りを立てていた。
イザベラさんとサラウさんと一緒に静かに燃える焚き火を囲んで丸太に座る。
最初は〈赤の燕〉のみなさんで交代で見張る予定だったが、無理言って共に見張りをさせて貰うことにした。
サラウさんは護衛対象の一人だからと見張りから外してくれていたけど、旅をするなら勉強しておいたほうがいい。
夜の森は静寂が包んでいた。
焚き火の火が爆ぜる音だけが周囲に響く。
ふと、俺は気になっていたことをサラウさんに尋ねていた。
「魔法ってどんな感じですか?」
身近な人に魔法の使い手はいなかった。
魔法を使うのはどんな感覚なのだろうか。
魔物との戦いでサラウさんの使う水の魔法は鮮やかで洗練されていた。
「う~ん、どんな感じ……ですか。そうですね、魔力や魔法についてどの程度知っていますか?」
正直あまり詳しくない。
アルレインの街では教会で勉強会を開いているけど、学ぶことは文字の読み書きや計算、歴史が多い。
知っていることと言えば、人の体内には魔物と同様に魔石が存在すること。
魔法はその魔石に蓄えられた魔力と呼ばれる力を使い様々な現象を起こせること。
魔法には火、水、土、風、光、闇の六大属性と呼ばれる属性があること。
狩人になるつもりだったから魔法についてはぜんぜん学んで来なかった。
……これからはもっと勉強しないと。
魔法について何も知らない俺に、サラウさんはさらに詳しい話を教えてくれる。
「ふふ、ではクライ君、授業を始めますね。魔力について詳しく説明しましょう!」
サラウさんはどこか得意げに喋り始める。
妙にハイテンションでなんだか嫌な予感がする。
「はぁ、こうなったサラウは止められないぞ」
イザベラさんは辟易した様子で薪を焚べる。
「ステータスに表示されるEPは魔力の総量とも言われ、魔力を消費するとこの数字が減ります。ただし、人の体内には空気中に存在する魔力を収集、保存する魔石が存在します。そのため、魔力=EPは時間経過で自然と回復します」
俺のステータスのEPは常に減少したままで最大まで回復しない。
……やはりDスキルが原因なのか?
「先程魔力=EPと言いましたが、実はEPは闘技を使用することでも消費されます。ステータスに記されたEPの意味まではわかりませんが、おそらくは精神力を表しているのではないかと考えられています」
「そうだ、闘技では闘気を使い強力な攻撃を繰り出す。なぜ魔法と同じくEPを使うのかはわからない」
「人によってはEPは魔力だと言ったり、闘気だと言ったりバラバラなんです」
ステータスの項目の意味は解明されていない。
なんとなく意味自体は推測されているけど、それも合っているかどうかわからないらしい。
サラウさんが言うには、ステータスの上の項目から順に体力、精神力、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、操作力、敏捷力と王国では定義されているらしい。
イザベラさんが焚き火で温めたお茶を渡してくれる。
「魔力は土地によって濃度が変わり、それによってその土地に生息する魔物の強さや数は変化すると言われています。ある場所では魔力が濃いため強力な魔物が集落を作っていたり、魔力が薄いためあまり魔物が生息せず観光地になっている場所もあります。また、魔力の濃い場所では魔力の回復速度が早くなり、薄い場所では回復速度は遅くなります」
狩人の森も動物のほうが多かった。
アルレインの街の周辺は魔力が薄かったってことか……。
「次は魔法発動の過程について説明しましょう!」
サラウさんはハイテンションなまま説明を続ける。
魔力について話すのがよほど楽しいのかグイグイと距離を詰め顔を近づけてくる。
助けを求めてイザベラさんを見ると悲しそうに首を振った。
「魔法発動にはまず体内の魔石から魔力を取り出し循環させ、活性化させる必要があります。難しいのは魔力を感じ取ること。ここで躓いてしまい諦めてしまう人もいます」
循環も活性化もいまいちわからないな。
……魔力を感じる。
気配を察知するのとはまた違うのだろうか?
「次に魔力を使いたい魔法の属性に変換します。属性には個人で適性があり得意な属性、苦手な属性が存在します」
サラウさんは水魔法は得意だが火魔法は苦手らしい。
何の属性が得意かはとにかく色んな魔法を試すしかないそうだ。
例外的にステータスに初めから記されている場合、その魔法に才能があることになるらしい。
「その後、魔力を使いたい呪文ごとの術式に変化させ、魔法を展開する始点を決めます。ここには魔力支配域の話が関わってくるんですけど……その話はあとにしましょう」
始点というと杖の先から魔法を放ったり、空中から魔法を放ったりしたことだそうだ。
「最後に呪文を唱え、魔法を発動する。呪文も得意、不得意が存在しますが、それより使い勝手や慣れた呪文をよく使う傾向がありますね」
「魔法は誰でも使えるものなんでしょうか?」
「誰でも魔法について学べば使えるようにはなりますよ。ただし、それぞれ得意な属性の魔法、使いやすい呪文は異なります。特に魔法因子は使い手の適性に左右されます」
「魔法因子?」
「え~と、昨日シルバーウルフにとどめを指した魔法を覚えていますか?」
確か……あのときは捻れた水の柱を放っていた。
シルバーウルフと正面からぶつかって押し勝つ威力は凄まじかった。
「あの魔法には魔法因子と呼ばれる追加の術式を加えています。《ウォーターシリンダー》の水魔法に《スピン》の魔法因子ですね」
「本来は水の円柱を放ち相手に衝撃を与え吹き飛ばす魔法に、《スピン》の魔法因子によって回転を加えることで命中精度と威力、速度をわずかに上昇させてます。その代わり影響範囲はわずかに狭まります」
「《スピン》の魔法因子は魔法自体を回転させ精度や威力、呪文によっては形を変化させることが出来ます。ただし、魔法因子はメリットだけではありません。呪文によっては範囲や威力が下がることもあります」
「魔法は基本的に直線で射出されます。そのため、魔法因子によって軌道や範囲、性質を変化させ使いやすくしています。魔法因子は《スピン》以外にも色々な種類があって、魔法を自身を中心に円運動させる《サテライト》、魔法をその場に待機させて任意のタイミングで射出する《ディレイ》。その他にも特定の個人、国だけが使う――――」
サラウさんの怒涛の説明ラッシュに口を挟む余地もない。
イザベラさんなんか明後日の方向を見てる。
……迂闊に尋ねては行けなかったかもしれない。
教えて貰えるのはありがたいけど理解が追いつかない。
しばらく夢中になって説明を続けていたサラウさんは、流石に話疲れたのかお茶を飲み一息つく。
良かった。
さっきのサラウさんはちょっと怖かった。
「う~ん、ごめんなさい、ちょっと駆け足で説明しちゃいましたね。……そうですね、クライ君は魔力を感じ取ることから始めたほうがいいでしょう」
俺も魔法を使えるようになるときがくるのだろうか。
「魔力を体内で活性化、循環させる技術を瞑想と言います。これは習得することでステータスにも記載され、魔法を使うなら必須のスキルです。まずは瞑想から学んで行きましょう」
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