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第百二十五話 不意打ち
しおりを挟む棒の天成器べイオン。
ニールの相棒であり、的確な助言をくれる彼にとってもっとも頼りになる存在。
使い方次第で突きや薙ぎも可能な約百八十cmの長さを誇る両手で扱う範囲の広い打撃武器。
「【変形分離:魔力刃双細剣】!!」
身体の前方に水平に構えた棒が二つに別れる。
右手と左手、それぞれに等しい長さのそれは握った拳程度に短く圧縮される。
両手に携えた剣の柄にも似た二つを一振りするニール。
現れたのは先端の鋭く尖った光輝く細見の刃。
冒険者の間でも強力なことで有名な光刃武器と呼ばれるものであり、形状こそ違うものの〈赤の燕〉のカルラさんと同じ天成器の形態の一つ。
「行くぞっ!!」
テンタクルブラックスライムに走り寄るニール。
鞭のように振るわれる触手を既のところで躱しつつ懐に入る。
「おらっ!」
迫る触手に光細剣を突きだす。
光刃に触れた途端なんの抵抗もなく触手が弾け飛ぶ。
(カルラの天成器エルラの太く頑強そうな光刃と違って華奢な刃だが攻撃力は高いな)
感心した様子のミストレアが呟くように、あの形態はEPの消費が激しいはずだが、威力は折り紙付きだ。
再生され何度となく振るわれる触手を光刃は一切寄せつけない。
「【闘技:双層刺突】!」
触手の攻撃の合間に放たれたのは身体全体をバネにして飛び込む闘技。
二本の光細剣で同時に突きだす。
「くっ……」
だが、テンタクルブラックスライムの短い触手がその軌道をそっとズラす。
貫いたのは身体の下部。
それでも大分不定形の身体を吹き飛ばしたが、残念ながら直撃には程遠い結果だった。
「後は頼んだっ!」
闘技の撃ち終わり引き際のニールの声に答え、次に飛び込んでいたのはラウルイリナとアイカの二人。
再生する隙を与えない絶え間ない攻撃。
「アイカ、私の後ろにしっかりとついてこい!」
「うん!」
ニールの飛び込んだ方向とは逆方向。
防御と注意の薄くなっているだろう場所に二人はすでに到達していた。
「むっ……」
しかし、テンタクルブラックスライムもここで新たな行動にでる。
一mほどだった短い触手が突然身体から引き抜かれるように伸びる。
待ち構えるは長い四本の触手。
「うわ~、気持ち悪~~」
「構うな! フェアトール流、【闘技:照陽白尾】!!」
腰の引けたアイカに激を飛ばしラウルイリナが闘技を放つ。
始祖の剣を握る右手の手首を左手で掴む。
目に見えて流れ込む光に変換した闘気。
剣先から現れたのは波打つ光の鞭。
以前見たフェアトール流の闘技、《閃の光剣》と同じく刃の延長だがその長さは明白に違う。
それこそテンタクルブラックスライムの長い触手と同程度の長さまで引き延ばされた三m近い光の鞭。
空中で身体ごと撚りながら放たれたその闘技は、空に白線を描き再生の終わりつつあった二本と新たに伸びた二本を同時に斬りつける。
「いまだ! アイカ!」
「でやあああああ!!!」
飛び込むアイカの重い斬撃。
深く黒い不定形の身体に食い込む。
「【ライトビーム・ディレイ2】」
その瞬間、次の攻撃の準備を始めるイクスムさん。
空中に二つの光の球が現れその場に停滞する。
「このっ!」
「アイカ、もう頃合いだ! 引くぞ!」
イクスムさんの準備を目線の端で捉えたラウルイリナが追いすがる触手を切り払いながら撤退する。
「【ライトシールド3】」
「え?」
それは誰の驚きの声だったのか。
イクスムさんが展開したのは光の盾。
しかも相手の攻撃を防ぐのでもなく微妙に角度をつけられ、テンタクルブラックスライムの周囲に少し距離をとって配置されている。
なぜだ?
疑問に思う間もなく結果はでた。
「エクレアお嬢様、行って参ります」
「……うん」
「おいおい、そんなのアリかよ……」
(光の盾を……足場にしたのか?)
ニールとミストレアの思わず出てしまったあろう驚愕の呟き。
言葉がでない。
再生しつつある触手を蠢かせて無理矢理攻撃してくるテンタクルブラックスライム。
その黒い触手が追いきれない速度で空中を光の盾を足場に接近していく。
「【ライトシールド3】」
追加の足場でさらに上空に飛ぶイクスムさん。
いくら《ライトシールド》が空中に展開できて物理的攻撃を防げるからといって、それを蹴って移動するとは考えもしなかった。
だが、固まってもいられない。
イクスムさんがテンタクルブラックスライムの注意を一人で引き受けている間に俺も次の攻撃の準備をしなければ。
エクレアに目線で合図を送り俺もミストレアを手甲の形態に変形させ移動する。
「――――っ!?」
テンタクルブラックスライムが悲鳴なき声をあげる。
その正体は遅延させていた光の太い光線の奇襲。
イクスムさんが事前に展開しておいた光魔法が黒い触手を先端から崩壊させる。
「はああああっ!!」
次いで上空から光の盾を蹴り加速して降り立つイクスムさん。
「【ライトスラッシュ2】」
二刀の小太刀の先端に光が収束し刃を覆う。
付与魔法とは違う光の斬撃を纏う、描く魔法。
「!?」
(あれを見るとやはりイクスムはBランク冒険者だけあって別格だな。明確にテンタクルブラックスライムが攻撃を嫌がってる。あの斬撃魔法がそれほど脅威なんだろう)
「【ライトレーザー4】」
斬撃に織り交ぜて光の光線がスライムの不定形の体表を穿つ。
「お嬢様!」
「【ブルームカッター・ヘリックス】」
エクレアの螺旋に撚り合わさった斬撃魔法が飛ぶ。
「――――ッ!!??」
(流石妹様、ど真ん中に直撃だ。あれなら……)
エクレアに負けていられない、俺も前にでて攻撃を続けないと――――そう、駆けだした矢先だった。
ふと背後に刺さる……殺意。
呪文を唱える地底から這いずるような声はなぜか近くで囁かれているように感じた。
「――――【グレイシャーシリンダー】」
どこからともなく飛来する魔法。
水属性派生、氷河魔法。
濃い青で彩られた氷が円柱となって向かってくる。
――――エクレアの元へ。
彼女は魔法を放った直後だった。
双剣こそ構えているものの僅かな隙。
そこを狙われた。
近くに援護できる仲間はいない。
不意をついた氷河魔法は彼女を傷つける。
それがわかっていても助けにいけない。
「エーリアスゥッ!! 【瑞光鳴禽:瞬羽】!!」
まだテンタクルブラックスライムの攻撃範囲に留まったままだったイクスムさんが、中途半端に再生した触手に吹き飛ばされながらもエクストラスキルを使用する。
だが……届かない、間に合わない。
「エクレアッーーーー!!!」
遠い、遠かった。
矢は威力が足りない。
杭は距離が足りない。
盾も鉈も煙玉も投げナイフも意味がない。
刻一刻とエクレアに迫る脅威に俺は……なにもできない。
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