4 / 4
4
しおりを挟む
トゥーラン伯爵はヴァンスの保養地でのんびりとバカンスを楽しんでいた。
そこにボーイがトレイにのせた新聞を持ってくることで彼の様子が一変した。
彼は新聞を読んでわなわな震えだす。
そこにはティーレター侯爵家のスキャンダルが報じられていた。
「まさかミネルヴァが言っていたことが本当だとは!」
保養している場合ではない。
ティーレター侯爵家とミネルヴァの婚約を破棄させる算段をつけて、違う相手との婚約先を探さなければならない。
ミネルヴァの結婚に関してはもう解決したものだと安心しきっていたため、他の令息の情報などをまるっきり集めていないから、これから忙しくなるだろう。
急いで伯爵邸に戻ってみたところ、家の中はどことなく閑散としていて、ミネルヴァの私物はすっかりなくなっていた。
嫌な予感が走り、伯爵はその足でミネルヴァを探しまわる。
「ミネルヴァはどこだ!」
「旦那様!」
慌てた様子で、留守を任せていたこの家の執事がトゥーラン伯爵の元までやってくる。
「ミネルヴァは!?」
「それどころではありません! 旦那様が保養地に行かれた後で家宅捜索が行われ、我々雇用人にも事情聴取されました。嫌疑の内容は脱税と詐欺で……」
「なんだと!?」
「お嬢様はその日からいらっしゃいません。荷物などもなくなっていて……あと、お嬢様付きの侍女たちはその前から暇を出されていたようで、紹介状を持って他の家にお仕えしている者もいるようです」
こんなことができるのはミネルヴァしかいない。
『はめられた!』とミネルヴァを罵りながら、伯爵は執務室に急ぐ。そして開け放たれた金庫を見てあらためて歯噛みして悔しがり「ミネルヴァを探せ!」と怒鳴った時に、返事があった。
「私ならこちらにいますけど?」
ミネルヴァだ。
まさか本当に戻ってきたとは、と驚きを隠さずにいたが、ミネルヴァの後ろに男がずらりと並んでいる。
「憲兵隊の皆さま、あそこにいるのが私の父、トゥーラン伯爵です」
トゥーラン伯爵が帰宅したという話を聞いて、屋敷に戻ってきたのには訳がある。相手が本当にその人かどうか首実検する必要があったのだ。――逮捕の。
ミネルヴァの指摘を受け、あっさりと捕縛劇は終わってしまう。
しかし連行されようとするトゥーラン伯爵は往生際悪くミネルヴァを睨みつけた。
「私がしてきたことが罪だというのなら、この家で育ってきたお前も同じだ!」
「確かに親の言いなりに生きておりましたけれど、私なら最初からこんなことに加担しません。もちろん亡きお母さまもね? 『お父様の』罪を知ったので、通報しました」
全て父親が単独でやってきたことだ、とアピールをするミネルヴァ。
「それに引き取って育てていただいた恩を、正しい形で返しただけですわ。お父様、どうか真人間になってくださいませ」
そう、涙ながらに訴えるミネルヴァに対して、なんと立派なのだろう、と周囲は感じ入っている。
元々のミネルヴァの評判がよかったので、みんな信じてくれているのだ。
もっとも――。
新聞社にティーレター家のことを売ったのもミネルヴァである。
相手方の不祥事ということで相手有責での婚約破棄になり、ティーレター家からもらった宝飾品は名実ともにミネルヴァのものとなった。
もらえるものはもらっておかなきゃね。と、優雅な笑顔の下ではしたたかな計算が働く。
全てがミネルヴァの計算の元だったが、思わぬこともあった。
ミネルヴァに養い家の爵位が転がり込んでいたのである。
「え? あんなことをしでかしたのに、この家門は残るのですか?」
「トゥーラン伯爵は貴族籍を返上しましたが、貴方はそうではないので、彼の爵位を引き継ぐことになります」
「わかりました」
いわゆるお家乗っ取りをミネルヴァがしたようなものなのだろう。
そのきっかけも、父の罪を問うて白日の下にさらすというまさしく貴族としてふさわしい行動をしたという風に周囲からは見えるのだ。実際は、巻き添えにされたくない思いで父を売っただけなのだが。
「こんなつもりはなかったのだけど……」
ミネルヴァは生家との仲が悪いわけではない。
元々、亡くなった養母のたっての願いでこの家に引き取られてきただけであるので、家門を自滅させた後は生家に身を寄せようとすら思っていたのだが。
「まあ、ゆっくりと身の振りを考えましょうか」
元々ミネルヴァは社交界の華であった身。伯爵家の地位さえあればもっと上の世界も狙える。
家やレックスのような足枷がようやく外せた今は、やりたいことがなんでもできるし、巻き上げた個人の資産だってある。
しかし今はただ、ようやく得た解放感に浸っていたかった。
そこにボーイがトレイにのせた新聞を持ってくることで彼の様子が一変した。
彼は新聞を読んでわなわな震えだす。
そこにはティーレター侯爵家のスキャンダルが報じられていた。
「まさかミネルヴァが言っていたことが本当だとは!」
保養している場合ではない。
ティーレター侯爵家とミネルヴァの婚約を破棄させる算段をつけて、違う相手との婚約先を探さなければならない。
ミネルヴァの結婚に関してはもう解決したものだと安心しきっていたため、他の令息の情報などをまるっきり集めていないから、これから忙しくなるだろう。
急いで伯爵邸に戻ってみたところ、家の中はどことなく閑散としていて、ミネルヴァの私物はすっかりなくなっていた。
嫌な予感が走り、伯爵はその足でミネルヴァを探しまわる。
「ミネルヴァはどこだ!」
「旦那様!」
慌てた様子で、留守を任せていたこの家の執事がトゥーラン伯爵の元までやってくる。
「ミネルヴァは!?」
「それどころではありません! 旦那様が保養地に行かれた後で家宅捜索が行われ、我々雇用人にも事情聴取されました。嫌疑の内容は脱税と詐欺で……」
「なんだと!?」
「お嬢様はその日からいらっしゃいません。荷物などもなくなっていて……あと、お嬢様付きの侍女たちはその前から暇を出されていたようで、紹介状を持って他の家にお仕えしている者もいるようです」
こんなことができるのはミネルヴァしかいない。
『はめられた!』とミネルヴァを罵りながら、伯爵は執務室に急ぐ。そして開け放たれた金庫を見てあらためて歯噛みして悔しがり「ミネルヴァを探せ!」と怒鳴った時に、返事があった。
「私ならこちらにいますけど?」
ミネルヴァだ。
まさか本当に戻ってきたとは、と驚きを隠さずにいたが、ミネルヴァの後ろに男がずらりと並んでいる。
「憲兵隊の皆さま、あそこにいるのが私の父、トゥーラン伯爵です」
トゥーラン伯爵が帰宅したという話を聞いて、屋敷に戻ってきたのには訳がある。相手が本当にその人かどうか首実検する必要があったのだ。――逮捕の。
ミネルヴァの指摘を受け、あっさりと捕縛劇は終わってしまう。
しかし連行されようとするトゥーラン伯爵は往生際悪くミネルヴァを睨みつけた。
「私がしてきたことが罪だというのなら、この家で育ってきたお前も同じだ!」
「確かに親の言いなりに生きておりましたけれど、私なら最初からこんなことに加担しません。もちろん亡きお母さまもね? 『お父様の』罪を知ったので、通報しました」
全て父親が単独でやってきたことだ、とアピールをするミネルヴァ。
「それに引き取って育てていただいた恩を、正しい形で返しただけですわ。お父様、どうか真人間になってくださいませ」
そう、涙ながらに訴えるミネルヴァに対して、なんと立派なのだろう、と周囲は感じ入っている。
元々のミネルヴァの評判がよかったので、みんな信じてくれているのだ。
もっとも――。
新聞社にティーレター家のことを売ったのもミネルヴァである。
相手方の不祥事ということで相手有責での婚約破棄になり、ティーレター家からもらった宝飾品は名実ともにミネルヴァのものとなった。
もらえるものはもらっておかなきゃね。と、優雅な笑顔の下ではしたたかな計算が働く。
全てがミネルヴァの計算の元だったが、思わぬこともあった。
ミネルヴァに養い家の爵位が転がり込んでいたのである。
「え? あんなことをしでかしたのに、この家門は残るのですか?」
「トゥーラン伯爵は貴族籍を返上しましたが、貴方はそうではないので、彼の爵位を引き継ぐことになります」
「わかりました」
いわゆるお家乗っ取りをミネルヴァがしたようなものなのだろう。
そのきっかけも、父の罪を問うて白日の下にさらすというまさしく貴族としてふさわしい行動をしたという風に周囲からは見えるのだ。実際は、巻き添えにされたくない思いで父を売っただけなのだが。
「こんなつもりはなかったのだけど……」
ミネルヴァは生家との仲が悪いわけではない。
元々、亡くなった養母のたっての願いでこの家に引き取られてきただけであるので、家門を自滅させた後は生家に身を寄せようとすら思っていたのだが。
「まあ、ゆっくりと身の振りを考えましょうか」
元々ミネルヴァは社交界の華であった身。伯爵家の地位さえあればもっと上の世界も狙える。
家やレックスのような足枷がようやく外せた今は、やりたいことがなんでもできるし、巻き上げた個人の資産だってある。
しかし今はただ、ようやく得た解放感に浸っていたかった。
165
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……
しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」
そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。
魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。
「アリス様、冗談は止してください」
震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。
「冗談ではありません、エリック様ぁ」
甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。
彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。
「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」
この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。
聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。
魔法を使えないレナンとは大違いだ。
それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが……
「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」
そう言うレナンの顔色はかなり悪い。
この状況をまともに受け止めたくないようだ。
そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。
彼女の気持ちまでも守るかのように。
ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。
同名キャラで様々な話を書いています。
話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。
お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。
中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^)
カクヨムさんでも掲載中。
【完結】婚約破棄されたら、呪いが解けました
あきゅう
恋愛
人質として他国へ送られた王女ルルベルは、その国の人たちに虐げられ、婚約者の王子からも酷い扱いを受けていた。
この物語は、そんな王女が幸せを掴むまでのお話。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
聖女をぶん殴った女が妻になった。「貴女を愛することはありません」と言ったら、「はい、知ってます」と言われた。
下菊みこと
恋愛
主人公は、聖女をぶん殴った女を妻に迎えた。迎えたというか、強制的にそうなった。幼馴染を愛する主人公は、「貴女を愛することはありません」というが、返答は予想外のもの。
この結婚の先に、幸せはあるだろうか?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる