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癇癪
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レジーとアニスはあくまで父の再婚相手と連れ子であり、公爵家の一員ではない。
しかし、ティアが公爵として独り立ちできるようになるまではこの公爵家で過ごす以上、身分は平民とは言え、それなりのマナーを身につけてもらわなければ困るのだ。
でなければ、それは父の恥となり、公爵家の恥になる。
ティアもダンテルも、二人を社交の場に出すつもりは一切なかったが、公爵家ではよく茶会や夜会などが行われる。
その時に招待客と鉢合わせた時にきちんと対応できなければ、レジーとアニスも恥をかくことになるのだ。
平民だからと、そのままにはしておけない。
早速マナー講師が呼ばれた。
その女性ナーラは、ティアの教師も務めた信頼できる人で、この度の要請に喜んで駆け付けてくれたのだ。
彼女がいれば大丈夫だなと、ティアもダンテルも安心しきっていたのだが……。
少し様子を見に行こうとティアが執事長と廊下を歩いていると、二人がいる部屋からガシャンとなにかが割れる音と、悲鳴が聞こえてきた。
ティアは執事長と顔を見合わせる。
「なにかしら?」
「様子を見て参ります」
そう言って執事長が扉を開けた瞬間、部屋の中からなにか飛んできた。
それは音を立てて壁にぶつかりガシャンと割れた。
見てみると、それはマナーの勉強のために使っていたティーカップだ。
こういうことは形から入ろうと、公爵家の中でも高級な分類に入るティーセットを用意していた。
執事長からそれとなく値段を聞いていたレジーは顔を青ざめさせていたが、それ故に身が引き締まるだろうと貸し与えた。
そんなティーカップが無残な姿に。
ティアからしたらたくさんある食器の中の一つだが、執事長は頭を抱えて声なき悲鳴を上げている。
そして、怒りの矛先を、部屋の中へぶつける。
「なにをなさっておいでですか!?」
ずんずん入っていく執事長を見て、部屋の外からティアが覗くと、部屋は惨たんたる有様だった。
テーブルクロスにはお茶に濡れぐちゃぐちゃになり、カップやソーサーは床で割れている。
そして、その原因を作ったであろう犯人……アニスは、レジーに後ろから羽交い締めにされている。
そして、いつもぴっちりとまとめているナーラの髪は乱れに乱れまくっていた。
誰かに髪を掴まれ振り回されたかのような有様だった。
これにはティアも口を挟まぬわけにはいかない。
慌てて床に座り込むナーラに駆け寄る。
「ナーラ、大丈夫ですか!?」
「お、お嬢様……。え、ええ。私はだ丈夫でございます」
「何があったのです?」
「それが、マナーの授業をしていたら、突然アニス様が癇癪を起こし、食器を投げて暴れ出しまして……」
驚いて羽交い締めにされているアニスを見れば、「違うわよ!」と叫ぶ。
「その女がねちねちねちねち細かく私を虐めるから怒っただけでしょう!」
それにはすかさずナーラが反論した。
「虐めているのではございません。マナーをお教えしているだけです」
「虐めよ虐め。持つ手の角度とか、大きな口で食べるなとか、そんなのどうでも良いじゃない! しゃべり方が悪いとかほっとけ! 一々口うるさいのよ」
「アニスさん。ナーラはマナーをお教えするために来て下さっているのです。確かに厳しい方ですが、決して虐めを行うような方ではありません。それに、だからと言って食器を投げつけるなど、誰かに当たりでもしたら……」
懇々と諭すティアを、アニスは睨み付けた。
「うるさいわね! 私に命令しないで!」
ティアは深い溜息を吐いた。
興奮しているアニスに何を言っても聞き入れはしないだろう。
同じ年齢のアニスから言うよりは、父から言った方が聞き入れるかもしれない。
そう思ったティアは、座り込むナーラに手を貸して立たせた。
「ナーラ。申し訳ございません。今日はこれ以上続けるのは不可能なようです」
「そうでございますね」
「できれば続けて欲しいと思いますが、こんなことがあった以上無理強いはいたしません」
「少し考えさせてください……」
すぐに断られなかったことに安堵し、ナーラを騒ぎを聞きつけてやって来た侍女に預けた。
しかし、ティアが公爵として独り立ちできるようになるまではこの公爵家で過ごす以上、身分は平民とは言え、それなりのマナーを身につけてもらわなければ困るのだ。
でなければ、それは父の恥となり、公爵家の恥になる。
ティアもダンテルも、二人を社交の場に出すつもりは一切なかったが、公爵家ではよく茶会や夜会などが行われる。
その時に招待客と鉢合わせた時にきちんと対応できなければ、レジーとアニスも恥をかくことになるのだ。
平民だからと、そのままにはしておけない。
早速マナー講師が呼ばれた。
その女性ナーラは、ティアの教師も務めた信頼できる人で、この度の要請に喜んで駆け付けてくれたのだ。
彼女がいれば大丈夫だなと、ティアもダンテルも安心しきっていたのだが……。
少し様子を見に行こうとティアが執事長と廊下を歩いていると、二人がいる部屋からガシャンとなにかが割れる音と、悲鳴が聞こえてきた。
ティアは執事長と顔を見合わせる。
「なにかしら?」
「様子を見て参ります」
そう言って執事長が扉を開けた瞬間、部屋の中からなにか飛んできた。
それは音を立てて壁にぶつかりガシャンと割れた。
見てみると、それはマナーの勉強のために使っていたティーカップだ。
こういうことは形から入ろうと、公爵家の中でも高級な分類に入るティーセットを用意していた。
執事長からそれとなく値段を聞いていたレジーは顔を青ざめさせていたが、それ故に身が引き締まるだろうと貸し与えた。
そんなティーカップが無残な姿に。
ティアからしたらたくさんある食器の中の一つだが、執事長は頭を抱えて声なき悲鳴を上げている。
そして、怒りの矛先を、部屋の中へぶつける。
「なにをなさっておいでですか!?」
ずんずん入っていく執事長を見て、部屋の外からティアが覗くと、部屋は惨たんたる有様だった。
テーブルクロスにはお茶に濡れぐちゃぐちゃになり、カップやソーサーは床で割れている。
そして、その原因を作ったであろう犯人……アニスは、レジーに後ろから羽交い締めにされている。
そして、いつもぴっちりとまとめているナーラの髪は乱れに乱れまくっていた。
誰かに髪を掴まれ振り回されたかのような有様だった。
これにはティアも口を挟まぬわけにはいかない。
慌てて床に座り込むナーラに駆け寄る。
「ナーラ、大丈夫ですか!?」
「お、お嬢様……。え、ええ。私はだ丈夫でございます」
「何があったのです?」
「それが、マナーの授業をしていたら、突然アニス様が癇癪を起こし、食器を投げて暴れ出しまして……」
驚いて羽交い締めにされているアニスを見れば、「違うわよ!」と叫ぶ。
「その女がねちねちねちねち細かく私を虐めるから怒っただけでしょう!」
それにはすかさずナーラが反論した。
「虐めているのではございません。マナーをお教えしているだけです」
「虐めよ虐め。持つ手の角度とか、大きな口で食べるなとか、そんなのどうでも良いじゃない! しゃべり方が悪いとかほっとけ! 一々口うるさいのよ」
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「そうでございますね」
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