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1巻

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 それを感じ取ったのか、山崎さんが困ったことがあればなんでも相談してほしいと優しく言ってくれたので、少し気持ちが楽になった。

「じゃあ、これから小松さんのお相手の希望をお聞きしようかしら。どんな方がいいとか、ある?」
「そうですねぇ……」

 少し考えて、浮かんできた希望をスラスラと答えていく。

「まずは、煙草たばこ、ギャンブル、浮気する人は論外。年齢は三十代で、身長は高くて細マッチョ、年収はそこそこ? まあ、私も働いているし、ちゃんと真面目に働いている人なら問題ないです。子ども好きは外せないですね。あっ、猫も飼ってるので猫アレルギーの人はちょっと……。容姿にはそこまでこだわりないですけど、チャラい人は少し苦手なので、硬派でさわやかな好青年風の人がいいです」
「あ、あのちょっと……」
「後は私の仕事に理解を示してくれる人で、温厚で優しくて怒りっぽくない人。結婚して毎日喧嘩とかDVとか嫌だし。それと、変な収集癖とか性癖とかがなくて、金遣いが荒くない人。一番重要なのは料理、洗濯、掃除が得意で、私に家事を押し付けない人でお願いします。じゃないと私生きていけないので。お前はいつか料理で人を殺すって母親にキッチン出入り禁止にされた私ですから」

 と、ここまで弾丸トークで話しきったが、そこでようやく山崎さんの様子がおかしいことに咲良は気付いた。
 笑っているのに怒っているような……

「小松さん?」
「な、なんでしょう」
「仕事ができて、性格が良くて、家事も得意な好青年。普通に考えてそんな人がそうそういると思う?」
「思いませんね」
「仮にいたとして、そんな完璧人間に選ばれる自信があるっていうことよね?」
「いえ、全く」
「…………小松さん」
「はい」
「もう少し現実を見てお相手を考えましょうね」
「……はい」

 希望を言えと言うから言っただけなのに、本気のお説教を受けてしまった。
 山崎さんとあーだこーだ話し合いながら、希望を絞っていく。

「……これならいいでしょう。早速小松さんに合う方を探してみるから、楽しみに待っていてね」
「よろしくお願いします」

 それから少しして、初めてのお見合いの日を迎えた。
 相手は中肉中背、ぱっと見は普通のサラリーマンといった雰囲気の男性だ。
 お見合いということで、普段着ないようなお洒落しゃれなワンピースを新調し、いつもよりしっかりメイクをして挑んだ咲良。
 ちょっと気合いを入れすぎたかと思ったが、普段がしなさすぎなのでちょうどいいかもしれない。
 ホテルのカフェで山崎さん立ち会いの下、お互いに挨拶をする。

「小松です、よろしくお願いします」
鈴木すずきです。こちらこそよろしくお願いします」

 最初は無難な会話をしつつ、和やかに進んでいたのだが――

「じゃあ、私はそろそろおいとまするわね。後はお二人で」

 にこにこと微笑みながら去っていった山崎さん。
 途端に静寂が場を支配する。
 咲良は話しかけられるのを待ってみたが、相手も同様なのか、嫌な沈黙が続く。
 相手も緊張しているのかな、じゃあここは自分からと奮い立ち、咲良は会話をこころみる。

「鈴木さんは野球がお好きなんですね。応援しているチームとかあるんですか?」
「あー、はい」
「…………」

 いや、そこは応援しているチームを答えて、あなたは? とか聞き返してくるところだろう。
 そう内心思いつつ、再び質問。

「鈴木さんの趣味は釣りだとか?」
「はい」
「どんな魚を釣られるんですか?」
「まあ、色々と」
「…………」

 そして再びの沈黙。
 向こうから質問してくるわけでも、話題を作るわけでもなく、視線さえも合わせない。
 やる気あんのかっ! と文句を言いたいのをグッとこらえ、なんとか笑顔で質問を続けても、返ってくるのは話を続けるのに困るものばかり。
 そうしている間にもドンドン精神力がすり減っていく。
 一時間ほど話したが、結局、無駄に気を使って疲れただけだった。
 もちろん答えはお断り。
 電話先の山崎さんに愚痴まじりで、報告する。

「私、こんなの続いたら、やっていく自信ないです」

 初日にして先行きの不安を感じる。

「あらあら、私がいる時は普通だったのにね。まあ中には口下手くちべたな方もいらっしゃるから」
「そもそものやる気が感じられなかったんですけど」
「まあ、そういう時もあるから。一人目で挫折ざせつしてたら後々続かないわよ。今日のことは忘れて次よ次」
「わかりました……」

 その後、二人目、三人目と会ってみると、最初の人のように沈黙が続くことにはならず、それなりに会話ができた。ほっとしたものの、可もなく不可もなくという感じで、ピンとくる相手はいなく、お断りすることにした。
 最初は和やかに話しているものの、咲良が家事を全くできないと話すと、笑顔を微かに引きらせる人ばかりだったのだ。
 やはり家事ができないのは、アウトな人が多いらしい。
 それでもいいという人もいるのだろうが、今のところ出会えていない。
 ふいに嫌なことを思い出した。
 学生時代に初めて付き合った人に、自宅に招待された時のことだ。咲良は彼の家で頑張って手料理を作ったのだが、翌日、彼が学校を休み、その夜唐突に別れを告げられた。
 好きな人ができたという理由だったが、昨日の今日でそんな馬鹿なと思った。
 が、後日、理由は咲良の手料理だと友人に話しているのを偶然聞いてしまった。
 あいつの料理は凶器だと、彼とその友人たちが大笑いしながら話していたのが心に刺さった。
 料理が原因でフラれたこと。好きな人に笑いものにされたこと。傷付いて大泣きしたこと。それら全て咲良の黒歴史である。
 それから咲良が料理を誰かに作ったことはない。一度結婚を考えた人もいたが、その人にもだ。
 いまだにトラウマになっているその一件。なので、家事を求めない人というのは咲良の中では絶対条件となっている。
 その後も何人かと会うものの、話が合わなかったり、結婚後は仕事を辞めてほしいと言われたり、咲良の希望どおりとはいかなかった。
 咲良としては、イラストレーターの仕事はようやく叶った夢でもある。結婚しても、出産しても、この仕事を辞めるつもりは毛頭ない。
 家事に関しても、できないものはできないのだ。こればかりはどうしようもない。
 中には、あからさまに上から目線で、家事ができないことを説教してくる人もいた。
 もちろん即刻お断りだ。
 やはり全てが希望どおりとはいかない。どこかで妥協も必要だとは思いつつも、仕事や生活面のことでは絶対に妥協できない。
 それに、これからずっと一緒に生活していく人なのだから、一緒にいて落ち着くというか、楽しい人がいい。ずっと一緒にいたいと思える人が。
 欲を言うなら、相手に恋をして恋をされて、愛し合える。そんな相手と出会いたい。
 でも恋愛ではなく、結婚を求めて相談所に登録しているのだから、そのあたりは夢を見てはいけないんだろうなと咲良は思った。
 一念発起して婚活を始めてみたものの、なかなかままならないものだ。
 そんな状況に悩んでいたある日、やけに興奮した山崎さんから電話がかかってきた。

「小松さん、いたわよ! いたの!」
「えっ、あの、ちょっと落ち着いてください。いたって何が?」
「小松さんの理想のお相手よ!」
「はあ、理想ですか?」
「そうよ。仕事ができて、真面目で、性格もいいさわやか好青年。しかもイケメンよ」
「それはいい報告ですけど……やっぱり男の人って、家事ができない女性にはあんまりいい反応しないみたいで」
「それなら大丈夫よ。お相手はかなりの高給取りで、家事は全て家政婦さんがしてくれているらしいから、結婚しても家事する必要はないと思うわ」
「いや、それは嬉しいですけど、家政婦さんがいるとかどんだけお金持ちですか」

 それはそれで、逆に気が引けるような……

「今一押しの会員さんなのよ。彼に会いたいって人が列をなして待ってる状態よ。小松さんは運がいいわ。もちろん会うわよね、ねっ!」

 電話の向こうから、ものすごい圧を感じる。
 そりゃあ、家事を求められなくて、性格もいい人なら会ってみたいが、そんな人本当にいるのだろうか。
 自分で希望を言っておいてなんだが、そんな人間、どこかしらに問題がありそうな気がする。

「そんなハイスペックな人、相談所に来なくても女性がほっとかないでしょう。何か欠点があったりして……」
「私も最初はそう思ったんだけどね、なんでも会社やその関係の人と付き合うと揉めた場合に大変だから、全く関係のない業種の人と出会いたいんですって」
「へえ」

 まあ、そういう人もいるのかもしれない。だが、そんなハイスペックな人と話が合うのか心配だ。

「とりあえず会ってみたほうが絶対いいわ。こんなチャンス、滅多にないわよ。三十年前だったら私がお見合いしたかったところよ」
「旦那様が泣きますよ」

 山崎さんとは婚活の相談がてら、色々と世間話もしている。
 その中には山崎さんと旦那様との話もあった。結婚して何十年も経つのにいまだにラブラブらしい。うらやましいかぎりだ。

「それより、会うわよね。あちらには了承の返事をしておくわよ?」
「山崎さんがそこまでオススメするんですし、私は問題ありませんけど、そちらの方は私でいいんですか?」
「ええ。すでに了承はいただいているわ。後は小松さん次第よ」
「それならお願いします。まあ、駄目元で」
「そんなんじゃ駄目よ。絶対にゲットする心待ちでいかなきゃ」
「まあ、頑張ります」
「ええ、頑張ってちょうだい。当日は今まで以上にお洒落しゃれしてきて。お相手のプロフィールはネットで確認しておいてね」

 そう言って、山崎さんは興奮したまま電話を切った。

「山崎さん、かなり気合い入ってたなぁ」

 いったいどんな人物だ? と、スマホで相手のプロフィールを開いてみる。
 プロフィールの写真が表示された瞬間、咲良は目を奪われた。
 モデルと言われても頷ける容姿。
 笑顔で写っている写真は、咲良が最初に希望したようなさわやか好青年風。
 でも、ここまでのイケメンを求めていたわけじゃない。
 しばらくその笑顔から目を離せないでいたが、ようやく我に返って下にスクロールし、その人のプロフィールを見る。そして、二度目の驚きを体験した。

「まじか」

 数日後、相手のプロフィールに衝撃を受けたまま、お見合い当日を迎えた。いつもより念入りにメイクと身だしなみを整える。
 前日にも山崎さんからのお洒落しゃれして来いという念押しがあったので、手先の器用な妹の紅葉を招集して、髪の毛も綺麗にセットしてもらった。
 お見合いの時はいつも緊張する咲良だが、今回は今までで一番緊張している。
 だが、相手の容姿やプロフィールを見た後では、誰もがそれも仕方ないと言うだろう。
 しかもその容姿は、咲良の好みど真ん中。
 いや、ちょっと落ち着こう。写真を見て盛り上がった状態で実際に会ったらなんか違った、なんてことはよくあることだ。
 咲良が相談所に登録している写真も、スタジオでプロにメイクをしてもらい、プロに撮ってもらった中で一番写りが良かった奇跡の一枚だった。
 実際に会ってみて、あまりの違いにがっかりしないか心配だ。お互いに。
 とはいえ、相手のプロフィールを見るに、自分が選ばれることはないだろう。何せ相手はり取り見取りだろうから。
 目の保養に行くだけというつもりで、待ち合わせのホテルのロビーに着くと、山崎さんが待っていた。

「待ってたわよ、小松さん。先方はもうお待ちよ、早く行きましょう」

 山崎さんがお見合いをするわけではないのに、かなり気合いが入っている。咲良は山崎さんの後についてカフェに入った。

「ほら、あの方よ」

 示された後ろ姿にいやが応でも緊張してくる。
 後ろ姿だけでも、身長が高く、すらりとしていてスタイルがいいとわかった。

「お待たせしました、月宮つきみやさん」

 山崎さんの声に立ち上がったお相手と向かい合う。
 そこでようやく相手の顔が見えた。
 写真で見た姿と寸分たがわぬ人がそこに立っていた。山崎さんが興奮するだけあるイケメン顔に思わずれてしまう。

「こちらが小松咲良さんです。小松さん、こちらがお相手の月宮爽さんよ」
「はじめまして、月宮です」

 どこからか風が吹いてきそうなさわやかな笑顔に、目が釘付けになる。
 本当に、何故こんな人が婚活などしているのか。
 笑いかけただけで相手をとりこにしそうな笑顔がまぶしい。
 かくいう咲良もちょっとヤバい。

「小松さん」

 山崎さんに声をかけられて我に返った咲良は、慌てて挨拶をする。

「小松です、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」

 にこりと笑いかけてきた顔は優しげで、どこかほっとさせるような安心感もあった。
 席について、飲み物を注文する。
 座る時、それとなく椅子を引いてくれたのには驚いた。
 エスコートなど、お見合いした男性どころかこれまで誰にもされたことがなかった。
 しかもごくごく自然な仕草で、普段からし慣れているのを感じる。
 飲み物を待っている間、山崎さんが場を和ませるように色々と話をしてくれたが、咲良は爽の顔を直視できずにいた。
 しかし、うつむいたままでは心証が悪いだろう。思い切って視線を向けると、彼と目が合い、にこりと微笑まれた。
 途端、心臓が激しく鼓動する。
 イケメンの笑顔は破壊力があることを知った。後光が差しているようだ。

「月宮さんは、小松さんの五歳年上の三十四歳、年齢的にもお似合いね。それにこの若さであのTSUKIMIYAの副社長をされているのよ。本当にすごいわ」
「いえいえ、親の七光りのようなものです。すごいのはTSUKIMIYAをここまでにした、祖父や父ですから」
「あらあら、ご謙遜けんそんなさって」

 山崎さんが上機嫌に笑う。
 TSUKIMIYAは高級服飾を中心に展開する有名ブランド。
 特にTSUKIMIYAのアクセサリーは、女性が男性から一度はプレゼントされたいと夢見る人気の品だ。
 ファッションにうとい咲良でも知っている。
 彼、月宮爽は、そこの御曹司で副社長を務めているらしい。咲良の住む世界とは一生かかっても交わりそうにない、上流階級の人だ。
 しかも、その地位だけでなく、この並外れた容姿。
 山崎さんが興奮して電話してくるのも頷ける。
 そりゃあ彼とお見合いしたいと女性たちが列をなすだろう。
 こんな優良物件、そうお目にかかれるものではない。

「それじゃあ、お邪魔な私はそろそろ退散するわね。後はお二人で楽しんでちょうだい」

 帰る直前、咲良に頑張るのよとささやいて山崎さんは帰っていった。
 それまでは山崎さんが率先して話してくれていたから良かったが、いなくなった途端に緊張してくる。
 何を話せばいいのかとぐるぐる思考を回転させていると、ありがたいことに爽のほうから話しかけてくれた。

「小松さんはイラストレーターをなさっているんですね?」
「は、はい、そうです!」

 緊張のあまり力が入った返事をしてしまった。
 少し声が大きすぎたかもしれないと、咲良は恥ずかしくなる。
 爽は、わずかに目を大きくした後、くすりと笑った。

「そんなに緊張しないでください。と言っても、初対面相手には難しいですよね」
「い、いえ、すみません」
「いいえ。それより、どのようなイラストを描かれているんですか?」
「えっと、色々と描いてますが、主に本のイラストとか、ゲームのキャラクターとか……後は企業から依頼されてマスコットキャラクターを描いたりとかですね」

 言葉で説明するより見てもらったほうが早いとスマホを取り出して、咲良が描いた、最近発売されたライトノベルのイラストを見せる。
 すると、爽はその画像を見て驚いた顔をした。

「もしかしてイラストレーターのサクさんですか?」

 サクというのは、咲良がイラストレーターとして活動する時の名前だ。

「ええ、そうですけど……サクをご存じでしたか?」
「ええ、実は……」

 と言いながら、爽は自分の鞄から一冊の本を出す。
 それはたった今咲良が見せたイラストが表紙を飾るライトノベルだった。

「先ほど本屋へ寄った時に、好きなイラストレーターさんの絵だったので思わずジャケ買いしてしまって」

 有名ブランドの副社長の鞄から出てくるとは思わなかったその本に、咲良は驚きでいっぱいだ。
 しかし、少しするとなんだかおかしくなってきて、クスクスと笑ってしまった。

「こんな偶然あるんですね」
「本当に。まさかあのサクさんに会えるとは思わなかったです」
「そういった本はよく読まれるんですか?」
「ええ。忙しい合間の俺の趣味みたいなものです。子どもの頃は親が厳しくて学業優先だと言われて縁遠かったんですが、大人になってからはまりましてね。オフの日は図書館で借りたり、本屋に行って大人買いしたりするのが楽しみの一つです」
「私も図書館や本屋へはよく行きますよ。資料集めとかも好きなので」
「サクさんがどんな本を読まれているかは興味がありますね。実はサクさんの画集も家にあったりして」
「えっ本当ですか?」
「本当ですよ。だから今、ものすごくびっくりしてます」

 爽はそう言うが、きっと咲良の驚きのほうがまさっているだろう。
 だが、そのおかげで咲良の緊張も解けてきた。そこから、お互いに読んだ本の感想やオススメの本、果てはお気に入りのイラストレーターやキャラクターの話へと続き、話題が尽きない。
 そして、嬉しいことにお互いに猫を飼っていることも判明した。

「猫のあのツンデレ具合がまたいいんですよね」
「わかります、わかります。構ってほしい時は寄ってくるのに、私が構ってほしい時は来てくれなくて。でも、あのツンとデレのさじ加減にえますね」

 なんてことを話しながら、お互いの猫の写真を見せ合ったりしていると、あっという間に時間がすぎてしまった。
 気付けば二時間も話し込んでいたようで、お店の人から混んできたので……と退店をうながされる。
 今までこんなに話が合った人などいなかったので、これでお別れかと思うとなんだか寂しさを感じた。
 すると……

「あの、もし良かったらですけど、この後ランチでもいかがですか?」

 思ってもみない爽からのお誘い。
 ――まだ一緒にいられる。
 そう思った咲良の答えは、当然イエスだった。
 爽の後について訪れたのは、同じホテルの上層階にある、見るからに高級そうな和食店。

「ここはどうでしょう? お嫌いなものはありませんか?」
「はい。大丈夫です」

 とは言ったものの、財布の中身が大丈夫じゃないかもしれない。
 こんな高級そうなお店、いくらくらいかかるだろうか。
 財布の中身を思い出しつつ、咲良は冷や汗をかいた。
 まあ、いざとなったら、クレジットカードがあるから大丈夫だろうと気持ちを切り替え、店に入る。
 店内を案内されて席に座るまでの間も自然と爽がエスコートしてくれて、そのスマートさに感心してしまう。
 知らず知らずのうちに凝視していた咲良に、爽が不思議そうな顔をした。

「何か?」
「あっ、いえ。月宮さんはエスコートがスマートですごいなと思って」

 そう言うと、爽は苦笑する。

「きっとそれは叔母の教育の賜物たまものですね。俺の叔母はイギリスに嫁いだんですが、その縁で俺も大学はイギリスに留学していたんです。そこで女性のエスコートの仕方を叩き込まれたので。スマートにできていたなら良かった」

 この容姿にこのスペックで、女性の扱い方も丁寧とか、なおさら女性が放っておかないだろう。

「素晴らしいと思います。日本の男性で、自然とエスコートができる人は少ないですから」
「そう褒めていただけると照れますね。ありがとうございます」

 はにかむように笑った爽に、そんな顔もイケメンだなぁと咲良は感心する。
 その後も話しながら食事を楽しむが、やはり爽とは話が合う。
 会話をしていてとても楽しく、もっと話したいと思ってしまう。
 今日が初対面だというのにそう感じないのは、好みが合うからなのか、爽の話し方が穏やかで親しみを感じさせるからなのか。
 爽が終始笑顔で優しげな表情を崩さないせいもあるだろう。
 TSUKIMIYAの御曹司というから、偉そうだったり気難しかったりするのではないかと身構えていたのだが、いい意味で爽は咲良の予想をくつがえしてくれた。


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