孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第五十八話 陽気な盗賊団

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「とっとと追いつくぞ」

「あ、ま、待て……私もいくと言っただろう!」

 ウルフリックの先導で逃げた窃盗犯たちを追って再び狭い路地を走る。
 フリントさんも始めは渋い顔のままついてきていたけど、走っている内に吹っ切れたのか並走して追いかけるようになった。

 住宅の入り乱れる曲がりくねった道、急勾配な下り坂、ときには高い柵を越え、ひたすら追いかける。
 その間も幾度となく妨害があり、その度になんとか突破した。

 どうやら窃盗犯の一人、短剣の天成器と煙幕を使った相手は、色々な道具を懐に隠しているらしい。
 路地にロープを張り巡らせたり、簡易な罠を使ってこちらの進行を邪魔してくる。

「やっぱり、アイツら地形を熟知しているな。逃走のための用意もいいし、なによりアイツらの目。あれはまだ諦めてねぇ奴の目だ。……何を企んでやがる」

(そろそろ見えてくるはずだ。反応がある。ん……もう一人いる?)

 王都をひたすら走って抜けた先は巨大な倉庫街だった。
 周囲に張り巡らされた壁の一部が崩されていてそこから窃盗犯たちが侵入していく。

「あいつら……ここは王都でも巨大な建物の並ぶ倉庫街だぞ。こんなところに何の用だ?」

「関係ねぇ、ここで決着をつけてやる!」

 崩れた壁を抜ければ見通しは悪くない。
 それどころか倉庫同士の間隔は、荷物を運ぶためか意外と距離があって、広い通りになっている。
 ただ、壁に囲まれているせいか人通りはまったくない。

「クソっ、こんな所まで追ってきやがって」

 窃盗犯たちが悪態をつく。
 ようやくここまで追い詰めた。
 彼ら三人は振り返り迎撃の体勢を取る。

「手こずらせやがって、いい加減ミリアのネックレスを返しやがれ!!」

「……悪いがそれは出来ねぇ相談だ」

「あっしらも生活がかかってますからね」

「テメェ!!」

 ウルフリックの怒りも頂点に達し、いまにも戦闘が始まる瞬間、横合いから声がかかる。
 それは緊迫した空気に似つかわしくない明るい雰囲気を纏っていた。

「よお、お前ら、厄介な奴らに当たったようだな」

「お頭……」

 お頭?
 あれがこの集団のリーダーなのか?
 そこには乱雑に無精髭を生やした三十代くらいの男性が立っている。

「すいやせん、ここに来るまでに撒けませんでした。コイツら、思いの外しつこくて」

「ハッ、王都のお祭りなら警戒も緩むと思ったが騎士まで釣れちまったか……。仕方ねえ、王都の騎士は一筋縄じゃ行かねぇとは聞いてたからな……ついでに余計なのが二人もいるようだが……」

「お前、何者だ!!」

「なんだ、あの髭面、アイツが親玉か?」

「名を聞かれたんなら仕方ねぇ、俺の名はグレゴール。こいつらは俺の率いるグレゴール盗賊団の一員だ」

(なぜコイツは正直に答えるんだ?)

 フリントさんの問いに素直に答える無精髭の男性。

「グレゴール? 最近噂の盗賊団の長か? 確か騎士崩れの率いる集団だったはず……」

「んんっ、俺のことが王都でも噂になってるとはありがたいねぇ」

「殺人こそ行わないが、幾度となく窃盗を繰り返し指名手配されている連中だ。部下たちの戦闘能力はそれほど高くないらしいが、お頭であるグレゴールは騎士崩れだけあって、Cランク冒険者級の強さがあるという。……だが、お前たちは王都ではなく、帝国に近い都市ダオルドの周辺で活動していたはずだ」

「おうよっ、この俺グレゴール率いるグレゴール盗賊団。力仕事担当のタズ。窃盗のプロ、ニクラ。作戦立案のロット。いまだこの三人の部下しかいねぇが、どいつも俺の自慢の部下だ」

「お、お頭……あっしらのことをそこまで……」

「うぅ、お頭についてきて良かった……」

(だからなんで余計なことまで喋るんだ。それで部下たちも感動して涙ぐんでいるし、なんなんだコイツらっ!!)

(ま、まあ、これで伏兵もこれ以上いないことがわかったな)

 グレゴールさんは両手を広げ、意気揚々と語る。
 その姿は自信に満ちていて、微塵も自身が悪いことをしているといった様子は見受けられなかった。

「わざわざ王都へ来たのは仕事のためさ。生誕祭の最中は金持ち連中の警戒も緩むからな。悪いが、俺たちの生活の糧を集めさせて貰おうって訳だ」

「……罪のない一般の国民たちから、そんな理由で金品を盗むとは……」

「おいおい、俺たちだって盗む相手は選ぶ。見るからに金持ちな連中からしか盗まねぇぞ。俺たちも金のない苦しみは分かるつもりだ。金のある所からしか盗まねぇよ」

「あのお嬢ちゃんにはちょっと悪いことをしちまいやしたが、傷つけないように慎重に盗みやした。あんな見るからに金持ちの貴族に生まれたんだから、ネックレスの一つは勘弁して欲しいでやすね」

 これが犯罪を侵す人たちの思考なのか?
 俺にはあまり理解できない。

 ネックレスを奪われて、茫然自失だったミリアの、ショックを受けた表情を覚えている。
 いつも当然にあるべきものを、唐突に失ってしまった悲しさを覚えている。

 ここにいる人たちはそれを嘲笑っているように感じた。

「おい、髭面のおっさん」

「あ゛あ゛っ、俺はまだ二十代だ!!」

「そんなことはどうでもいい。……お前ら、大人しく盗んだもんを差し出す気はねぇみたいだな」

「……だったらどうした」

 ウルフリックの怒りが伝わったように空気が張り詰める。
 
「人の大事な物を奪っておいて、我慢しろとでもいうのか!! 大事なものを傷つけられて黙っていろとでもいうのか!! ならオレがお前から奪ってやる。お前らはここで倒す!!」

「……全面的に賛成は出来ないが、私もこいつらは許せない。騎士として私も共に戦おう」

(クライ)

「……わかってる。俺も……戦う」

 正直、いままでずっと教会では他人を傷つけてはいけないと教えられて育ってきた身としては、今回のことは戸惑いの方が大きかった。
 
 だが、この人たちが許せないのは俺も同じだ。

 ウルフリックとフリントさんに並ぶように前にでる。
 決意は固まっていた。

「やれやれ、大人しく引き返してくれれば、俺たちも手荒なことはするつもりはなかったんだけどな。……そんな戦意に溢れた目で見られちゃあな」

「……」

「俺たちは殺しはしねぇが、多少は痛いめは見てもらう。リーロイ、やるぞ」

 グレゴールが手元に視線を移す。
 そこに刻まれているのは二重の刻印。

「子供相手に気は乗らないが、仕方ないな。グレゴール、手加減はしろよ」

「フンッ」

 光が集まり現れたのは剣先の直角に曲がった幅広い片手剣。
 曲がった先端は針のように尖り、突き刺すことも可能なほど鋭利だ。

 グレゴールは現れた鉤剣をこちらに向けて号令をかける。

「お前らっ! 子供もいるからって舐めてかかるんじゃねぇぞ! かかれぇっ!!」

「お頭、ここは私が……【ウォーターツイスター2】」

 先手は相手からだった。
 杖の天成器を携えたロットと呼ばれた男性が水の渦を放ってくる。

 だが、そんなものはウルフリックの前で無力だ。

「ウザってぇんだよ! 【タービュランスシクル・ サーキュラー3】!!」

 三つの乱気流の鎌が、高速で円回転しながら射出され、二つの水の渦を横一文字に両断する。

「こ、このっ! 【ウィンドボール3】!」

 タズと呼ばれた大槌の天成器持ちが体勢を崩しながらも風の球を放つ。

「……ふっ」

 それを、ミストレアの矢で撃ち抜いた。
 空中で風が炸裂し、そよ風が届く。

「ハッ、やりゃあ出来んじゃねぇか! クライ、やるぞ!! 【タービュランスシリンダー】!!」

 乱気流の円柱が盗賊団を襲う。
 激しい戦いが始まろうとしていた。
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