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第一章
第九十一話 準備は続くよ、着々と④
そんな出会いが行われているとは知らず、商業ギルドでは、更なる情報共有の場が続いていた。
「では、第一刷予定の偽造防止案試行の紙を配る」
そう言って配られた紙を皆が不思議そうに見る。シモンなど、裏や表をひっくり返して興味津々である。
「ギルマス、これは?」
「それについては、私が説明致します」
リアが手を上げながら質問をするが、マットがスッと立ち上がる。
「まず、お手元にある紙は、実際の商品券を見立てた試作品です。左上には値段を載せます。今回は冗談で『1G』と記載しています。その下に『商業ギルドアターキル支部発行』と記載します。真ん中には、デザインコンテストで募集するデザインを載せ、表側の左下にはシリアルナンバーを記載します。このシリアルナンバーは、裏側の右下にも同じ数を記載します。裏側を見られたら気づくと思いますが、左側には、提携店を記載します。商品券の有効期限は、表の右下に。商品券の三分の二の右側に、縦線の模様の中に、沢山の小さな穴が縦方句にあると思います。これは使用された店側が切り取り、保管・提出する券となります。もし、使用前に切り離すと……『切り離すと?』使用不可です!切取無効と書いてあるでしょう?」
絶妙な圧に、ビクターが先を促せば、マットは恐ろしいことを言いながら、ある部分を指差す。
「…確かに」
指を差された箇所をよく見れば、文字が読めない者の為にも分かりやすい仕様になっていた。縦書きで、絵と文字両方で、警告が記載されているのだ。
切 ✕ ︙ ✕ 切
取 ✕ ︙ ✕ 取
✂ ✂ ✂
無 ✕ ︙ ✕ 無
効 ✕ ︙ ✕ 効
「これは分かりやすいと思いますが、購入時の口頭での注意は避けられませんね」
「そうですね。それは、後のトラブルを避ける為にも徹底しましょう」
マットが皆の意見をメモに取りながら、返事をする。もし興味本位に切り離しでもしたら、金が一瞬で紙切れになるのだ……なんて恐ろしい。
「これ、お釣りが出ないって書いてあるけど、金額以上買う場合は、残金は硬貨支払いも可能なのよね?」
「えぇ。寧ろ、お釣りが出ないこと!これも徹底して、口頭での伝達が必要になりますね」
マットは再度ペンを走らせている。後でマニュアルでも作成するんだろうな。
「では…偽造防止に使用可能か判断しようじゃないか」
粗方の説明が終わるのを待っていたギルマスが、偽造防止の試しの始まりを告げた。
「今回は、ギルドの印章を使う。だが本物を使ううわけにはいかないので、スライム液を固めた物を代理にする。これは政策部の彫師に頼み、掘ってもらった簡易の印章だ」
【❏】
見た目は縦型の長方形。黒く四角い部分がスライム液を固めて印章を彫った部分だ。白い部分は、握りやすい木材が使われている。
「判子というものだそうだ。貴族が使う封蝋版の様なものだそうだ。今から液体が入った皿を配るが、悪いものではないので安心するように」
ギルマスがパンパンッと手を鳴らせば、サブマスのサミュエル様が扉を開きカートを押して入って来た。
「…これは、レモンですか?」
匂いに敏感なリアが気づき、またもや質問をするが、この匂いは我々男性陣でも分かる酸っぱさだ。
「そうだ。このレモン汁に判子を浸し、デザイン部分に押し当てる。十分に乾かすんだぞ。なお、この印章は後で返却してもらうから、無くさないように」
「「「「はい」」」」
マット含む執務班は、真剣な表情で作業をしながら返事をするが、返却は当たり前だろう。
商業ギルドの印章など、ギルマスかサブマスのいずれかしか使用しない大切なものだからな。
♢
「よし、夏だからな。乾くのも早い!」
「では、炙ってみましょうか」
「あっ!?」
待ち切れないとばかりに、俺が印章を押した商品券(試)が、サブマスにサッと奪われた。
奪われた紙を蝋燭に近づけたサブマスは、その紙を真剣に見つめる。少しの空間を開けて、他のメンバーも固唾を呑んで見守る。多少狭いが、我慢だ。
「なるほどな…海水を鍋で煮る原理と一緒か?」
蝋燭に炙られ浮き出た印章に、ギルマスは呟いた。
熱せられた鍋の中にある海水は、蒸発して消える。だが、塩は残るのだ。ギルマスはそれと同じ原理だと思い至った。
レモン汁も一緒だろう。溶けていた成分が塩に相当する物で、それが火の熱に当てられて、姿を表す。
「確かにミオさんの言う通り、簡単な方法だ。一度なら通用はするが、大量に流通させるべきではないな」
「そうですね。それと、ギルドの印章ではなく、今回の商品券用の印章を作成するのも悪くないでしょう」
「そうだな。あまり世間に公表するものでもないしな」
ギルドの印章は、大事な書類でも使われるもの。態々、偽造しやすい状況に持ち込む必要はない。
しかも、今回のビンゴゲームの景品になる商品券の使用は、試みの部分も大きい。
「よし!商店券の提携店募集は、アターキル商店街のみにしよう。デザインコンテストで周知を図り、ビンゴゲームの景品で注意を引き、街の人の様子を見る。実際に景品が当たった人がどのように使うか、提携店から提出される切取券でも数値が取れるだろう」
「そうですね。その結果を見て、第二刷の枚数や提携店の拡大も視野にいれるといいと思います」
「そうだな。ガリ版で刷った張り紙も、各所張らせて貰ったし。そろそろ、噂になってもいい頃だがな」
少し悩み決断をしたミオの地元密着型のデザインコンテストや、ビンゴゲームの景品の地域浸透型の【商品券】の試みが、今後のアターキルを騒乱に巻き込む第一波になろうとは。その時の誰も想像はしていなかった……筈である。
「では、第一刷予定の偽造防止案試行の紙を配る」
そう言って配られた紙を皆が不思議そうに見る。シモンなど、裏や表をひっくり返して興味津々である。
「ギルマス、これは?」
「それについては、私が説明致します」
リアが手を上げながら質問をするが、マットがスッと立ち上がる。
「まず、お手元にある紙は、実際の商品券を見立てた試作品です。左上には値段を載せます。今回は冗談で『1G』と記載しています。その下に『商業ギルドアターキル支部発行』と記載します。真ん中には、デザインコンテストで募集するデザインを載せ、表側の左下にはシリアルナンバーを記載します。このシリアルナンバーは、裏側の右下にも同じ数を記載します。裏側を見られたら気づくと思いますが、左側には、提携店を記載します。商品券の有効期限は、表の右下に。商品券の三分の二の右側に、縦線の模様の中に、沢山の小さな穴が縦方句にあると思います。これは使用された店側が切り取り、保管・提出する券となります。もし、使用前に切り離すと……『切り離すと?』使用不可です!切取無効と書いてあるでしょう?」
絶妙な圧に、ビクターが先を促せば、マットは恐ろしいことを言いながら、ある部分を指差す。
「…確かに」
指を差された箇所をよく見れば、文字が読めない者の為にも分かりやすい仕様になっていた。縦書きで、絵と文字両方で、警告が記載されているのだ。
切 ✕ ︙ ✕ 切
取 ✕ ︙ ✕ 取
✂ ✂ ✂
無 ✕ ︙ ✕ 無
効 ✕ ︙ ✕ 効
「これは分かりやすいと思いますが、購入時の口頭での注意は避けられませんね」
「そうですね。それは、後のトラブルを避ける為にも徹底しましょう」
マットが皆の意見をメモに取りながら、返事をする。もし興味本位に切り離しでもしたら、金が一瞬で紙切れになるのだ……なんて恐ろしい。
「これ、お釣りが出ないって書いてあるけど、金額以上買う場合は、残金は硬貨支払いも可能なのよね?」
「えぇ。寧ろ、お釣りが出ないこと!これも徹底して、口頭での伝達が必要になりますね」
マットは再度ペンを走らせている。後でマニュアルでも作成するんだろうな。
「では…偽造防止に使用可能か判断しようじゃないか」
粗方の説明が終わるのを待っていたギルマスが、偽造防止の試しの始まりを告げた。
「今回は、ギルドの印章を使う。だが本物を使ううわけにはいかないので、スライム液を固めた物を代理にする。これは政策部の彫師に頼み、掘ってもらった簡易の印章だ」
【❏】
見た目は縦型の長方形。黒く四角い部分がスライム液を固めて印章を彫った部分だ。白い部分は、握りやすい木材が使われている。
「判子というものだそうだ。貴族が使う封蝋版の様なものだそうだ。今から液体が入った皿を配るが、悪いものではないので安心するように」
ギルマスがパンパンッと手を鳴らせば、サブマスのサミュエル様が扉を開きカートを押して入って来た。
「…これは、レモンですか?」
匂いに敏感なリアが気づき、またもや質問をするが、この匂いは我々男性陣でも分かる酸っぱさだ。
「そうだ。このレモン汁に判子を浸し、デザイン部分に押し当てる。十分に乾かすんだぞ。なお、この印章は後で返却してもらうから、無くさないように」
「「「「はい」」」」
マット含む執務班は、真剣な表情で作業をしながら返事をするが、返却は当たり前だろう。
商業ギルドの印章など、ギルマスかサブマスのいずれかしか使用しない大切なものだからな。
♢
「よし、夏だからな。乾くのも早い!」
「では、炙ってみましょうか」
「あっ!?」
待ち切れないとばかりに、俺が印章を押した商品券(試)が、サブマスにサッと奪われた。
奪われた紙を蝋燭に近づけたサブマスは、その紙を真剣に見つめる。少しの空間を開けて、他のメンバーも固唾を呑んで見守る。多少狭いが、我慢だ。
「なるほどな…海水を鍋で煮る原理と一緒か?」
蝋燭に炙られ浮き出た印章に、ギルマスは呟いた。
熱せられた鍋の中にある海水は、蒸発して消える。だが、塩は残るのだ。ギルマスはそれと同じ原理だと思い至った。
レモン汁も一緒だろう。溶けていた成分が塩に相当する物で、それが火の熱に当てられて、姿を表す。
「確かにミオさんの言う通り、簡単な方法だ。一度なら通用はするが、大量に流通させるべきではないな」
「そうですね。それと、ギルドの印章ではなく、今回の商品券用の印章を作成するのも悪くないでしょう」
「そうだな。あまり世間に公表するものでもないしな」
ギルドの印章は、大事な書類でも使われるもの。態々、偽造しやすい状況に持ち込む必要はない。
しかも、今回のビンゴゲームの景品になる商品券の使用は、試みの部分も大きい。
「よし!商店券の提携店募集は、アターキル商店街のみにしよう。デザインコンテストで周知を図り、ビンゴゲームの景品で注意を引き、街の人の様子を見る。実際に景品が当たった人がどのように使うか、提携店から提出される切取券でも数値が取れるだろう」
「そうですね。その結果を見て、第二刷の枚数や提携店の拡大も視野にいれるといいと思います」
「そうだな。ガリ版で刷った張り紙も、各所張らせて貰ったし。そろそろ、噂になってもいい頃だがな」
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