孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第二十八話 決闘

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「正直に申し上げます。私は貴方を認めていない。たとえエクレアお嬢様が認めていたとしても」

 屋敷の裏側にあたる広場に呼び出されるとそこに待っていたのは、昨日出会ったばかりの妹と第一声から声を荒げるその従者の女性。
 さらに、広場の端には遠巻きにこちらを見てくるもう一人の従者の女性がいる。
 落ち着かない様子で両手を組み心配そうな視線を送ってくる。
 頭頂部には丸くふわふわとした毛の生えた耳が一組生えている。
 あれは……熊の耳?

(昨日当主の間の扉を開けていた二人だな。この様子だと妹様専属の従者なのかもな)

「聞いているんですか?」
 
 目の前でこちらを敵意の籠もった視線で伺う年上らしき女性。
 ひらひらとした白いレースのあしらわれた衣装はメイドと呼ばれる職業のものだろう。
 高い身長に長い金の髪を後頭部で一つに纏めて垂らしていて、頭を動かす度にゆらゆらと揺れる。

 そして、なにより気になるのは、人間、獣人、ドワーフ、竜人、魔人どの身体的特徴とも違う特徴的な尖った長い耳。
 あれは、まさしくエルフの特徴だ。
 
(エルフとは珍しいな。森林王国に所属する者が多いはずなのに)

「もちろん、聞いています。なぜこんな所に呼び出しを?」

 どうやらここは戦闘訓練もできるように整備、区画分けされているらしい。
 四方五十mはある広大な敷地。
 地面は平らに均され、端にはなぜか可愛らしい装飾の施された案山子がある。
 あれを的代わりにするのだろうか?

 訓練場の他には庭師の手入れしたであろう庭園が広がり、昨日は気づかなかったが、馬の厩舎や使用人用の建物もあるようだ。
 貴族街を訪れたときも思ったが、屋敷も含めてこの広大な敷地を個人が所有していると思うと到底信じられない。

「決闘です! 貴方に決闘を申し込みますっ!」

 エルフの女性はこちらを指差し宣言する。
 ハイネルさんからエクレアが呼んでいると聞いてここまでやってきたけど……敵意の籠もった視線といい、いまの言葉といいかなり嫌われているようだ。
 面と向かって非難された経験がほとんどないから正直戸惑う。

「……決闘ですか?」 

「そうです! 貴方はエクレアお嬢様に相応しくない。もし学園に通うようになったとしても――――」

「……」

 なんだ?
 ジッとエルフの女性を見詰めるエクレア。
 その眼鏡の奥の瞳は怒っているようにも見える。
 というか、無言の圧力が凄い。

(妹様は視線一つであの女エルフを黙らせるのか)

「……ゴ、ゴホンッ、失礼しました。まずは自己紹介ですね。私はエクレアお嬢様に仕えるメイドの一人、イクスムです。恐れ多くもお嬢様の戦闘技能の指導を承っております」

「……クライ・ペンテシアです」

 すると、広場の端でおろおろとしていた熊獣人の女性が近づいてくる。
 
「わ、わたしも自己紹介を、エクレアお嬢様にお仕えしているアーリア・カロロフです~。お嬢様の身の回りのお世話を承っています~」

 見る者をほんわかな気持ちにさせるおっとりとした喋り方の女の子だ。
 見た目からはエクレアと同じくらいの年齢に見える。
 どうやら嫌われてはいないようで安心する。
 
「よろしくお願いします」

「はい~、こちらこそよろしくお願いします~。わたしのことはどうかアーリアとお気軽にお呼び下さい~」

 挨拶すると元気よく返事してくれる。
 残念ながらイクスムさんは無言で佇んで俺たちのやり取りを見ている。
 反応してくれなかった。

「お噂は伺っておりました」

 噂?
 昨日の今日なのにもう広まっているのか。

「弓の天成器を携えた年若い少年が当家の紋章の刻まれた手紙を持って訪れてくる。失礼のないように対応するように、と。使用人には数日前より、そう通達されていました」

 俺が母さんたちに会いに来ることを誰かが知らせた?
 ……ニールたちではないはずだ……なら一体誰が?

「離れ離れになってしまっていた御家族が再びお会いできたことは大変喜ばしい。エクレアお嬢様が喜ばれるのを見ると私も嬉しく思います」

 エクレアは本当に喜んでいるのだろうか。
 度々観察するような目線で見られていまだ距離感を測りかねてる。

「ですが、私は貴方を認めない」

「それはまたなぜ?」

 睨むような目つきのイクスムさん。
 言い辛そうに口籠りながらも最後まで言い切る。
 その瞳には覚悟のようなものが見て取れた。

「貴方が……お嬢様にとって危険な人物かもしれないからです」

「それは……」

 それは……わからないでもないことだ。
 なにより俺も妹のことを何一つ知らない。
 互いによく知らない者同士、疑うのはよくわかる。
 俺も会いに来るのに随分悩んだ。
 
「……ちなみに決闘のルールはどういったものですか?」

「簡単です。私と貴方で模擬戦を行う。先に相手を気絶、意識を失わせるか、行動不能にさせる。または、戦意を失わせて降参させた方を勝者とします。もちろん天成器も魔法も使って頂いて構いません。ただし、相手に致命傷を負わせるような攻撃はルール違反、その時点で敗北とします。回復のポーションは潤沢に用意してあるので多少の怪我は許容範囲としましょう」

「怪我をさせてしまうならカルマが上昇してしまうはず……その点は?」

「そのための決闘です。もしかしてご存知ない?」

 決闘自体は聞いたことがある。
 互いに譲れないものを賭けて戦い勝敗を決する。
 それ以外になにかあるのか?

 疑問から言葉が出ないでいると、すかさずエクレアが決闘の詳細を教えてくれる。

「……決闘は互いの宣誓によって成り立ちます。審理の神に事前に取り決めた決闘のルールに同意したことを宣誓することで、カルマが上昇することなく競い合い勝敗を決めることができます」

「なるほど……」

「……」

 無表情なのは怖いんだが……。

「もし……決闘に敗北した場合はどうなるんですか? なにか罰があるとか」

「ルールとして定めれば敗者はそれに従うことになります。ですが、今回は特に罰則や対価を設けるつもりはありません。ただ……決闘を通じて貴方という人を見極めたいだけです。もし無様に敗れるようなら……エクレアお嬢様のお兄様として相応しくない。私はそう判断するだけです」

 賭けるものはないが戦いたいとはかなり好戦的だ。
 戦いを通じてわかり合おう、ということなのかな?

 決闘を受けるか悩んでいると、不意にエクレアが言葉を発する。

「……兄さんの戦っている所を見せて下さい」

「それは……」

「わたしもぜひ拝見したいです。エクレアお嬢様のお兄様ならとっ~てもお強いはず、楽しみです~」

「アーリア、少し黙っていなさい」

「はい~、すみませ~ん」

 即座にイクスムさんに怒られるアーリア。
 普段からの力関係が伺える。
 熊耳も折りたたまれてしょんぼりとしてしまった。

「それで、どうなさいますか? 拒否してもらっても構いませんよ」

(クライ、ここは決闘を受けるべきだ。あの生意気な女エルフに目に物見せてやれ!)

 こっちも好戦的だな。
 どうやらミストレアは俺が侮辱されていると思って怒ってくれているようだ。
 ……確かに、このままならイクスムさんは納得してくれないだろうな。

「……わかりました。戦いましょう。ただし……」

「ただし? 何か他に条件がありますか?」

「エクレアの大切な人をなるべく傷つけたくありません。天成器を手元から弾かれた場合も敗北というのはどうでしょう」

「……成程……良いでしょう。私もできればエクレアお嬢様の御家族を無闇に傷つけたくはない。故意に手放した場合を除いて敗北条件として加えましょう」

「決闘には立会人も必要です。立会人には第三者が立候補するのが望ましい。宜しければ私が務めましょう」

 突然現れたハイネルさん。
 いつの間に接近したんだ、全然気づかなかったぞ。

(かなりの速度で接近してきたぞ。屋敷には生体反応が多いからあまり注意を払っていなかったが……この執事も侮れないな)

 



 ハイネルさんを立会人に、ついに決闘が始まる。
 訓練場の中心から互いに同じだけ距離を取り相対する。

「まずはルールの確認を。本来は誓約書として書面に起こしても良いのですが、今回は不要でしょう。互いに戦闘不能、または、意識を失った場合敗北となります。戦闘意欲を失い降参を宣言した場合も敗北。相手に致命傷を負わせる、万が一死亡させた場合も敗北とします。特別ルールとして天成器を相手の手元から弾く、または、奪う等行い離れさせた場合は勝利とします」

 エクレアは変わらず感情の読めない表情のまま。
 アーリアは心配そうにこちらを見ている。
 張り詰めた空気が辺りを包む。

「このルールに異議がなければ宣誓をお願いします。それをもって開始の合図とします」

 ふとイクスムさんが右手の甲に視線を移す。
 そこには二重に円の描かれた刻印が刻まれている。

「エーリアス」

 刻印からイクスムさんの手元に現れたのは刀と呼ばれる斬撃武器。
 反りのある刀身は切れ味に優れ闘気で強化せずとも金属を切り裂くほどらしい。
 一m強の白銀の刀身には刃に沿って白いラインが刻まれている。
 あれは――。
 
「私、イクスム・タオクはこの決闘において両者が同意した約定を尊守することを審理の神ジュディカに誓う!」

 威風堂々と高らかに天に刀を掲げ宣言する。
 
「さあ貴方の番です。同じように宣誓を」

「ミストレア」

 左手の二重刻印から現れるは新しい姿に変化した白銀の弓。

「……クライ・ペンテシアはこの決闘において両者が同意した約定を尊守することを審理の神ジュディカに誓う」

 ここに両者の宣誓は為された。

 決闘が始まる。

 先に動いたのはイクスムさんだった。
 訓練場に静かに、それでいて確かに発せられる呟き。

「【変形分離:魔掃二刀小太刀】」

 刀の峰の中程で刀身がスライドしたかと思うと新たな柄が現れる。
 引き抜くように柄を持ち上げると刀は瞬く間に二つに別れた。
 両手に携えるは六十cmほどの刀身の二刀の小太刀。
 短くなった刀身には先程の形態にはなかった小さな穴のようなものが伺える。

 左の小太刀を払うように一振りしてからイクスムさんは続ける。

「天成器には変形の際に一つの武器から二つ以上の武器に分かれる場合があります。エーリアスもその内の一つ。刀身は短くなりましたが、切れ味は変わらず手数は増しています。どうかご油断なさらないよう」

 変形と同時に行われる天成器の分離。
 あんな天成器は初めて見た。
 
「……それにしても、やはり弓……ですか……」

 イクスムさんの瞳にはわずかに憐憫の色が見える。

「貴方が学園に通うなら覚悟しなければならない。学園には王国中から志願者が集まります。その多くは街や都市でも才能があるとみなされた者ばかり、当然学園には実力者ばかりが揃うことになる。弓の天成器は……」

 なんだ?
 弓の天成器に不利なことでもあるのか?
 言葉に詰まるイクスムさんに、不機嫌そうなミストレアが声を掛ける。

「イクスムと言ったな」

「な、なんですか」

「私はクライの天成器ミストレア。さっきから不愉快な視線で見てきてなんのつもりだ。決闘を挑んできたのなら言葉を濁すんじゃない。言いたいことがあるなら言ったらどうだっ!」

「――っ! そうですね、失礼しました。……学園には実力者が集まる。それはつまり強力な天成器の使い手が集まるということ。……学園では弱い天成器は嘲笑の対象になってしまう」

「?」

「弓の天成器には上位互換が存在します。……銃の天成器です」

 銃!?

「同じ遠距離からの攻撃なら銃の方が弾速も威力も優れている。事前に弾丸を込めていれば予備動作なしに引き金を引くだけで攻撃でき、弓を番える必要もない。それに、属性魔石から錬成される錬成属性矢も同じように錬成できる錬成属性弾があるため弓だけの強みにはなり得ません」

「それは……」

「勿論弓の天成器と銃の天成器を明確に比較することはできません。それに、戦闘を生業にする者なら弓の利便性、有用性も知っています。それでも……閉鎖的な面のある学園では肩身の狭い思いをすることになる」

 アルレインでは見たことのない銃の天成器。
 矢を番えることなく引き金を引けば即座に高速で弾丸が撃ち出される。
 貫通力にも優れ、瘴気獣にも有効だと聞く。
 ……ミノタウロスから救ってくれたのも一発の弾丸だった。

 そうだとしても、まさか、学園では弓が弱いと思われてるとは……。

「だからこそ、私は貴方を見極める。エクレアお嬢様にご迷惑を掛けるなら……」

「……」

 一つ思うことがある。
 始めはただ単純に嫌われていると思っていた。

「なぜ、そんなに忠告してくれるんですか?」

 言い辛そうにしていてもイクスムさんは覚悟を決めて話している。
 それは、たとえ嫌われ、厭われたとしても相手のためを思って助言する覚悟。
 わかりづらいけど、確かに俺を案じて心配してくれている。
 そうでなければ、わざわざ決闘を通じて認めさせるチャンスを与えるわけはない。

「そ、それは……その……学園に通うことになったとしても……心配というか……もし、相応しくなければ私が稽古を……ち、違います! そのっ、エクレアお嬢様が嫌な思いをされないかどうか気掛かりなだけです!」

 恥ずかしいそうに白い肌を赤く染めるイクスムさん。
 強い言葉を発しているけど本質は心優しい一人の女性なのかもしれない。
 そう思うと思わず心の中で苦笑してしまう。
 エクレアの兄に相応しいか確かめたいのもあるだろうが、学園での苦難を乗り越えられるか決闘を通じて見極めたい気持ちもあるのだろう。
 難儀な人だ。

「……決闘を続けましょう。」

「なにか腑に落ちませんが……わかりました、続けましょう」

 視線を二本の小太刀に移す。
 扱いは難しくとも自信があるからこそ最初から変形させたのだろう。
 エクレア、貴族のために戦闘技術を教えているならかなりの実力者かもしれない。

「心配せずとも大きな怪我をさせるつもりはありません。敵わないと思ったらいつでも降参して下さい。では……いきますっ!」

 速いっ!
 予備動作のない踏み込みは身体を傾けたと同時に滑るように迫ってくる。

「はあぁっ!」

 右下からの二刀同じ軌道の切り上げ。
 ギンッと音をたててマジックバックから取り出したトレントの盾が間に合った。

「ぐっ!」

 予想以上に重い。

「この程度の速度なら反応しますか……」

 返す刀の連撃。
 どの斬撃も鋭く早い、それでいてイクスムさんには余裕が見て取れる。

 淀みない連撃の後、大きく後退し距離を取る。
 身のこなしは軽くひらひらとしたメイド服がふわりと風に泳ぐ。

「これぐらいは避けて下さいね。【ライトカッター・ディバイド3】」

 放たれるは魔法の斬撃。
 信じられないほどの光の刃が空中に浮かぶ。
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