孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第二十九話 第三階梯

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 総数九つの光の刃。
 それが――――一斉に襲ってくる。

「《ディバイド》は魔法を複数に分割する魔法因子。威力は低下する代わりに数は増え、攻撃範囲は広がり避けにくくなる」

「くっ」

 一度に放たれる数が多い!
 一つ一つの光の刃は小さくても、避ける隙間のない攻撃。

 いきなりこんな魔法を放つなんてなにを考えてるんだ!

 必死でトレントの盾を動かし身体に命中する魔法だけ防ぐ。
 辺り一面にばら撒かれた光の刃をなんとか捌ききると、イクスムさんは間髪入れずに恐ろしいことを呟いた。

「ふむ、盾を使うとは予想外ですが問題なく防げていますね。では次です。【ライトレーザー】」

 正面に構えた右手の小太刀の切先に集結する光。
 パッと光が点った次の瞬間、十cmにも満たない光球から一直線に光線が放たれる。

 ――――危ないっ、間一髪のところで回避した。
 いや、躱しきれていない。
 身を守っていたトレントの盾の端が僅かに欠けている。

 この人見極めるって言ってたのに厳し過ぎないか!?

「実力者になれば近接攻撃の合間に魔法を織り交ぜて攻撃してきます」

 再び接近してからの二刀の連撃。
 切り払い、切り降ろし、舞うように一回転し左下と真下から切り上げ。
 一歩後退したと思ったら即座に転身して二刀を揃え振り下ろす。

「武器を振り切った後でも気を抜いてはいけませんよ。【ライトアロー】」

 斬撃の合間、小太刀の振り終わりに至近距離から光の矢が飛んでくる。

「ぐっ!」

 続けて光の矢の後ろに隠れるような追撃の突き。
 斬撃と光の魔法を組み合わせた息つく暇もない連続攻撃。

 到底矢を番えて反撃する時間などない。
 
(クライ、防御してばかりでは勝ち目はない。こっちから攻めるんだ)
 
(いや、わかっていても攻撃が速過ぎる。盾で防げているのが奇跡だ)

 しばらく盾に隠れるようにして耐え忍び続けていると不意に攻撃が止む。
 イクスムさんは軽やかなステップで距離を取った。
 
「なかなかやりますね。今の連撃で仕留めるつもりだったのですが」

 仕留めるってどうゆうこと?
 これって決闘だよな。

(あの女エルフ、口だけでなく本当に強かったとは……)

「ふむ、盾は……不自然なほど上手く扱えていますね。……まあ、いいでしょう。私の攻撃速度も目で追えている。できれば次は弓の練度も見たいですね」

 どうやら距離を取って仕切り直すようだ。
 それにしても……先程の一連の攻撃を防げたのはイクスムさんが手加減したからだろう。
 現に、こっちは息が切れるほど緊迫した攻防だったのに対してイクスムさんは分析しながら戦っても平然としている。
 これほど実力差があるとは……。
 
(ミストレア、次にイクスムさんが至近距離に来たら……アレをやる)

(――っ! そうか、わかった。ぶちかましてやれ!)

 このまま防戦一方で負けるくらいなら切り札を切る。
 だが、その前に動きの止まったいまの内にしかできないことがある。

「ふぅ、……身体強化」

 呼吸を整え、闘気を体内で循環、増幅して身体能力を強化する。
 いまは落ち着いたときにしか発動できないが、これも王都への旅のお陰で身についた技術だ。
 旅の始めにイザベラさんに基礎を教わり、カルラさんと一緒に鍛錬した。
 ニールと時々ゼクシオさんも協力して闘気の扱い方に助言をくれた。
 なにより、闘気の扱いに長けたフージッタさんに身体強化について教われたのが大きい。

「ふむふむ、闘気による身体強化は発動できると……」 

 持続も短く、強化幅もそれほどないがなんとか身体強化を発動できた。
 
「今度はこっちから行きます!」

 高めた身体能力は移動力を向上させる。
 イクスムさんを中心に円を描くように走り出す。
 
 番えるは錬成矢。
 疾走と同時に続け様に射る。

「……む」

 致命傷を避け手足を狙った矢は虚しくも空を切る。
 やはりそう簡単には当たってくれない。
 僅かにその場で身体をズラしただけで躱されてしまった。

 矢を放ちながら一定距離を保つように走り続ける。
 イクスムさんも距離を詰めるように移動し始めた。
 牽制の矢を織り交ぜ妨害する。

 なんとかイクスムさんの高速移動に対抗できている。
 とはいってもイクスムさんは素の身体能力でこちらの身体強化の速度と同等程度の移動速度がある。
 おそらく、それだけレベル差があるということだろう。

 それでも、勝負を諦めるわけにいかない。

「動きながらの射撃も正確。弓の腕は十分合格点ですね。なら、これはどうです? ……【ライトレーザー・ディレイ3】」

 イクスムさんが移動した軌跡に点々と残る光の球。
 動かない?
 構わず走りながら錬成矢を放つ。
 
「《ディレイ》の魔法因子は魔法をその場に一定時間待機させます」

 喋りながら右側から回り込むように接近してくるイクスムさん。
 距離を保つため逃げるように後退する。

「一度魔法を発動して待機させて置けば魔力支配域に関係なく展開、射出できる。最もあらかじめ待機時間と弾道を設定しておく必要はありますが」

「クライ! 左だっ!!」

「――え?」

 ミストレアの警告に視線を移すと三つの光球の内一つから足元を撃ち抜くように光線が放たれる。

「うわっ!」

 地面を穿つ光線。
 そしてそれは、僅かにタイミングを遅らせて残り二つの光球からも放たれる。

「初級の魔法因子ですが上手く相手を誘導すれば多角的に攻撃できます。時間の差を利用して攻撃の隙を無くしてもいい。後退時に放てば足止め代わりにもなる。覚えておいて下さい」

 驚いて硬直していた身体を無理矢理動かして光線に捉えられないようにその場を走り抜けた。

(あの女エルフめ、上から目線で授業でもするかのように語りやがって)

(いまは機会を伺うんだ。反撃のときはくる)

「さあ、どう対応しますか?」
 
 ニコリと笑いながら尋ねてくるイクスムさん。
 純粋に嬉しそうな笑顔が少し怖い。
 




「さあ、これでお終いですか? 【ライトアロー3】」

 決闘は終始劣勢のまま続いている。
 三発の光の矢を盾で弾き防ぐ。
 何度も攻撃を受けていると段々とわかってきたことがある。
 
 それは、これまでずっとイクスムさんが俺の実力を見極めるために手を抜いている事実。
 二刀の小太刀が振るられる軌道は盾で防御できる範囲に留まり、速度も緩急をつけることはない。

「【ライトカッター】」

 魔法も狙いは手足に集中していて、意外にも決定的な怪我はさせないように配慮してくれている。
 この光の刃も胴体ではなく足元、それもほとんど地面に向けて放たれている。

 生徒が答えを出すのを待つように俺の次の手を待っている。
 それはつまり、初めて見る行動に対してイクスムさんは確実に受け身で対応するということ。

 そして、そこに勝機はある。

 互いに一定の距離を保っていたのを今度はこちらから狭める。
 盾を前面に構えながら突進する。

「ふむ、近づいて来ますか……」

 案の定、イクスムさんは二刀による攻撃を仕掛けてくる。
 そう、度重なる斬撃と魔法でボロボロになったトレントの盾に。
 一撃、二撃、三撃と片方の小太刀だけの斬撃が続く。
 その後に振るわれる二刀の小太刀を揃えた斬撃。

 ここしかないっ!

 横薙ぎに振るわれるニ刀の起点を潰す。
 身体強化で高めた移動速度で一気に小太刀の柄を押さえるように懐に飛び込んだ。
 密着するような至近距離で叫ぶ。

「ミストレア!」

 新しい姿と共に得た新たな形態。

「「【変形:突杭重手甲】!!」」

 ――――白銀の弓は姿を変える。
 
 弓の両端に張られた弦は光へと変わり空中に消えていく。
 柄を中心に上下に伸びる湾曲部分は腕を覆うように折り畳まれた。
 新たな形態を得たときに追加された装甲が手の甲に装着され左右に割れる。
 そこから現れるは腕に沿うように配置された一本の杭。

 完成したのは左腕を覆う白銀の手甲。

 狙いは唯一つ。
 イクスムさんの携える天成器。
 その――――小太刀を吹き飛ばす!

「「発射ッ!!!」」

 ミストレアの魔力を使い左手から高速で撃ち出される白銀の杭。
 
「きゃあぁぁぁっ!」

 炸裂するような破裂音と共にイクスムさんの手から一本の小太刀が弾き飛ばされた。

「それまでっ!」

 俺たちの……勝ちだ。





「……素晴らしい戦いでした」

「凄かったです~」

「坊ちゃまの戦いをこの目で拝見できる日が訪れるとは……感無量でございます。さらにはあのようにイクスム相手にも臆さない戦いぶり、お見事でした」

 ……ハイネルさんの坊ちゃま呼び直ってないな。
 昨日訂正するようにお願いしたのに。

「や、やりますね。さ、流石エクレアお嬢様のお兄様だけはあります」

 な、泣いてる!?
 決闘が終わってその場に顔を伏せていたイクスムさんがゆっくりと近づいてくる。
 いや……物凄く涙目なだけか。
 今にも涙が溢れ落ちそうな潤んだ瞳で話を続ける。
 
「魔法を織り交ぜた戦闘には慣れていないご様子でしたが、決闘の終盤には上手く立ち回れていました。これから修練を続ければさらに強くなれるでしょう。ですが! 勘違いしないように! 決闘では取り決めたルールによって敗れましたが、本来ならあの後も戦闘は続きます。世界には私以上の強者もいる。日々の稽古を怠らないことです」

「……わかっています。でも、決闘ではかなり手加減してくれてましたよね。イクスムさんが最初から本気なら何もさせて貰えず決闘は終わっていました。わざと時間を掛けて戦ってくれた。……俺のことを知ろうとしてくれたんですよね。……ありがとうございます」

「そ、そうですか。それがわかっているなら良いんです。……この決闘を通じて私も貴方の実力がエクレアお嬢様のお兄様として相応しいものだと認めます。学園で不当な扱いを受けたとしても跳ね除けられるでしょう。……いらない心配でしたね」

 始めはどうなることかと思ったけど最後にはイクスムさんもクスリとした笑顔を浮かべながら俺のことを認めてくれた。
 照れ笑いを浮かべる笑顔は敵意のこもった表情よりずっといい。

 まあそもそも、まだ学園に通うとは決めてないんだが……なんだかなし崩し的に通うことになりそうな予感がする。
 母さんにもっと詳細を聞いた方がいいだろう。

 それにしても……。
 右手に持つトレントの盾に視線を移す。
 大事に手入れして使ってきたのに全体にはひび割れが目立ち、所々が欠け、原型だけは留めているものの凄惨な有様だ。
 
 ……これ、どうしよう。
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