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第七十七話 光と闇とお嬢様
しおりを挟む「ワタクシが来たからには皆さんに怖い思いはさせませんわ! もしまた瘴気獣が現れるようならワタクシの高貴な魔法で蹴散らして差し上げます! 勝利確定ですわ!」
(コイツ、助けてくれたのはありがたいが……騒がしいな)
「私たちも突然現れた瘴気獣と出会ってしまって大変だったんです。プリエルザさんの魔法のお陰でなんとか逃げ出せて……。マルヴィラさんやエクレアさんたちと出会えて本当に良かったです」
オーガとトロールの二体の瘴気獣の争いから離れた場所で、俺たちはお互いの状況を報告していた。
無事に合流できたことに安堵した表情を浮かべながらマルヴィラとエクレアに向かい合っているのはフィーネというエルフの少女。
翡翠色の長い髪を背に流し、ゆったりとした上品な口調で話す。
どうやら以前からマルヴィラやエクレアとは時々話をする仲で、大人しい性格のフィーネはエクレアとは波長が合うようだった。
「フィーネも無事だったんだね。良かった~」
「……ん」
「皆さんはお怪我はありませんか? 私は回復魔法が使えますのでよろしければ治療を致しますよ」
驚いたことにフィーネは回復魔法を使用できるという。
それも中級回復魔法、《エクストラヒーリング》まで使いこなせる実力の持ち主のようだ。
軽い骨折程度なら直してしまうその効果は、こんな状況ではありがたい魔法だ。
「でも、あんな恐ろしい瘴気獣が出るにゃんて逃げてきて正解にゃ」
「……先程は少々お下品な叫び声をあげてしまいましたけど、次に出会ったらコテンパンにしてやりますわ!」
「『キャアアアア!!』とか叫んでたにゃ」
「そ、それは忘れて下さいまし!」
ミケランジェのからかいに照れた様子であたふたとするプリエルザ。
じゃれ合いつつもお互いを信頼しているようにみえる。
(……叫び声の感じがなんだか聞き覚えがあるな)
プリエルザの班は俺たちと同じ四人。
ミケランジェとフィーネ、それとあともう一人いる。
セロがそのもう一人の人物に話しかける。
どうやら知り合いのようで気楽、までとはいかないが、恐る恐る話しかけていた。
「エ、エリオンくんは大丈夫だった?」
「ああ、プリエルザ様がいるからな。少し騒がしいのが玉に瑕だが、その卓越した魔法の腕は確かだ。お蔭で瘴気獣からも逃げられた。もっともあいつらは目につくものは何でも襲うのか、オーガとトロールのように互いに争っていたけどな」
セロの紹介によると、彼の名はエリオン・トリグラー。
以前御使いのことを教えてくれた情報通のクラスメイトとは彼のことらしい。
こんな状況だからあまり詳しく話は聞けなかったが、なんでもこの学園には花嫁を探しに入学したらしい。
……それっていまいうことなのか?
よくわからないけど彼にとっては重要なことらしい。
しかし、誓って同じ班のメンバーには手をだしていないと宣言していた。
いわく商人として大成を目指す彼にとって、貴族であるプリエルザと仲良くしておくのは将来において大事なことらしいので、その一環として同じ班になったそうだ。
(本人の目の前でいうことか?)
発言は明け透けな感じだが、裏表がない性格だからか人との距離を詰めるのは上手いそうだ。
気難しい人でも意外とすぐに挨拶をするようになってくれるらしく、それもあって学園でも知り合いが多いらしい。
そういう意味では商人となる資質は高そうだ。
「というか、なんであの瘴気獣共は争ってたんだ? そもそも瘴気獣が複数同時に出現するなんて聞いたことないぞ?」
「私たちの前に現れた瘴気獣も横から襲ってきた別の瘴気獣に倒されていたにゃ。なぜなのかにゃ~?」
「……瘴気獣は本来なら単独で襲ってくる存在です。それが複数、しかも同じ瘴気獣でも見境なく攻撃している。……異常事態です。他のクラスメイトや冒険者の方々、レリウス先生がいまどうしていらっしゃるのかは存じえませんけど、一刻も早く拠点のみなさんに報告と合流をする必要がありますね」
この場の全員の意思は同じ方向に向いていた。
この瘴気獣が争い合う混沌とした状況は明らかにおかしい。
プリエルザたちと合流を果たしたことで人数は増えた。
しかし、拭えない不安が俺たちを包み込んでいた。
それから俺たち一同は拠点を目指して進んでいった。
だが、その道程も簡単なものではない。
道中には瘴気獣たちが無数に存在した。
ミストレアの生命感知とこの課外授業で習った魔物の索敵技術、隠密行動を駆使しても完全に避けるのは難しい。
大木の影から現れたのはオークの瘴気獣。
オーク集落で散々に見慣れた黄緑の肌からは灰色の瘴気が漏れでている。
「ブオオオッ!」
「っ、うるさいですわよ! 【ライトシリンダー】!」
プリエルザの胸の前で構えた両手近くから光の円柱がオークに向かって放たれる。
「ブオ!?」
「さあ、もう一発ですわよ! 【ダークボール・ダイブ5】!!」
(……圧倒的な光と闇の魔法の連打。あのポンコツお嬢様、ただ騒々しいだけじゃないのか)
ポ、ポンコツって……。
「いくぞ! ブリリアント!」
自ら素材を集めて防具屋で作って貰ったというスケイルシールドを片手にエリオンが突撃する。
その右手には頭上で回転させた棘付きの球体。
手元の柄と鎖で繋がれた武器はモーニングスターと呼ばれるものらしい。
彼はその天成器ブリリアントを振り回し、遠心力を増した状態でオークの横っ腹に叩き込んだ。
「グオウゥ……」
「……【ブルームカッター・スピン】」
エクレアの青バラの魔法がオークの胴体を両断する。
オークの瘴気獣は灰色の瘴気に変わり空気に溶けるように消えていった。
「……悔しいですけど、エクレアさんの花片魔法はいつ見ても美しいですわね。公爵家の血筋であるワタクシと同等かそれ以上の魔法技術。……流石学園にそのお歳で入学しているだけはありますわね」
瘴気獣との戦闘でも変わらず無表情のエクレアを、ハンカチを咥えながら悔しがるプリエルザ。
……確かにポンコツかもしれない。
「今の所なんとか戦えているけど、なんでこんなに瘴気獣がいるんだよ。やっと拠点まで半分くらいの距離まで来れたのに、ここに来るのに何体の瘴気獣と戦った? 誰かが救援にきてくれる気配もないしどうなってるんだ……」
「……この様子だと拠点も瘴気獣に襲われているのかもしれませんね」
「そんな~、みんな大丈夫かなぁ」
皆敵に囲まれている慣れない状況に、不安と疲労が重なって弱気になっている。
しかし、そんな状況を我慢できないといった様子でプリエルザが落ち込む皆を見渡し叫ぶ。
「皆さん! 皆さんにはワタクシがついていますわ! 拠点までもうあとほんの少しではありませんか! 最後まで決して手を抜かないのがヴィンヤード家の家訓ですわ! ワタクシは最後の最後まで諦めません! さあ、ワタクシと共に胸を張ってクラスメイトたちの待つ拠点に凱旋致しましょう!! 彼らはワタクシたちを待っていますわ!!」
根拠のない言葉だったかもしれない。
それでも俺たちはその言葉に励まされた。
異常な状況に置かれていた俺たちにはそれは希望の光だった。
自信満々に宣言するプリエルザの力強い真紅の眼差しに、奮起させられていた。
「まったく元気のいいお嬢様にゃ。……仕方ない、最後まで頑張るかにゃ!」
「そ、そうです! あ、あともう少しなら僕も頑張れます。みんなで拠点に戻りましょう!」
「ふふふ、プリエルザさんは本当に不思議な方ですね。時折こうやって周りの方々の心を動かしてしまう。……回復魔法しか使えない身ですが、私も全力で皆さんの怪我を治します。必ず拠点まで辿り着きましょう」
「……うん」
度重なる瘴気獣との交戦で消えかけていた闘志が戻ってくるような感覚がした。
混沌の中にあってここだけは前に進む一つの意思に纏まっていた。
しかし、状況はさらに悪化していた。
「いやいやありえねぇだろ!? トールマンティスだと!?」
体長四mはある黒カマキリ。
マーダーマンティスの上位個体トールマンティスの瘴気獣が、帰還を目指す俺たちの前に現れる。
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