57 / 177
第五十七話 追走劇
しおりを挟む「待ちやがれっ!!」
「イクスムさん! ミリアをよろしくお願いします!!」
ネックレスが無くなったことに茫然自失な様子で悲しむミリアをイクスムさんに預け、ウルフリックの後を追う。
エクレアもなにかいいたげだったが、先に走っていったウルフリックをすぐさま追う必要がある。
「エクレアとイクスムさんはミリアについていてくれ! 俺たちはネックレスを盗んだヤツを追う!!」
「……」
二人は頷いて答えてくれた。
路地を行く。
王都の綺羅びやかな大通りを外れ、暗がりの広がる裏路地へ。
狭く細い道はパレードの喧騒から離れるように、先へ先へと繋がっている。
「狭い道だが、ウルフリックの反応は感知してある。まだそれほど離れていないぞ」
ミストレアの生命感知のお陰で、窃盗犯を追いかけて走るウルフリックにようやく追いついた。
どうやら路地に置かれた障害物で妨害を受けて時間を稼がれたらしい。
ウルフリックが憤慨冷めやらぬ様子で口火を切る。
「アイツっ、逃げるルートを予め決めてやがる。迷いがねぇ!!」
路地に置かれてある木箱やゴミ箱、あるいは樽を倒し一心不乱に逃げる窃盗犯。
走る足に迷いはなく、分かれ道も見慣れたように進む。
「足が速ぇ、斥候系のクラスか? お前の弓で足を射抜けるか?」
「それは……」
あの後ろ姿を弓で射る?
いくら犯罪を犯した者とはいえ、その背中は一見無防備にも見える。
――――それを射るのか?
俺は覚悟が足りなかったといまなら思う。
アルレインという平和な街に染まっていたともいえる。
犯罪は滅多に起きるものではなく、どこか遠いところの出来事だった。
自らの身に降りかかると思っても見なかった。
カルマは犯罪を抑制する効果はあっても、犯罪そのものを止められない。
その実感が足りなかった。
「何を躊躇してるっ! 逃げられるぞ! クソっ、オレがやる【タービュランスアロー3】!!」
乱気流の矢が逃げる窃盗犯の背を追う。
命中する寸前で、飛び込むように前転してウルフリックの魔法を躱す。
路地が終わり、少しの広さをもつ広場になっていたらしい。
窃盗犯が辺りに響くような声で声を荒げる。
「クソっ! 魔法を放ってきやがった。おい、野郎ども! このお坊ちゃんたちに少し灸を据えてやれ!!」
逃げ込んだ広場は、四方を建物に囲まれた外部からの視線の通らない封鎖地。
そんなところで唐突に魔法が襲ってくる。
伏兵だ。
「【ウィンドアロー3】」
視界の外から飛んできた風の矢を躱した直後にさらなる追撃。
「行きなさいっ、【ウォーターツイスター】!」
視界を遮る水の渦、それを見てウルフリックが吠える。
「この野郎! ゲイン! やるぞっ!」
「ウルフリック、奴らに自分たちの仕出かしたことの重大さを自覚させてやろう」
右手の二重刻印が光の粒子に変わっていく。
形成されるのは一本の槍。
「らあぁぁぁっーーー!!」
向かってくる水の渦を、その三日月のような刃で両断する。
ウルフリックの身長より長い柄。
先端に取り付けられた三日月の刃は、路地の広場をほのかに照らす光を眩く反射する。
それを見て窃盗犯の仲間もそれぞれが天成器を起動する。
風魔法の矢を放った大柄な男性は大槌を。
水魔法で俺たち二人を同時に攻撃しようとした細見の男性は杖を。
魔法を防いだことに苦い表情を見せていた窃盗犯は短剣を。
それぞれが自らの最も信頼する武器を持つ。
一触即発の空気。
誰かが動けば、すぐにでも戦闘の始まる予感をさせる緊迫感がこの場を包んでいた。
そこに――――。
「【スチームボール】!!」
「くっ」
「なんだコレっ!?」
どこからか白い球体の魔法が飛んでくる。
盗賊たちと揉めている外界から遮断された広場の中心。
そこで炸裂する形成魔法。
白く熱を感じる煙のようなものが辺りに広がり、全員の注目が集まる。
「そこで何をしているっ!!」
若い男性の声。
広場に繋がる路地の一つから現れたのは、一人の軽装の騎士だった。
前に突き出した手には抜き身の騎士の剣。
パレードで見た騎士のものとは違って、動きを阻害しないように必要のない部分は外された騎士甲冑。
突然現れた彼は朗々と語る。
「私は第三騎士団所属、騎士フリント・アルタイル。王都の民の窃盗の被害を確認してここに来た! 生誕祭の最中に民たちから金品を奪うとは許し難い行為。詳しい話を聞かせて貰う。全員そこを動くなっ!!」
(どうやらあのフリントという騎士は、クライとウルフリックのことも盗人と疑ってるようだな。仲間割れとでも思われたか?)
鋭い眼差しでこちらに視線を向けるフリントさん。
その瞳は明らかに俺たちを疑っていた。
「いまのは、蒸気魔法か? それにしてもこんな時に騎士がくるとは……話がややこしくなる」
ウルフリックは悪態をつく。
確かに、いまにも争いが始まるときに第三者が飛び込んでくるとは思わなかった。
しかも、窃盗犯と疑われることになるなんて……。
だが、こちらが戸惑って動きが止まってしまっていたのに対して、窃盗犯たちの動きは素早かった。
あらかじめ、逃げる算段はつけてあったのだろう、その行動には迷いがなかった。
「ちっ、騎士かっ。運が悪い。お前ら逃げるぞ!!」
大柄な男性の影に隠れた一人が懐から取り出した袋を地面にぶつける。
瞬く間に広がる白い煙。
「ゴホッ、ゴホッ、お前たち、どこへ行く!」
煙幕が路地の広場にモクモクと広がる。
上手く視界が効かない。
(クライ、盗人たちの反応が離れていく。マズイぞ)
「ゴホッ、こんな煙、【タービュランスボール】」
ウルフリックの魔法が直ぐ側で炸裂する。
それは真下に向けての魔法。
地面に向けて乱気流を炸裂させることで広場を覆いつけしていた煙幕を吹き飛ばす。
(アイツもなかなかやるな)
「待てっ! お前たちまでどこへ行く。この場から立ち去ることは許さんぞ!!」
急いで窃盗犯たちを追いかけようとした矢先にフリントさんが俺たちに向けて静止を促した。
どうする。
誤解を解いている間に逃げられてしまう……。
「悠長に話してる時間はねぇ」
「奴らの仲間だろう。大人しくしていろ!!」
駄目だ。
話を聞いてくれそうにない。
しかし、ウルフリックは簡単に諦めなかった。
フリントさんの突き付ける剣に自ら近づいていく。
「止まれ! な、なんのつもりだ!!」
フリントさんの動揺が透けて見える。
「オレはいく。妹の大事な物をアイツらに盗られた。オレはそれを取り返しに行く。……止めたければその剣で止めろ。それでも、オレはアイツらを追う」
静かな決意の言葉だった。
ただひたすらに前に向かおうとする言葉だった。
人を動かす言葉だった。
「お前……」
フリントさんの瞳が泳ぐ。
明らかにウルフリックの言葉に動揺していた。
幾ばくかの無言の時が過ぎる。
次に発したフリントさんの言葉は俺たちを驚かせるものだった。
「……私も、一緒に行こう」
「……なんだと? オレたちを疑ってたんじゃないのかよ」
「勘違いするな。私は罪を侵す者、民を傷つける者を許しはしない。だが……お前たちが先に逃げた奴らを追うなら……私はその後をついていくだけだ。そこに犯罪を侵す不届き者がいるなら全員を捕まえるまで」
自分でも苦しい言い訳と自覚しているのか、そっぽを向いたままそんなことをいう。
そんなフリントさんを見てニヤリと笑ったウルフリックは、
改めて決意を宣言する。
「ハッ、いいだろう。だが、ついてくるからにはお前も戦力として数えるぞ。いいか、奴らをこのまま簡単には逃さねぇ。ミリアの大事な物を奪ったことを必ず後悔させてやる。お前にも協力して貰うぞ」
そういってウルフリックは獰猛な獣を思わせる形相で笑みを深める。
その言葉には有無を言わぬ迫力があった。
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる